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第二章 エルヴ族での生活の章

第四話 馬を使わない乗り物の製作(前途多難です。)

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 エルヴ族の宿舎内、ゲストハウス(僕用)
 【古昔追想】を使って何度目覚めようとしても、目を覚ます方法がなかった僕は、精神力に限界がきて目覚めた。
 当分の間、身体を動かす事すら出来なかった。
 身体が動くようになった時、学校関係の私物が入っている玉に球体解除をした。
 学校指定のカバンの中から、タブレットを取り出した。
 異世界召喚以降、全くいじってなかった。
 さすがにこれだけの日数が経っていると充電は恐らくないだろうと思いつつ電源を入れた。
 案の定、充電は0%だった。
 まぁ、それはそうだろうな…。
 
 だが、しかし!
 充電する方法がある!
 生活魔法で雷属性で、以前スマホを充電した事がある。
 コネクタから雷属性を微弱に発すると、充電が可能だという事が解った。  
 ただ、その場合…凄い時間が掛かるのが難点だ。
 魔力を持っているだけで、スマホやタブレットが勝手に充電してくれる異世界転移系のラノベが羨ましい。
 僕の新たに覚えるスキルは欲しいと思って覚える訳では無いので、密かにスキル【携帯充電】とか発動しないかと思ったが、そんな都合よくスキルは手に入らなかった。
 0%から100%になるまで、3時間くらいは掛かる。
 その間、充電しながら待たなければならない。
 これが結構、意識が途切れる。
 僕の生活魔法は、意識や集中力に加え、明確なイメージがないと発動が持続出来ない。
 だから、1つの事に集中するには、余計な事は考えられないのである。
 
 ~~~~~3時間後~~~~~

 充電が100%になった。
 別に100%で無くても良かったのだが、必要な時に見れないのは困るので一応。
 その間、充電に集中し過ぎた為にかなりの疲労感だったので電源をオフにして寝た。
 シルフィンダーに運転している時は、風を感じたりするので運転に対する風魔法は別に退屈ではないが、充電の場合は部屋のベッドの上で充電をしている最中に雷のイメージを絶やさないで続けなければならない。
 やはり【携帯充電】というスキルは覚えなかった。
 よし、起きたら改めて見よう。
 
 ~~~~~翌朝~~~~~
 
 女族長のレイヴンから朝飯を催促されたので、まずこっちを作る。
 ステーキ、スープ、パンを焼いて皆に食わせた。
 2時間かかった…。
 昼は各自適当にするという事で、夜まで空き時間がある。
 なので、タブレットの電源を入れて、車の設計図という記録を見た。
 
 ふむふむ、なるほどなるほど…外殻とタイヤ回りの仕組みさえあれば良い。
 エンジン…はいらないし、とてもじゃないが作れるとも思えん。
 そもそも魔法力で動かす訳なので、エンジンは必要ない。
 バッテリーもいらないし、使わない。
 基本的に必要なのは、車体の中を通すダクトとタイヤの役目をする車輪であるのだが…?
 6mの鉄の棒で作った時は、幅が3㎝くらいしかなかった。
 完全な車の形にする場合、3㎝ではまず足りん上に安定が出来ない。
 タイヤも作れなくはない。
 この世界にはゴムの木というのはないが、それに近い樹液が取れる木があるみたいだ。
 雑貨屋に細長い紐があり、伸縮に優れていた。
 触った感じ、ゴムの材質に似ていたのでタイヤは可能だ。
 ホイールもボルトも【創造作製】で作れるはず…。

