第16回ファンタジー小説大賞
第15回ファンタジー小説大賞
選考概要
今回も3284作品と多くのエントリーが集まった第15回ファンタジー小説大賞。その中から一次選考を通過したのは40作。追放ものやスローライフといった王道のテーマから、子育てもの、もふもふ人外転生まで多彩な方向性の作品が集まった。
さらに選考を重ね、編集部内で大賞候補としたのは、「願いの守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい」「異世界で捨て子を育てたら王女様だった話」「転生赤ちゃんカティは諜報活動しています そして鬼畜な父に溺愛されているようです【本編完結してます】」「型録通販から始まる、追放された侯爵令嬢のスローライフ」「スラムへ追放された神官、【神の力】で貧しい人々を救いまくる!~神様いわく、教会で祈る人が増えるほど、使える力が大きくなるそうです~」「狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!」の6作品。
これらの候補作の中で、編集部内で最も高い評価を集めた「転生赤ちゃんカティは諜報活動しています そして鬼畜な父に溺愛されているようです【本編完結してます】」を大賞に選出。また、ポイント最多として読者賞に「願いの守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい」が選出された。テーマ別賞では、ユニーク異世界ライフ賞に「型録通販から始まる、追放された侯爵令嬢のスローライフ」、爽快バトル賞に「狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!」、癒し系ほっこりファンタジー賞に「スラムへ追放された神官、【神の力】で貧しい人々を救いまくる!~神様いわく、教会で祈る人が増えるほど、使える力が大きくなるそうです~」、成り上がり令嬢賞に「異世界で捨て子を育てたら王女様だった話」を選出した。
なお、最終選考に残ったものの、惜しくも受賞に至らなかった作品を奨励賞とした。
「転生赤ちゃんカティは諜報活動しています そして鬼畜な父に溺愛されているようです【本編完結してます】」は、赤ちゃん×スパイ活動という目新しいコンセプトのストーリー。冷徹な父と幼児ながら流暢に喋る娘の掛け合いが笑いを誘う一方で、貴族社会の暗部を暴くストーリーは骨太で読み応えがあると評価された。総じてシリアスとコメディのバランスがしっかり取れた作品だった。
「願いの守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい」は、主人公自身がもふもふ狐に転生するというワンアイデアが光る作品。愛嬌のある主人公とその飼い主になる騎士隊長の交流が微笑ましく、サブキャラクターの多彩な造形も魅力的で、ほのぼのとした交流の様子に癒されると好評だった。
「型録通販から始まる、追放された侯爵令嬢のスローライフ」は、異世界の商品を取り寄せて商売する令嬢の物語。「追放令嬢」と「通販スキル」というありそうでなかった組み合わせが目新しく、ヒロインの活躍が楽しく描かれていた点を評価。勇者一行の別視点の物語が絶妙にリンクしており、構成力の高さも窺えた。
「狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!」は、主人公が魔法を創造するチート能力に目覚めてからのざまぁ展開が爽快な作品。多人数に対しての無双ぶり、強敵との一騎討ちなどバトル要素に加え、内政や恋愛も描かれ読み応え十分だった。
「スラムへ追放された神官、【神の力】で貧しい人々を救いまくる!~神様いわく、教会で祈る人が増えるほど、使える力が大きくなるそうです~」は、神官である主人公をはじめ優しいキャラクターが多く登場し、読んでいて穏やかな気持ちになれる作品。「祈り」を集めると出来ることが増えていくという設定もユニークだった。
「異世界で捨て子を育てたら王女様だった話」は、捨てられた赤ちゃんを拾ったところから始まるドタバタ劇で、軽妙な筆致で読ませる作品だった。「家事」を題材にした「カジ魔法」の程よいチートっぷりや、ヒロインや悪役令嬢キャラの造形など秀逸な要素が多かった。
このほか、大賞候補作の中には是非出版化を進めたい、あるいは出版化の道を探りたい魅力のある作品が数多くあり、個別に連絡をしていく予定である。同じく大賞候補作以外にも出版化を検討したい作品もあり、編集部より個別にオファーあるいは出版化への挑戦の打診をしていきたい。
願いの守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
ポイント最上位作品として“読者賞”に決定いたしました。主人公が人間ではなくもふもふの神獣に転生するという設定は、非常にオリジナリティに溢れ、冒頭の展開から物語の世界にぐっと引き込まれました。また、ウィオラスとアルルジェントの絆が深まる描写が印象的で、多くの読者が引きつけられたことにも納得できる作品だと感じました。
型録通販から始まる、追放された侯爵令嬢のスローライフ
主人公クリスティナのキャラクター、世界観の設定ともに非常にユニークです。追放された主人公と勇者パーティーが交錯する構成もよく練られており、読み応えがあります。通販スキルの仕組みも独創性があり、スキル発動時に現れる謎めいた使者ペルソナとのほのかな恋の行方も気になるところです。
狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!
前世の記憶が蘇った主人公リックが自らの希望で勇者パーティーから追放されるというキャッチーな導入から次々と展開が広がり、テンポ良く読み進められました。特にリックが数々の敵と繰り広げる熱いバトルは読んでいて思わず手に汗を握ります。また、ヒロインたちも個性が際立っていて魅力的でした。
スラムに追放されても、そこで暮らす貧しい人々のために力を尽くすアルフの姿は、読んでいて胸を打たれます。また、女神のリアヌンのキャラクターが魅力的で、気さくでお茶目なふるまいが印象に残ります。ほとんどのキャラクターが誠実で優しい心を持っていて、彼らのやり取りに心が温まりました。
異世界で捨て子を育てたら王女様だった話
エリーゼがカジ魔法を駆使して身の回りの暮らしを便利にしていく過程が生き生きと描かれていました。のちに王女と分かるティーナとのささやかな暮らしも、つい応援したくなります。騎士のアルベルトに物怖じせず、誘拐されても自分のペースを崩さないといったエリーゼの芯の強さが魅力的でした。
※受賞作については大賞ランキングの最終順位を追記しております。
赤ちゃんという立場を活かして諜報活動をするという設定にオリジナリティが感じられました。事件にあえて巻き込まれ、裏切り者に迫るなどカティの活躍からとにかく目が離せません。素直でまっすぐなカティと、彼女を溺愛する父エドヴァルドのやり取りも微笑ましく、読んでいて優しい気持ちになります。また、テンポ良いストーリー構成で読みやすい作品でした。