月が導く異世界道中

あずみ 圭

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17巻

17-2

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 もう一人頑張ってくれたサリは最初僕のそばにいたけど、他を回ってくるように言ったら、素直に色んな種族の女性中心に声を掛けて、なごやかに楽しんでいるようだ。
 今も……って、あれ? いない。
 視線を巡らせてサリをさがす。
 ……おーい。
 何故か木の枝の上でぐでーっとなっているサリを見つけた。
 あ、ローレライの人に降ろされている。
 ここには酒の種類も沢山あるしな。
 あれだ、ちゃんぽんにして酔っ払ったんだろう。
 介抱かいほうしてくれる人もいるようだから、僕が行くまでもない。
 巴は僕の傍で遠慮なくあぐらをかいている。

「大らかで寛大かんだいな神々、ですか。確かに江戸でも神社は縁日、祭りの場所として人が集まる場所となっておりましたな。流石に理解し難い部分ではありましたが、やってみてこの目で見て、ようやっとなんとなく分かってきた気がします」

 意外にも巴はあまり騒ぐ方ではなく、しみじみやるのが好きみたいだ。
 まあ、お花見なんてそんなものだ。
 花は騒ぐ言い訳でしかない人もいれば、本気で花を楽しむ人もいる。
 酒が第一な人もいれば、屋台の軽食をはしごするのが好きな人もいる。
 昼が良いって人もいれば、夜が良いって人もいる。
 だからといって喧嘩けんかするわけではなく、人それぞれで楽しむものだと思う。
 他人の楽しみ方を邪魔しない範囲で、好きにやればいいよね。

「昔の人も今の人も、別に神様を軽んじて騒いでいるわけじゃないからね。根っこにうやまう気持ちを持ってさえいれば、自然と行いはおかしなものにはならないんじゃないかな」

 と、僕は思う。
 奇祭と呼ばれるものも沢山あるけど、だからといって神様を馬鹿ばかにしたりはしない。
 騒いでも、暴動とは違う。
 もちろん、神様への敬意ってだけではなく、また次の祭りまで頑張るっていう、一年のモチベーションみたいなものになっている部分だってあるだろう。
 僕は、そういうのをひっくるめて、お祭りや神社でのもよおしってものが好きだ。
 だからそれが、花見という多少例外的な楽しみ方とはいえ、亜空でもできて嬉しい。
 この調子で例大祭や季節の祭りも生まれてくれたら、言う事はない。
 既に陸からも海からも、この神社に誰でもすぐに来られるように門をつなげるのも決定事項だ。
 僕はただ気軽に参拝してほしいんであって、いくら信心からの参拝といっても、昔の伊勢参りみたいに厳しい道中で死人が出たり行方不明になったりはしてほしくない。
 亜空の巡礼に命の危険はいりません。
 それでも直接のルートも欲しいという海の皆さんからのリクエストで、陸を削る工事をOKしたんだけどね!

「管理する者もいて、これだけ広々とした場所ならば、子供に習い事をさせるのにも使えるかもしれませんしな」

 境内を見回しながら、巴がしみじみ呟いた。

「僕としては、習い事とまでいかなくても単純に遊び場の一つになってくれたら嬉しいかな」
「はい。なんにせよ、良いものを贈ってくださった神々に感謝ですな。わしは……こういう祭りが好きです」
「ああ。僕もだ」
「……ふぅむ」

 突然、巴が何やら真剣な顔でうなりはじめた。

「どした?」
「事実に沿うなら手習てならいどころ、時代劇に沿うなら寺子屋……これは、悩ましい……はっ、時代考証とはこの事か!」
「……はいはい」

 再びさかずきあおる巴は満足げだ。
 ペースはなかなか速い。
 巫女さんを巡ってどうにも刺々とげとげしい雰囲気だったけど、今はそんな素振そぶりもない。
 同じくそんな様子だった澪も、基本的には僕の傍にいるものの、いくつか試しに出された屋台を回って、時々食べ物を持ってきてくれている。
 そんな澪の様子をながめながら、巴がまた杯を空ける。

