投手コーチに限らず、「コーチ」というのは「監督」と「選手」の間に立つ中間管理職のようなものです。そこで僕が心がけているのは、監督に対しても選手に対しても、言うべきことはしっかりと言うこと。そして、両者の意見や言い分をしっかりと聞くことです。前回述べたように、真中監督とは同級生であり、プロ入りの同期でもあるので思ったことを言いやすい間柄にあります。けれども、仮に年長の監督の場合であっても、コーチとして、自分の感じたことはきちんと伝えること。それが監督のためであり、チームのためでもあると信じています。
一方の選手たちに対しても同様で、思ったことはきちんと伝えなければなりません。とは言え、全36名もの大所帯。そこには高校を卒業したばかりの若手もいれば、伸び盛りの中堅、そして実績十分のベテランもいるし、個性的な外国人投手もいます。それぞれの立場や性格に応じて、接し方を変えていくのはなかなか大変なことです。
特に、気を遣うのが外国人投手との接し方です。今年はオーレンドルフ、ブキャナン、ギルメットと3人の外国人投手が入団しました。彼らはアメリカの文化で育ち、アメリカの野球を学んできていますから、まずは日本文化、日本の野球について教えるところから始めました。ヤクルトは投手層の厚いチームではないので、外国人投手の成績がチーム成績に直結します。彼らが最高のパフォーマンスを発揮できるようにするのが僕の役目です。
その際に注意しているのが、「僕は君たちの味方なのだ」ということを心から納得してもらうことです。先ほども述べたように、ヤクルトにとって、彼らの活躍は絶対に欠かせないものであり、彼らが真の実力を発揮してくれることを心から望んでいます。コーチとして、いろいろ注文を付けることもあります。けれどもそれは、彼らに活躍してほしいからです。せっかく、母国を離れて日本に来たのですから、いいパフォーマンスを披露して、たっぷりお金を稼いでほしい。そんな思いが僕にはあります。それを彼らに理解してもらうことができたとき、ようやく彼らとの信頼関係が築けてくるのです。
昨年、オンドルセクが暴言を吐いた末にシーズン途中で帰国しました。彼の内面で溜まっていた不満に対して、コーチとしてガス抜きをしてあげられなかったこと、不満解消のために気を遣うことができなかったことは、僕にとっての大きな反省となりました。あんなことが二度と起きないように、外国人には細心の注意が必要だと痛感しています。
一方、若手投手に対しては、なるべく厳しく接するようにしています。アマチュア時代に豪速球を投げたり、鋭い変化球を投じていたりしても、プロの世界でそのまま通用することはまずありません。プロで成功するためには、さらに「プロの自覚」や「厳しい自己節制」などが必要になってきます。つまり、プロで生きていくための意識改革が必要なのです。だからこそ、少々口うるさくなってもいいので、気になったことはビシッと注意するように心がけています。
少しずつでいいので、プロの世界で生きる術を身につけてもらいながら、同時にプロとしての技術向上も図ってほしい。そんな思いを持ちながら、努めて明るく前向きに接するように心がけています。