 「なんだけど、問題は車の形と材質なんだよなぁ…?」

 車の形は正直言うとまだ決まってない。 
 街道は基本的に土だが、砂利道もあるだろうし、下手すると石や岩が突き出た道もあるだろう…。
 城の近く…というか、城下町内ではレンガで舗装された道もあるらしいが、元いた世界の様にアスファルトが無いのがツライ。
 僕的には、スポーツカータイプが好ましいのだが…?
 車体を低くする設計にすると、砂利道はともかく…石や岩が突き出た道路ではまずアウトだ。
 四駆の様な…ジープみたいな車も想像したが、それはもはやシルフィンダーとは遠くかけ離れている。
 シルフィンダーはあくまでもスポーツカーだ。
 これ以外ではあり得ない…あ、2台作れば良いのか…!
 スポーツカータイプとジープタイプと…海などを進むホバークラフトみたいな…?
 だめだ、作るものが多すぎる!
 まずはシルフィンダーの完成を先にしよう。

 「ここまでは何とかなるんだけど、問題は材質だ。 車体の外殻パーツ…ステンレスなんか作る過程が多すぎで完成までに相当時間が掛かる上に、モンスターと衝突したりしたら一発で潰れる。」

 外殻のパーツを全て鉄…というのも考えたが、重量が重すぎるのとステアリングや車軸が耐えられまい…。
 硬くて軽くて丈夫な材質というと…、やっぱミスリルか。
 この地方ではミスリルの鉱山はない。
 テルシアにあるミスリルは、全て他国からの輸入らしい。
 こればかりは、レイヴンに尋ねてみるか。
 近くに鉱山があるから、そこで採れる物を聞くしかないな。
 他にも、今後仲間が出来てからの移動手段を考えると4人乗りも捨てがたい。
 それ以上に増える場合は、後日改造へ…。

 イメージはどんどん膨らむが、形にしてみない事には何ともなぁ…。
 あ、いっその事…収納できる翼っぽいウィングを付けて空も飛べるようにするか!!
 動力というか、蓄電できる…何か。
 魔力を貯められる様な…魔石みたいなものはないだろうか?
 テルシア王国でも魔石はあった。
 魔力を貯める事も出来、放出して生活を便利にすると言ってたな…?
 先代の救世主召喚で呼ばれた人の1人が、魔石で生活を便利にする道具を作ったという話だが?
 でも、あの時…魔石に対して大した興味もなかったから素通りしていたんだよなぁ…。
 どこで入手出来るとか、聞いとけば良かった…。
 
 他には…?
 他には……?
 う~ん………?
 頭が痛くなってきた。
 元いた世界だって、車を作る時は大勢で何日か掛かるらしいのに、僕1人で何日…いや、何か月掛かるんだろう?
 パーツのスペアとかも作らなければならないし、部品もスペアは必要だろう?
 あ、それよりもまず設計図作らないとか………?
 あーーーやること多すぎる!!
 
 とりあえず、鉱石の入手から始めるか。
 材料が手に入らないのでは、設計図も何にもない!
 ダンのシルフィンダーの制作は、まだまだ始まらない…。
 とりあえず、レイヴンに鉱山で採れる鉱石について聞いてみた。

 「銅に鉄、鋼…あとは、ハルモニアくらいか…」
 「ハルモニア? 聞いた事がないな、どういった金属なんですか?」
 「正確には、ハルモニア鋼と言ってな、鋼の様に硬いが銅よりも軽い金属でな…、ガイウス、お前の槍をダンに渡してやれ!」
 「はっ! 持ってみろ。」
 「確かに軽いな。 この軽さで鋼より本当に強いのかな? 悪い、ちょっと舐めてみても良いか?」
 「あぁ!? あぁ…スキルか。 後でちゃんと拭けよ。」
 ガイウスとレイヴンには、僕が多数のスキル持ちという事は話してある。
 別に話さないに越した事はないのだが、エルヴの民と信頼関係を結ぶには秘密は極力しない事に決めている。

 スキル【舌鑑定】発動…!

 【ハルモニア鋼の槍】
 この地方で採れる鋼と同等の硬さを持ち、異常に軽い金属の槍。
 軽さだけならミスリルよりも軽い。
 加工しやすく、熱には強いが冷気には弱い。
 冷気に晒され過ぎると砕ける。

 僕は槍にクリーンの魔法を使って、ガイウスに返した。
 確かにこの金属なら、車の外殻や他のパーツにも使えるが………?
 
