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第四章 別大陸での活動の章

第十一話 絶体絶命!(魔王側も本気になったのかな?)

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 ダンは岩山を走り抜けて行った。
 周りには敵に囲まれているからだ。

 「いくらなんでも多すぎだろう!!」

 ダンは貫通魔法で穴を開けて飛び込むと、さらに底から横に貫通魔法を放って横穴を作った。
 そして貫通魔法を駆使して、山のふもとまで穴を開けて逃げていた。
 穴の中ではどっちの方向に行ったか、分からない筈なのに奴等は岩山から追ってきた。
 ダンを追っている敵、それは十六鬼影衆4体が向かって来たからである。
 
 ~~~~~魔王城~~~~~

 魔王は怒りに震えていた!
 勇者を育て、いずれは自分と対峙する為に鍛えるつもりが、勇者とは別の存在に十六鬼影衆の4角が倒されていたという事実に…
 アイマァフール(私は馬鹿です)、ダンバス(アホ)、シンプルトン(ボンクラ)、ホワイナァ(メソメソ)………

 『今は勇者よりも、英雄ダンとやらを抹殺せよ!』

 魔王は十六鬼影衆に命じて1角ずつではなく、徒党を組ませて襲う命じたのだった。
 
 ~~~~~ダンのいる場所~~~~~

 ダンの近くの地域にいた十六鬼影衆の4角が選ばれたのだった。
 いくら1匹が大した事が無くても、4匹で来られたらたまったものではない。
 ダンは無属性魔法で攻撃を逸らしたりするが、それでも今を防いでも別な場所から攻撃されると防ぎようが無かった。

 「何でいきなり4匹も襲ってくるんだ⁉︎」
 《奴さんも本気になっているという事だろ? 相棒はモテモテだな…》

 悪いがアトランティカの冗談は笑えない。
 経験値は多く手に入れられるから、ある意味良いといえば良い事なのだが、それでも限度という物がある。

 「それにしても、奴等は連携が取れているなぁ… 今までの奴等は自己主張が激しくて纏まるとは考え付かなかったんだけど…?」
 《もう少し先に開けた場所がある。 そこで撃退しよう!》

 撃退…簡単に言うが、こちらは1人で向こうは4匹…
 圧倒的な数の不利は否めなかった。
 モンスターが4匹とは訳が違う。
 僕は走りながら対策を考えていた。

 「せめて属性魔法が使えればなぁ…?」
 《無い物ねだりをしている場合じゃないだろう、対策を考えないとまずいぞ!》

 僕はその場を必死に駆け抜けた。
 こんな事なら、スキルをちゃんと確認しておくんだったと思った。
 その時、ギルドカードが光った。
 慱が僕の事を聞いて、気を利かせてくれて属性魔法を!?

 【悪いけど、属性魔法の解析はまだ終わってない。 もしかしたらという期待をしていたのならごめんね… 今回、解析が終了した2つのスキルを送ります。 1つは、【スキル合成】と2つ目は、【闇魔法】を攻撃可能にしたよ。 解析のお陰で闇魔法もレベルを2つ上げられた…んだけど、闇魔法については僕も良く解らないので、使って確かめてみてね。】

 ギルドカードを見ると、確かに闇魔法が増えている…
 今まであった、【腐食】【腐敗】【発酵】【熟成】【暗転】【吸引】の他に、【触手】【闇鎖】【暗黒】【闇鎌】【闇釜】【闇鍋】が増えていた。

 触手…は何となくわかるし、闇鎖と闇鎌も攻撃魔法の類だろうけど、暗黒? 
 それに闇釜と闇鍋って何に使うんだよ!? 意味不明だよ!! 
 まぁでも、考え方によっては、闇魔法が攻撃魔法として使える様になったのは嬉しいね。  
 うん…嬉しいよ…ただねぇ…?
 ダークエクストリーム! とか、ブラックホール! というのが欲しかったよ。
 アトランティカの助言ではないけど、無い物ねだりをしていても仕方ない。

 【暗黒】…闇魔法の威力を上げる効果がある。 単体の魔法としては効果が無い。
 
 密かに期待したんだけど、要は闇魔法に関する威力倍増か。
 おっと! もう来やがった!

