――その頃に培った仕事観が『あなたの仕事はなぜ終わらないのか』に記されています。
中島氏:おかげさまで10万部を超えるヒット作となり、ブクログによる「第5回ブクログ大賞」では、ビジネス書部門大賞をいただきました。実はその本、もとはといえば、子どもの教育のこともあって日本に戻った家族との連絡手段、「生存確認」として、2004年に始めたブログ(Life is beautiful)がきっかけだったんです。最初は、一人アメリカに残された自分が「今日は何を食べた」とか、そんな他愛もない家族との会話を書いていました。
それが、「日本語とオブジェクト指向」というたまたま書いた記事で、身内だけでなく多くの人が読んでくれるようになったんです。読者もあっという間に1万人を超え、「アルファブロガー」と呼ばれるようになりました。
理数系で国語がてんでさっぱりだった自分が、文章を書くことが好きになったのは、学生時代、『理科系の作文技術』(中公新書)という本を、教授のすすめで手にとってからです。何をどう書けば、ちゃんと伝わるのか。そして、いかに分かりやすく書くか。ブログを書きながら学ぶこともありました。
――「何を、どう」伝えるのか、伝えたいのか。
中島氏:作り手も書き手もそこが曖昧だったりブレていたりしていると、よい本は生まれないですよね。おかげさまで、この本が売れたことで多くの出版社からオファーをいただくようになりましたが、中には「企画はお任せで」という編集者や出版社もいて、そうした自ら企画を考えることを放棄した依頼はすべてお断りしています。
書籍の執筆というのは、特に自分のように執筆以外が本業の場合だと、ベストセラーとして広まらなければ、割に合わない仕事なんです。多くの人に伝わらなければ意味がない。執筆という時間へのそれなりの対価(お金という意味だけでなく意義のあること)は、当然欲しいわけです。今回はそれ以上の価値があったと思っています。新入社員時代、不義理を働いた自分が、こうして母校でお話しできるのも、この本のおかげかもしれませんし(笑)。
――Windowsをはじめ、中島さんが開発に携わったソフトウェアによって、世の中は大きく変化してきました。
中島氏:ソフトウェア開発もそうですが、一つひとつの行動によって、身の回りの状況が変化し、たくさんの方々と知り合えることができたのは、とてもありがたいことだったと思います。ブログを通じてたくさんのエンジニアとも縁ができましたし、新たなビジネスチャンスにも繋がりました。
自分の直感に素直に生きることは、時に大変なこともありますが、嫌だと思う気持ちを抱きながら生きていくよりは全然いい。「やりたくもないことに時間を費やすなんてもったいない」。そうしたメッセージを伝えるのも、今の自分の役割なのかと思います。でもそうしたことは、あとづけ。まずはやってみること。動かなければ何も変わりません。
――動かなければ、ゼロのまま。
中島氏:「目標」なんていうのは、あとから追いついて来てもいいと思うんです。それよりもまずは自分の気持ちに誠実になること。ゼロをイチにしていくこと。そっちの方が、何社から内定をもらったなんていうことより、よっぽど大事なことなんじゃないかと、ぼくはそう思うんです。
正解のない人生ですから、ぼくのやり方だけが正しいわけではありません。でも「大企業に雇われる」だけが働き方・人生じゃないということを、特にこれから社会に羽ばたく学生には知って欲しいんです。自分はどう生きたいのか、そのためにはどう動けばいいのか。
ドイツの文豪ゲーテは、「知ることだけでは十分ではない、それを使わないといけない。やる気だけでは十分ではない。実行しないといけない」と言いました。ぼくの「一度しかない人生を思いっきり楽しもう」というメッセージとともに、今後もメルマガやSNSで発信を続けていきたいと思います。
もちろん、ぼくも皆さんと同じように、これからも正解のない道を歩み続けます。いまだに「成功法則」は知りません。今も昔も失敗を重ねています。けれど、やりたいことがなくなるまでは、今までのように「直感」に従って、人生を思いっきり楽しんでいきたいと思っています。
これまでご好評をいただきましたビジネス・インタビュー連載企画「道を極める」は、 今回をもちまして終了とさせていただきます。
尚、約1ヶ月の準備期間をおきまして、新たなビジネス・インタビュー連載企画がスタートいたしますので、乞うご期待下さい!!