 「あの、このハルモニア鋼ですが、大量に採れる物なのですか?」
 「鉱山の奥の方まで行けば採れる量は増えるが、かなり奥の方まで掘り進めないと纏まった量は取れないだろう。」
 「でしょうね、テルシア王国とエルヴで物資の取り引きがあると聞いてましたが、王国の騎士団もほぼ鋼の武具を使っていましたから、この金属はかなり希少なんでしょう。」
 「あぁ、うちの集落以外ではハルモニア鋼の存在は明かしていないし、それにこの金属を使った武器は幹部以上じゃないと支給されない。」

 さて、困ったぞ…?
 このハルモニア鋼はどうしても欲しいが、早々採れる物でもないらしい。
 鉱石が光って解るとか、ここを掘ると手に入る…というスキルでも手に入らない限り、やみくもに掘りまくるしかないな。
 エルヴ族は基本、欲しい物は自分で獲れ!…というのが掟らしい。
 鉱山で鉱石を採る許可は貰ったが、手伝いは無いだろうなぁ…。
 生活魔法でも土属性の魔法はあるけど、土属性の魔法は使った事ないしな。
 
 「右手に炎、左手に風…いや、これでは無理だな。 右手に風、左手に土…これで掘削…は無理か。」
 「ダンは本当に2種同時属性複合魔法が使えるんだな? 世界でもそれが出来る者はそうはいないというのに…」

 つるはしで掘りまくるというのも手ではあるけど、時間が掛かりすぎる上に消耗が激しい。
 1つの魔法だけで掘るのは難しいな、やはり合成魔法しかないのだが、正直組み合わせが思い付かない。
 う~ん………?
 2種の合成でも無理だな。
 
 「氷と風なら…でも普通の氷では掘削には脆いしな。 理論は何となくできるとは思うが、やってみるしかないか。」

 イメージ…イメージ…絶対零度の氷と風魔法の組み合わせなら行けるかもしれないが…?

 「右手に氷、左手に土…中央に雷、くっ…3種同時出現はかなり難しい…。」
 
 【ユニークスキル】のお陰で消費MPは1なのだが、魔力制御が異常なほど集中力と精神力に負担が来る。
 この3つを1つにするイメージなんだが、融合した時のイメージが想像がつかない…。
 3つの魔力を1つに束ねる…と、理論は確立しているが、実際にやるとなると相当に難しい。

 「氷、土、雷…三種同時合成魔法…アブソリュート冷凍庫の氷柱取り作業!!」
 「「おぉ…!」」

 3種類の属性が組み合わさり、巨大な氷柱つららが出来たのだが…?
 これをドリル代わりには出来ない。
 ただ単に先端が尖っただけの氷に過ぎないからだ。
 僕は氷の氷柱に手を当てて、【創造作製】を発動した…が?
 【創造作製】のレベルが低い為に失敗した。
 
 「駄目だ、これでは…【創造作製】のスキルレベルが低いから、弾かれた。」

 やはり、地道につるはしで掘りまくるしかないか…。
 3種の同時合成魔法は成功はしたが、この魔法は負担が大きすぎる。
 うん、楽は出来ないという事だ。
 
 「仕方ない… 自分で掘りに行くしか無いか… その鉱山の場所は何処にありますか?」
 「エルヴの民でしか解らない場所にある。 案内が必要だが… ガイウス、案内してやれ」
 「はっ、了解しました!」

 案内と恐らく監視役で付いてくるのだろう。
 いっその事…上手く言いくるめて手伝わさせるか。
 ただ、上手く言わないとガイウスの精霊の加護で嘘が見抜かれるから、面倒なんだよなぁ…。
 まぁ、嘘は見抜けても、考えが見抜ける訳ではないのが唯一の救いだが…。

