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1巻
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……案外早かったな。自分がVRMMOに触れられる日が来るのも。
自分の名前は田中大地、今年で三十八歳になった。
この歳になってもゲームはやめられない。親にはいい加減やめろと言われるが、別にそれに対して腹を立てるつもりは無い。そう言いたくなるのもわかるほど、自分がゲームに入れ込んでいることは間違いないからだ。
ゲームはすばらしい。三十八歳だろうが、ゲームの世界に入ってしまえば若々しいキャラにもなりきれるし、VRMMOなら現実の限界以上の力で思いっきり走ったり、空高く飛び跳ねたり出来るのだ。
何でそんなことがすばらしいの? と言う人もいるだろうが、歳を食うと、どうしても体が鈍くなってくるのを実感する。プロ野球選手だって、遅くとも三十代中盤で引退するのが大半だ。一部例外もいるが……
十代のときには、今のように体が鈍るなんて思いもしなかったが……これが現実か。自分もおっさんになったと、イヤでも教えられる。
さて、前置きが長くなってしまったが、これからやるVRMMOは、バイクのヘルメットのような物をかぶってヴァーチャル世界に接続するタイプのものだ。「ワンモア・フリーライフ・オンライン」というド直球過ぎるタイトルで、その名の通りもう一つの人生を楽しむという趣旨のようだ。一昨日テスト版が終わり、あと十分ぐらいで正式スタートする。
ゲームはスキルLv制で、スキルのLvを上げることによってキャラクターが成長し、強化されていく。
スキルは最初に十個選択出来る。そして成長すると他のスキルも「ある程度」獲得出来るようになる。要するに、スキルLvが一定まで上がると、経験値とかのポイントがもらえ、それを消費することで新しいスキルが得られるというシステムのようだ……β組の情報によればだが。
だからむやみやたらと無計画にスキルを選んでしまうと、全部中途半端な育ち方をして器用貧乏になりかねない。この辺は、MMORPGのお約束だ。
魔王討伐とか、そういうグランドクエストは存在していないらしく、もう一つの人生を好きに生きてみろってコンセプト。モンスターとのバトルに終始するプレイも出来るし、自由にアイテムを開発する「生産」をメインにしたプレイも出来る。ただただ雑談に花を咲かせるもよし。
さて、そろそろ開始時刻だ。MMORPGのお約束、アクセス過多による初日超絶サーバー停止オンラインは勘弁して欲しい所である。早速ヘルメットをかぶり、いざ。
……結果から言うと、すんなり始めることが出来た。運営もサーバーをケチったりはしなかったようだ。
まずはこの世界での体となる「アバター」のキャラクターを作ろうか。とりあえずキャラネームは……「アース」でいいや、本名が大地だしな。安直だが、どうせかっこいい名前なんて浮かばないのは自分自身よく理解している。
キャラクターの外見は十九歳ぐらいにしておこうか。身長は一七六センチぐらいかな。黒目と黒髪は譲れない。
外見はちょっと格好悪くするか。美人、美男子の条件は顔立ちの対称性度合いが高いことって聞いたことがあるから、ほんの少しずらしておこう。鼻もあまり高くしないでおこうかね。性別はもちろん男……というか勝手に決まる。性別を偽ると肉体と精神の食い違いで混乱するとのこと。特に胸や下半身の誤差が決定的にNGらしい。
現実世界では三十八歳だが、心まで老けたわけじゃないし、ゲームの中では若々しくいこう。何もせっかく自由に動けるゲームの中にまで、おっさん臭さを持ち込む必要などないのだから。リアルで動かなくなりつつあるこの体に、心まで引っ張られて老いていくのはつまらない。仮想空間だからこそ、若い心、若い体でプレイしても良いはずだ。
……よし、こんなところだろうか。我ながらぱっとしない。俗に言うモブキャラみたいな? まあ、引き立て役っぽい感じに仕上がった。美女や美男のエディットなんか他の人に任せるが吉だ。自分は主役になるタイプじゃない。
次は大事なスキル選択……なんだが。今までのゲーム情報を踏まえて、β版で不遇、というかゴミ扱いだったスキルをメインにしよう。そうすればガツガツプレイしたがる人からは敬遠されて、ほどほどにのんびりゲームをやれそうだ。