 「ちくしょう… 悩んでいる時間も無いのか… それにしてもさっきから攻撃魔法連発している奴がいるな…」

 十六鬼影衆奴等の確認をした。
 杖を持った女の形をした…やたらエロい体系をした奴。
 まるでカマキリみたい形をしているな、ただ鎌を持つ腕が4本あるけど…
 それとヒドラかな…? ドラゴンの様な胴体と尻尾で、首が5本あってそれぞれから火球を吐いてやがる…この攻撃はあいつか!
 それと…ピンクのぬいぐるみのクマ!?
 魔王って、何の為にこんな奴等を作りだしたんだろう?
 十六匹も作っていたからネタが切れたのか?

 『オ~ッホッホッホッホ! 英雄ダンとはこの程度なのかぇ! わらわの仲間を葬ったにしては逃げてばかりではないか!』…とエロい体系の女が。
 『奴を侮るな! 奴は様々なスキルを持っていると、目や耳が言っていた。』とカマキリが。
 『現に手が出ないではないか… 別に貴様らの手を借りぬとも、我1人であんな奴は倒せるぞ!」…とヒドラが。
 『・・・・・・・・・』とピンクのクマ。

 「なるほど、何となく解ったぞ…目や耳というのは良く解らないけど、恐らく下っ端の一種で僕の位置を報告しているのか… だから、逃げた場所がわかるんだな。」
 《どうする相棒、奴等は相棒のスキルの多さを把握しているぞ!》
 「いや、全てではない筈だ。 ハッタリが効くかどうか解らないがやってみるか…」
 《分散させようという事か…上手く行くか?》
 「多分ね… 言葉で性格は大体わかった! あのクマだけは良く解らないけど…」
 《確かにあのぬいぐるみの様なピンクのクマは何も喋ってないしな… でどうみる?》
 「クマは解らないが、女は高飛車、カマキリは騎士道精神、ヒドラは自意識過剰だ。奴等にハッタリが通じれば分散出来る筈なんだが…」
 《あの会話で良く解ったな、バックアップはしてやるから好きにやってみろ!》

 僕は奴等の前に出た。
 奴等は僕を囲んだ。
 僕が観念したと思っているようだ。
 僕はヒドラの方を向き、叫んだ。

 「スキル! 思考吸引!!」

 当然、こんなスキルはない。 
 だが、奴等の足を止める事は出来た。

 「なるほどなるほど、お前らは別に連携が取れていた訳ではなかったのか…そこの首5つが教えてくれたよ!」
 『なんだと? 何を知ったのだ!?』

 カマキリが言った。
 僕はハッタリを嚙ましてみた。

 「そこの5本首が言うには、何でこの俺様が厚化粧のケバいババァと踏みつぶせば簡単にプチっと潰せる虫と組まされなければならないんだ! 俺様の様に強い奴ならともかく、矮小なババァと虫は大人しく引っ込んでいろと…」
 『『何だと!?』』

 エロい女とカマキリはヒドラを見た。
 ヒドラは僕の言った事を否定しなかった。

 『貴様…どうやって思考を読んだか知らんが、俺様の思っていた事が良く解ったな! そうさ、こんな弱い奴の力を借りなくても俺様1人で事が足りたというのに、魔王様が…』
 『弱いとは聞き捨てならんな…我が力を見せてやろう!』
 『わらわの美しさを厚化粧と申したな! しかもババァ等と…許さんぞ!!』

 3組が攻撃態勢に入った。
 だが、ピンクのクマだけが相変わらず解らない動きをしていた。
 止めようとはせず、ただ傍観していた。

 「スキル! 思考吸引!! あの虫とババァが何かほざいていやがるぜ! お前等の雑魚2匹で掛かってきた所でお前等には勝ち目がないのによ! 虫とババァの癖に、いい加減身の程を知れよ!…って言われてるよ。」
 
