月が導く異世界道中

あずみ 圭

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17巻

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 上位竜リュカにもらった本に書いてあった異世界への帰還の儀式を試した僕――深澄真みすみまこと
 ところが、サマルとかいう門の付喪神つくもがみが出てきて、異世界転移したければ生贄いけにえをよこせとか、その他いろいろふざけた事を言うものだから、ついカッとなってぶち壊してしまった。
 目下のところ日本に帰る手段を失ってしまったが、後悔こうかいはしていない。
 そんな中、突然亜空あくうが拡張し、未知の領域が出現した。
 ともえみおしき、三人の従者をともなって調査に出かけた僕は、そこで奇妙な建造物を発見する。
 日本風の神社とお寺とギリシャ風の神殿が一つの敷地に並び立っていたのだ。
 そこに待ち受けていたトウダと名乗る巫女みこさんの話によると、これらは以前亜空を訪れた大黒天様、スサノオ様、アテナ様からの贈り物だという。
 そして、トウダ自身も、僕につかえるように言われているのだそうだ。
 そんなわけで、彼女を新たな従者に加える事になってしまった。
 契約けいやくも四度目ともなれば、正直新鮮味も何もない。
 とりあえず目の前にいるのが〝万色の上位竜ヘンタイ〟ルトじゃなくてホッとしている自分がいるくらいか。
 自分にそのつもりがなければ心配いらない、なんて保証はないわけで。あいつにはあまり自分に近い所にいてほしくないというか、性的に汚染される気がするというか。つもりがあってもそうならない事もあるんだろうけど。
 逆に、海王シーロードのセルゲイさんなんかは従者になってほしいくらいだ。でも、お互い思うところもあって、契約には至らなかった。
 従者として迎えるって事は、少なからず彼らの種族と切り離す結果になってしまう。
 容姿も僕に引っ張られて人型になっちゃうみたいだし。
 あの人は海王族と、今となっては亜空の海の柱だ。一時的に僕と行動する程度ならともかく、契約を結び、〝僕の従者〟にするのは少し気が引けた。
 セル鯨さんも契約をして立場を定めるよりも、海の民のひとまずの代表として――あくまで亜空の住民として、僕に従う形がいいと言っていた。
 海王の長であり、海の管理者さえこなせる彼は、実力的に言っても立場的に言っても、僕の従者なんて勿体もったいないくらいだ。だからこそ、近くでその姿を見て勉強したくもあったんだけどね。
 そういえば、女神の世界の海には管理する上位竜は存在しなかった。
 水にまつわる上位竜といえば、しんやリュカがそれに当たるが、どちらも海との関わりはない。
 そして海王族は、聞く限り太古から存在する海の強者。上位竜の代わりにいるんじゃないか、なんて深読みしてしまうような種族だよな、海王族って。

「真様。何をお考えですか?」

 契約の儀式のために描かれた陣の中、僕の正面に立つトウダが話しかけてきた。気が抜けていたのを見抜かれたかな。
 見慣れた赤色の光に包まれた僕らは、光が収まるのを待っている。
 儀式といっても、僕らの場合、当事者が何かする事はない。巴達がさくっと進めてくれているからだ。
 最初に契約した巴の時はあいつ任せだったし、次の澪の時は僕が意識不明。識の時は巴と澪が使用済みの指輪を識に混ぜ込もうとたくらんでいたから、一切手を出していない。
 契約に関しては本当に何もしてないな、僕って。
 相当古くて強力な契約儀式で、最先端の契約関係の魔術と比較すると穴も多い代わりに強固だとか? うん、よく分かってない。

「いや。従者を増やすのも久々だなあってね」
「そのご決断を真様が後悔される事のないよう、公私にわたり何事においても全力で支えとなる事をちかいます」
「ありがとう」

