ビジネス書業界の裏話

私はどのようにしてビジネス書の編集者となったのか

2018.02.08 公式 ビジネス書業界の裏話 第48回
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ビジネス書の世界に入ったのは
第二次オイルショック後、プラザ合意の前

早いもので、この連載を始めて2年が経った。たった2年間ではあったが、私のような名もないフリーの出版プロデューサーの記事にお付き合いいただいた方に、本当に感謝しかない。果たして何かひとつでも役に立ったことがあったのだろうか、と考えると実に心もとないことしきりである。とはいえ、事ここに至れば結果どうであれ、以って瞑(め)すべしという心境でもある。

2年間あれこれと書いてきた。ところが、改めて考えてみると私自身のことにはあまり触れたことがなかった。読者は、私のことなど格別関心がないだろうと考えたし、それより読者に伝えるべきことはたくさんあったからだ。しかし、2年も連載して記事の筆者がどこのどういう人物かわからないままというのも奇妙である。作家の顔が見えない原稿はよくないと書いたくせに、自分のことはやっていなかった。

そこで、いまさらながらではあるが、今回と次回、すこしページを割いて私の来し方について述べたいと思う。私がビジネス書出版の世界に入ったのは、第2次オイルショックの数年後、プラザ合意の数年前という時代だった。第一次オイルショックは戦争によって起きたが、第二次オイルショックは産油国の値上げによって原油価格が上がった。日本への影響を見れば、第一次ほどの衝撃はなかったが、時代はすでに重厚長大型産業から軽薄短小型に移りつつあった。そういう時代である。

このとき、私はもっぱら中小企業向けの雑誌と書籍を発行している出版社に入った。当時の日本経済は、オイルショック後の小康状態にあり、産業界ではメーカーを中心に品質管理と小集団活動が盛んだった。いわゆるTQC(トータル・クオリティ・コントロール)活動から始まった動きだが、活動のテーマは生産現場の品質管理以外にも広がっていた。小集団活動とQC活動は同じもののようにも見えたが、TQC活動には決まったルールがあったので、ルールを守っているのがTQC活動で、それ以外を小集団活動という具合に、何となく区別していたように思う。

私は小集団活動に引かれた。当時は、もっぱら生産現場が中心の活動だったが、生産ラインの人たちが自分たちの力で、自分たちの仕事のやり方を考えるという活動には、社員が経営に参画できる道があるように思えたからだ。人を使う側と使われる側という関係を超えるような期待を、私は小集団活動に覚えたのだ。

小集団活動の取材にはあちこちでかけた。今も昔も企業取材は、ほぼ社長取材であるが、このときだけは社長が相手ではなく、現場の小集団活動のリーダーが取材対象だった。企業取材で社長以外のところへ行くというのは、私の生涯でも唯一この時期だけのことである。小集団活動に参加している人たちは、最初のうちは参加者も自分たちの意見が会社に反映されると生き生き取り組んでいたが、時間が経つにつれ、小集団活動は現場にとってよけいな負担となり、労働強化と見る人たちも増えてきた。自主的な活動とはいえ、しょせんは会社のお膳立てである。

当時は、時間外に行われる小集団活動は残業とは見なしていなかったので、不満は募る一方だった。小集団活動は、私が妄想したような一般社員に経営参画の道を拓くものとはならず、結局のところ限られた現場の限られた作業の改善にとどまり、会社全体の方向を決めるような力を持つことはなかった。小集団活動に過剰な期待を抱いていたのは私だけだったので、この点を残念がる声はどこからもあがらなかった。いや、私以外にもひとりくらいはいたかもしれない。

企業内教育研修を
メインテーマに据える

小集団活動は、いま「カイゼン」や「5S運動」などにその名残りがある。ビジネスもマネジメントもリアリズムである。私のすっぱい夢と期待は破れ、この時すこしだけ現実というものを知ったように思う。ここで現実路線に方向転換すれば、その後、もう少しマシな仕事をしたかもしれないが、私は性懲りもなく次の夢と期待を追いかけた。

当時、私のいた出版社では結果さえ出せば、割合、何をやってもいいという雰囲気があった。ビジネス書とは、広く言えばビジネスマン教育のツールである。したがって、それぞれのテーマを分解すれば、階層別と職能別に分けることができる。階層別とは、新入社員教育であり、管理者教育などである。職能別とは営業マン教育であり、品質管理教育などである。

私は、社員教育を次なるテーマとして追いかけはじめた。人材育成論・社員教育論は、マネジメント論の中で唯一理想論、性善説で一貫することのできるジャンルだったからだ。企業であろうと、学校であろうと、人間に期待しない教育はあり得ない。私の次なる関心と期待は、人材育成・社員教育へ向かった。

私は、20代後半に、厚かましくも社員教育を研究するための異業種交流会を発足させた。人材育成の本を1冊つくったときに、その延長でこの会をつくったのである。当時は異業種交流会が流行りでもあったので、勝手に作るといっても会社からは何も言われぬまま、すんなりと会は発足した。その代わり、会社からは予算補助はいっさいなし。1回当たりひとり2000円の会費の独立採算でやっていた。

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プロフィール

ミスターX
ミスターX

ビジネス雑誌出版社、および大手ビジネス書出版社での編集者を経て、現在はフリーの出版プロデューサー。出版社在職中の25年間で500人以上の新人作家を発掘し、800人を超える企業経営者と人脈をつくった実績を持つ。発掘した新人作家のうち、デビュー作が5万部を超えた著者は30人以上、10万部を超えた著者は10人以上、そのほかにも発掘した多くの著者が、現在でもビジネス書籍の第一線で活躍中である。
ビジネス書出版界の全盛期となった時代から現在に至るまで、長くビジネス書づくりに携わってきた経験から、「ビジネス書とは不変の法則を、その時代時代の衣装でくるんで表現するもの」という鉄則が身に染みている。
出版プロデューサーとして独立後は、ビジネス書以外にもジャンルを広げ文芸書、学習参考書を除く多種多様な分野で書籍の出版を手がけ、新人作家のデビュー作、過去に出版実績のある作家の再デビュー作などをプロデュースしている。
また独立後、数10社の大手・中堅出版社からの仕事の依頼を受ける過程で、各社で微妙に異なる企画オーソライズのプロセスや制作スタイル、営業手法などに触れ、改めて出版界の奥の深さを知る。そして、それとともに作家と出版社の相性を考慮したプロデュースを心がけるようになった経緯も。
出版プロデューサーとしての企画の実現率は3割を超え、重版率に至っては5割をキープしているという、伝説のビジネス書編集者である。

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