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第一章 異世界召喚の章
第八話 王様の目論みと慱の旅立ち!…とざまぁ(慱は広い世界に…)
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勇者パーティーが魔獣退治に失敗した!
この話は、王の耳にも届いた。
王は詳細を確認する為に護衛の騎士達を呼んで話を聞いた。
「なら、もう少しで討伐出来そうだったのに慱殿が遮ったと?」
「いえ、慱殿の判断は間違ってはいないと思います。 勇者様は明らかに力に振り回されていた感じだったので、トドメを刺そうとしていたら返り討ちに遭っていたかもしれません。 慱殿の冷静な判断や分析能力は本当に素晴らしい能力です。」
護衛に就いていた騎士はそう言った。
護衛に就いていた騎士達の活躍で魔獣は討伐出来た。
だが、決して優勢という訳にはいかなかった。
致命傷になる怪我は無かったが、かなりの深手を負った騎士もいて討伐に成功したのである。
王は迷っていた。
ヴァルガンから魔獣討伐を勇者達が討伐し、あの無能が役に立たないという事が証明されれば、戦力外という烙印を押して国から追放という手が出来ると思っていた。
今回の討伐の話をそういう理由で許可を出したのである。
だが、実際は全く予想外の結果になった。
王は苦悩した。
異世界召喚から1週間後に、国民には勇者達を発表しなければならないからだ。
今は準備期間という事で公表を待ってもらっている状態なのだ。
慱の公表を伏せてもいずれ気付かれる。
なので、手取り早く追放という手が最善の手だと感じていたのだった。
【勇者】、【聖女】、【賢者】、【剣聖】これはまだ良い。
だが【器用貧乏】をどう紹介したら良いものか?
しかもレベル1でHPが100しかない無能を…どう考えても、国民から落胆される可能性は高いだろう。
「何か良い手は無いものだろうか?」
王は騎士に命じ、宮廷魔導師のテルセラを呼ぶ様に命令した。
数十分後…テルセラは玉座の間に来た。
王はテルセラに慱の追放に良い知恵がないかと尋ねた。
「陛下、そのお考えには賛同しかねます…」
テルセラから予想外の答えが出てきた。
テルセラも最初のジョブ判定の時点では、王と同じ考えもあったかも知れない。
だが慱の強力な生活魔法、威力の高い魔法を使っているにも関わらず、1つの魔法に対して消費MPが1のみ。
さらに先日、テルセラは慱を騎士団訓練場に呼び出し、ステータスがアンノウンはどの程度の物なのか騎士団長に慱を全力で攻撃させた。
魔法を使っても消費MPが1なら、HPも…?
案の定、慱は攻撃を受けて吹っ飛んだが大したダメージは確認出来ず、減ったHPは1だけだった。
「それに、今慱殿を追い出そうものなら多くの者から反発の声が出るでしょう。」
慱が城でやっていたのは、料理の質の向上だけではない。
敷地内の農園に肥料を作りそれを撒くと、翌日には凄い成長をしていた。
慱は訓練場や庭園を掃除して、集めた落ち葉を黒土に混ぜてから、闇魔法の腐敗と発酵を使って腐葉土を作ったのだ。
そのお陰でいつも以上の収穫量以外に、質の良いものが出来上がっていたのだ。
庭師のトムも畑の劇的な変化に、慱に深い感謝をしていた。
その他にも…研究棟の学者には異世界の計算機を渡して計算能力が段違いに向上した。
メイド達に異世界の知識を活用して、作業の効率化を提案した。
メイド達は実践すると、普段には無い空き時間が生まれた。
さらに慱は、メイド達のおやつとして厨房で作ったこの世界には無いミルクレープを…翌日にはクレープシュゼットを差し入れした。
メイド達は、慱の作るおやつに虜になっていた。
アルカディア王女もちゃっかり、メイド達に紛れて相伴に与っていた。
「あ、その他にも…」
「もう、良い…」
王は頭をかかえてテルセラの言葉を遮った。
慱はたった数日でどれだけ城に貢献してくれたのだ。
これで追い出そうなんて発表しようものどうなるかは目に見えている。
国民に関しては問題はないが、城の中の者達からは…?