三十八歳という歳から想像できるだろうが、リアルでは会社員として仕事がきちんと週五日である。今日と明日は休みをもらっているからともかく、普段はせいぜい一日に二、三時間ぐらいしかログイン出来そうにないので、大半は単独プレイになるだろう。ソロプレイならネタに走ろうが、他人に迷惑をかける心配はまず無い。
選択内容は……
〈弓〉〈蹴り〉〈遠視〉〈風魔術〉〈製作の指先〉〈料理〉〈木工〉〈薬剤〉〈隠蔽〉〈身体能力向上〉
以上十個。
情報によると、この中での不遇扱いスキルは……〈弓〉〈蹴り〉〈風魔術〉〈薬剤〉〈隠蔽〉〈身体能力向上〉の六つだ。
〈弓〉はとにかく当たらないらしい。点でしか相手を捉えることが出来ないからだろう。更に矢を消費するので、コストパフォーマンスがかなり悪いことも不人気に拍車をかける。更に更に威力も片手剣の七五%ぐらいしかないとか。そりゃ選ぶ価値は低いな……遠距離攻撃するにしても、多少の追尾能力がある上に面で攻撃できる魔法の方が手っ取り早いだろう。
〈蹴り〉は、アーツ(つまり必殺技みたいなものだ)が無いらしい。他のスキルならスキルLvが10を超えると何かしらの技が使えるのだが、〈蹴り〉をLv30まで上げたβプレイヤー曰く、「30まで上げたのに何も出ねえ、クソスキルだろ」とのこと(ちなみに、〈殴り〉スキルの方には普通にアーツがあったようだ)。これが事実なのかどうか確かめてみたいし、仲間の支援を得られないソロである以上、近接戦闘能力をある程度持っていないと敵に近づかれたときに危険すぎる。
〈風魔術〉は、Lvが上がると得られる支援アーツの《速度上昇》などはそれなりに使えるものの、攻撃に使うには他の属性(全部で火、水、風、土、光、闇の六つがある)に劣り、回復に使おうにも水や光の半分どころか四分の一の効果も無い中途半端っぷり。
〈薬剤〉はポーションを作るスキルで、普通のMMOなら歓迎されるんだが。このゲームではNPCから簡単に、安く、大量にポーションが買えるので、わざわざ自分で作り出すのがバカバカしくなるようだ。また、ポーションは一度使用してから再度使用出来るようになるまでの時間――クールタイムが短めなので、連続使用が出来る。だから効能がちょっとくらい良いポーションを無理に自分で作らなくとも、NPCから買ったポーションを連続使用すれば、時間当たりの回復量としては大して違いがないのだとか。あくまでβでの話ではあるが。
〈隠蔽〉は、隠れる効果自体は優秀なんだが、コストがひどいらしい。一秒ごとにMPが最大値の一%ずつ減っていく。更に、一〇秒後には二%、二〇秒後には四%、と一〇秒ごとにコストが倍に跳ね上がるようだ。また、匂いや音、熱などで相手を感知するモンスターには無意味とのこと。
〈身体能力向上〉は、走ったり武器を使ったり製作したり……といったいろんな行動にプラス補整を掛けるらしい。が、広く浅くという半端ぶりらしく、何かに特化したスキルを取る方がはるかに強い! とのことだ。まあ全部に補整がかかるなら、補整量を低くしないとぶっ壊れバランスになってしまうから当然か。自分は何か一つに集中するより色々やりたいから、あえてこれを習得する。
とりあえずコレでキャラ作成はOK。
ちなみに、このゲームをやることはリアルの知人には一切言ってない。いや、友人がいないわけじゃないんだが……みんな酒飲みで酒が入ると鬼になり、無理矢理飲ませてくるので、ゲームをする時間が減る可能性がある。どうしてあれだけ飲んで翌日ケロッとしていられるんだか……
ま、ゲームの知り合いは一期一会でもいいし。弓なんかを背負ってると「使えねー武器でよくやるぜ」とかディスられそうだが、それぐらいは覚悟の上だ。MMORPGの宿命の一つだろう。中にはいい人もいるだろうし。
そしてプレイスタイルは……まずはレンジャーを目指そう。ゲームシステム自体には職業なんて一切無いが。
森に潜み、素早く動いて危ないときは隠れ、獲物を射殺し、料理して食い、自分で弓と矢を制作してコストパフォーマンスを上げる。そして森にある薬草を集めてポーション製作。
理想はそんな感じか。では、もう一つの人生とやらを楽しむこととしようか。いざゲームの世界へログイン!
