誰しも望む未来があります。しかし、その未来を実現できる人は、ひとにぎりだと考えていませんか? そんなことはありません。未来の自分を変えるヒントは、あなた自身の中にあるのです。過去に「目をつけ」「掘り下げて」「引き出す」。このプロセスの繰り返しが、あなたの未来を大きく変えるのです。ここでは、自分自身を「振り返る」ことで見えてくる、あなたが望む未来の導き出し方を紹介していきます。そう、あなたの過去は宝の山なのです。
過去に学ぶと、どうして新しい価値を創造することができるというのでしょうか。
この問いに答えるためには、アイデアの創出プロセスを理解しておく必要があります。
アイデア創出法について書かれた本はたくさんあります。最近目にしたものでは、『インクルージョン思考』(石田章洋著 大和書房)が、特にわかりやすく説明してありました。
ここでは、古典的名著『アイデアのつくり方』(ジェームス・W・ヤング著 CCCメディアハウス)によりながら、アイデア創出のプロセスを見ていきましょう。
この本はアメリカの広告界で名をなした実業家の著書で、アイデア創出法の古典として知られているものです。解説を書いているのが故・竹内均氏で、その中で創出のプロセスを次のようにまとめています。
1.データ(資料)集め
2.データの咀嚼(そしゃく)
3.データの組み合わせ
4.発見した瞬間
5.アイデアのチェック
ジェームス・W・ヤングのアイデア創出法の核心は、「組み合わせ」にあります。組み合わせると新しいアイデアが生まれるのです。
アイデアを創出したい場合、大概は特定のジャンルがあります。たとえるならば、新しい車についてのアイデアだとか、新しいコーヒーの販売方法などです。そのような特定ジャンルの知識や情報と、その他一般的で既存の事物についての知識や情報を組み合わせるということです。
「特定ジャンルの知識」と「既存の知識」
既存の知識。まさに過去のことです。つまり振り返るということは、現在にいる自分と過去の情報とを組み合わせているということなのです。だから、振り返っただけで、組み合わせが起こります。そのため、新しい知識が生まれるのです。
実際に夢実現応援の対話では、とにかくよく振り返ります。途中まで話していて、
「ここまで話してみてどうですか?」
と問いかけます。するとお客さまは、そこで立ち止まり、それまでの対話を振り返り、その時点で気づいたことを話してくれます。この瞬間に、新しい気づきが誕生するのです。
アイデア創出法において、探求したいテーマを決めて、そのテーマに関する知識と情報に、それとは関係のない既存の事物の知識を組み合わせていくと申しました。
この構造は、振り返りに共通しています。
「目をつける」のところで述べましたが、まず、何に意識を向けるのかを定めます。それは振り返りの目的を明確にすることでもあり、特定のテーマにおいてアイデアを生み出そうと決めることでもあるのです。
意図して決めるということを大切にして下さい。
というのも、私たちはどんなに無造作に振り返っても、なんらかの目的をもってしまうものです。仮に、今日一日を振り返ろうとしたときに、ちょうど何かに失敗した後で、気分が落ちていたとします。すると、
「どうしてうまくいかなかったのか」
と失敗の原因を探るために振り返ってしまいます。それだけが目的であれば構いません。
しかし、もしも自覚的に振り返ろうとするならば、失敗の原因と再発防止策を見つける、という目的で振り返ることもできるのです。意図次第で発見するものが変わります。
このことを理解せず、目的を明確にせずに振り返ると、どうでもいいことや、むしろ探求しなくてもいいことを探求してしまいます。振り返りにおいては、まず何を求めて振り返るのか、目的を明確にすることが大切です。
アイデア創出のコツは、探求したいテーマの知識と、たくさんの情報とを組み合わせることにあります。エジソンは電球の素材を発見するために、数千とも一万とも言われる種類の素材を実験したといいます。これは、数千種類の組み合わせを行ったということです。
それと同じように、振り返りにおいても、目的に沿って探求したいテーマと、過去の出来事や体験、知識・情報とを無数に組み合わせていきます。
具体的には、掘り下げを行っているときに、思いつく限りの出来事や場面を書き出していくのです。もう思いつかないというところまで書き出せれば一番です。あるいは時間を区切って、時間内にできる限り多く書き出すということをやってみましょう。
たとえば、「プレゼンを成功させたい」というテーマ一つとっても、その下位項目を書き出していくと、たくさんの項目が見つかります。
プレゼンを成功させたい
→ スゴイ企画を提案したい
→ 説得力のある資料をつくりたい
→ 堂々と発表したい
→ お客さまの決断を促したい
これはマインドマップに書き出したり、樹状構造に書き出しても、広げていくことができます。
書き出された言葉全体を見て、この振り返りでは何に意識を振り向けるのかを特定します。
その中で、「堂々と発表したい」というテーマの中の、「震えずに声を届けたい」という下位項目が、探求したいジャンルなのだということが見えてきたとします。
それが決まれば、過去の記憶の中に、
「震えずに声を出せていたときのこと」
「なんの迷いもなく主張できたときのこと」
「まったく緊張しなかったときのこと」
「人目を気にしないでいられたときのこと」
などを探していきます。
「まったく緊張しなかったときのこと」という言葉が出ています。ここから連想してみれば、
「自宅でくつろいでいるとき」
「親しい友人と話しているとき」
「得意な話題を居酒屋で話しているとき」
などの場面を思い起こすことができます。それぞれの場面を思い描き、しっかりと味わってみます。すると「震えずに声を届けたい」という思いへの解答が見つかってくるでしょう。
このように、連想を使って大きく幅を広げて、全体を俯瞰してから一つに絞り、それを具体的に味わうという手順を覚えておきましょう。