だが、【魔王】に立ち向かう戦力が今は1番重要なのだ。
初めの頃は強いと思っていたダン殿の生活魔法も、現在のケント殿と同等かそれ以下になっている。
王は一芝居うってみようと思った。
何もこちらから追放を宣告する訳ではなく、自分から出て行ってもらう行動にさせれば良いのだ。
この方法なら大丈夫だろう!
国王は確信めいた手応えに歓喜している様だった。
~~~~~翌日~~~~~
テストが明日に迫っているその前日に、僕は近衛騎士に玉座の間に呼び出された。
もしかしたら、テストについての詳細があるのかと思った。
テストに関しての課題を何も教えて貰っていないから、その為の呼び出しだと思ったのだが…?
でも、それなら…事付けを頼めば済む話だ。
態々国王陛下から呼び出しはないはず…?
僕は何もわからないまま、国王陛下の前に跪いた。
「慱殿を呼び出したのは他でもない…実は明日に異なる世界の召喚者のお披露目があるのは知っているか?」
「はい、存じております。」
《あー…とうとうこの話が来たか…》
「国を挙げての救世主様召喚を実行して、見事に勇者が誕生した。 明日はその発表の日なのだ。」
《あー大体この後の話の展開が予想出来るな…》
「【勇者】・【聖女】・【剣聖】・【賢者】のこの4つのジョブは、【魔王】に対抗できる為の人々の希望だったのだ。」
《うんうん、素晴らしいジョブだよね。 わかります、わかりますよー》
「だが、ここに予想外の出来事があった。 慱殿の存在だ。」
《はいはい、何となく予想が出来ていました。》
「国民に発表をする際に、救世主様達のステータスも提示しなければならないのだ。」
《はぁ…確かに、僕のステータスは表示出来んわな。》
「現在の状況では、国民達は強い英雄を求めている。 【魔王】に対抗できる強い英雄を…」
《回りくどい言い方してないで、さっさと本題を言え!》
「さすがに国民に、【器用貧乏】という意味不明のジョブやレベル1でHP100しかなく、ステータスが正体不明という怪しい人間を紹介する訳にはいかない。 それが例え救世主様であってもだ。 国民は落胆してしまうだろう。」
《はい、予想通りですね。 んで、この後は僕以外の召喚者を公表して、僕はいない者として扱われるのね》
「なので、ダン殿には2つの選択肢を提示しよう。 1つは、公表をしない代わりに城の中での生活を許す。 ただこの場合、他の救世主様達が【魔王】を討伐するまで城外には一切出られないという選択肢と… もう1つは、国外に出る事を許可するが、【魔王】が討伐されるまで国に戻る事が出来ないという選択肢だ。」
《随分思い切った選択肢だな…? 翔也達が【魔王】を討伐するまで何年掛かるか解らないのに、その間は城から出られないだと?》
国王は、慱に課したこの選択肢のどちらを選ぶかが解っていた。
好奇心旺盛な若者が、【魔王】を討伐するまで何年掛かるか解らないのに城から一切出られないという選択は取らないと思っているからだ。
ならば必然的に国を出る事を選択するだろう…と。
国王は、苦渋の選択をした様な顔をしながら、口元では笑っていた。
慱はもう答えは出ていた…が、ここであえて質問をした。
「あの陛下、そういえばテストはどうなったのですか?」
「今更テストなど必要か? テストというのは、こうじ…コホン、もう過ぎた話だ。」
《このおっさん、開き直りやがったな! しかも口実って言おうとしたな…ンノヤロウ!》
慱はにこやかな顔をして、腹の中で毒づいた。
幸い国外追放されても地図や街、村などの把握は出来ている。
それにこうなる事を予想して前もって準備もしてあった。
「では、国を出る事を選択します。 短い間でしたが、城に置いてくださりありがとうございました。」
「うむ…【魔王】が討伐された後にまた会おう!」
僕は立ち上がると、後方にある玉座の間の扉が勢いよく開いた。
そこには翔也達が息を切らして立っていた。
「待ってください陛下! 何故、慱だけ国外追放なのですか!?」
「翔也殿か、もうこれは決定事項なのだ。」
「納得できません! 慱が…慱がいなければ俺達は…」
「もう良いよ、翔也。 これは決まった事なんだ。 僕の事を思ってくれるのなら、さっさと【魔王】を倒してくれ!」