「ワンモア・フリーライフ・オンラインへようこそ!」
◆ ◆ ◆
「見事なぐらいにぎっしりだな……VRとはいえ、コレはMMO初日のお約束だなぁ」
ログイン直後、無意識につぶやく。
さまざまなところで、
「PT組んでガッツリLv上げませんかー? 前衛さん特に募集中!」
「岩場の方に行くメンバーを募集中、混む前に場所押さえよーぜー!」
などのLv上げ(厳密にはスキル上げだけど)PT募集の声が飛び交っている。β経験者はアバターの動かし方やアーツの中身などのツボをきっちり押さえたスキル編成にしているんだろうし、ものすごい勢いでスキルLvを上げていきそうだ。
またその一方で……
「新規のプレイヤーさん、装備良いのあるよー!」
「戦闘に行く前に装備はいかがっすかー?」
といった生産者の皆さんの声も飛び交う。早くも露店を出しているのはやっぱりオープンβ組だろうなぁ。大通りにぎっしりと露店が並ぶのも、MMOの名物だ。
しかしぎゅうぎゅう詰めになるぐらいの人がいるにもかかわらず、弓を背負っているプレイヤーは見かけなかった。やっぱり情報の影響って強いものだな。
などと考えていると、もう一つの面倒な名物にまで、いきなり出会ってしまった。
「おい、そこの弓背負ってるザコ、こっちむけよ」
そう、どこにでもいる、人を見下すおにーさま達である。正直一番かかわりたくない手合いなんだがなぁ……無視すると尚更うっとうしいし。
「自分ですかね……」
うんざりとした顔を出来るだけ隠して振り向く。
「そんなクズ武器なんかじゃやっていけねーぜ? さっさとゲームやめちまえば?」
「てか、顔もモブっぽいし、ダセェな。さっさと死ねよ」
ぎゃーぎゃーぴーぴーわめき続ける。こういうのの相手は時間の無駄でしかないんだよねぇ……初日から運が悪いなぁ。
そしてこれだけ人がいっぱい周りにいれば、当然悪目立ちするハメになる。言いがかりをつけてきた連中五人はいまだに悪口を続行中。ぎゃははは、なんてどこの北斗の○の世紀末のモヒカンさんですか? と言いたくなる笑い方だ。
だがまぁ、すぐに向こうも言い飽きたんだろう。
「ま、おめえみたいなザコはがたがたぶるぶる震えて街のすみっこに引っ込んでな!」
そう言い残してモヒカンPT(実際はそんな髪型してないが、イメージとしてはその表現がぴったり)は去っていった。おかげで弓がクズ武器というイメージは周囲に更に広がったようだ。
……自分にとっては好都合だが。
これで基本的に放置されることになるだろう。どの道ソロがメインのつもりだったし、PTは知り合いが出来たら組めば良い。コレだけ〈弓〉の悪評が広まった状況でそれでも声を掛けてくる人なら、人間的な意味でハズレではないだろうし。
とはいえ、こんな大通りでじろじろと見られ続ける趣味なんかかけらも持ち合わせていないので、さっさと移動を開始。目的地はトレーニングエリア。名前のまんま、訓練場である。
少々蛇足だがこの訓練場、β時代には無かったらしい。βテスター達が、安心して剣を振ったり魔法を詠唱したりできる場所が欲しいと運営に要望を送った成果のようだ。この点は実にβ組グッジョブと言いたい。
訓練場には動かないターゲットと、ある程度ランダムに動くターゲットが用意されている。射撃系(弓はもちろん、投擲、魔法も含む)には弓道に使うような的が。近接系(剣とか斧とか槍とか素手とかね)にはわら人形が。
さすがに外のモンスター相手での訓練と比べると成長は遅いけれど、ここでスキルLvを5までは上げられるらしい。