 挑発に引っかかって、2匹はヒドラに向かって行った。
 カマキリは4本の腕の鎌でヒドラの首を斬り落とした。
 だがヒドラは、斬られた首から2本ずつの首が生えてきて、合計9本の首になった。
 ヒドラは、カマキリとエロい女に炎のブレスを放った。
 2匹はそれぞれ躱すと、女の方は氷魔法を…カマキリは鎌から風の刃を飛ばした。
 女の魔法はヒドラの胴体を凍り付かせたが、体の熱ですぐに溶けた。
 カマキリの刃もヒドラの首を全て落としたが、またそこから倍の首が生えてきて合計17本になった。
 この隙に逃げれないかとも思ったが、ピンクのクマだけは同士討ちに参加せずに僕の方を凝視していたので逃げれなかった。
 
 「そういえば、ギリシャ神話だっけ? ヒドラってどうやって倒されたんだっけ? それよりも…」
 《どうした相棒?》
 「こうなってくると、いくつまで首が増えるか見てみたいw」
 《余裕あるな、相棒!》

 カマキリの攻撃でどんどん首を落としていくと、首は更に倍の34本になった。
 女の方が巨大な風の刃で全ての首を落とすと、更に倍の68本に増えた。
 本当に何本まで増えるのか楽しみになってきた。
 この状態を観察すると、カマキリは鎌さえ気を付ければ問題は無い。
 女の方は、多彩な属性魔法が少し厄介だが、先程から物理攻撃は行っていない。
 ヒドラは、首は増えても均一の大きさなので、バランスが悪くなっているかと思ったがそれはない。
 とは言っても、元々の体…胴体がかなりデカいので今の所はバランスが取れて…
 
 『貴様らやめろ! これ以上首が増えると…』

 ヒドラはどうやら苦しそうな表情を浮かべていた。
 それをチャンスだと思った女とカマキリは風魔法と鎌で攻撃をして、更に首を落とした。
 すると更に倍の136本の首になった。
 もう首の数が多すぎて、胴体より首の方が大きくなっていてバランスが保てなくなっていた。
 2匹は荒い呼吸で勝ちを誇った様な顔をしていた。
 ヒドラは制御出来なくなったのか、首から炎を吐きまくっていた。
 僕はヒドラの胴体に近付き、アトランティカで胴体を剣で切り裂いた。
 すると斬られた部分から大量のマグマの様な炎が噴き出てきた。
 そしてヒドラはどんどん萎んでいき、最後には消滅した。
 ヒドラが死ねば次はコイツらが僕を狙ってくるだろう…が上手くやり過ごせないかな?

 「あなた達は凄い方だったんですね! 僕は感動しました! あなた達の強さは本物でした! 僕は今のあなた達には勝てそうもありませんので、更に修業を積んで挑みたいと思います! いつかまた会う時は、その時が勝負の時です!」
 
 2匹は満足そうな顔をしていた。
 そして僕達は別れてそれぞれ別な道を歩いて…という訳にはいかなかった。

 『なんて姑息な奴だ! 危うく騙される所だった!! 我らは英雄ダン、貴様を倒す為にここに来たのだ!!』
 「ちっ…散々持ち上げて有耶無耶にしようと思っていたのに気づいたか…」
 
 数が減ったとは言っても、まだ3匹も残っている。
 3匹で一気に来られたらたまったものじゃない。
 だが、女を見ると疲れた様な姿を見せていた。
 カマキリは余裕な感じだった。
 
 『コケット…貴様は休んでいろ! こやつの相手は我がする!』
 
 そういってカマキリが戦闘態勢に入った。
 コケットって、確かアバズレっていう意味じゃなかったっけ?
 なるほど! 名前の通りな体つきだもんね。
 では、このカマキリは何ていうんだろう?

 「僕の名は、ダン・スーガー! そこの…えーっと… そういえば、名前は何ていうの?」
 『我が名は、ネーマクーラだ! ダン・スーガー、貴様と一騎打ちを望む!』
 「あのぅ、1つ聞きたいのですが… 貴方も下っ端を無下に扱っていたり?」
 『それがどうした? 下っ端とはそういうものだろう。』
 「お二人の名前の意味なんですが、ネーマクーラってなまくらという意味で、コケットはアバズレという意味ですが、解って名乗っていたのですか?」
 『なんだと!? そういう意味があったのか!?』
 『わらわがアバズレじゃと!? あやつめ…』