僕は翔也の肩に手を置くとそう言った。
翔也は納得できない顔で俯いた。
僕は扉を出ると、料理長がそこにいた。
「先生! 俺はまだまだ先生に教えを戴かないと…」
「料理長、僕は貴方に一通りの事は教えました。 あとは試行錯誤を重ねて完成に至って下さい。」
僕はそう言って城の出口に向かって歩き出した。
すると、今度はメイド達が僕を送り出してくれた。
僕は手を上げて別れの挨拶をすると、メイド達は無言で頭を下げた。
僕は階段を下りて菜園を通った。
すると、庭師頭のトムさんが野菜を箱に詰めて待っていた。
僕は軽い雑談をして、野菜のお礼をした。
そして野菜を【球体魔法】に収納した。
出口に近づいていくと、そこにはアルカディア王女がいた。
「先立つ物は必要ですよ…」といって、この世界の通貨が入っている袋を渡してくれた。
中身を見る様な真似はしないが、ずっしりとしていた。
僕はお礼をすると、「良き旅を!」と言って送り出してくれた。
みんな…解っていたんだな…。
たった数日だったが、城の中の人達とはすっかり仲良くなっていた。
城の出口を出た所に、ヴァルガンが立っていた。
「街に着いたら冒険者ギルドを訪ねて下さい。」そう言って手紙を渡してくれた。
僕はお礼をして、ヴァルガンと別れた。
城門に近付くと、華奈と飛鳥と賢斗がいた。
飛鳥と賢斗は無言で抱きしめてくれた。
そして華奈は、何も言わず僕にそっとキスをした。
《この場に翔也が居なくて良かった…》
僕は翔也に対して申し訳ない気持ちになった。
「いつか、またどこかで会えるさ! またね!」
そういって僕は城門を出ると、城門は重い音たてて閉まった。
さて…?
夢にまで見た異世界冒険!
どんな出会いと発見があるのか、今から楽しみで仕方がない!
僕はテルシア王国外にある、サーディリアン聖王国のカイナンに向かって歩き始めた。
果たして慱にはこの先、どの様な冒険が待ち受けているのだろうか?
~~~~~慱が旅立ってから翌日~~~~~
慱がテルシア王国から旅立った翌日。
国王陛下は、国民達に異なる世界の救世主である勇者達一行を紹介した。
国民達は、【魔王】を倒してくれる希望の勇者達に歓喜の声を上げた。
国民達は、国を挙げて盛大な宴が行われた。
~~~~~~その夜・王城内の会議室にて~~~~~
アルカディア王女とテルセラ、料理長と庭師頭のトムは頭を悩ませていた…。
国王陛下は、御機嫌な表情で会議室に入ってきた。
慱を見事追い出し、御満悦な状態だった。
「どうした、何か暗いぞ! こんなにめでたい日に何を暗い顔をしているのだ!」
みんなは国王陛下の顔を見ると、大きなため息をついた。
アルカディア王女は陛下に話した。
「お父様、何故慱様を追い出したりしたのですか?」
「またその話か…もう過ぎた話にいつまでも拘るんじゃない!」
アルカディアは額を押さえて溜息をついた。
「良いですか、お父様はテルシア王国にとって大切な人を追い出したのですよ!」
「慱殿がか? 彼は、レベル1だし…現在においては勇者様達の中で足を引っ張る存在だろう? 別にいなくても良いだろう。」
「救世主様召喚を行った際に、他の勇者様達は取り乱しているにもかかわらず、慱様は冷静に会話が出来ました。 あの年齢で見ず知らずの土地での会話を冷静に出来る人なんてそうはおりません。」
「あのくらいの年齢で冷静に話が出来るからと言って、別におかしなことでもないだろう?」
料理長が発言をしようと手を上げた。
「ここ最近の料理の質が上がったのは、先生…慱殿のおかげなのです。」
「確かにここ最近の料理は凄く美味だった…が?」
するとアルカディア王女が言い出した。
「これは勇者様達に話を聞いたのですが、勇者様達の世界では一般に料理を作る事がありますが、調味料などは店で手に入るらしいのです。」
「ふむ…で?」
「ところが慱様は、それらの調味料を自分で手作りが出来る能力があるというのです。」
「そんな事、料理長にも出来るだろう?」
「いえ、出来ません。 スープなどは完成品を見ながら、味を研究したりして再現は出来ましたが、調味料の類は一切出来ませんでした。」