そして武器の扱い方、魔法の詠唱などをサポートしてくれるNPCもいる。なので、初めてのVRMMO参加者でも序盤でいきなり躓くことはなさそうだ。きちんとNPCの話を聞いていれば、だが。話を聞いているようで聞いていない人ってのは、結構いるもんだ。
NPCから諸々レクチャーを受けた後、早速弓矢の練習をする。渡された訓練場専用武具は、弾数∞(無限)となっていた。非常にありがたい設定である。
そして記念すべき……でもないが第一射目――
「撃つ、撃たない以前の問題だった……」
弓を引いて構えたまでは良いが、しっかり支えられなかったためか矢がポロリと落ちて、失敗扱いになってしまった。正直かなり落ち込んだのと恥ずかしかったのは、ここだけの秘密である。
気を取り直し、構えては撃つ、構えては撃つをとにかく何回も繰り返した結果……情報にあった通り「非常に当たらない」のを痛感することになった。
矢の飛ぶ方向を教えてくれるガイドラインなどは一切無く、現実のようにしっかりと矢の行き先をイメージして構えなければならないのだ。コレでは練習もままならず、クズ武器扱いされるのも至極納得である。
一〇〇回ほど射的を行ったが、かろうじて的に命中したのはたったの二本。そもそも的に届かず、途中で力なく落ちた矢はおそらく七〇本を超えている。落ちた瞬間に消えるため大雑把な数を数えただけだが、大きく間違ってはいないだろう。
とにかく、的と弓矢だけに意識を集中し、射続けた。既に〈弓〉スキルのLvは5に届いていたが、肝心のプレイヤー自体の操作スキルがぼろぼろでは、たとえ〈弓〉スキルがLv99であっても何の意味も無い。ひたすら構えて撃つ、構えて撃つ、構えて撃つ。
最終的に、動かない的になら八割、ランダムに動く的にも六割ぐらいの確率でしっかりと命中させられるようになった。ただ、矢の威力はひょろっとした感じで頼りない。かろうじて、最弱モンスターになら戦いを挑めるぐらいだろうか。
ひとまず練習用の弓矢を返却。次は〈風魔術〉の練習を行うことにした。魔法は杖などの媒体を持って使うのが基本だが、威力や射程を犠牲にするなら何も持たずに詠唱し、撃つことも可能だという。
媒体としては、杖が最優秀で、魔術書、魔術手(コレはグローブ扱いになる)、魔術指輪の順となるらしい。魔法メインのプレイヤーなら杖か魔術書、魔法戦士型なら魔術手か魔術指輪を装備といったところか。ただし杖以外はかなり貴重品で、腕の良い細工師や織物師であってもそうそう作れないという話である。NPCからの情報だから、実際はどこまで正しいのかはわからないが。
NPCに杖を借り、〈風魔術〉最下級呪文を唱える。
「《ウィンドニードル》!」
小さな風の針が出現し、的に当たるのが見えた。各属性の魔法には《カッター》系の単体攻撃魔法と、複数の相手を巻き込める《ツイスト》系があり、とりあえず両方を使えるようになると魔法の初心者脱却といった感じである。
魔法は弓矢よりはるかに命中率が良かった。自分が弓矢を使いこなせていないだけとも言えるが。
とりあえず〈風魔術〉もLv5にしてから杖をNPCへと返却、次は〈蹴り〉を鍛えようか。
この訓練場には戦士系統の人も結構来ているようだ。片手剣や両手剣、そして槍などを構えてわら人形に攻撃を仕掛けている人達に交じって、とりあえずローキックを見よう見まねで放つ。幸いそれなりの形になっているためか、〈蹴り〉のスキルLvもさくさく上がる。