 まるで結婚の誓いでも聞いているみたいな気分になる言い方だ。
 ……。
 それにしても、トウダの言葉はどれをとっても僕の中に素直すなおに入ってこない。
 疑い深くなっているのかな。
 支配の契約を結べば滅多めったな事はできない。僕がそれを望んでいる以上、凶悪なくわだては不可能だと思っているんだけど……安心しきれないのかもな。
 ただ、今回は僕自身それをある程度納得して彼女を迎え入れるつもりでいる。もちろん防衛戦力として期待もしてはいる。
 疑う。
 ……そう、疑う、だ。
 自分で気付いてしまった以上、見て見ぬふりはできない。
 それでも儀式は進み、いよいよ契約も終わりだ。
 儀式の赤い光が、向かい合う僕とトウダの間にも壁のように出現してきた。
 問題なく終了するきざし、いつも通りの進行。
 さて、トウダはどんな姿になるのかね。元々人型だし、見た目はそう変わらないと勝手に推測している。これが支配の契約である以上、まさか人型じゃなくなるって事はないだろうしな。
 変化の必要がない僕のいる方から先に、光が収まっていく。

「……」

 僕はそのままトウダを包む光が収まるのを静かに待つ。
 彼女の名前は、さくらにしようと思っている。
 安易だけど、桜のある神社にいて花見をする日に契約したのだから、それでいいかなって。
 やがて光が収束すると、目の前に全裸のトウダがうずくまっていた。今までの例から予想していた通りだな。
 トウダはゆっくりと顔を上げてつぶやく。

「これが、私の新しい体……」

 彼女の黒かった髪の色は、鮮やかな金髪に変化していた。
 肌は日焼け……いや、地から褐色かっしょくなのか、森鬼もりおにに近い色になっているな。
 これまでとのギャップがすごい。
 彼女は火を得意としていると言っていたけど、そのせいなのか、瞳は暗い赤。
 結構意外な変化だった。
 でもなんだ、他にも何かが……。
 無造作むぞうさに立ち上がったトウダは自分の両手を見つめ、次いで肢体に視線を移していく。
 そうか、若いんだ。
 見た目の年齢にあまり意味はなさそうだけど、さっきまでのトウダは僕よりも結構年上に見えた。
 そう、二十代半ばくらいに感じた。
 なのに、今の彼女は十代半ばから後半の、いかにも瑞々みずみずしい肉体をさらしている。
 この世界でつちかった僕の美人外見年齢指標(全裸版)によると、二十歳に届いてないのは間違いない。
 ……ああ、なんていうか、こういうのも見慣れるんだな。
 全裸のトウダを真正面から見ても動じない自分に、少し感動した。

「気分はどう? 問題はない?」

 トウダはどこか悪戯いたずらっぽく笑いながら返事をする。

「真様……素晴らしい気分です。支配の契約でここまで力が上がるとは思ってもみませんでした。この力で真様に再度いどみたいという願いが永遠に叶わなくなったのは、残念ですが」

 支配の契約があるからなあ。
 たとえ僕が許可したとしても、僕に向けて全力で攻撃するのは難しいらしい。
 巴達もよくボヤいている。全力でやれればもう少しつし、やりようもあるのに、って。
 今のトウダもそんな気分なんだろうか。
 巴と澪は、トウダの変化を冷静に観察している。

「若返り。識の例もあるから、おかしな事でもないですな」
「〝リッチ〟から人になるんですもの。見た目が小娘になるくらい、さした変化でもないでしょう」

 巴は少しうれしそうだな。
 そりゃそうか。澪の時は自分も黒髪になりたかったって、嫉妬しっとしていたからな。
 そして識は、何気なにげに僕と同じ事を考えていたのか、まじまじとトウダを見つめながら短く呟く。

流石さすがに人型から逸脱するまではありませんでしたね」

 トウダは自分の姿を確認して、何度かうなずいた後に、呪文を呟いて巫女衣装をまとった。
 早着替えの魔術なんてあるのか。便利だな。

「では真様。私に名前を頂きたく存じます」
「ああ。トウダの新しい名前は、さ……」

 桜、と言おうとして何故か僕は言い留まった。
 突然、違う名前がひらめいたからだ。
 どうする?