「別に調味料なんて大したことはないだろう?」
「それが大いにあるのです。 慱様の作る調味料は、この世界にはまだ見た事ない物ばかりです。 それらがこのテルシア王国で作り各国に流通するようになれば、国益が増え、経済はもっと潤う事になっていたでしょう。」
戦いともなれば強い戦士は必要だろう…。
だけど、その戦士や騎士を戦に送り出すにしても資金は掛かるのである。
お父様は、戦に対する知識は豊富なのだけど、お金を稼ぐ事に対してはあまり得意ではなかった。
「あー… 国王よ、わしも1つ良いか?」
「お、どうしたトムじい?」
「慱殿の作る肥料なんだが、これは今までに無い位に植物が育つというのは報告したのだが…」
「うむ、それは聞いて居るが?」
「実は肥料だけじゃなかったのじゃ。 慱殿の生活魔法で作られた水は、メイド達の生活魔法の水とは違い、不純物がなく純度がありえないくらいに澄んでいたのだ。 その水を使って植物を育てると、爆発的な成長と収穫量あるのじゃ。」
「なら、慱殿が居なくなったという事は?」
「当然、収穫量は減るじゃろう。 肥料も改善されているから当初の様な収穫量が少ないという事はないのだが、それでも今よりも格段に収穫量は減る予想じゃ。」
「ワシも良いですかな?」
「テルセラよ、何だ?」
「何から話してよいか…実は慱殿なのだが、ジョブ判定の際にはスキルが5つだったのだが、城から出る際にギルドカードを見せて貰ったのだが、7つに増えておった。 スキルが1つとユニークスキルというのがな。」
「エクストラスキルと普通のスキル以外に別なスキルがあったのか!?」
「スキル確認は本人でしか知りえないが、この世界にも無い…それどころか、勇者様達以上のスキル持ちを手放してしまい、残念に思っておる。」
「だが、ダン殿のスキルは戦闘ではあまり役に立たぬだろう?」
「陛下はダン殿の生活魔法を御覧になってないからそんな事が言えるのじゃ。 確かにケント殿に比べたら威力が落ちるでしょうが、それでも中級…いや、上級にも近い威力を持っている魔法もありました。」
「ムムム…」
ダン殿が菜園の手伝いをして収穫量の話が増えた事や、料理長に料理を教えて質が上がったという話も聞いていたが、今更ながら手放したのはおしいと感じ始めた。
戦闘に期待するあまり、慱殿を無能扱いしてしまったが、他にも優れていた物はあったのだな…。
余も目が曇っていたらしい。
「あ、それと最後に1つ」
「なんだテルセラよ?」
「慱殿を追い出した事により、陛下は騎士達とメイド達に反感を買っておられる。 気を付けられよ…」
「な…なんだと!?」
そうして、会議室から皆が出ていき…国王陛下だけが残った。
この先、国王陛下の運命は…?
この話は、王の耳にも届いた。
王は詳細を確認する為に護衛の騎士達を呼んで話を聞いた。
「なら、もう少しで討伐出来そうだったのに慱殿が遮ったと?」
「いえ、慱殿の判断は間違ってはいないと思います。 勇者様は明らかに力に振り回されていた感じだったので、トドメを刺そうとしていたら返り討ちに遭っていたかもしれません。 慱殿の冷静な判断や分析能力は本当に素晴らしい能力です。」
護衛に就いていた騎士はそう言った。
護衛に就いていた騎士達の活躍で魔獣は討伐出来た。
だが、決して優勢という訳にはいかなかった。
致命傷になる怪我は無かったが、かなりの深手を負った騎士もいて討伐に成功したのである。
王は迷っていた。
ヴァルガンから魔獣討伐を勇者達が討伐し、あの無能が役に立たないという事が証明されれば、戦力外という烙印を押して国から追放という手が出来ると思っていた。
今回の討伐の話をそういう理由で許可を出したのである。
だが、実際は全く予想外の結果になった。
王は苦悩した。
異世界召喚から1週間後に、国民には勇者達を発表しなければならないからだ。
今は準備期間という事で公表を待ってもらっている状態なのだ。
慱の公表を伏せてもいずれ気付かれる。
なので、手取り早く追放という手が最善の手だと感じていたのだった。
【勇者】、【聖女】、【賢者】、【剣聖】これはまだ良い。
だが【器用貧乏】をどう紹介したら良いものか?