ついでにミドルキックやかかと落としも試してみる。リアルだとかかと落としなんてとても出来ないのだが、そこはさすがゲーム、ちゃんとイメージすればかかと落としもどきも可能だった。
上から足を叩きつけるかかと落としは、やや高い位置にある部位、たとえば頭部を攻撃できる。人型モンスター相手に試すのも良いだろうな。
〈蹴り〉スキルは弓矢や魔法の半分ぐらいの時間でそうそうにLv5となった。体術系統は上がりやすい仕組みなのだろうか。
そして〈身体能力向上〉もLv3まで上がっていた。別のスキル訓練による経験値が反映されたということだろう。
ともかく、この世界での体の動かし方や魔法など、初心者として覚えることは、最低限習得した。あとは実戦を繰り返してスキルLvとプレイヤー操作スキルを上げていくだけである。
かなり熱中していたようで、リアルでは既に三時間が経過していた。晩御飯と風呂の準備をするため、街の宿屋の一室を借りていったんログアウトをする。
こうやって宿屋に泊まってログアウトするのが、この「ワンモア」では一番安全なログアウト方法だ。他のMMOみたいにどこにいても一瞬でログアウトできるログアウトボタンは無い。
安全な手段を使わずにログアウトすると、アバターがそのまま一定時間残される。もちろん無防備極まりなく、フィールドの外ならばモンスターに殺されるだろう。それに街中でも無事でいられる保証は、どこにも無い。これは説明書にも記載されている。
ちなみに、宿屋に泊まって代金を支払ったそのとき、この世界で流通しているお金の単位が「グロー」であるということを知った……遅いぞ自分。
◆ ◆ ◆
それからログアウトして食事を取って風呂に入って……再ログイン。
さて、とりあえずフィールドに出る前に最低限の準備はしないと。きちんと装備を確認。
【駆け出しの弓】
駆け出し冒険者にお似合いの弓。弱いので早めに交換を。
効果:攻撃力+2 耐久力無制限
【駆け出しの防護服】
駆け出し用の上下一体服。〈防具マスタリー〉判定無し。
効果:守備力+5 耐久力無制限
【木の矢】
木製の弱い矢。
数量:二〇〇本
と、武器防具はこんな感じ。
装備品は「耐久力」がゼロになったら、容赦なく大破して[ロスト]、つまり完全に消滅する。弓と服の耐久力が無制限なのは、この[ロスト]を発生させないための対策なんだろうな。装備を全て[ロスト]してしまうと、道具が不要の体術使い以外は詰むことになる。
服の方の説明にあった〈防具マスタリー〉とは、防具を上手く着こなす能力を得るスキルであり、布、皮鎧、軽鎧、重鎧の四種類が存在する。
たとえば〈布防具マスタリー〉は魔法防御力を上昇させたり、回避能力を増加させたりする。〈皮鎧〉なら動いたときに出る音を抑えるので隠密性が高くなるし、〈軽鎧〉と〈重鎧〉は鎧の重量を軽減してくれる。防具そのものはマスタリーが無くても着られるし、防御力はきちんと発揮されるが、特に重鎧なんて着込んでしまうとその重さで動きが思いっきり制限されてしまい、動かない的状態になる。防御力がいくら高くても、動けないんじゃ何の意味もない。
話がずれたついでに、スキルに〈料理〉がある意味も話しておこう。このゲームにはきちんと「満腹度」があり、更に「渇水度」まである。満腹度が完全に尽きてしまうとHPが、渇水度ならMPが減りだす。