 僕は隙をついて、カマキリの懐に入ると…2本の鎌に腐食を発動した。
 腐食の効果で鎌が赤茶色に錆びた。

 『貴様、やはり姑息な奴だったな。 話の途中で攻撃するなど、戦士の風上にも置けん奴だ!』
 「戦士じゃなくて結構! 僕は戦士じゃありませんのでー」
 
 でも、虚を突けたのはここまでだろう。
 次は相手も容赦はしない筈だ。
 だが、相手のペースに合わせる必要はない!
 僕は貫通魔法でカマキリの下に穴を開けてから落とし、重水を注いで溺れさせようとした。
 だが手足を使って浮き上がろうともがいていた。
 レベル10の貫通魔法の効果で、100m近くの深さの穴を開けて80m位の重水を入れているのに、何故浮いてこれるのだろうか?
 
 「しぶとい… なら、これならどうだ! 【創造作製】殺虫剤!」

 僕は水魔法の中に手を入れて強力で濃縮な殺虫剤を作り出し、重水の中に放り込んだ。
 カマキリは、重水と殺虫剤が混ざり込んだ水を飲んだのか、苦しみ出した。
 だが、相変わらず地上に出ようともがいている。

 「本当にしぶといな… 球体解除! 神殿の岩雪崩れ!」

 神殿から出る為に大量の岩を収納した玉の50個を解除して、穴の中に放り込んだ。
 カマキリは、岩の重さでどんどん沈んでいった。
 
 ~~~~~10分後~~~~~

 貫通解除をすると、大量の岩の中でカマキリがピクピクと動いていたので、トドメを刺した。
 カマキリは一言『この卑怯者め!』と言い残すと消滅していった。

 『貴様はなんと卑怯な手を使うのじゃ!』
 「4体1で僕を追い詰めておいて、卑怯を語るな! 次はお前の番だ!!」

 ピンクのクマを見ても、動かずにジッとしていた。
 本当にコイツは何をしに来たんだろうか?
 そんな事を考えていたら、火球の雨が降って来た。

 『貴様にはこれで疲れるまで踊って貰うとしよう、わらわの暇つぶしとなるが良い!』
 「くそぅ… アイツ良い性格してやがる。 味方なら知り合える性格だと思うのに…」

 あぁいう性格の奴は決して嫌いでは無い。
 寧ろ仲良くなりたいとすら思っている…ただし、敵でなければの話だが。
 僕はアトランティカで火球を弾くが、中々降り止まなかった。
 ただ躱しているだけじゃいずれやられる!
 僕は反撃の手を考えた。
 そういえば、闇魔法に触手というのがあったな…?
 もしも僕の思っている通りの物だったら、女性には凄く嫌がられる攻撃になると思うのだが…?
 僕は火球の合間をぬって、闇魔法の触手を発動した。
 すると空中から魔法陣が出現し、更にその魔法陣から触手が現れてコケットの方に向かって行った。
 だがコケットは風魔法の刃で触手を全て斬り落とした。

 「やっぱ、駄目か… なら、暗黒+触手発動!」
 『何度やっても無駄な事を…』

 再び魔法陣から触手が現れた。
 今度の触手は少し違っていて、テカテカに光っていて液体を垂らしていた。
 再びコケットに向かって触手は伸びて行った。
 先程の様にコケットは風魔法で撃退しようとしたのだが、テカテカに光っている触手に風魔法の刃が全て弾かれた。
 そして触手はコケットの手足に絡むと、徐々に体の方まで伸びて行った。
 触手はコケットの体にたどり着くと、枝分かれをして衣の中に入って行った。

 『こ…コラ、やめるのじゃ! あぁ…そんな所…を…何処を触っておるのじゃ!!』

 触手はコケットの衣の中に入りこんで、至る所を這いずり回っている。
 その間、僕に対する攻撃は止んだのだが…?
 この触手という魔法は、発動すると僕の意思とは関係なく相手を無力化する為に勝手に動いている。
 
 「考え方によっては、女性の天敵みたいな攻撃だな…」
 《相棒よ、攻撃が卑猥な感じがするのはオレだけか?》

 触手はコケットの魔法を封じようと、口の中に触手1本を突っ込み、衣で見えないが他の穴にも触手が入り込んでいるのだろうという様な感じがした。
 コケットの顔が赤く悶えている感じだったのでそう感じた。
 僕は顔を背けた。
 僕には刺激が強い攻撃だったからだ。
 コケットも苦痛で顔を歪ませている訳ではなく、どう見ても快楽を感じている様な顔をしていた。
 そしてコケットがビクビクと体が痙攣すると、触手は消えていった。
 
 《相棒よ、もう前を向いても平気だぞ!》

 アトランティカに言われて前を見ると、コケットは地面に横たわっていた。
 これでトドメを刺すのは少し気が引けたが、相手は十六鬼影衆の1匹なのでやらないわけには行かなかった。
 アトランティカでコケットの額に剣を刺すと、コケットはそのまま消滅していった。
 残りはピンクのぬいぐるみのクマなのだが、その場から逃げる事も仲間を助ける事もなく動かずにいた。
 
 「後はお前だけだけど、どうする?」

 クマは何も言わずにファイティングポーズをしてステップを踏んでいた。
 僕は剣を構えて間合いを取った。
 正直言って、このクマに関しては相手を舐めていた。
 
 だが、このクマは…?
 今まで戦って来た十六鬼影衆の中で1番厄介で1番強く、ダンは苦戦を強いられるのだった。