しかもレベル1でHPが100しかない無能を…どう考えても、国民から落胆される可能性は高いだろう。
「何か良い手は無いものだろうか?」
王は騎士に命じ、宮廷魔導師のテルセラを呼ぶ様に命令した。
数十分後…テルセラは玉座の間に来た。
王はテルセラに慱の追放に良い知恵がないかと尋ねた。
「陛下、そのお考えには賛同しかねます…」
テルセラから予想外の答えが出てきた。
テルセラも最初のジョブ判定の時点では、王と同じ考えもあったかも知れない。
だが慱の強力な生活魔法、威力の高い魔法を使っているにも関わらず、1つの魔法に対して消費MPが1のみ。
さらに先日、テルセラは慱を騎士団訓練場に呼び出し、ステータスがアンノウンはどの程度の物なのか騎士団長に慱を全力で攻撃させた。
魔法を使っても消費MPが1なら、HPも…?
案の定、慱は攻撃を受けて吹っ飛んだが大したダメージは確認出来ず、減ったHPは1だけだった。
「それに、今慱殿を追い出そうものなら多くの者から反発の声が出るでしょう。」
慱が城でやっていたのは、料理の質の向上だけではない。
敷地内の農園に肥料を作りそれを撒くと、翌日には凄い成長をしていた。
慱は訓練場や庭園を掃除して、集めた落ち葉を黒土に混ぜてから、闇魔法の腐敗と発酵を使って腐葉土を作ったのだ。
そのお陰でいつも以上の収穫量以外に、質の良いものが出来上がっていたのだ。
庭師のトムも畑の劇的な変化に、慱に深い感謝をしていた。
その他にも…研究棟の学者には異世界の計算機を渡して計算能力が段違いに向上した。
メイド達に異世界の知識を活用して、作業の効率化を提案した。
メイド達は実践すると、普段には無い空き時間が生まれた。
さらに慱は、メイド達のおやつとして厨房で作ったこの世界には無いミルクレープを…翌日にはクレープシュゼットを差し入れした。
メイド達は、慱の作るおやつに虜になっていた。
アルカディア王女もちゃっかり、メイド達に紛れて相伴に与っていた。
「あ、その他にも…」
「もう、良い…」
王は頭をかかえてテルセラの言葉を遮った。
慱はたった数日でどれだけ城に貢献してくれたのだ。
これで追い出そうなんて発表しようものどうなるかは目に見えている。
国民に関しては問題はないが、城の中の者達からは…?
だが、【魔王】に立ち向かう戦力が今は1番重要なのだ。
初めの頃は強いと思っていたダン殿の生活魔法も、現在のケント殿と同等かそれ以下になっている。
王は一芝居うってみようと思った。
何もこちらから追放を宣告する訳ではなく、自分から出て行ってもらう行動にさせれば良いのだ。
この方法なら大丈夫だろう!
国王は確信めいた手応えに歓喜している様だった。
~~~~~翌日~~~~~
テストが明日に迫っているその前日に、僕は近衛騎士に玉座の間に呼び出された。
もしかしたら、テストについての詳細があるのかと思った。
テストに関しての課題を何も教えて貰っていないから、その為の呼び出しだと思ったのだが…?
でも、それなら…事付けを頼めば済む話だ。
態々国王陛下から呼び出しはないはず…?
