リーダーには、さまざまなタイプがいます。大声でメンバーを叱責(しっせき)し、強引にチームを引っ張ろうとするリーダーもいます。また一方で、メンバーに嫌われたくない、摩擦を生じさせたくないからと、部下にお世辞を使い、へつらうリーダーもいます。どちらのタイプも、必ずしも永続的に結果につながるわけではありません。
私自身は決して「強いリーダー」ではないと思います。大声で怒鳴ることも、会議で誰かを叱ることも、檄を飛ばすことも滅多にありません。講演会などで会った人によく言われるのは、「経歴を見たらすごい人だと思っていたのに、会ってみたら普通のおじさんだった…」という言葉。フレンドリーといえば聞こえはいいのですが、貫禄はさっぱりないタイプです。逆に、少々頼りなく見えることもあるかもしれません。そのせいか、私の風貌や第一印象で、メンバーが萎縮したり、怯えたりすることはなかったようです。
ザ・ボディショップもスターバックスも女性が多い職場でしたから、私の雰囲気にホッとひと安心したメンバーも多かったのではないでしょうか。
私自身が心がけていたのは、何かメンバーがよいことをした場合や、会社の価値観にあった行動をしたときには、朝礼やマネジメントレター(社長からの手紙)で褒めるようにしました。
一方で、メンバーが間違っているとき、直してほしいことがあるときは、できる限り一対一でじっくり話そうと心がけました。大声やお世辞でメンバーの心を動かすことはできません。真剣に向き合う姿勢が大切だと思います。
日産自動車時代、尊敬する上司に今も忘れられない言葉をいただきました。
1年間の工場での生産管理研修を終え、本社の購買管理技術課に戻ってきたときのことです。私は、系列の部品メーカーの生産性向上活動やTQC(統合的品質管理)活動をサポートすることになりました。まだ入社2年目で、何をしたらよいのか分からず戸惑っていた私に、その上司は言いました。
「お前が失敗しても、日産はつぶれないから、思い切ってやってこい」
このひと言でハッと目が覚めました。
「自分のような若造が、経営者や幹部に指摘や提案をしてもいいのだろうか」というためらいが吹き飛び、「自分ができることを精一杯やればいいんだ」と勇気づけられました。そしてその上司は、陰からいつもフォローもしてくれていました。
担当した部品メーカーの幹部たちも、最初は戸惑っていたようですが、プロジェクトの人たちと一緒になって、油まみれで毎晩遅くまで討論を続けていました。すると、リーダーを務めていた専務さんが突然、「これから“考える部分”は、岩田さんに全部任せる」と言ってくれたのです。
その後、作業方法の見直しや、機械レイアウトの変更などの仕事を、チーム一丸となって続けました。この部品メーカーは後に、日産品質管理賞や、名誉あるデミング賞を受賞することにもなりました。私はつい最近、30年ぶりにその会社に招かれて、二度ほど幹部や全社員の前で講演をさせていただきました。少し恩返しができたかと嬉しく思いました。
戸惑っているときに背中を押してくれた上司の言葉が、私に大きなエネルギーをくれました。そう、リーダーの言葉ひとつで、メンバーは主体的に変わることができるのです。
メンバーの悩みを解決することは、リーダーの役割のひとつです。
私は社内やお店をまわるたびに「何か困ったことはない?」と、いつも問いかけていました。普通は社長からそんなことを聞かれても、すぐに答えられないと思います。しかし本当に日々困っていたり悩んでいたりすれば、思わず「社長、実は…」と相談してくれると思うのです。それはきっと、よほどその人にとって大切なことだと思います。これを解決することはリーダーの手腕の見せどころであり、メンバーの信頼を獲得する近道です。
何か仕事で困ったことや悩みがあっても、自分からは口にしにくいものです。
しかし、リーダーの方から問いかければ、「話してみようか」という気持ちになるでしょう。そして悩みが解決できれば、このリーダーについていきたいと思うようになるはずです。リーダーは御用聞きにならないといけないと思います。
「仕事の量が多すぎてパンク寸前です!」と悲鳴を上げているメンバーに、「人手不足だから仕方ない。我慢してくれ」と言っても、解決にはなりません。チームの人数を増やす必要があるのなら、新規採用や増員を会社と交渉するのがリーダーの役割です。
ただし、リーダーの権限には限りがあります。自分の権限では解決できないことは、さらに上の上司に相談したり、社長に直談判することによって解決できるかもしれません。現実に、メンバーは悩んでいるのですから、何らかの方法で解決してあげる必要があります。
(次回に続く)