第15回漫画大賞 秋の陣
第14回漫画大賞 春の陣
選考概要
今回、編集部内で大賞候補作としたのは「ネトゲの性別はだいたい見た目で騙される」「龍王の求婚」「オレの弟がかわいすぎる話をする。」「風のリュート」「猫神」「金の薔薇の娘」「泡沫グラン」「角獣の夢」「dust box(ダストボックス)」「オーチャード」「春宵の銀兎」「きもこん。」「腐桃太郎」「モノクローン」「キバツばき」「ナンパンマン」「【BL】おはよう、君が好きです。【R18】」「秘密の生徒会室」「宿借りのパグーロ」の19作品。
それぞれの個性が光る、多種多様なジャンルの作品の中から、編集部内で多くの支持を得た「オレの弟がかわいすぎる話をする。」を大賞(賞金50万円)に選出した。前回から2回連続の大賞選出となり、投稿作品のレベルアップを感じさせる結果となった。
続く各賞の選考では、個性あふれる絵柄で評価を高めた「龍王の求婚」を編集長賞(賞金10万円)に、キャラクターの魅力とネタを前面に押し出した「きもこん。」をネコ部長賞(賞金10万円)に選出。
さらに絵柄と世界観でオリジナリティを強く感じさせた「オーチャード」を優秀賞(賞金10万円)に、美麗な画面と長編を描ききる力量が評価された「風のリュート」、キャラクターの仄暗い情念で読者を作品世界に引き込む力強さを感じた「キバツばき」の2作品を特別賞(賞金各5万円)に選出した。
「オレの弟がかわいすぎる話をする。」は、可愛すぎる弟を溺愛する兄と天真爛漫な弟の日常ラブコメ。画力の高さをうかがわせる画面の完成度で、各話にちゃんとオチがつけられている点も高評価だった。途中から兄が主体なのか、弟が主体なのか物語が散漫になっているので主軸をブラさず、さらなる読みやすさを追求してほしい。
「龍王の求婚」は、自身がかつて傷を治療した龍王に求婚される少女を描いたファンタジー作品。独特の絵柄が非常に魅力的で高い評価を得た。物語は続きが気になるヒキがきちんと作られているが、読者に情報を開示していく順序だてが少しちぐはぐで説明不足の感があった。読者に作品内容を丁寧に伝えていく工夫を。
「きもこん。」は、女子高生が罰ゲームで男性教師に告白したら、なぜか結婚までしていた二人を描くラブコメ。キャラクターの画風に華があり、ストーリも軽快なテンポで楽しめた。登場人物の感情の動きが表面上でしかないので、彼らのキャラクター性をさらに掘り下げ、より愛される存在へと仕上げていってほしい。
「オーチャード」は、身体が植物になっていく病に侵された主人公と、その周囲の人間を描いたファンタジー。どのページも安定した画力、構成で描かれており、総合力の高さを感じられた。さらにデザイン力を高めていくことで、キャラクターや小物、世界観が、より独創的に表現でき作品の幅が広がっていくだろう。
「風のリュート」は、伝説の冒険者リュートと神官戦士ティリスが繰り広げるファンタジー作品。キャラクターの顔立ちをはじめ、華やかな絵柄が目を引いた。派手な演出で見せ場は作られているが、決めゴマが連続するなど読者に与える効果が薄れていたのが残念。テンションの上下とともに、コマを大小させるなどメリハリを意識した構成を。
「キバツばき」は、他人の心の声が見えてしまうため、人間不信に陥った大学生が主人公の作品。主人公の情念が丁寧に描けており、その一貫した言動が高い説得力を生み、作品の強いヒキとなっている。状況説明が多く、読者に読むことを強いるシーンが散見するので、ネームの整理をしていくだけで読み味がぐんと良くなる。
「ネトゲの性別はだいたい見た目で騙される」は、ネットゲームで知り合った二人の微妙な関係性をテーマにしたコメディ。すれ違う二人の様子や、ネトゲあるあるネタなど読者の心を掴む要素が効果的に使われていた。それぞれの設定はありがちなものなので、この作品でしか読めないオリジナリティを取り入れてほしい。
惜しくも受賞を逃した12作品もそれぞれに見所があり、将来性を感じる作品ばかりだった。
「猫神」は、人間に化けられる能力を持った猫と、それを拾った青年の共同生活を描く作品。登場人物の背景を掘り下げ、それをベースに物語を構築していく力があり、物語は楽しんで読むことができた。キャラクターの表情や、猫の造形など描写が物足りない部分も見受けられたので、さらなる画力の向上が求められる。
