私が43歳でアトラスというゲーム会社ではじめて社長になったとき、アトラスは、かなり厳しい状況にありました。プリクラの大ブームを経験し上場まで果たしましたが、その後ブームも過ぎて3期連続の赤字となり、社内の雰囲気は悪化してしまいました。
私が入社したとき、1階の受付には電話が置かれ、来客が社員を呼び出すシステムになっていました。電話機が置かれた受付台のうしろには、段ボールの切れ端が落ちていたり、飲みかけの缶コーヒーが放置されていたり、汚れた雑巾が床に落ちていたりしました。1階玄関の受付は会社の顔ともいえる場所です。アトラスの社員のモラルはここまで落ちていました。
社長に就任する前に社長室長であった私は、総務の担当者に受付付近の清掃を頼み、とりあえずはきれいになりました。ところが、2・3日するとまた汚くなっているのです。その後何度も同じことが繰り返されました。頭にきた私は、「バケツと雑巾を貸してください」と言って、自分で掃除をはじめました。すると、社長室の若い社員が手伝ってくれました。新しく入った社長室長が、若い社員と一緒に掃除をしている様子を、通りがかった社員たちは不思議そうに眺めていました。しかしそれ以降、受付回りはピタッと汚れなくなり、ものが放置されることもなくなりました。
非常にありきたりなことだけれども、リーダーとして率先垂範して、まず自分で行動を起こし、自ら範を示すことが大切なことだと実感しました。
私が大学を卒業後に日産自動車に入社し、最初に担当したのは生産管理の仕事でした。ストップウォッチを片手に、1つの作業にかかる時間を計測し、標準時間を設定したり、どうすれば作業時間をもっと短縮できるかを考える仕事でした。このときの経験から、時間と効率を考えることが習慣になりました。効率的に時間を使えば、多くのことができます。小さな積み重ねであっても、やがてそれが大きな差になっていきます。
たとえば、エレベーターに乗って、行き先階のボタンを押すことと、閉まるボタンを押すこと。では、どちらを先に押せば効率的なのでしょうか? 絶対に閉まるボタンを押してから、行き先階のボタンを押すことです。
こうすると、先に行き先階のボタンを押して、それから閉まるボタンを押すのとは、コンマ数秒ですが、早く扉を閉める指示を出すことができます。たったコンマ数秒とも思いますが、これが積み重なっていくとどうなるか。
コンマ数秒は数秒になり、それが積み重なって数分になり、やがて何時間、何日にもなるのです。時間と効率を意識するという基本動作があるかないか、それを若いころに身につけているかどうかで、実は手にできる時間に大きな差が生まれるのだということ。細かな積み重ねが、持っている時間の違いを生み出すのです。
また同時にできることは同時にする。2つのことがあったときには、どちらを先にやった方が効率的なのかを素早く考える。無駄に思える時間は極限まで減らしていく。そうした習慣が、効率的な時間の使い方を可能にするのです。
2つのことがあったら、どちらを優先すれば効率的なのかを素早く考える。ムダに思える時間はトコトン減らす。日常生活の中でそれを繰り返し、習慣化することで、効率的な時間の使い方が身につきます。このような習慣は、行動力にも大きな影響を与えます。何をすべきか、いつすべきか。時間と効率を意識することが、行動力を高めるのです。
人間に与えられている時間は、誰に対しても公平です。1日に24時間しかない。その時間をどう有効に使うか。無駄なく使うか。その意識の差、つまりが同じ24時間の使い方が、人生においてとても大きな差になってくるのです。
私がいま心がけていることは、できることは、できるだけすぐにやってしまうこと。本当に時間をかけなければできない仕事以外は、すぐに着手し、片づけてしまいます。人間は物忘れをする動物です。であれば、忘れる前にやってしまえばよいのです。
仕事ができる人は、行動にスピード感があります。それは、すぐに動くことを習慣にしているからだと思います。言い換えれば、スピード感のある人だけが、経営者やリーダーとして成功するということです。物事をはじめるとき、「キリのいい月初めからにしよう」という決め方がありますが、すぐできることであれば明日(もしくは今日)から、即座にはじめるべきです。これが、仕事ができるリーダーの発想なのです。
(次回に続く)