 「集落から鉱山まで、距離はどれくらいの場所?」
 「2時間から~3時間くらいの距離だ。」
 「馬は使うのか?」
 「いや、ほぼ岩山の上にある鉱山だから、馬は登れない。」
 「では、色々準備があるから…1時間後に集落の入り口に集合かな?」
 「あぁ、俺の方でも準備があるから、それくらいが丁度良い。」
 「という事でレイヴン行ってくるけど、もしかしたら今日中に戻れないかもしれないけど、良いですか? にょほほ…」
 「? あぁ、無論構わない。 鉱山に入って日帰りはまず無理な話だからな。」
 「そうですか~~~、では晩御飯は用意出来ませんので、各自で用意して下さいね。」
 「ダン、コラ、お前…変な笑い方をしていたのはそういう事か!? おい、待ちやがれ!!」

 「聞っこえませ~ん」と言いながら、僕は耳を塞ぎながら部屋を出た。
 これで、晩飯の用意から解放される!
 僕は雑貨屋で買い物を素早く済ませて、入り口で待った。
 この時間、レイヴンは部屋から出てこれない。
 毎日のこの時間は、幹部達との会議がおこなわれているからであるのだが…?
 食に対する欲求は恐ろしい物があるからな。 
 来ないとは思うが、一応警戒しておこう。
 それから間もなくして、ガイウスが来たので集落を出た。

 「ダン、貴様…あぁなる事が解っていて族長を挑発したのか?」
 「モチのロンでございます。 久々に郷土料理を楽しむのも良いでしょう。」
  「あの料理は別に郷土料理という訳ではないのだが…ところで、俺達の飯はどうするんだ?」
 「食材から調理器具までこの玉に入っている。 これからの数日間の飯は期待してくれ。」
 「本当に便利なスキルだな。 じゃあ、俺の荷物も頼めるか?」
 「いいよ~。」

 そういって、ガイウスの荷物を槍以外、球体に変化させた。
 それから鉱山に着くまでの数時間、会話する事なく岩山を登って行った。
 到着する頃には、空が赤く染まりつつあった。
 
 「とりあえず、中の様子を見るか…」

 そういって球体解除で荷物を出した。
 そしてガイウスは荷物の中から、銀色の石の塊を見せてくれた。

 「これがハルモニア鋼だ。」
 「なんか、銀の塊だな。 一瞬見るだけなら、銀と勘違いしそうだな?」
 「俺らの祖先も最初は銀と勘違いしたらしい。 だが加工の工程で銀より硬いことが判明して、武器として作ったら異常なまでの硬度になっていたので、銀とは違うと判明された。」
 「なるほど…ところでガイウス、この鉱山では銀も掘れたりはするのか?」
 「祖先から伝わった話では、この鉱山から金や銀は発掘されなかったという話だ。 銀色の石はすなわちハルモニア鋼となる訳だ。」
 「なるほど、紛らわしくなくていい。」

 僕とガイウスは、つるはしとたいまつを持ちながら中に進んだ。
 壁にはかがり火用の薪があるので、たいまつで火を付けながら歩いて行った。
 200mくらい進むと下りになっていて、そこから更に30mほど進むと行き止まりに当たった。
 
 「この付近で一時期ハルモニア鋼は多く採れたのだが、その後はいくら掘っても出てこなかったという。」
 「ここから先は、地盤が堅そうだなぁ…? ガイウス、さっきのハルモニア鉱石を貸してくれ。」

