第6回歴史・時代小説大賞
第5回歴史・時代小説大賞
選考概要
412作という過去最高の応募数となった今回、テーマ別賞を設けるなどして、アルファポリスが求める歴史・時代ものの方向性を明示したこともあり、実に多彩な色合いの作品が集まる結果となった。選考にも力が入る中、編集部内で大賞候補作としたのは、「大伝馬町ふくふく八卦見娘」「薄雲花魁 謎解き座敷」「一条兼定(いちじょう・かねさだ)いざ参る! ~無能者と呼ばれた男の逆転劇~」「伊豆わさび誕生記」「邪剣使い」「紅蓮に燃ゆる、赤虎の剣」「深川猿江五本松 人情縄のれん」「残刀始末奇譚」「夢の終わり ~蜀漢の滅亡~」「覇者開闢に抗いし謀聖~宇喜多直家~」「深川 悪女の深情け」「袖振り縁に多生の理」「香蕉の生き方」「橋のたもとで」の14作品。
選考の結果、選考員から最も支持されたのは「大伝馬町ふくふく八卦見娘」。分量の少なさを指摘する声もあったが、それを補って余りある魅力や商業性があるとし、大賞と読者賞のダブル授賞とした。また、テーマ別賞として「深川 悪女の深情け」をお江戸人情噺賞、「邪剣使い」をエンタメ剣客賞、「橋のたもとで」を優秀短編賞に選出することとした。
「大伝馬町ふくふく八卦見娘」は、愛らしく好感の持てる町娘のヒロインが、本当に美味しいものを食べた時だけ卦を見ることができ、それを活かして厄介事を解決していく短編連作。文量の少なさから未知数な部分もあるものの、秀逸な設定と作品のほっこりした雰囲気や明るさ、万人受けする読みやすい文体も高く評価された。
「深川 悪女の深情け」は、吉原から逃げてきた醜女の料理人が深川で絵師に拾われ、深川に生きる人々の心の機微に触れていくという短編連作。料理をテーマにした魅力的な設定で、どの話も江戸らしい情緒と人情に溢れており、思わずほろりとする心地よい味わいがあった。
「邪剣使い」は、対となる剣をそれぞれ持つ異母兄弟が陰謀に巻き込まれ、剣と智謀で立ち向かう様を描いた骨太な作品。主人公達をはじめ各キャラクターが立っており、構成力の高さを感じさせる話に仕上がっていた。
「橋のたもとで」は彫り師の主人公と、彼の行方不明になった女房そっくりの女を巡る情緒に溢れた短編。話の広がりの薄さや暗さは気になったが、短編作品としての完成度と情景描写などに関する筆力の高さが評価された。
大伝馬町ふくふく八卦見娘
深川 悪女の深情け
主人公の猿や浮世絵師の歌をはじめ、キャラクターが大変魅力に富んでいて、読者を惹き付ける力のある作品だと感じました。また、繊細な心理描写が共感を誘い、生活描写からは当時の深川の暮らしを鮮やかにイメージすることができました。
邪剣使い
堅物な左馬之介と豪気な秋水という二人の異母兄弟の設定が魅力的でした。対照的な二人が力を合わせて事件に挑む様子がテンポ良く描かれ、次々と読み進められます。また、主人公達の脇を固めるキャラクターも個性的で、完成度の高い作品だと感じました。
橋のたもとで
仕事やいなくなった女房のことで悩む吉次の歯がゆさ、自分が何者かわからないおしのの遣る瀬無さが文中よりよく伝わり、ノスタルジックさの漂う描写が魅力的でした。また全体的に構成力の高さを感じさせ、何度も読み返したくなるような味わい深い作品だと感じております。
※受賞作については大賞ランキングの最終順位を追記しております。
おっとりとしたおみつを始め、若旦那や松五郎など魅力たっぷりなキャラクターに溢れている作品でした。美味しいものを食べると八卦見ができるという設定もキャッチーで読者からの人気も頷けます。今後、おみつがどんな事件に巻き込まれるのか、若旦那との恋模様はどう進んでいくのか、と先が気になりました。