コレを防ぐには、単純に飲み食いすればいい。〈料理〉スキルがあれば、自分で好きに調理が出来るというわけだ。スキルが無い者は金を払って飲み食いする。とりあえず、最初は自分もパンと水をNPCから購入しておく。どちらも一つたった五グローなので、ケチる必要はまったく無い。
また、HPがゼロになったときに発生する「デスペナルティ」の内容は、ステータスが三〇分半減、装備品の耐久力が全箇所マイナス三三%だ。
説明が長引いた間に、街の外にあるフィールドエリアまでたどりついた。さて狩るかねー……と思った自分は甘ちゃんだった。
「今日は初日だってこと……甘く見積もってたなぁ……」
目の前の草原エリアは、たくさんのプレイヤーで溢れていた。
「そこに湧いたぞ、斬れー!」
「そいつは俺達の獲物だああ!」
「そこどいて、そいつ殺せ(ry」
「さっさと次湧けよ! 戦い足りねえんだよこっちは!」
とまあ、修羅場という一言がふさわしい盛況っぷり。これもまた名物といえば名物。こりゃ今日は無理かなぁと腕組みをしながら観戦モードに入っていると……
「ま~数日はこんな感じでしょうねえ~」
何とも間延びした女性の声が後ろから掛かった。弓を背負ってる自分に話しかけてくるなんて貴重な人だな。せっかくなので話でもしてみますか。
「でしょうね、皆殺気立ってるようですし」
「まったくですね~、夜が来る前に少しでも狩りたいんでしょうね~」
ん? 夜?
「あの、質問良いですか? きちんと昼夜って概念があるんですか?」
「あら~? もう一回昼夜が過ぎてますけど~?」
「訓練場に入り浸っていて、その後すぐログアウトしたからわからなくて」
「そ~でしたか~」
彼女の説明によると、この世界は昼間三時間、夜二時間で昼夜を繰り返す設定になっているとのこと。夜の戦闘は視界が狭まる、厄介なモンスターが現れる、といったお約束の設定があるらしい。
対策は、〈光魔術〉Lv10の《ライト》、〈火魔術〉Lv15の《トーチ》、〈闇魔術〉Lv30の《ナイトサイト》のどれかを使うか、〈遠視〉スキルのLvを上げることだそうだ。レンジャー稼業のために選択した〈遠視〉だったが、暗視効果も兼ねていたようである。
「そうなると、夜まではこの状態が続くんですかね」
「多分そうですよ~」
コレはどうしようもないな、誰の責任というわけでもないし。ならば……戦闘以外のことをすれば良いじゃないか。
「わざわざ教えてくださってありがとうございます」
「い~え~、私はミリーと言います~、フレンドになっておきます~?」
何ともまぁ、のんびりした子だな……まあ可能なら交友関係は広げておくべきだし、いいか。
「こっちはアースと言います、よろしく」
「こちらこそ~」
フレンド登録を済ませると、彼女は「私は戻ります~」とのんびり街に入っていった。
自分はフィールドエリアで薬草集めである。狩りをしている人達からは出来るだけ距離をとり、邪魔をしないよう心がけつつ、〈遠視〉スキルを発動し、【薬草(?)】と表示された草をかき集める。「(?)」となっている理由は……
「未鑑定状態……なのかい……」
トル○コやシレ○などのゲームのように、拾った直後は何のアイテムかわからないのである。とはいえ、いきなり最初のフィールドにふざけたバッドステータスを引き起こす毒草を配置するわけない……よねえ?
そう願いつつ、夕暮れを迎えるまで草という草をとにかくかき集めた。
◆ ◆ ◆
応援ありがとうございます!
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