「?」

 トウダが首をかしげている。
 いや。桜は駄目だめだ。僕がもう違和感を抱いてしまっている。
 どういう訳かもっとしっくりくる名前を思い付いてしまったんだから。

「若?」
「若様?」

 巴と澪も、よどんだ僕を心配そうに見つめる。

「ごめん。新しい名前は、たまき、だ」
「たまき……ですか」
「うん。改めてよろしく」

 どうしていきなり環なんて浮かんだんだろう。
 知人でもそんな名前の人は一人もいないんだけどな。

「はい。真様、先輩の皆様。今日この時から私は環です。よろしくお願い申し上げます」

 トウダ改め環は、深々と頭を下げる。
 僕の新しい従者。
 だけど、僕にとって巴達とは明らかに意味合いの違う従者だ。

「……じゃあ巴。後は任せるね」
「は、亜空のおきてをしっかり教えておきましょう。こやつも使う事になるでしょうから、霧の門についても――」
「それは、亜空内の移動に関してだけでいいから」
「と、おっしゃいますと? 若?」

 巴の質問には答えず、軽く手を振るだけで背を向ける。

「ちょっと、出かけてくる。すぐに戻るよ」

 そう伝えて、僕はその場から消えた。


 一度部屋に転移して、適当に準備をしてから荒野に出た。
絶野ぜつや』と呼ばれたベースのあった場所の近くに移動した僕は、そのままある方向を目指してずっと跳んだ。
 この辺りの魔物は手を出していい相手かどうかをある程度察知できる奴が多いせいか、無駄な戦いもなく、僕は一時間と経たずに目的の場所に辿たどいた。

「確かこの辺りだったなあ」

 見渡す限り、代わり映えのしない赤茶けた大地がどこまでも続く景色。
 僕の異世界生活の、始まりの場所だ。
 本当に、面白いほどに何もない。
 そして、こんな世界の果てでさえ、今の僕はほんの短時間で来る事ができる。
 その事実もなんだかおかしくて、笑えてきた。

「思えば、あっという間だったよな」

 誰に聞かれる事もない独り言。
 異世界に来て、上位竜の蜃や災害さいがい黒蜘蛛くろぐもに襲われて、いつの間にか二人とも従者になっていて、亜空なんてものまで手に入って……。
 変わらないとって何度か思いながらも、自分の根底は変える事なくここまで来た。
 ……つもりだった。
 でも、僕は変わった。
 いつの間にか変わっていた。
 少なくとも日本にいた頃の僕とは、全く違う存在になった。
 敵対して、命を狙われたら、反撃するのは仕方がない事だし、その結果相手の命を奪ってしまっても仕方がない。
 の考えはまだ普通だ。
 今の僕は違う。
 命のやり取りが呼吸みたいに自然な事に思えている。
 最初は、確かに殺意を向けてくる相手に対してだけだったはずなのに。
 少し前には戦う意思を持って戦場にいる者全て。
 そして今は、およそ生まれた命全部。
 奪ったり奪われたりするのは、自然の流れだと思ってしまっている。
 ヒューマンも亜人も、生きているだけで、生きていくだけで他の命を奪っているんだから。
 冒険者が欲をかいて魔物に殺されるのも、街に魔物が流れ込んで住民が皆殺しになるのも、同じような事だとすら感じている。
 日本で高校生をやっていた頃なら、ここまで命を軽く考えてはいなかった。
 ……と思う。
 いつからだろう。
 変異体がロッツガルドで暴れたあの時から?
 それとも、女神の意思に逆らえずにリミア王国の王都で戦わされた時から?
 魔族を含めて色んな国を訪問している時?
 分からない。
 もしかしたら、亜空で家畜として飼っている牛やら羊やらと話をしながらも、彼らを普通に食べられるようになった頃からかもしれない。
 ただ、はっきりと自分の変質を感じたのは、リミアで響先輩ひびきせんぱいと話した少し後だ。
 リミアで勇者をやっている音無おとなしひびき先輩は、僕と同郷の、日本からの転移者だ。
 彼女と話していく中で、戦いや命についての僕の考えが、恐らく兵士の大多数がするような割り切りとは全く違うものだと感じはじめた。もちろん先輩とも。
 正直、今の僕は道徳というものが恐ろしく薄っぺらいと感じている。
 人が群れで生きるための方便、あるいは弱者が考え抜いて作り出した強者を説得する道具。
 怖い。
 今まで正しいと感じてきたはずの道徳や生命観が、実は自分の深部には全く浸透しんとうしていなかったような、異様な感覚がある。
 だからなのか、最近僕自身、一人で考える機会が増えた気がする。
 商会や亜空に関するあれこれは巴達に相談して色々決めるようにしているけど、自分の事だと話は別だ。
 自分自身についてどうするかは、誰かに相談する事じゃない。
 それは、僕が自分だけで決めるべきだ。
 他者の意思は、それが誰のものであれ必要ない。
 必要とするべきじゃない。