 ~~~~~10分後~~~~~

 ダンは荒い呼吸をしながら剣を構えていた。
 体調は2m位のピンクのぬいぐるみのクマで、子供の部屋やゲーセンの景品みたいな容姿をしているにも関わらず、こちらの攻撃が全て躱されるのだ。
 そして攻撃に関しては別に強い訳では無く…柔らかい綿が詰まったグローブで殴られた衝撃でしか無く、痛くは無いしダメージなんかも無い。
 ただ、腹が立つのは… こちらの攻撃は全て躱す癖に、相手からの攻撃は回避不能な処なのだ。
 そして威力の無いパンチの攻撃…馬鹿にされている様にしか思えなかった。
 僕はアトランティカの固有スキルのアクセルを使った。
 それでクマに斬りかかるが、倍近く速くなったにも関わらず全ての攻撃を躱されてしまった。
 そして反撃の威力が無いパンチ…
 その後でクマは、腕を腰に当ててのけぞったポーズで笑った。
 ただ…相変わらず声は出ていないのだが、そのポーズが地味に腹が立った。

 「馬鹿にしやがって! ハンドレットランス!」

 カバにやった無属性魔法の100本の槍でクマの周囲を囲んだ。
 それを放ったが、クマは擦りすらせずに全てを躱した。
 そして威力の無いパンチ…
 このクマは一体どうなっているんだ!?
 貫通魔法で落とし穴を作るが躱される。
 岩を球体解除で降らせるが、全て躱される。
 そして反撃が威力の無いパンチ…

 「攻撃が当たらなさすぎる!」
 《コイツは本当にどういう奴なんだ?》
 「せめて、舌鑑定でも使えれば特徴や弱点などが解ると思うんだが…?」
 《舌鑑定を使うにしても捕まらないのではどうしようもないぞ!》
 「それに1つ気になっている事があるんだけど?」
 《なんだ?》
 「コイツって本当に十六鬼影衆の1匹なのかな?」
 《というと?》
 「さっきの首が増える奴が、カマキリとエロ女には文句を言っていたけど、コイツの事は何も言ってなかったから…」
 《そういえばそうだな、仲間だったら少しは話題に触れる筈だよな?》
 「考えていても仕方がない。 ちょっと、試してみるか…」
 《何か良い案でもあるのか?》

 僕は泡魔法を広範囲に展開して僕の周囲を固めた。
 奴が飛び越えられない様に高さを作ってからドーム状にした。
 そして貫通魔法を使って逃げるのだけれど…出口を作った場所に先回りされていた。
 そして威力の無いパンチ…
 次に無属性魔法で周囲に壁を作り、アクセルで逃走した。
 しかし、横を見ていると僕と同じ速度でクマが走っていた。
 そして、パンチ…が無属性の壁に弾かれた。
 