「金の薔薇の娘」は、世にも珍しい金髪の髪と瞳を持つ奴隷の少女が、国王に見初められ后となるファンタジー作品。ストーリーや、設定はよくあるものだが、力強く描かれたキャラクターの瞳が非常に印象に残った。読者にキャラクターの感情を強く訴えかける瞳の描写は間違いなく武器になる。その武器を活かすため、物語でも読者を引き付けられる独自性を磨いてもらいたい。
「泡沫グラン」は、ひょんなことから出会った二人の男子高校生が、自らの欠けた部分を求めるように不器用な恋愛をしていくBL作品。感情の動かし方が秀逸で、物語をじっくりと読ませる良作。設定が複雑になりがちなので、余計なものは削り、一番読ませたい部分を定めてシンプルに展開していくことを心がけてほしい。
「角獣の夢」は、ユニコーンを擬人化させたファンタジーBL。しっかりと描きこまれた画面から、画力の高さと強い個性を感じられた。設定や、世界観もきっちりと作りこまれているが、コアなネタのため読者を選んでしまいそう。作品内のキャラクターや設定に一般性を持たせ、読者と共有できる仕組み作りが必要となるだろう。
「dust box(ダストボックス)」は、主人公の少年が人生を変えるため、巨額の報奨金が懸かった凶悪犯罪者を捕らえるべく戦うファンタジーアクション。悲惨な境遇からの脱却という主人公の目的がわかりやすく、すんなりと物語に入り込める。アクションも迫力ある絵が目を引いた。演出に既存の漫画作品の影響が強いため、そこからの脱却と、主人公のデザイン面の強化が今後の課題。
「春宵の銀兎」は、罪人の子と蔑まれている主人公の出自の謎に迫るファンタジー作品。画面の完成度の高さは感じるものの、バストアップの会話劇でストーリーを進行させてしまっているので、漫画としての面白味が半減してしまっている。読者を退屈させない画面構成を心に留めて、いろいろな角度から作品を表現してほしい。
「腐桃太郎」は、御伽噺の桃太郎をベースに、鬼サイドを主人公にしたバトルファンタジー。演出、絵柄など、少年漫画をよく研究していることが作品から読み取れるものの、一歩足りていない印象を受ける。まずは絵柄の安定と演出、構成の部分で、どうしたら今以上に読者を楽しませることができるか、という点を念頭においた作品づくりを。
「モノクローン」は、紛争により宗派がふたつに分けられた国で生き抜く主人公たちを描くファンタジー。練られた世界観と、そこで生きる人々の苦難が表現されている。ストーリーの進行が設定頼みで説明になっているので、キャラクターの感情に乗せて展開してほしい。また絵的な見せ場が弱く、読み味が物足りなく感じたので、大胆に大ゴマや見開きを使うなど画面構成にも気配りを。
「ナンパンマン」は、硬派を気取っているが女性に興味津々の男子高校生がモテ男に師事し、彼女を作るため奮闘するギャグ作品。主要人物の行動原理がわかりやすく、スムーズに読み進められた。キャラクターの悩みが表面上で留まっているので、より深い部分まで踏み込めれば、読者も感情移入しやすくなり、没入感の強い作品になるはず。
「【BL】おはよう、君が好きです。【R18】」は、地方から都会へやってきた主人公がバイト先の先輩に恋心を抱くハートフルなBL作品。キャラクターたちが表情豊かに描かれており、短編で話をまとめる力もある。感情の動きや二人の関係性が予定調和に見えてしまうので、説得力を持たせる展開を入れ込み、物語に深みを持たせてほしい。
「秘密の生徒会室」は、成績優秀で美しい生徒会長が、自分好みの女の子を生徒会にいれようと画策する百合コメディ。キャラクターがとても可愛いらしく描かれている点に多くの評価がついた。一方、主人公の願望だけで物語を展開しているため、読者を置いてきぼりにしてしまっている。読者との共通点をキャラクターに持たせて、共感を得られる作品づくりを。
「宿借りのパグーロ」は、文明が崩壊し、異形に脅えながら人々が暮らす世界を旅する主人公を描いたSF作品。壮大なテーマを丁寧な作画、演出で表現している。主人公の感情や、演出が平板で淡々と物語が進むのが非常に惜しい。ダイナミックなカメラワークやコマ割りを意識し、躍動感を作品に持たせ、読者を取り込む工夫が必須。
「第14回漫画大賞 春の陣」は776作品と過去最多の応募数を更新し、2回連続の大賞選出という喜ばしい結果となった。個性豊かで実力も確かな作品が集まり、作品全体のレベルアップを感じられた。さらなる漫画大賞の活性化を図り、次回も輝く個性を持った大賞を獲得するような素晴らしい作品に出会えることを待望している。