「殺しすぎたのが原因だとしたら、もう戻れるようなもんじゃないし、それは仕方ないんだろうなあ」

 あまりにも殺しに慣れてしまった結果、呼吸と同じレベルでそれを身近に感じるって事なら、もう手遅れだ。僕は既にそうなってしまっているんだから。

「ま、普通に振舞ふるまえないわけじゃない。外面そとづらだけでも常識的な人間に見せるのも無理じゃないんだし、これはいいや」

 たとえ命にどれほど価値を感じずとも、命は大事だというていでいる事はできる。
 深く付き合う相手ならともかく、大抵の人と話す上ではボロは出ないだろう。

「問題はもう一つの方だよな。僕だけの問題じゃなくなるから、こっちの方がまずい」

 自分について考えていくうちに気付いたもう一つの問題――それは、僕が〝あるもの〟から意図的に目をそむけてきたって事だ。
 無意識にそうしてきた部分もあるし、意図的にそうしてきた部分もある。
 要するに重症だ。
 僕は……。

「悪意ってものから、逃げ続けていた」

 他者から自分に向けられる悪意。
 世の中に遍在へんざいする悪意。
 日本でも、異世界でも、僕はそれらから逃げ続けてきた。
 向きあうくらいなら、思考を放棄してだまされる方を選んできた。
 将来だって、漠然と師匠から道場を引き継いで、僕自身の弓の修練のかたわら、習い事としての弓を教えて暮らしていければ――なんて考えていた。
 結婚も、適当な年齢で誰かとして、って。
 もちろん具体的な相手の像はない。
 道場が無理そうなら、地元の役所で公務員とか、そんな漠然とした未来を思い描いていた。
 出世をめぐって同期と競争するなんてイメージできないし、僕には向いていないと思っていた。
 政治がどうこうなんて考えても変えられるものじゃないから、知るだけ無駄、見るだけ無駄。
 考える意味もないし、天才でも秀才でもない僕がやる事じゃないって思ってきた。
 弓と趣味があれば、人生それで良かった……これに尽きる。
 それは、異世界に来てからも変わらなかった。
 最初はただ難しい問題から逃げているだけかと思ったけど、世界の歴史とか魔術の仕組みとか、そういうものには取り組めたから、違うんだろう。
 冒険者、あるいは商人の悪意、欲が前面に出ているこの世界だと、そんな企みを向けられたり、直接関わったりした事も一度や二度じゃない。
 その度に僕は、対策はしても問題の根元は放置するような中途半端ちゅうとはんぱな対応をしてきた。
 もしくは巴達に任せるとか。
 ツィーゲの大商人レンブラントさんの家族が『呪病じゅびょう』に侵された時はすさまじい憎しみの片鱗へんりん垣間見かいまみたけど、あれだって元凶についてはあんまり気にしていない。
 それよりも、僕にとっては『呪病』という存在そのものがおぞましかった。
 そんなものに侵されて死ぬ人がいるなんて冗談じゃない、って思っただけだ。
 子供の頃の僕は病院がセカンドハウスの虚弱児きょじゃくじだったから、理不尽りふじんな病気――それも人為的な代物しろものが誰かを不幸にしようとしているのが許せなく感じたんだ。
 ロッツガルドで変異体と化したイルムガンドが暴れた時なんかは、まともに相手をしなかった。頭のおかしな奴に言いがかりをつけられたようなものだし。
 脅威きょういにならない相手がそれでも刃向かってくるなら、反射で対処しようってなもんで、背景には目を向けなかった。
 だってさ、そんなドロドロした気持ち悪いものに、誰だって触りたくないだろ?
 できるなら知らずに過ごしたい。
 もっと早く僕が決意していたら、色んな結末が変わったのだろうか。
 そんな下らない考えを抱いてしまったりもする。
 たらればがどのくらい無意味なものか、それもこの世界に来てよく理解したはずなのに。

