伝説の経営トップが語る人生を変えた3つの言葉

すべては自分のせいだと考えろ!

編集部 前回まで“SPEAK OUT”と“FUN”という言葉についてお伺いしました。第3回となる今回の言葉は何でしょうか。

今回でこのインタビューも最後ですね。
最後に挙げる、私が人生で影響を受けた言葉は「自責の風」です。
自責の風というのは、どの本にあったのか正確にはわかりませんが、やはり、ジョンソン・エンド・ジョンソン㈱に移った42歳のころに知った言葉だったと思います。

私はジョンソン・エンド・ジョンソン㈱の社長になる前の専務時代に、いまでいうところの女性の活躍について女性社員にアンケートをとったことがあります。
アンケートの質問は、あなたは活躍できていると思うか、活躍できていないのならできない理由は何か、大きくはこの2つでした。

結果は、ほとんどの女性社員が活躍できていないと思っているということでした。
そして、活躍できない理由の上位は、経営者の理解が足りない、サポートがない、男性との給料格差が大きい、女性は課長止まりである、教育訓練の機会がない、などが挙げられていました。

アンケートの結果には、なるほどとは思ったものの、どうも釈然としないものが残りました。
ここで挙げられた理由は「他責」ばかり、つまり自分の不遇は会社が悪い、経営者が悪い、制度が悪い、環境が悪いという、他人のせいにするものばかりだったからです。
自分の自己啓発が足りない、仕事への理解が不足しているというような「自責」の回答は、ひとつもありませんでした。
この他責の体質は、女性だけの問題ではないと感じました。

他責の体質は、会社全体の問題であり、ひいては専務である自分の問題であると悩んでいたときに、ある本で見つけた言葉が「自責の風」だったのです。

編集部 自責というのは自分のやったことに責任を持つということですか。

自分のやったことに対して責任を持つことは、もちろんそうですが、他人のせいで起きたことであっても自分の責任としてとらえることも自責です。
仕事はチームでやります。

たとえば、自分は何もミスをしなかったのに、いっしょにやっていた人間がミスをしたために、目論んでいたようなチームの成績が出せなかったとします。
これは表面的には、自分の責任ではありません。
しかし、他人のせいだったとしても、それで失敗という事実が変わるわけではない。仲間のミスをカバーできなかったこと、もし、自分がリーダーであれば、ミスを未然に防ぐ手立てを取っていなかったことを、自分の責任と考えるべきなのです。

何ごとも自分の問題と考える自責人間でないと、人は成長しないものです。
自責とは、いかなる問題でも、問題は自分のものであり、結果がどうであろうとも、やはり自分のものであって、他人のせいには決してしないという、心構えのことなのです。
英語では“I own the problem. I own the solution.”
「問題は自分のもの、解決も自分のもの」といいます。
私は、冗談で「電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも、みんな私が悪いのよ」といっています。

編集部 他責の人は成長しないということですね。

他責人間は、自分の失敗でも、上司が悪い、部下が悪い、環境が悪い、国の政策が悪いと、すべて他人のせいにして、自ら解決しようとはせず、チーム内に問題があっても自分から改善に取り組む姿勢がありません。
ダメな社長ほど、会社の業績が悪いときに環境が悪いというものです。
会社が儲からない一番の原因は、社長の舵取りにあります。それを環境という他責にしていては、会社はいつまで経っても儲からないままです。

生産現場では「ムリ、ムダ、ムラ」を除くことが、品質を安定させ、生産性を高めるといいます。
他責のというのは、大きなムダのひとつです。除けば、必ず利益が上がります。
この問題を解決するために自分は何をするべきなのか、自分ひとりでは解決できないことも多いですが、はじめから他人のせいにしていては、まったく前進がありません。
他責や責任転嫁は、成長機会の自己否定なのです。

「上役の 指示がファジーで ぼくビジー」というサラリーマン川柳がありました。上司の指示があいまいなために部下はいつもてんてこまいというのは、喜劇的な風景ではありますが、優秀な部下というのは、ボス・マネージメントがうまいものです。
そういう意味では、ぼくビジーと嘆く前に、上司のファジーな指示に振り回されないために、自分は何をすればよいかと考える方が自責人間といえるでしょう。

第35代アメリカ大統領だったJ・F・ケネディは、その就任演説で「国が諸君のために何をしてくれるかを問うな。諸君が国のために何ができるかを問え」と言いました。
ケネディは第2次大戦のヒーローであり、当時、大変人気のある政治家でしたが、あえて国民に耳の痛いことを言ったのは、アメリカ国民が自責の国民にならなければ、アメリカは20世紀後半の世界をリードする強い国になれないという思いがあったのでしょう。