 「どうだ! 反撃を防いだぞ!!」
 《相棒…趣旨が変わっては無いか?》

 クマがジャンプをして頭上から狙おうとしていたが、天井にも壁を展開しているので弾かれると、クマは穴を掘りだして僕の下から現れた。
 そしてパンチをした。
 その瞬間を狙って下にも壁を作り、球体の中に閉じ込めた。
 逃げられ無くなれば、こっちのもんだ!
 僕は自爆覚悟で球体の中で炎をで満たそうとした。
 だがクマは高速回転すると風圧で炎を全て消し去り、反撃のパンチ…
 続いて僕は足から風魔法で浮いてから地面に貫通魔法で穴を開けたら、クマが落ちて行った。
 その次に泡魔法で穴の中に流し込んで無属性魔法の壁を解除してから穴に蓋をした。
 泡魔法は攻撃に使う魔法ではないがこれで当てられないとは思っていたら、背後からクマが出てきた。
 落とされた瞬間に横穴を掘っていたらしい。
 そして反撃のパンチ…
 
 暗黒+触手、暗黒+闇鎖、暗黒+吸引と立て続けに闇魔法を使ったが、どれも全て躱された。
 そして、反撃のパンチ3発…
 クマは腕を僕に突き出して、首がカクカクと動いていた。
 まるで小馬鹿にして笑っているかの様だった。

 なら、次は…!
 クマの下に逆風の舞をしてから泡魔法で囲み、形状変化で泡を硬化させて無属性魔法で壁を作って閉じ込めた。
 そしてレイリアの炎の玉を5つ入れてから解除を行った。
 これで倒せなく…いや、ダメージが与えられなければ積むな…。
 そう思っていたら後ろから肩を叩かれて、パンチ…
 逆風の舞を放ってから泡魔法を掛ける前に高速で脱出していた。
 
 僕は暗転を周囲に張り巡らしてから先程降らせた岩にフェイク僕を使い、僕は貫通魔法で穴に入り無属性の壁を穴に蓋をしてフェイク地面にしてカモフラージュしてから、穴の底でひたすら穴を開けて逃げようとした。
 その隙に暗転を解除すると、動かない僕が座っている状態に見える筈だった。
 さすがに何分も騙されてくれるとは思えないけど、あのクマはこちらから攻撃しない限り反撃パンチはして来ない。
 逃亡して策を練らない限り、あのクマは倒せないと思った。
 ただ、近い場所に出口を作ると追い掛けられる可能性があるので、少し遠くの方まで掘り進めた。
 
 「なぁ、アトランティカ…あいつの気配解るか?」
 《それがな、あいつから気配はまるでしないんだ。 あたかもそこにいない様な感じがする位に》
 「僕だけが見えている幻…という訳じゃないよね?」
 《いや、それはない。 オレも奴の姿は見えている。》

 何㎞掘り進めたか解らないが、そろそろ地上に出ようと思った。
 そして出口を決めて穴から出て周囲を見渡した。
 さすがにここまではクマは追って来ない…と思っていたら、目の前にいてパンチされた。
 もう、ファンシーなぬいぐるみではなく…恐怖でしかなかった。
 そして夢に出て悪夢にうなされるだろうと思った。
 
 「もう、駄目だ。 君には勝てない…最近勝ってばかりだから調子に乗っていたみたいだ。」
 《相棒、諦めるのか?》
 
 僕はアトランティカを地面に刺して、僕も座った。
 クマは少し離れた場所で正座していた。

 「最後に1つだけ昔話をしても良いかな?」

 クマは頷いた。
 僕は話し始めた。

 「僕には幼い頃に両親から貰ったクマのぬいぐるみがあってね。 それを大事な友達としていつも一緒にいた。 でも、妹の瑠香が生まれて、瑠香が僕のクマのぬいぐるみを気に入ってしまったんだ。 親からは、あなたはお兄ちゃんなんだから妹に譲りなさいといって妹の手に渡ってしまった。 それ以来、妹はクマのぬいぐるみを大事にしていたんだけど、両親と妹が事故で死んでしまって、妹が寂しがらない様にクマのぬいぐるみは妹と一緒にお墓に入れたんだ。」
 《相棒…両親と妹の記憶はないのでは無かったのか?》