「澪の奴は……とことん屋台を楽しんどりますな」
「ま、楽しそうだから良しとしよう」

 屋台自体は既に亜空ランキングの試合会場とかでも出していて、こっちのみんなにもお馴染なじみだ。
 最初に花見用に持ち込んだ重箱の数々だけで食べきれるか不安な量だというのに、容赦ようしゃがない。
 結構食べているつもりが、むしろ最初よりも増えている気さえするのも、多分気のせいじゃないし。
 重箱の数も計算と合わない気がするんだよな……。
 軽やかに人ごみと酔っ払いをすり抜ける澪を見て、食べきるって選択肢はあきらめる事にした。
 限界までは頑張ろう。それでいいんだ、多分。

「若様」

 声がした方を振り返ると、何故か大真面目な顔の識がいた。

「環の話にあった参拝の際に吸われる魔力について調べたのですが、基本的に健康を害するほどのものではありませんでした」

〝慣例〟という名の戦いが終わった後、僕は環から神社を含む三神殿について改めて詳しく話を聞いた。その中で出てきたのが、参拝、お参り、お祈り――まあ、要するに神様の前で手を合わせて祈る行為の副産物についてだった。
 簡単に言えば、それらの行為をすると、自分の魔力を消費するらしい。ちょうど参拝でお賽銭さいせんを使うような感じだ。そんな事、僕は全然知らなかった。識も気になって調べてくれたみたいだけど……。

「識、今は仕事から離れていいから。大体それはトウ――環も、大丈夫だって言ってくれてたじゃない」
「しかし、やはり個人差があり、かつ一定ではないとなりますと、万が一を考えておくべきで……」
「うん、まあ。ありがとう。とりあえずさ、飲んで、食べなよ。それにせっかく咲かせてくれた色んな花を眺めるのも、なかなか良いものだよ?」

 環は言葉通りに花を咲かせてくれた。
 各種のおもむきが違う桜、それから夏や秋に咲くと思われるものも。
 日本でも温室とかを使って相当環境を整えてようやく目にする事ができるだろう光景が、今境内と、それを覆う森に広がっている。
 かなりの見応えだ。
 好きな人はずっといられるんじゃないかな。
 文字通りの百花繚乱ひゃっかりょうらん、草も木も季節を問わず咲き誇っているんだから。
 しかし、識は真面目くさった顔で首を横に振る。

「いえ! 私としましてはこの地の植生と森の環境についての調査など、やりたい事が山積みですので」
「却下。花見をしなさい。お仕事終了」
「し、しかし」
「識が仕事を始めちゃうと、他の人までやりだしかねないでしょ。だから今日はお休み。参拝の件だけで十分すぎるよ」
「……分かりました」

 うーん、分かっていなそうだ。識って仕事中毒なところがあるよな。
 あるじである僕も睡眠よりも優先してやっている事が沢山あるから、自分が休むわけにはいかない、というのが彼の言い分だ。
 僕の場合は、日課については余程の事がない限り必ず毎日やりはするけど……それは仕事中毒とは違う。仕事が終わらなくて睡眠時間が削られるのは、不本意ながら要領が悪いだけ。実力不足なだけで、目をキラキラさせて取り組んでいるわけじゃない。
 識が言う〝大丈夫です〟〝手が空いてます〟ってのは、言葉のままに受け取ると危険だって、最近なんとなく分かってきた。
 これまたタチが悪いというか、類は友を呼ぶというか。
 識の部下とか、彼と関わりが深い人達は、結構同じような気質を持っている。
 巴や澪と違って、元々ヒューマンだっていうのも大きいのかもしれない。
 寝るのが気持ちよくなったらしい巴と澪とは違って、識は元々寝るのが好きじゃなかったみたいだから。
 リッチになってから眠らなくてよくなって歓喜したと、以前言っていた。
 残念ながら、僕と契約して人の体を得ても何故か眠らなくてよい体質――いや、能力? はそのままみたい。
 一応、職場が同じなんだから、特殊な体質はある程度ひかえてもらいたくもある。
 識は渋々といった様子で大人しく花見をしているようだが、三十分続くか不安になるな、彼の場合。