 指先に【貫通魔法】を集中して放ってみる。
 案の定、いまの【貫通魔法】のレベルでは、ハルモニアは貫通出来ない。
 そして、岩には【貫通魔法】は効果があった…。
 …という事は、岩だけどかしてハルモニア鉱石は無傷で手に入るという事だ…多分。
 これで効率早くハルモニアを採れると思っていたが、そう上手くはいかない。
 岩の中にハルモニアが含まれていると、それは岩と一体化している物だと認識され、【貫通魔法】は弾かれるのである。
 うん、諦めよう。
 僕は早速、壁を掘ってみる事にした。
 
 ~~~~~2時間後~~~~~

 3m位掘り進める事が出来たのだが、ハルモニアは拳大位な大きさのが1つと、小石程度の物が数個。
 初めっから上手く行く訳がない。
 僕は休憩をしようと言って、集落から持ってきた無糖のホットチョコレートと砂糖を混ぜて固めたチョコレートを振舞った。
 飲み物は、ガイウスには馴染みの物だが、固形のチョコレートは初めての物だったらしく夢中で食べていた。

 「休憩がてら、エルヴ族の事を聞いても良いか?」
 「ん? 何が聞きたい?」
 「元々はエルフ族だったんだよな? それで、エルフ族から分かれてエルヴ族が生まれたという話を城の文献で読んだのだが…。」
 「長い話になるが良いか?」

 ガイウスは話してくれた。
 太古の昔にガイウスの祖先であるエルフ族が7人の英雄と共に魔を退けた。
 エルフ族は魔法に長けた一族だったが、魔法を封じられた時の攻撃手段があまりなく、武器もそれ程の威力が出ない…いや、筋力の所為で軽い武器しか扱えなかった為に、弱い種族として扱わられた。
 英雄となったエルフの子供で双子の兄弟がいた。
 兄は生粋のエルフ族を継ぎ、弟は強靭な肉体を得る為に禁忌である命ある物を喰らう肉喰いを行った。
 その為、弟は強靭な肉体が手に入った反面、エルフの加護である【妖精の長寿】を失った。
 さらに生粋のエルフ族からは【穢れた者】という烙印を押され蔑みられた。
 生粋のエルフと一緒に住むのを苦痛と感じた弟は、自分に賛同する者を集めて、故郷である【帰らずの森】を出た。
 そして、弟と賛同した者たちは大陸を渡って、この森に住み繁栄させたという。

 「じゃあ、今でもエルフ族とエルヴ族って仲が悪いのか?」
 「今から1,000年前にエルフ族の中でも変わり者というのが族長を務め、それまで閉鎖的な考えを捨て、他の種族と交流を始めるようになり、エルヴ族も同盟を結ぶようになったという。 まぁ、もっとも…エルフ達の長老連中は、いまだにその考えに理解出来ないらしく、閉鎖的な考えを持っている者も多いと聞くが。」
 「そういえば【妖精の長寿】って何?」
 「俺達と違い、生粋のエルフ族は肉や魚といった命を持つ物を摂取しない事を条件に、病や獣に命を奪われない限りは永遠に生きられるという加護だよ。 俺らはその加護を失ってはいるが、それでも寿命は200年~300年近くある。」

 なるほどね…。
 謎が1つ解けたよ。
 
 「さぁ、もう少し掘り進めたら、飯にしよう!」
 
 ガイウスはそういうと、僕は再び掘り始めた。
 休憩後に掘り進める事、2m弱…
 岩盤が堅すぎる所為で中々掘り進めない。
 鉱山の中は空気が淀んでおり、若干蒸し暑い。

 「もう駄目だ、暑い…」

 そう言って、ガイウスは上半身を脱いで裸になった。
 鍛え上げられた肉体に、いくつかの傷がある。
 まさに戦う者の…戦士の身体といっても過言ではない。
 
 「ダン…お前も脱げよ。」
 「ガイウス、まさか…君は…?」
 「む? なんだ?」
 「僕を裸にして何をするつもりだ…まさか、男の体に興味がある変態か?」
 「んなわけねえだろ!! 暑苦しそうだから脱げと言っているだけだ!!」
