勇者が残念周囲も残念小説一覧

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メリル・アクアオッジは北の辺境伯の末っ子として生まれた。 かつてのアクアオッジ領は領土面積こそ広大だったが、豊かな土地とは言い難かった。 だが今のアクアオッジは寒い土地ながらも美味しい食べ物で有名になりつつある。近隣諸国からもわざわざ観光で人々が訪れるほどになっていた。 けれどまだまだ面倒な土地をひとまとめにして厄介払いしたような領土を、アクアオッジ辺境伯が頑張って治めている。 平らな土地が少ない・山が多い・海に面した土地は漁獲量が増えてきた・人がまだまだ少ない・魔物の森と面しちゃってる・魔王の国と面しちゃってる・東の隣国がキナ臭い・勇者に目を付けられている(New!)・国土の北部なので寒い・王都からちょっぴり遠い, etc.…  アクアオッジ領のあるこの国はラザナキア王国という。 一柱たる女神ユニティと四大|精霊《エレメント》たる地・水・風・火、それぞれの精霊王が興した国なのである。   ラザナキア国民には【スキルツリー】という女神の加護が与えられる。 十歳になると国民は教会に行き、スキルツリーの鑑定をしてもらえるのだ。 ただスキルツリーの鑑定をしてもらうのにお布施が必要だった。 しかも銀貨七枚もする。十年前のアーサーの時代は五枚だったが値上がりしていた。世知辛い。 銀貨四枚はだいたいセバスチャンの一日分の給与相当である。セバスチャンって誰?執事長。 執事一人しかいないけれど、執事長。セバスチャンの御眼鏡にかなう後継者がなかなか現れないからである。 メリルが十歳になったとき両親から鑑定代をもらったが、欲しいものがあったのでこっそりと懐にしまった。 両親には自分のスキルのことを【魔法スキル?】と伝えてある。きちんと鑑定したわけじゃないので、疑問形なのは仕方ない。 メリルの家族は全員の【スキルツリー】がとんでもなくて、今やアクアオッジ辺境伯一家は超、のつく有名人だらけだ。 そんな中にあってメリルのスキルはとんでもないみそっかすだった。【魔法スキル?】と言えばカッコいいけれど、メリルが放つ魔法は誰がどう見ても……しょっぱい威力でしかないのだ。 メリルは今日も『三枚の銀貨』に向かって深々とおじぎをする。 「わたしの魔法がしょぼしょぼじゃなくなりますように」 このお話は執筆中の長編『辺境伯一家の領地繁栄記』から、アクアオッジ一家を知って頂くための中編シリーズです。
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文字数 52,008 最終更新日 2022.03.14 登録日 2022.02.01
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