「トウダ――環が僕に向けたあの目は、悪意、に似てた」

 複雑な色の感情だった。
 悪意といっても、それだけじゃなかったとも思う。
 畏怖いふや好意も確かにあったから。
 でも、確かに悪意もあった。
 あの妙な雰囲気ふんいきというか、重圧も、思い返せば女神に無茶を言われた時や、魔将ロナや魔王ゼフと初めて会った時の感覚に似ている気がする。
 そう、何かを押し殺した目でもあった。
 とにかく、重っ苦しくてしんどい目。
 あれをとうとう亜空でも見てしまった時、思ったんだ。
 もう駄目だなって。

「……だから、環は亜空から出さない。あいつは亜空を死守する従者になってもらう」

 これなら僕への悪意はそんなに問題にならない。
 契約も結んだしね。
 普段から神社と他の神殿を管理してもらうんだから、一石二鳥でもある。
 そして、僕がこれから勉強して力をつけて乗り越えなくちゃいけない最初のハードルになってもらう事にした。

「……じゃ、行くか」

 始まりの場所で、僕は一つ決心をした。  


 ◇◆◇◆◇


 巴達に半ば無理矢理に戦いの舞台に上がらされた割には、確かな殺気を放って僕に襲い掛かってきた女性――環は今、うたげの場を所狭ところせましと駆け回っていた。
 挨拶あいさつがてらしゃくを交わし、この場に集まった亜空のみんなと歓談にはげんでいる。
 契約を終えてまだ間もない新しい体だというのに、精力的なものだ。
 新参者だと何度か自分でも言っていたからか、殺気とは無縁の物腰柔らか低姿勢な振舞いに徹している。
 まあ、あれは戦い……というか、試験だったけど、ついこの間刃を交えていたとは思えない変わり身だ。
 ああいうの、サバサバしているっていうんだろうか。
 何か違う気がする。
 ――というわけで、環と契約してからしばらく。
 僕らは広々とした出来立ての境内けいだいで、今まさにお花見の真っ最中。
 飲めや歌えのどんちゃんさわぎが場を満たしている。
 最初、神をまつる神殿で飲み食いした挙句あげく、大騒ぎしていいものかと遠慮がちだった住民達も、花見が始まってしばらくした今は、存分に楽しんでいるみたいだ。
 色々説明をしたのも功を奏したんだろう。
 ただ……第一回となる今回のお花見には、海に住むいくつかの種族は参加できなかった。
 理由は時間と地理的なもの。
 ここは海からそこまで遠くないとはいえ、じかに面しているわけでもない。
 かと言って神社は移動させられない。
 解決策を見つけるまで延期しようかと思ったが、セル鯨さんが陸を削って海を広げる許可を求めてきた。で、数回先の花見からは是非みんなでやりましょう、という話に。
 元魔王の子サリと海王が、とりあえず今回の花見に参加する種族とメンバーを決めてくれて、海の種族と陸の種族の共同工事が一つ決まった。
 そのセル鯨さんも、今は酒を飲んで飯を食って、陸と海のへだてなく花見を楽しんでいる。
 ……やっぱり、あの人はセル鯨〝さん〟だなあ、はは。
 まったく、海を埋め立てる工事ならともかく海を広げるために陸を削る工事なんて滅多に聞かない。
 僕が知る限り……運河を作る工事くらいか?
 大海原で暮らしているだけあって、スケールがでかい。
 他の海王も、宴を楽しんでくれているようだ。カニの人は踊りはじめているし、マグロの人はしみじみと桜と他の花を見つめてお猪口ちょこで亜空産の日本酒をやっている。
 ちなみにこの日本酒、巴いわくまだ完成には至ってないらしいが、匂いは完全に日本酒のそれだ。


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