 「あ、そういう事か…スマンスマン。 暗い鉱山の穴の中で男が2人きりで裸になれというと、服を脱いだ瞬間にガイウスが僕の体に触れて…あ~んな事や、こ~んな事に。」
 「気色悪い事を言うな!! 俺は普通に女性が好きだ!! 男になんか興味あるか!!」
 「冗談だ、冗談。 ただ、僕はあまり服を脱ぎたくないんだ。 すまんな。」
 「こんな時でも長袖を着ているから、てっきり寒がりかとも思ったのだが?」
 「僕は正体を隠して旅をしているけど、実は女の子なの♡」
 「貴様な…何度も言うが、俺にはがあってと言っただろう!」
 「あ、そうだった…脱ぐのは構わないんだが、あまり人に見せたくない傷があるんだよ。」
 「俺達エルヴ族の民は、狩猟を主に活動しているから、別に傷なんて見慣れているし構わん。」
 「そうか、なら…」

 僕は服を脱いだ。
 ガイウス的には、僕の傷が大した程の事ではないと思っていたみたいだったが、実際に目にすると驚いていた。
 
 「9歳の頃に、友を救う為に野犬の群れに立ち向かい、4匹は仕留めたけど残りの数に圧倒されてこの有様だ。」
 「それは本当に犬だったのか?」
 「だと…思う。 記憶の中の野犬は…、僕の体格と同じ位あったな? 野犬と思っていたけど、実は狼だったとか?」
 「それは解らないが、犬にそこまでの爪や牙に殺傷力はない。 せいぜい噛まれた跡があるとか引っ掛かれた跡くらいにしかならないはず…? ダンの世界の動物の事は良く解らないが、こっちの世界と変わらないのであればという話だが…」

 ガイウスは僕の身体を見つめると、頷いた。
 そして、僕に頭を下げてきた。

 「ダンよ、今まで高圧的な態度をしてしまい、申し訳なかった。 俺達の一族では、狩りで背中に傷を負ったものは臆病者と呼ばれ、群れに戦いを挑んで傷を負った場合は栄誉を与えられるのだ。 ましてやダンは、友を守る為に命懸けで群れに挑み、生還した。」
 「いやいや、そんな立派な事ではないよ。 最後は僕も助けられた身だし、助けが入らなければ死んでいたよ。」
 「俺達が群れでの戦いは12歳の時から始まる。 それも大人がいる前でだ。 だけどダンは、1人で戦いを挑んだ。 これは称賛されても良い事だ。 俺が9歳の頃では決して出来なかった。」
 「あーうんうん、わかったわかった。 だから、いつも通りで良いよ。」

 やばい…このやり取りは終わりが見えない。
 別に尊敬されるような事はしてないし、恥ずかしいから頭を下げるのは辞めて欲しいのだが…。
 話を切り返す為に疑問に思っている事を聞いてみた。

 「そういえば、ガイウスっていまいくつなの?」
 「俺は18歳だ。」
 「180歳とかではなく?」
 「あぁ、なるほど…エルフと勘違いしていた訳か。 エルフの場合は、100歳で人間でいう10歳と変わりないが…俺達の身体の成長は、人間と大差がない。 ただ、人間より寿命が長いから20歳を迎えてから成長がゆっくりになる。」
 
 なるほどね…?
 ガイウスが僕の年齢を聞いてきたので、17歳というと驚いていた。
 身長が低く、童顔なので…てっきり14歳くらいだと思っていたらしい。
 これでも身長は167㎝あるんだぞ!
 まぁ、標準年齢にしたら低い方だけどさ…。
 190㎝位あるガイウスに比べたらちっさいけどさ。

 「話は逸れたが、やはり謝罪を受け取ってもらわないと気が済まない。」
 「もう良いよ…、あ、謝罪を受け入れる代わりに1つ条件がある。」
 「あぁ、何でも言ってくれ!」
 「僕と【友】になってほしい。」

 ガイウスは呆けた顔をした。
 僕はガイウスに手を出すと、ガイウスは僕の手をガッチリ握った。
 これで異世界で初めての友達が出来た!!
 ガイウスはこんな事で良いのか?と聞いてきたが、僕にはこれで良いと答えた。

 「さて、今日はこの辺にして入り口に向かおう。 すぐに御飯を作るよ!」
 
 今日は少し豪勢に作るか。
