リーダーシップの身につけ方

リーダーに求められるものとは-4

2016.02.22 公式 リーダーシップの身につけ方 第10回

リーダーは完璧じゃなくてもいい

8. リーダーの元気がチームを元気にする

私がはじめて社長になったアトラスという会社では、リーダーとして多くのことを学ぶことができました。当時、アトラスはプリクラのブームが過ぎ、3期連続の赤字で事業再生のまっただ中でした。社長としてやるべきことが山積みで、頭の中はいつも懸案事項でいっぱいでした。

そうしたある日、ビックリするような噂が社内に広まっていることを知りました。「トイレで見かけた岩田社長が、元気がなかった」というのです。私は、アトラスを再生させようと、気力は充実していました。ただ、考えごとをしながら用を足していただけなのに、社員の目には「元気がない」と映ってしまったようでした。
「そうか、人の上に立つリーダーは、いつも見られているんだ……」と痛感した出来事でした。
リーダーに元気がないと、メンバーは「会社が危ないのでは……」などと勝手に憶測をします。悪い噂が広まり、チーム全体の士気も奪うことになってしまいます。

この経験をして、リーダーは常に皆の前では、元気に前向きな姿を見せなくてはならないと思いました。リーダーは常に「何とかなる!」と楽観的な姿勢を見せることが大切だと感じたのです。「絶対にいけるぞ、大丈夫!」という気持ちをはっきり見せることが、チーム(会社)全体を元気にするのです。

しかし実際は、リーダーとして落ち込んだり、悩んだりすることも多々あります。ただ、無理をする必要はありません。リーダーは完璧でなければならない、と考えて虚勢を張ってみても、自分がつらくなるだけです。こっそり社員にわからないように会社を抜け出して、気分転換することも大切です。そしてときには信頼のおける部下に本音を吐き出し、「困った」「助けてほしい」と伝えることがあっても構わないと思います。そうすることが、かえってリーダーに対する共感を高め、「この人についていきたい」という気持ちにさせることもあるのです。

「無関心」のリーダーになってはいけない

9. 心からの「ありがとう」は必ず相手に届く

偉大なリーダーといえども、最初から完璧な人間などいません。努力し、学び続けることで、少しずつ人間として立派なリーダーに成長していくのです。しかし、自分がどれだけ人間的な成長ができたかを評価するのは、決して自分ではありません。あくまでも「周りの人からどう見られているか」です。

自分では意識していなくても、他の人の印象には強く残る場合があります。ザ・ボディショップ(株式会社インフォレスト)の社長時代、私は毎週欠かさずに、全社員に向けたマネジメントレターを書いていました。
そして、私がザ・ボディショップを卒業して何年も経ってから、たまたま地方出張でザ・ボディショップのお店に寄って、マネジャーに会う機会がありました。このとき、次のように言われてとても嬉しく思いました。
「岩田さんのマネジメントレターで、いつも最後に『ありがとうございました』という言葉があったのが、とても印象に残っています。いつも感動していました!」。
実のところ、私はそのことを当時はあまり意識していませんでした。いつもお店で頑張ってくれているスタッフの皆さんへ、感謝の気持ちを素直に伝えようと考えていただけでした。しかし彼女は、それをちゃんと読み取ってくれていたのです。

日々の挨拶をきちんとすること、感謝やお詫びの気持ちを素直に伝えることは、リーダーに限らず人間としての基本です。心から出た言葉は、必ず相手の心に届くのです。

10. メンバーに関心を持ち、気軽に声をかける

人付き合いで一番大切なことは、相手に関心を持つことです。それはリーダーも同じです。リーダーはメンバーに絶えず関心をもち、よく観察をしていなければなりません。疲れた顔をしている、元気がない、何だか楽しそうにしている、元気に動き回っている、持ち物が変わった……。
そうしたメンバーの様子に気づいたら、適切な言葉を掛けてあげるのです。メンバーは「リーダーは自分に関心を持ってくれている」と感じるだけで、やる気が出るものです。ちょっとした声掛けでモチベーションが上がり、チーム全体のエネルギーも高まります。皆さんも、若い頃に部長や社長にひと声掛けてもらっただけで、「この会社のために頑張ろう」と思ったことがあるはずです。

逆に何よりもよくないことは、メンバーに無関心でいることです。リーダーの無関心は、メンバーにとって非常につらいことなのです。
マザー・テレサが「愛の反対は憎しみではなく無関心です」と言ったのは有名な話です。

よくいるのは、自分の上司にはとても関心を持つけれど、部下には関心を持たないリーダーです。こういう人がリーダーであった場合は、メンバーのモチベーションが下がるだけではなく、しだいにリーダーとのコミュニケーションを避けるようになり、必要な情報がリーダーの元に届かなくなります。
メンバーと気楽に会話し、信頼関係が構築されていれば、問題が発生してもリーダーの耳にいち早く情報が届くのです。

日産自動車に勤務していた時代から、私は総務の女性や受付の女性に仲よくしてもらっていました。朝、受付の前を通るときに「おはよう!」と挨拶をしたり、コピー室などで一緒になったとき、「元気?」などと必ず声を掛けていました。後に退職するとき、職場でもらった寄せ書きの中に、「岩田さんが掛けてくれた言葉に救われました」という言葉をいくつも見つけ、うれしく思ったことがあります。オフィス内での声掛けを習慣にしていれば、お酒の席での会話より、はるかに好感度はアップするものなのです。

(次回に続く)

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プロフィール

岩田松雄
岩田松雄

1958年生まれ。大阪大学経済学部卒業後、日産自動車株式会社に入社。同社にて幅広い業務を経験後、米国UCLAアンダーソンスクールに留学。その後、外資系コンサルティング会社ジェミニ・コンサルティング・ジャパン、日本コカ・コーラ株式会社役員を経て、株式会社アトラス(ゲーム会社)の代表取締役として、三期連続赤字の企業を再建。さらに株式会社タカラ常務取締役を経て株式会社イオンフォレスト(ザ・ボディショップ)の代表取締役に就任。店舗数を一気に増加させ、売上を67億円から約140億円に拡大。そしてスターバックスコーヒージャパン株式会社のCEOとして「100年後も光輝くブランド」というコンセプトを掲げ、業績を急回復させ再成長させる。これらの功績が認められ、UCLAビジネススクールより全卒業生3万7000人の中から「100 Inspirational Alumni」
('92年卒業生ではただ一人)に選出される。
現在は株式会社リーダーシップ・コンサルティングの代表取締役CEOであり、次世代のリーダー育成に注力する傍らで、立教大学の特任教授として教鞭もとっている。主に「リーダーシップ」に関するテーマにてこれまで著書は30万部を超える『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』はじめ多数。「リーダーシップ」に関する日本の第一人者として日本のビジネス界を牽引する人物である。
HP: http://leadership.jpn.com
Facebook: https://www.facebook.com/Leadership.jpn?pnref=lhc

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