「環、参拝についていいかな? 個人差があるとか、一定量じゃない件とか、細かいところまでは僕は聞いてないけど、問題になるような事は起きないんだよね?」
「もちろんです。もっとも、何事にも例外はございますが。魔力消費の個人差につきましては、参拝の際にうつわほうぜられる魔力が、基本的に割合で決まるものだから生じるのです。万ある者からは百、百ある者からは一、といった具合ですね。実際、普通の参拝では一パーセントもささげられる事はありません。百回お参りしても疲れはするでしょうが、魔力切れで昏倒こんとうする心配はいりませんので、ご安心ください」

 環は積極的に住民達と接触していた。
 オークやエルダードワーフ、ミスティオリザード、アルケー、翼人よくじん、ゴルゴン、奔放ほんぽうな妖精アルエレメラに、その他諸々……。
 かたぱしから挨拶して回っているのに、僕が呼べば今みたいに即座に近くに現れて答えてくれるから、若干不思議だ。
 実に社交的な人だ。
 これなら商会関連でも優秀だろうから、僕が考えている彼女の役割からすると配置ミスな気がしないでもない。
 ただ僕は、有能だけど条件が合えばヘッドハンティングに応じる人よりも、そこそこの能力でも最後まで一緒に働いてくれる人を求めている。
 自分が必要とする人の条件ってそれなんだなあと、最近ようやく気付いた。
 昭和の会社が従業員に求めたもので、今の考え方からすれば古いんだろうとも思う。
 それでも僕は、年功序列はともかく終身雇用は確実に実践しようと思っている。
 企業城下町――生活する上での全てを、できうる限り僕らが満たして、従業員にむくいるというやり方。それをクズノハ商会で体現したい。
 それで僕は、環の本質は前者のヘッドハンティングに応じるタイプじゃないかと思っている。
 まあ彼女の事は置いておいても、企業城下町的な仕組みを作りたいっていう考えは、この世界で何度か感じていたものへの、僕なりの一つの答えかもしれない。
 国民、領民なんだから自分達の好き勝手に使い潰すのが当然、ってのはちょっとね。
 ――っと、思考が逸れた。

「割合で決まるとすると、僕なんかは結構捧げる事になるのか」
「はい。ですがそれを全く負荷と感じておいでではないはずです」
「確かにね。最初に参拝した時も特に何も感じなかったし」
「その程度の微々たる魔力だとお考えください」
「なら、一定量じゃないっていうのは? それにさっき言った例外も気になる」
「答えは同じものになります。あまりに強く、一心に願い、それをたとえば日に何回も、何年も続けると、場合によっては命にかかわる影響が出かねません」
「あまりに強く、一心に……」
「ええ、強く願えば多少多く魔力を捧げる事になりますので。ただ、この亜空においての神社の立場を考えれば、恐らくありえないと思います」

 強く、そしてそれを継続的に行えば、の話か。確かに、今の亜空だと考えにくいケースだ。

「そうだね、確かに今のところ心配なさそうだ」
「はい。影響と言いましても、たとえるならば、誰かを呪い殺さんと一心不乱にうし刻参こくまいりに通った結果、当人も心身をむ――そういうものだと思っていただければ」
「滅多にある事じゃないね、うん」

 みんなには、参拝について自分の今の目標を神様に伝えるものだと教えている。
 目に見えない神様に、自分の誓いを表明する。
 叶えてくださいお願いします、じゃなくて、自分はこれを目指して頑張っているから、十分な成果が出るように見守ってください、って感じ。
 成果に繋がったらまた訪れて感謝し、次の誓いを立てる。
 女神に対して持っていた神様観とは違う、身近だけど触れられない、そんな神様との付き合い方をしてほしいと思っての事だ。
 呪うとかは……あんまりやってもらいたくはないなぁ。

「私もそう考えております。識さんの不安ももっともですから、十分に調査していただいて結構です、とお伝えしてありますが」
「みんなから捧げられた魔力は器に集まるんだよね? この前見せてもらったあのたまが、御神体になるって事でいいの?」

 環が魔力を蓄える器として見せてくれたのが、透明な真球の珠二つと、中に多色の光が揺らいでいる珠一つ。
 透明なのはお寺とパルテノンのもので、光が中にあるのが神社のもの。
 珠の中の光は僕らの魔力だ。
 御神体が全部同じ珠ってのが少し気になってはいた。御神体みたいなものは、その有無も含めて、それぞれの宗教によって違うものじゃないのかと思っていたからだ。