 久々にあの人数分を作る事から解放されたんだ。
 これから数日間位、贅沢してもバチは当たらんさ。
 鉱山の入り口に戻ると、ログハウスみたいな小屋があった。
 その中で料理を作って振舞い、庭に貫通魔法とお湯で作った風呂に入ってからベッドで寝た。
 体中が痛い…だが、それよりも眠りの方が勝ってすぐに寝落ちた。
 翌日、朝食を済まして再び穴を掘る。
 身体の痛みはなんとか軽減出来たが、全く痛くないという訳ではない。
 ガイウスは普通にしている。
 生活の基盤自体が違うから、こればかりは仕方ない。
 それにしても、掘っても掘ってもハルモニア鉱石は小石程度しか出ない。
 頭にきたので、自棄になって思いっきり足元につるはしをぶっ刺した。
 すると地面に亀裂が入り、巨大な穴が開くと落ちて行った。

 「右手から風、左手から風、合成魔法サイクロン!」

 素早くサイクロン竜巻を落下先に作り出し、地面が見えた時に激突するショックを和らげた。
 落ちてきた穴を見ると、結構な高さだった。
 生活魔法の照明を天井に展開すると、辺りが見えてきた。
 石造りの柱に、大きな建物にやたら大きな石の破片…見た感じは神殿という感じだった。

 「この鉱山の下にこんな空間があったとは!?」
 「ガイウスも知らなかったのか…」
 「鉱山を掘り始めた祖先は、この場所に何かがあると精霊の言葉で掘り始めのだ。 そこからハルモニアが発見できたのだが、まさかその何かがこの場所だとは思わなかった。」
 「あの神殿の入り口に座っている石の人形があるが、まさか…なぁ?」

 その石の人形は、目が赤く光り立ち上がった。
 こういう奴って目が赤く光ってから動き出すよな…。
 その大きさはゆうに5mはある。
 また僕は、フラグを立ててしまったか…。

 「「ゴーレムか…」」

 声がハモった。
 そう、ゴーレムが起動したのだ。
 あの体格なので動きはノロいのだが、本来この神殿に続く道は岩で塞がれているので袋小路なのである。
 ゴーレムは起動したら、僕達を殺さない限り停止する事はないだろうしなぁ…。
 僕とガイウスは、ゴーレムの攻撃をかわしながら反対側の壁まで行く。

 「ガイウス、ゴーレムの倒し方とか知っていたりしないか?」
 「ゴーレム自体は、他の地域で見た事はあるが、倒し方までは知らん。」
 「僕らのいた世界にも、歴史の文献でゴーレムはいたらしいのだが、倒した方としては2つある。」
 「ほぉ、それはどんな風に倒せるんだ?」
 「方法は2つある。 1つは、額にある文字を消す事によりゴーレムは動きを止めるという方法と…」

 腕が飛んできたので、避けてから反対側の壁に走る。
 
 「もう1つは?」
 「体のどこかにあるコアという鉱石を破壊するか取り外せば止まると思う…が、うちらの世界での話だ、これが適応されるかまではやってみなければわからない!」
 「倒し方が解らないんだ、2つのどっちかをやってみよう!」
 「なら、動きを封じる為に準備をする。 しばらくの間、奴の注意を引いてくれ!」

 ギルドカードの【貫通魔法】を確認する。
 現在、最大に開けれる穴は2,5m四方だ。
 あのゴーレムの大きさだと、片足が入る大きさしかない。
 2つ穴を開ける事は出来るが、両足が落ちた所で腕を使って立ち上がられたら最初に戻るしな…?
 下半身が埋まるくらいの穴でないと動きは封じられない…。
 あ…別に離して穴を開ける必要はないのか!
 僕はガイウスを見る。
 ガイウスの槍はゴーレムの体に弾かれる。
 まさか、あのゴーレムはハルモニアで出来ているのか?

 「ガイウス、こっちに来てくれ!」

 ガイウスがこちらに走ってくると、僕は【貫通魔法】で穴を開け、1㎝の間隔を開けてもう1つ穴を開けた。
 ゴーレムの足が穴に落ちると、もう1つの穴にもう片方の足が穴に落ちた。