オレの弟がかわいすぎる話をする。
ネトゲの性別はだいたい見た目で騙される
ポイント最上位作品として“読者賞”に決定いたしました。テンポが良い作品でグイグイと読者を引っ張りこむ力があります。現実世界とネット世界でのギャップをうまく使い、コミュニケーションが不器用な二人の男子高校生の姿がコミカルに表現されており、キャラクターにも親近感を持ちやすくなっています。絵柄、作品内容が男性向けなのか、女性向けなのか、定まっていないと感じたので、ご自身が目指したい方向性を鑑み、思い切ってどちらかに振り切ることで、作品の精度が高まっていきます。
龍王の求婚
個性あふれる雰囲気の絵柄と、画面構成が秀逸でした。全体のページ数が少なくストーリの繋ぎが不十分で、主人公たちの置かれているシチュエーション、周囲を取り巻く環境など、わかりづらい部分はあったが、この先に何かあるなということを上手く感じさせられていて、続きが気になる展開を作れていました。説明が足りていないことがわかりづらさの原因なので、ご自身の頭の中で描けている世界観や、主人公たちのバックボーンなどをきちんと原稿内に落とし込んで、丁寧に読者へ内容を伝えていくことを心がければ解決するでしょう。ポテンシャルを非常に感じていますので、さらにレベルアップした次回作を楽しみにしています。
きもこん。
「キモい先生」と「リア充女子高生」という魅力あるマッチングに、ギャグときゅんのバランスが絶妙な作品でした。ころころと動くヒロインの表情(特に照れ顔)がとても印象的で、そこに物語のピークを持ってくる構成が素晴らしかったです。一連の漫画というよりも単発の小ネタが続いている形になってしまっているので、連載作品として面白さを構築していく必要がありますが、この漫画をしっかり描き切ってみよう、キャラクターを愛してみようなど、作品への向き合い方を変えていくことで良い方向に向かっていくでしょう。
オーチャード
世界観と絵柄から、オリジナリティが窺えました。物語自体はきっちりと作られていましたが、お話や感情の動き方が安直に思えてしまいました。ほっこり系の絵柄をより活かすのであれば、もう一歩、作品に踏み込んでいただいて人間の暗部や業の深さのようなものをよりディープに表現し、キャラクターとのギャップで目を引くなどの工夫が必要になります。現在の読みやすさを持ち味にして、物語にメリハリを利かせることができれば、より読者の興味を引けるでしょう。
風のリュート
王道のファンタジー作品を確かな絵柄で、200ページというボリュームを描き切っているところに安定した実力を感じました。全体的に丁寧に見せるという意図はとても伝わるのですが、逆にそれが足枷となってしまいネーム回しやアクションシーンの動きにぎこちなさが出てしまっています。嘘のパースや構図、遊びのある演出を入れていくことで、表現の幅が大きく広がるでしょう。
キバツばき
安定した画面作りに、コマ割りも漫画の流れをきちんと考えて作られていたため、スラスラと読みやすい作品でした。しかしキャラクターの設定や、大事な情報を文字で説明していたため、漫画としての面白味を削ってしまっているのがもったいなく感じました。読者に「読ませる」よりも「見せる・魅せる」ことを意識して、文字と絵のバランスを調整していけば、作品の面白さがグンと上がるでしょう。
※受賞作については大賞ランキングの最終順位を追記しております。
即戦力といっても過言ではない実力。兄、弟だけでなく、登場するキャラクターたちの顔立ちやスタイルが美しく描かれており、それぞれの性格がしっかりと反映されたセリフと相まって、魅力たっぷりに表現されていました。弟の通う学校の教員になるなど、冒頭から兄の彼に対する突き抜けた愛情が前面に押し出され、導入部分の掴みも決まっています。一方で、途中から弟目線に切り替わって物語が進む部分があり、内容が散漫に見えてしまっています。兄、弟と視点を変えるのであれば、それぞれが何をしたいのか、読み手にその道筋を早い段階で提示する必要があります。読者を戸惑わせないよう、視点をあちこちに振らずスムーズな物語運びを意識すれば、今以上に多くの読者を獲得できる作品となるでしょう。