リーダーシップの身につけ方

リーダーに求められるものとは-5

2016.03.14 公式 リーダーシップの身につけ方 第11回

メンバーと真剣に向き合う姿勢が大切

11. 大声やお世辞ではメンバーは動かない

リーダーには、さまざまなタイプがいます。大声でメンバーを叱責(しっせき)し、強引にチームを引っ張ろうとするリーダーもいます。また一方で、メンバーに嫌われたくない、摩擦を生じさせたくないからと、部下にお世辞を使い、へつらうリーダーもいます。どちらのタイプも、必ずしも永続的に結果につながるわけではありません。

私自身は決して「強いリーダー」ではないと思います。大声で怒鳴ることも、会議で誰かを叱ることも、檄を飛ばすことも滅多にありません。講演会などで会った人によく言われるのは、「経歴を見たらすごい人だと思っていたのに、会ってみたら普通のおじさんだった…」という言葉。フレンドリーといえば聞こえはいいのですが、貫禄はさっぱりないタイプです。逆に、少々頼りなく見えることもあるかもしれません。そのせいか、私の風貌や第一印象で、メンバーが萎縮したり、怯えたりすることはなかったようです。
ザ・ボディショップもスターバックスも女性が多い職場でしたから、私の雰囲気にホッとひと安心したメンバーも多かったのではないでしょうか。

私自身が心がけていたのは、何かメンバーがよいことをした場合や、会社の価値観にあった行動をしたときには、朝礼やマネジメントレター(社長からの手紙)で褒めるようにしました。
一方で、メンバーが間違っているとき、直してほしいことがあるときは、できる限り一対一でじっくり話そうと心がけました。大声やお世辞でメンバーの心を動かすことはできません。真剣に向き合う姿勢が大切だと思います。

メンバーからの信頼がリーダーには求められる

12. リーダーの言葉一つで、メンバーは変貌する

日産自動車時代、尊敬する上司に今も忘れられない言葉をいただきました。
1年間の工場での生産管理研修を終え、本社の購買管理技術課に戻ってきたときのことです。私は、系列の部品メーカーの生産性向上活動やTQC(統合的品質管理)活動をサポートすることになりました。まだ入社2年目で、何をしたらよいのか分からず戸惑っていた私に、その上司は言いました。

「お前が失敗しても、日産はつぶれないから、思い切ってやってこい」

このひと言でハッと目が覚めました。
「自分のような若造が、経営者や幹部に指摘や提案をしてもいいのだろうか」というためらいが吹き飛び、「自分ができることを精一杯やればいいんだ」と勇気づけられました。そしてその上司は、陰からいつもフォローもしてくれていました。

担当した部品メーカーの幹部たちも、最初は戸惑っていたようですが、プロジェクトの人たちと一緒になって、油まみれで毎晩遅くまで討論を続けていました。すると、リーダーを務めていた専務さんが突然、「これから“考える部分”は、岩田さんに全部任せる」と言ってくれたのです。
その後、作業方法の見直しや、機械レイアウトの変更などの仕事を、チーム一丸となって続けました。この部品メーカーは後に、日産品質管理賞や、名誉あるデミング賞を受賞することにもなりました。私はつい最近、30年ぶりにその会社に招かれて、二度ほど幹部や全社員の前で講演をさせていただきました。少し恩返しができたかと嬉しく思いました。

戸惑っているときに背中を押してくれた上司の言葉が、私に大きなエネルギーをくれました。そう、リーダーの言葉ひとつで、メンバーは主体的に変わることができるのです。

13. 「困ったことはない?」を口グセにする

メンバーの悩みを解決することは、リーダーの役割のひとつです。
私は社内やお店をまわるたびに「何か困ったことはない?」と、いつも問いかけていました。普通は社長からそんなことを聞かれても、すぐに答えられないと思います。しかし本当に日々困っていたり悩んでいたりすれば、思わず「社長、実は…」と相談してくれると思うのです。それはきっと、よほどその人にとって大切なことだと思います。これを解決することはリーダーの手腕の見せどころであり、メンバーの信頼を獲得する近道です。

何か仕事で困ったことや悩みがあっても、自分からは口にしにくいものです。
しかし、リーダーの方から問いかければ、「話してみようか」という気持ちになるでしょう。そして悩みが解決できれば、このリーダーについていきたいと思うようになるはずです。リーダーは御用聞きにならないといけないと思います。

「仕事の量が多すぎてパンク寸前です!」と悲鳴を上げているメンバーに、「人手不足だから仕方ない。我慢してくれ」と言っても、解決にはなりません。チームの人数を増やす必要があるのなら、新規採用や増員を会社と交渉するのがリーダーの役割です。

ただし、リーダーの権限には限りがあります。自分の権限では解決できないことは、さらに上の上司に相談したり、社長に直談判することによって解決できるかもしれません。現実に、メンバーは悩んでいるのですから、何らかの方法で解決してあげる必要があります。

(次回に続く)

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プロフィール

岩田松雄
岩田松雄

1958年生まれ。大阪大学経済学部卒業後、日産自動車株式会社に入社。同社にて幅広い業務を経験後、米国UCLAアンダーソンスクールに留学。その後、外資系コンサルティング会社ジェミニ・コンサルティング・ジャパン、日本コカ・コーラ株式会社役員を経て、株式会社アトラス(ゲーム会社)の代表取締役として、三期連続赤字の企業を再建。さらに株式会社タカラ常務取締役を経て株式会社イオンフォレスト(ザ・ボディショップ)の代表取締役に就任。店舗数を一気に増加させ、売上を67億円から約140億円に拡大。そしてスターバックスコーヒージャパン株式会社のCEOとして「100年後も光輝くブランド」というコンセプトを掲げ、業績を急回復させ再成長させる。これらの功績が認められ、UCLAビジネススクールより全卒業生3万7000人の中から「100 Inspirational Alumni」
('92年卒業生ではただ一人)に選出される。
現在は株式会社リーダーシップ・コンサルティングの代表取締役CEOであり、次世代のリーダー育成に注力する傍らで、立教大学の特任教授として教鞭もとっている。主に「リーダーシップ」に関するテーマにてこれまで著書は30万部を超える『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』はじめ多数。「リーダーシップ」に関する日本の第一人者として日本のビジネス界を牽引する人物である。
HP: http://leadership.jpn.com
Facebook: https://www.facebook.com/Leadership.jpn?pnref=lhc

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