 すると、ゴーレムの重さで1㎝の間隔の地面は崩れて下半身が埋まった。
 ゴーレムは身動きが取れずに、腕を振り回している。
 
 「よし! 成功だ!!」
 「おぉ、上手く行ったな! これで額を確認できる高さになったな。」
 「ガイウス…さすがにあの腕に当たる事はないとは思うが、仮に当たったら…ノロマのガイウスとレイヴンに報告しよう!」
 「ダン、お前…こんな時にふざけるなよ!」

 ガイウスはゴーレムの両腕の攻撃をかわすと、ゴーレムの肩に乗り額を見た。
 
 「ダン! 額には文字がない!!」
 「という事は、もう1つはコアか…ガイウス、君の槍が刺さらなかった事を考えると、このゴーレムはハルモニアか?」
 「あぁ、そうだ!」
 「だとすると、コアだが…」

 ガイウスがゴーレムの腕をかわしている間に、ゴーレムの体を観察する。
 さすがにハルモニアの中にコアがあるならお手上げだが、この大きさのタイプだと体の中にコアが入っているとは考えにくい…。
 だが、前も後ろも頭を見てもコアは発見出来ない。
 まさか、下半身じゃないだろうな?
 まぁ、それはないか…
 座っていたゴーレムが立ち上がったという事は、下半身にコアがあるとは考えにくい。
 あの体積と重さで下半身にコアがあるとしたら、重力で欠損してもおかしくはないはず…?
 どこか見逃しているはず…?
 もう1度観察した。

 「駄目だ、見付からん!」
 「ダン、まだか!?」

 ガイウスが痺れを切らして叫んだ。
 攻撃を避けるだけでも体力や集中力が必要だから解らなくはない。
 もしかして、長い年月で体内に取り込まれたかと考える。
 う~ん………?
 ん? ??

 「ガイウス、1度戻れ!」
 「わかった!」

 ガイウスは動きっぱなしだったせいか、荒い息をしている。
 僕は生活魔法で飲み水を作り、コップに入れて飲ました。
 
 「ガイウス、息を整えておいてくれ。 これから奴の弱点をさらけ出すから、指示した場所に攻撃してくれ!」
 「わかった!」

 アレをやるか。
 ちょっと本気だすよ!!

 「右手から豪水、左手から豪風…合成術・メイルストローム最大水流!!洗濯屋の巨大洗濯機の水流
 
 凄まじい量の水の竜巻がゴーレムを包むと、大量の汚れが水を変化させた。
 メイルストロームを解除すると、ハルモニアゴーレムは眩い位の銀色を放っていた。

 「ダン、一体何をやったんだ?」
 「ゴーレムを洗った。」
 「ゴーレム洗ってどうするんだよ?」
 「あのゴーレムはここに放置されてから長い年月の間、埃被っていたんだよ。 それも拭いた位では落とせないレベルの汚れをね。 ならいっその事丸洗いをして綺麗にしようと思ったんだ。」
 「で? 綺麗にすると何かあるのか?」
 「綺麗にすると、あの胸に中心にあるコアが見えるようになるという事だ。」

 ゴーレムの胸の中心に赤い鉱石が光を放っている。
 そう、アレがコアである。
 埃を被っていた所為で隠れていたのだ。

 「外すなよ、親友!」
 「あぁ、解ってる!」

 僕達は拳を合わせた。
 ガイウスはゴーレムに突進していき、腕をかわしながら懐に入ると、赤い鉱石に槍を突き立てた。
 ゴーレムは音を立てて崩れた。
 僕は【貫通解除】をすると、穴が盛り上がり地面に戻った。
 ハルモニア鋼をゲットした。

 その後に、神殿の中を探したがこれといって何もなかった。
 ただ、神殿の前に転がっていた大きな石も洗浄するとハルモニア鋼という事が解った。
 形を保てなくなったゴーレムの残骸だったのだろう。
 さて、これで念願のハルモニアは手に入ったのだが、1つ問題がある。

 どうやって帰ろうか?
 とりあえず、僕達は食事を摂る事にした。
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