編集部 「自責の風」の「風」とはどういう意味なのでしょうか。

自責というのは個人が貫く姿勢ですが、ひとりだけが自責人間でも組織は強くなりません。
強い組織やチームは、全体が自責人間で構成されています。
何か問題があると他人のせいにばかりしている他責人間の集団と、何ごとも自分の問題と考える自責人間の集団では、どちらが強いかは明白です。
しかし、多くの職場では、自責の人は3割程度で、他責の人が7割を占めていると思います。この割合は、日本の会社のごく一般的な姿です。

そして「風」とは、職場に吹く風のことです。
人は風に影響されます。
その土地や地域に吹く風を気風といいます。気風が人の気質を育てます。
会社に吹く風を社風といいます。
職場に自責の風が吹けば、職場全体が自責の気質を持つようになります。
自責の風とは、あなたから自責の風を吹かせて、周りの人間を自責人間へと感化するということです。
職場の全員が自責の風を吹かせるようになると、職場には「GO! GO! GO!」という音を立てて、業績を急上昇させる追い風が吹き始めます。
これはジョークではありません。
よい社風はよい企業文化をつくるのです。

アメリカのシンクタンクの研究では、企業文化のある会社とない会社では、業績の面で、中長期的には4倍の差がつくというレポートもあります。
よい企業文化が、その会社の最も重要な経営資源であるということは間違いのないことです。

編集部 自責の職場にするために何か具体的な方法がありますか。

チームに自責の習慣をつけるために、私がやっていたことのひとつに、部下を自責のコーナーに追い込むということがあります。
これは、部下が何か相談に来たときなどにやっていたことです。

部下が相談に来るときは、何かラッキーなことがあってやって来るよりも、何かトラブルがあって、その対応についてアドバイスを求めるということが圧倒的に多いものです。
アドバイスを求める理由は2つあります。
ひとつはトラブルを切り抜けるためのよい知恵を授けてほしいという、困ったときの神頼み的な理由から。
もうひとつは、上司に相談することで、失敗したときに、自分だけの責任とならないようアリバイをつくるためです。上司の言うとおりにやりました、という免罪符がほしいわけです。

そういうとき、私はあえて正解を与えないようにしました。
部下を困らせようと意地悪したのではなく、部下に自分の頭で考え、自分で判断するよう、自責のコーナーへ追い込んだのです。
何か困ったら上司に助けてもらえばいいと安易に他人を頼るのではなく、自分で考え、自分で判断し、自分で行動するという自責の習慣をつけさせるためです。

前者の部下と後者のアリバイづくり型の部下では、動機は異なりますが、私のやることはどちらに対しても同じです。とことん自分で考え、自分の判断で行動するよう誘導しました。
正解は与えませんが、何を学べばよいか、何から学べばよいか、原理原則は何かなど、直接の解答にはならないが、ヒントを受けたうえで、自分で調べ、自分で考えることにより自分の答えを導き出す、となるようなアドバイスを与えました。
解答を与えず、あくまでもヒントにとどめておくこと、それが自責の習慣をつけさせるために肝心なことです。

編集部 長時間にわたって貴重なお話をありがとうございました。最後に読者にひと言ございましたらお願いいたします。

自責人生は目標人生、他責人生はなりゆき人生です。

人生を成功させるためには、目標人生でなくてはなりません。
そして、成功のビジョン(絵)を描くこと、FUNであること。

そうすればいかなる職業のいかなる立場の人であれ、成功の人生を歩めるはずです。

以上

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プロフィール

新 将命
新 将命

株式会社国際ビジネスブレイン代表取締役社長。
1936年東京生まれ。早稲田大学卒。シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、フィリップスなどグローバル・エクセレント・カンパニー6社で社長職を3社、副社長職を1社経験。2003年から2011年7月まで住友商事株式会社のアドバイザリー・ボード・メンバー。2014年7月より株式会社ティーガイアの社外勤取締役を務める。
現在は長年の豊富な経験と実績をベースに、国内外で「リーダー人材育成」を使命に取り組んでいる、まさに「伝説の外資系トップ」と称される日本のビジネスリーダー。
代表的な著書に『他人力のリーダーシップ論』『仕事と人生を劇的に変える100の言葉』『経営者が絶対に「するべきこと」「してはいけないこと』(いずれもアルファポリス)などがある。

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