 僕が話していると、クマはうんうんと頷いて、涙を腕で拭っている様な姿を見せた。

 「君に攻撃を色々していたけど、心の中であのクマのぬいぐるみと被ってしまって、攻撃の威力を弱めていたのかもしれない。」
 《その割には容赦ない魔法攻撃を繰り返していたように見えたが…》

 「最後にもう1つだけお願いしても良いかな?」
 
 クマはコクコクと頷いた。
 僕は両手を広げて言った。

 「僕はもう諦めたよ。 だから最後に君のモフモフな体で僕を抱きしめてくれないかな? それを思い出として天国にいる妹に自慢するんだ!」

 クマは僕を抱きしめてくれた。
 そして僕はクマの胸に顔を埋めて言った。
 
 「クマさん、あったかいね…ふわふわだぁ~!」
 
 そして顔を胸に摺り寄せながら、舌鑑定を使った。
 僕は胸に抱かれた子供の様に寝た…フリをしながら鑑定の確認をした。
 
 【ピンクのクマのぬいぐるみ】
 攻撃力はないが、素早さは極高。
 音速に近い速さで動ける為に、攻撃を当てるのは至難。
 ただし、弱点はピンクである。
 ピンクこそが最強の証。
 ピンクこそが至高!
 ピンクこそが無敵!
 
 「ありがとう、もう大丈夫だよ!」

 僕はそういうと、クマは頭を撫でてくれた。
 弱点がピンク?
 そして何よりピンク推し…
 もしかすると、倒し方が解ったかも…?
 僕は再び立ち上がり、アトランティカを手に取るとクマに対して言った。
 
 「ここじゃあ、クマさんと思う存分遊べないから、さっきの場所に行こうよ! 着いてきてくれるかな?」
 
 クマは頷いた。
 僕はアクセルで走り出すと、クマも横を並んで走った。

 「やっぱり、クマさんは速いね!」
  
 僕はそういうと、クマは嬉しそうに頭を掻きながら照れていた。
 その隙に前方100mの先に地上から1m上の高さに透明な壁を作った。
 そしてスピードを上げると、クマもスピードを上げてきた。
 クマが透明な壁に頭をぶつけると、一回転して地面に倒れた。
 その隙にクマの体に触れてから、スキル【ペイント】で全身をどす黒い緑色に変えた。
 まるで毒キノコの様な色だった。

 そしてそのまま少し離れた場所に行くと、クマは立ち上がりこちらに向かって来た…のだが、スピードが信じられない位に遅くなっていた。
 クマは自分の姿を確認すると、体のどこにもピンクがない事に気付き僕に鬼の様な形相を向けてきた。
 今がチャンスだと思い無属性の壁でクマを囲み、その中にレイリアの炎の玉を10個投げ込んで球体解除を行った。
 すると、中で凄まじい勢いで爆発が起きて壁を解除するとコゲコゲで炭の様なクマが立っていた。
 もはや…あの時のスピードはなく、よろよろと動き回るだけだった。
 僕はアトランティカを抜くと、クマに唐竹斬りで真っ二つに切り裂いた。
 クマは最後の力で地面に文字を書くと、消滅していった。
 僕は地面に書いてあった文字を見ると、こう書いてあった。

 【ボクはぬいぐるみの中で最弱、他の兄弟たちが敵を取ってくれるさ! 覚悟しろよ英雄ダン! 真の恐怖は兄弟たちに…】

 ちょっと待て、これで最弱かよ!?
 …っていうか、兄弟もぬいぐるみなのかよ!!
 
 「えらく手強かったけど、これで最弱なのか?」
 《攻撃を全て躱す事が出来て最弱か…他の奴等はどういう強さなんだ?》
 「経験値的にはどうだった?」
 《他の3匹よりも、このクマの経験値の方が圧倒的に高かったな。 しかし、これで最弱となると他の強さが…考えたくもないな。》
 
 これで、十六鬼影衆は半分の8匹を倒した事になる。
 残り半分はどれ程までの強さなのか…?
 ダンはより一層修業に励むのだった。
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