伝わる文章術

メールの「CC」で陥りやすいミス

2019.03.14 公式 伝わる文章術 第23回
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メールは相手によって書き分けるのが基本

ある調査によれば、平均的日本人は仕事の12%をメールに費やしているそうです。実はメールには膨大な時間が割かれています。そのためか、メールに「CC」や「BCC」を付けて一度に複数の人に送信する人が少なくありません。

たとえば、会議の議事録をメールで出席者に送るということがあります。このケースでは、送り先のメンバーは概ね会議の経緯・現状の問題について共通の認識を持っていますから、「CC」メールでも支障なく受け取れるはずです。しかし、同じ議事録を関係する部署の部門長に「CC」で送った場合は、部門長は会議には出席していませんから、伝えたいことの半分も伝わりません。部門長に「CC」メールを送る目的が、「私たちはやっていますよ」というアリバイづくりであるなら、意図は半分くらい通じているともいえます。ですが、本気で何かを伝えるなら「CC」メールはあまり適切な手段とはいえません。

<文例A 議事録を出席者ではない部門長に「CC」で送ったメール>
お疲れさまです。
先日の会議の議事録をお送りします。
ご査収ください。

決定事項
・プロジェクトは3つのワークチームを中心に進める。
・チーム1のリーダーはAさん。
・チーム2のリーダーはBさん。
・チーム3のリーダーはCさん。

確認事項
各チームの作業計画は次回会議までにそれぞれのリーダーが用意。
各チームのメンバーは次回の会議で選出。

<次回会議日時>
2019年〇月×日15時 於:第3会議室。

上記のメールは会議に出席している人にとっては疑問のない内容ですが、事情を知らない人は3つワークチームがそれぞれ何をするのかさえわかりません。もしも、プロジェクトの進捗を関連部門の長に知らせたいというねらいでメールを送っているのなら、部門長に配慮したメールを別につくる必要があります。

<文例B 議事録内容を部門長用につくったメール>
お疲れさまです。
△△プロジェクトの進捗についてご報告します。

本プロジェクトは3つのワークチームで推進することとしました。
チーム1は職務分解とロードマップ担当(リーダーA)。
チーム2は予算立案と配分担当(リーダーB)。
チーム3は関連部署との渉外担当(リーダーC)。

各チームの作業計画およびメンバー選出は次回会議で行います。
以上です。

文例Bのメールを「CC」で会議の出席者にも配信したとしても齟齬(そご)は生じませんが、文例Aを会議に出ていない部門長に送ることはできません。

「言ったのだからOK」はNG

コミュニケーションをめぐるトラブルで古くて新しく、初歩的で根の深いのが「言った・言わない」です。言った側は「言ったのだから伝わっているはず」と思いがち、ところが言われたほうは特に注意して聞いていたわけではないし、人は概して自分に都合のよいように話を認識しますから「そんな話は聞いていない」となります。メールの場合でも似たようなことは起こるもので、送るほうの気持ちが正しく送られたほうに伝わると考えるのは間違いのもと、大きなトラブルに遭遇しかねません。

「CC」といえどもメールに書いたのだから、こちらの意図は伝わっているはずと勝手に思い込むのは危険極まりないことです。特に神経を使わなければいけないメールでは、この点を重く認識することが必要と思います。神経を使う文章の代表はやはりお詫び文でしょう。

そもそもお詫び文をメールで送るということ自体あまり感心できませんが、急を要するケースでは、やむを得ずメールでお詫び文を送る状況も起こり得ます。その際、お詫びすべき相手が複数、たとえば担当者とその上司という場合、効率だけを考えれば「CC」で二人に同時に送るという方法が合理的です。ところが、こちらは誠心誠意お詫びの気持ちを示しているつもりでも、ふたりが同じように感じるとは限りません。

<文例C お詫びのメールを「CC」で二人に送信>
今般は、わたしどもの連絡不足のせいで多大なご迷惑をおかけしてしまいました。
衷心よりお詫び申し上げます。
今回の件は、明らかにこちらが再確認を怠ったことに原因があり、言い訳のできない落ち度であると思っております。
誠に申し訳ございません。
今後チーム一同再確認を徹底し、貴社の信頼を取り戻せるよう全力で取り組む所存です。

直接現場で事態に直面していた担当者には上記でよいかもしれません。しかし、トラブルの原因を「こちらの連絡不足」としていますが、細かな経緯を知らない先方の上司にしてみれば、自分の部下にも確認不足があったのではないかと余計な穿鑿(せんさく)を促しかねません。
そうすると先方の担当者は、お詫びのメールが原因で、上司から痛くもない腹を探られるという不愉快な思いまでさせられることになります。
したがって<文例C>は担当者だけに送るメールとし、その上司には別のメールを送ることにしたほうがよいでしょう。

<文例D 先方の上司に送るお詫びメール>
今般は多大なご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。
衷心よりお詫び申し上げます。
詳細につきましては、ご担当の〇〇様からご報告いただいているとおりです。
今後の対処も〇〇様から適切なご指示をいただいており、再び貴社に信頼していただけるよう、現在事態の改善に向けて全力を尽くしております。

このメールは、まず伝えるべきはトラブルに対するお詫びであり、初期段階では事態の経緯や以後の対処については、先方の担当者の立場に配慮し、あまり書き込まないというほうが穏当であろうと思います。

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プロフィール

亀谷敏朗
亀谷敏朗

1984年中堅ビジネス書出版社だった中経出版に入社。本づくりのかたわらセミナー事業、コンサルティング・ビジネスにも携わる。また、在職中は中小企業から一部上場企業までを横断した、企業内の教育担当者の異業種交流会を主催した。
2004年フリーの出版プロデューサーとして独立。主にビジネス書作家のデビューを支援する。
支援の一環として、新人作家の原稿づくりのアドバイスを手掛けたことから、改めて伝わる文章の研究を始める。
「名文は要らない」、「読者と編集の立場から見たわかりやすい文章」に軸足を置いた方向で、新人作家には文章の書き方をアドバイスしている。

著書

ちょっとしたことで差がつくメールの書き方

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亀谷敏朗 /
「短く、シンプルでスピーディーなメール術」を、数多くの実例を交えて解説する...
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