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成田氏:配属されたクリエイションのセクションには130人ぐらいのクリエイターがいて、まずは名前を覚えることから始めなければいけませんでした。仕事も、右も左もわからない。毎日異常に気を遣って身心ともにクタクタでした。
当時は内線電話が通じてなく、新人の僕らが電話交換手のように外線電話を皆さんにつなぐべく、オフィスを一日中走りまわっていました。『Hello!』と国際電話もじゃんじゃん鳴り響く。先輩社員の皆さんよりも早く出勤し、掃除はもちろん、コピー機の用紙の補充、備品の在庫チェック、ありとあらゆる雑務が新入社員のお仕事でした。
とにもかくにも早く仕事(クリエイト)の仕方を覚えて、スキルを磨きたいという気持ちが強かったのですが、何も知らない広告グラフィックのセクションに配属された自分が、一体どうやって「何を、いつまでに、誰と、どうしていくのか」まったくわかりませんでした。そもそもの知識量も圧倒的に足りなくて……。一番笑えたのが新入社員研修でノートパソコン開けなくて、講師の先生らから唖然とされた事。それまでパソコン使った事すらなかったんです(笑)。
――面接で目立っちゃったぶん、プレッシャーも(笑)。
成田氏:実は最初のころ、そうした先走る気持ちに全然追いついていない自分の状況に不安を感じ、「辞めたい、辞めたい」と何度も部長室で号泣していました。
僕はこの会社に入社するとき、あるひとつの決意をしました。アーティストとして独り立ちすべく突き進んできた自分が、組織に入るとはどういうことなのか。そこで、いかに自分の「個」を発揮させながら、愛される仕事を進めていけるのか。
どうせ働くなら派手に、キラキラした世界の真ん中で『人気者で生こう!』って。辛い時はその決意を思い出しながら、持ち前の体育会系精神でまずは「石の上にも3年」だと。その想いがそのときから今でも、僕を支えてくれています。
個性派揃いの部長、室長、上司や先輩に可愛がってもらったのも、大きかったですね。「これも勉強だから」が合い言葉で、毎回いろいろな場所に連れて行ってもらいました。もちろん楽しいことばかりではありませんでしたが、憧れていた人たちと仕事ができるだけで幸せで、そうして少しずつ、目の前の基本的な仕事をこなしながら社会人としての自信に繋げていきました。
あれだけ号泣していた僕でしたが、入社10ヶ月足らずで、上司とコンペで対決。まだ1年目だったのに「こいつに一発やらせてみよう」って。そういう挑戦を後押ししてくれる資生堂という土壌の中で、どれもやりたい欲張りな僕は、花を開かせてもらい今に至ります。
成田氏:業界のことを何も知らずに入った僕も、気づけば今年で19年目。今も相変わらず欲望のまま、あらゆるお仕事に関わらせていただいています。会社という組織の中にいると、仕事も自分だけの妄想というわけにはいかず、たくさんの人が必然的に携わってくるので、意外なものが飛んできます。おかげで毎日、経験値は上がっていきますし、思ってもみない素敵な人々にもチャンスにも、たくさん出会えますし、見えないハードルを跳ぶ楽しさが会社という組織にはあると思います。
そうするとそのうち、思いもよらない扉が開くんです。焦るようなことも、やったこともないようなこともやらせてもらえる。銀座7丁目の「SHISEIDO THE GINZA」で発行していたフリーペーパー『ギンザドキドキ』の編集長も、憧れだった雑誌『装苑』での舞台プレビュー『CUEの勝手に舞台ソムリエ』も、意外なところから飛んで来たものを、勢いよく打ち返した結果でした。
――そうして取り組んだ仕事が、また新しい欲望を生み出していく。
成田氏:まだまだやりたいことは山ほどあります。美術館で展覧会も開きたいですし、アイドルもプロデュースしたい。入社当初と比べ、もちろん仕事自体には慣れてきましたが、やれることが増えた分、気持ちは年々昂っています(笑)。お仕事のご縁もどんどん広がっていて、憧れていた方々と対談の機会を設けていただき、そうした人たちと繋がれる喜びも感じています。今年(2017年)も、素敵なご縁が繋がって大分県別府市の陶芸作家さんのところに元旦からお邪魔していましたが、そんな出会いからも、一緒にクリエイトできる仲間が見つかっています。
こんな風に、未来の新しい仲間たちと、まだ見ぬ新しい企画をたくさん、「オギャー」と世に送り出してやりたいですね。そのために面白いと思ったことはどんどん挑戦してみる。やってみてダメだったらそれだけの話。すべて失敗じゃないですから。そうやって挑戦しながら、これからもやっぱり「人気者で生こう!」の気持ちで、キラキラした世界の真ん中で、人や商品を、素敵に世に送り出し続けていきたいですね。