「御神体ですか。ん、そのような解釈で問題ありませんが、厳密に申し上げるなら、御神体の卵といったところでしょうか。あの珠は、魔力が蓄積されていくうちに具体的な物へと変容していきますから」
「……へえ」

 流石、特殊仕様の神社だけある。御神体も生まれる前なのか。
 まあ、それもありか。
 大体、参拝で魔力を吸われる仕様からして普通じゃないもんな。

「……ちなみに真様。神への祈りで魔力を捧げるのは、地球でも同様です。むしろこの形式をとっていない世界は極めてまれです」
「ええ!?」

 心を読まれた――じゃなくて、万国共通仕様!?
 んなわけあるか!

「あー、いくらなんでもそれは嘘でしょ。向こうで参拝しててもそんな感覚……」
「魔力そのものをほとんどの人間が認識できないのですから、当然です。使えもせず感じる事も観測する事もできぬものをごく少量失ったとしても、人間に害などありませんしね。翌日どころか半日も経たずに回復している量です」

 マジか。確かに魔力なんて日本で意識した事はなかったけど、神社に行く度に魔力を少しずつ神様に捧げていたのか……。
 いや、お寺もか。
 それに、教会も?
 あ、教会は一回も行った事がなかったな。

「なんだろう、知られざる世の裏側を見た気がする」
「いずれはるかな未来にでも、地球で魔力が測定可能になれば、立証されるかもしれませんね」
「……うーん」 
「と、そのような話は置いておきまして。御神体については、そう遠くないうちに一応の形にはなるかと思われます。真様の魔力だけでも膨大ぼうだいですから。それでも完成となりますと、長い時間が必要になるでしょう。何か変化がありましたら報告いたしますので、今は漠然と楽しみにしていていただければ」
「分かった」
「では、また住民の皆様と真様の話をして参りますね」
「僕の話なんかより――」
「うふふふ」

 不敵な微笑とともに環の姿が消えた。
 お、ゴルゴンさん達のところに出現したな。
 女性しかいない種族のゴルゴンと僕の話って……悪い予感しかしない。多分フルスイングのガールズトークが展開するんだろうから、とても聞きたいとは思わない。
 女性だけの話というのはあれで結構えぐい。男にとっては、間違いなく聞かない方が幸せだって断言できる。
 僕も姉と妹がいる身だから、自分の家で――しかも部屋にいる時でさえ、稀にその欠片かけらが聞こえてくる。だから、どんな感じか分かるんだけどさ。
 環はきっと何事もなくゴルゴンにも適応して会話を楽しむだろう。
 よし、僕はこれ以上向こうを気にしないようにしよう。
 宴の会場を見渡せば、だんだんと酔い潰れて動かなくなってきている者も増えてきている。
 ……宴もたけなわ、か。
 こっちに来てから色んな国に行って、色んな人に会った。その上で、やっぱり僕はここが一番良いと感じる。皆姿かたちは違うから、ぱっと見た感じは混沌こんとんそのものなんだけど……ね。
 この場所は、絶対に守らないと。
 亜空は、僕が異世界に来てやってきた事の軌跡きせきそのものでもある。
 そういう意味でも、今のこの景色は目に焼き付けておきたい。

「若様ー」

 感傷にひたる僕のところに、上機嫌な澪が小走りでやって来た。

「澪。もう食べ物は……って、ソレ何?」

 彼女の〝荷物〟を見て、思わず目を見張る。
 ソレも何もなく、識だ。
 見間違えるわけもない。
 でも、どうして識が澪に小脇に抱えられてぐったりしている?


