このFC経営者が本で成功した理由は、本が売れたからではない。実は、本自体はそれほどの売れ行きではなかった。本を読んだ人のうち、彼のFCに加盟する人の確率が高くなったのである。本自体の売れ行きよりも、彼のビジネスへの貢献度が高かったのである。出版社としては実利に乏しかったが、まあご同慶(どうけい)の至りではあった。
本の読者とは、必ずしも書店で本を購入した人ばかりではない。彼の場合、彼のFC事業の営業活動の一環として、催したイベント等で配布された本を読んだ読者も多かった。本には、作家の思想や人格が反映される。人物像が出るのだ。それは、スキルについて述べていようと、システムについて説明していようと同じだ。
FC経営者の本は、彼がなぜこのFCを始めたのか、事業で目指すものは何か、どうしてそう考えるようになったのかが、彼の半生とともに書かれていた。本は、人物像を示すためにかなり有効な手段なのだ。読者は、作家の本を読んで「この人物なら信頼できるのではないか」と、FCへの参加に一歩を踏み出すのである。
FC事業の営業は、無論、やっているのは社員だが、事業の総責任者である経営者の人となりは大きくモノを言う。読者の多くが、本の作家であるFC経営者の考えかたや理想に共鳴し、そのうちの何割かが実際にFCに加盟したということだ。そうして、FC加盟者をカウントしたところ、結果として本の読者の合計を金額にすると10億円だったということである。
つまり、本の効果のつ二目は、本には人物像が表れるので、読者はその人物像を理解することによって、作家に対する信頼感を持つということだ。コンサルタントや士業であっても、人物を信頼される効果は大きい。何を教えるかも重要だが、「だれが教えるか」も、教わるほうにとっては大事なことなのである。したがって、コンサルタントや弁護士、税理士にとっても、人となりを理解してもらう手段は大事なのである。
高額の出費を伴う商品・サービスほど、販売する人間の人物像が大事な要素となる。人物像は、しばらく付き合えば自ずと明らかになってくるが、初対面ではわからない。しかし、本を読んだ人にとって作家は遠くにいる人ではない。初対面であっても、読者には作家の人物像に対する理解がある。ここに大きなアドバンテージがあるのだ。
では、本に人物像が表れることによって、逆効果になることもあるだろうか。答えは「ある」だ。拝金主義や功利主義の目立つ、いわば打算的で狡猾な人物像が本文から読み取れると、やはり反感を覚える読者は出てくる。往年のベストセラーの達人、神吉晴夫氏の言うとおり「読者は正義が好き」なのである。
露悪的な切口のテーマで、乾坤一擲(けんこんいってき)の勝負に出ることは、出版物ではさほど珍しい試みではないが、本業へのリターンを期待するのであれば、かなりリスクの高い方法といわざるを得ない。
しかし、その一方で「悪名は無名に勝る」という鉄則もある。悪名であっても、それは必ずしも致命傷になるとは限らない。ただ、そういう本に近づいてくる人は、やっぱりそういう人であることは覚えておいたほうがよいだろう。
以下次号に続く