「そう仰らずに、オークの者がやっていたのですが、この〝お楽しみホイル焼き〟は、なかなかの可能性を感じました。是非一度若様にもと思って」
「いや、澪。そっちは……ありがたくいただくけど、その識はどうしたの?」
「これですか? 装備を整えて何名かと森に入ろうと密談していましたので、落としておきました」
「落と……」
「せっかくのお花見だというのに、この上なく無粋ぶすいですわ。巴さんと環と話して、これほど盛大にとはいかなくても、定期的に縁日をやろうと日取りの相談などもしておりましたのに、識ときたら」
「まあ、確かに無粋だね、うん……」

 落とすのはどうかと思うけど。
 それに、祭りと縁日は神社には付き物とはいえ、もう縁日の話をしているとか、凄いな。
 巴も、いつの間にかゴルゴンの方にいる環と一緒に飲んでいるし。
 ついさっきまで、澪もあそこにいたのか。
 で、何やら森に行こうとしている識が視界に入った、と。
 社寺林しゃじりんに入るなら一応環にも許可を……ん?
 いや、ここの場合は僕がOK出せばそれでいいのか?

「その辺に転がしておいても皆も迷惑でしょうから、スペースがあるここに持ってきました。目につかない所に投げておきます」

 投げるか。
 それって、どこかの方言じゃ捨てるって意味もあるよね――じゃなくて、投げるな。
 当然、捨てるのも駄目。

「いや、僕が預かるよ。横に寝かせておくから」
「そんな、若様の膝枕だなんて!」

 しないよ! 誰が膝枕って言った。
 無駄に動きにくくなるだけだし。
 そうか、この様子だと、澪も大分飲んでいるな。
 酒に飲まれはしないと信じているけど、多少のタガが緩むくらいはあるかもしれない。

「いや、ただ寝かせておくだけだから……」
「では、それは私が代わりに!」

 聞いちゃいねえですよ。
 これもここの日常だし、僕のやってきた事の軌跡でもあるんですけどね。
 ああ、和むなあ。本当にありがたい。
 亜空と、従者のみんなと、ここに住みたいと言ってくれた人達と。
 守りたいと思ったさっきの気持ちが一層強まる。
 そして、色々と向き合わなくちゃいけないって決意も。

潮時しおどき、だったんだな」
「若様?」

 ぽつりとこぼれた僕の声に、澪が反応した。

「や、なんでもないよ。澪、食べたいものまだかなりあるんだろ? 見回り、続けていいよ」

 彼女の手元には空になった皿しかない。

「! で、では若様の分も見繕みつくろってまいりますね!」
「うん、ありがとう」

 待ちきれないといった様子で駆けていく澪と入れ替わるようにして、いつの間にか神出鬼没な四人目の従者が僕の傍にいた。

「本当に、従者と仲がよろしいんですね。私も早く皆様と同じ空気で接してもらえるように頑張ります」
「……環か」

 今は探索の界も展開してないとはいえ、本当に唐突に現れる。

「はい。ただいま戻りました」
「おかげ様で花見を楽しませてもらっているよ」
「それは良うございました。花達も喜んでいる事かと」
「……そういえば」
「?」

 ふと疑問ががってきた。
 別に躊躇ためらうような事でもないし、聞いちゃうか。

「どうしてここにはソメイヨシノがないの? 他の桜は普段見ない種類まで揃っているみたいなのにさ」
「かの桜が、種子ではほとんどまともに育たないのはご存知でしょうか?」
「もちろん。専門的な知識があるわけじゃないけどね。だからで増やされていて、今目にしているのは全部クローンなんだよね?」
「はい。と言いますのも、かのソメイヨシノは、実はとある姫神と人間の間に成された契約によって生まれた奇跡の桜。故に、この亜空には存在しえないのです」
「!?」

 何か、凄い事を言い出したぞ!?
 姫神って……やっぱり日本の神様、だろうな。
 確かソメイヨシノは江戸時代に広まった園芸種って記憶がある。
 となると、人間の方は当時の園芸家とか植木屋、造園職人なのかも。
 おかしいなあ、字面だけなら同じ〝女神との契約〟なのに、片や異世界への片道切符ほぼ死ぬ仕様、片や後世日本中で愛される桜の象徴を生み出す栄達の道仕様とか。
 ……あれ、いや、待てよ?
 あれほどの品種を作り出した人、広めた人なら、さぞ人生の春を謳歌おうかして大成功したものだと思い込んでいたけれど……名前、知らない。
 現代の花見の代名詞でもある、日本中に植えられてみんなを楽しませている桜の生みの親なのに。
 え……もしかして、何気にあちらの女神との契約でも人生いばらみちだったの?


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