僕は何もわからないまま、国王陛下の前に跪いた。
「慱殿を呼び出したのは他でもない…実は明日に異なる世界の召喚者のお披露目があるのは知っているか?」
「はい、存じております。」
《あー…とうとうこの話が来たか…》
「国を挙げての救世主様召喚を実行して、見事に勇者が誕生した。 明日はその発表の日なのだ。」
《あー大体この後の話の展開が予想出来るな…》
「【勇者】・【聖女】・【剣聖】・【賢者】のこの4つのジョブは、【魔王】に対抗できる為の人々の希望だったのだ。」
《うんうん、素晴らしいジョブだよね。 わかります、わかりますよー》
「だが、ここに予想外の出来事があった。 慱殿の存在だ。」
《はいはい、何となく予想が出来ていました。》
「国民に発表をする際に、救世主様達のステータスも提示しなければならないのだ。」
《はぁ…確かに、僕のステータスは表示出来んわな。》
「現在の状況では、国民達は強い英雄を求めている。 【魔王】に対抗できる強い英雄を…」
《回りくどい言い方してないで、さっさと本題を言え!》
「さすがに国民に、【器用貧乏】という意味不明のジョブやレベル1でHP100しかなく、ステータスが正体不明という怪しい人間を紹介する訳にはいかない。 それが例え救世主様であってもだ。 国民は落胆してしまうだろう。」
《はい、予想通りですね。 んで、この後は僕以外の召喚者を公表して、僕はいない者として扱われるのね》
「なので、ダン殿には2つの選択肢を提示しよう。 1つは、公表をしない代わりに城の中での生活を許す。 ただこの場合、他の救世主様達が【魔王】を討伐するまで城外には一切出られないという選択肢と… もう1つは、国外に出る事を許可するが、【魔王】が討伐されるまで国に戻る事が出来ないという選択肢だ。」
《随分思い切った選択肢だな…? 翔也達が【魔王】を討伐するまで何年掛かるか解らないのに、その間は城から出られないだと?》
国王は、慱に課したこの選択肢のどちらを選ぶかが解っていた。
好奇心旺盛な若者が、【魔王】を討伐するまで何年掛かるか解らないのに城から一切出られないという選択は取らないと思っているからだ。
ならば必然的に国を出る事を選択するだろう…と。
国王は、苦渋の選択をした様な顔をしながら、口元では笑っていた。
慱はもう答えは出ていた…が、ここであえて質問をした。
「あの陛下、そういえばテストはどうなったのですか?」
「今更テストなど必要か? テストというのは、こうじ…コホン、もう過ぎた話だ。」
《このおっさん、開き直りやがったな! しかも口実って言おうとしたな…ンノヤロウ!》
慱はにこやかな顔をして、腹の中で毒づいた。
幸い国外追放されても地図や街、村などの把握は出来ている。
それにこうなる事を予想して前もって準備もしてあった。
「では、国を出る事を選択します。 短い間でしたが、城に置いてくださりありがとうございました。」
「うむ…【魔王】が討伐された後にまた会おう!」
僕は立ち上がると、後方にある玉座の間の扉が勢いよく開いた。
そこには翔也達が息を切らして立っていた。
「待ってください陛下! 何故、慱だけ国外追放なのですか!?」
「翔也殿か、もうこれは決定事項なのだ。」
「納得できません! 慱が…慱がいなければ俺達は…」
「もう良いよ、翔也。 これは決まった事なんだ。 僕の事を思ってくれるのなら、さっさと【魔王】を倒してくれ!」
僕は翔也の肩に手を置くとそう言った。
翔也は納得できない顔で俯いた。
僕は扉を出ると、料理長がそこにいた。
「先生! 俺はまだまだ先生に教えを戴かないと…」
「料理長、僕は貴方に一通りの事は教えました。 あとは試行錯誤を重ねて完成に至って下さい。」
僕はそう言って城の出口に向かって歩き出した。
すると、今度はメイド達が僕を送り出してくれた。
僕は手を上げて別れの挨拶をすると、メイド達は無言で頭を下げた。
僕は階段を下りて菜園を通った。
すると、庭師頭のトムさんが野菜を箱に詰めて待っていた。
僕は軽い雑談をして、野菜のお礼をした。
そして野菜を【球体魔法】に収納した。
出口に近づいていくと、そこにはアルカディア王女がいた。
「先立つ物は必要ですよ…」といって、この世界の通貨が入っている袋を渡してくれた。
中身を見る様な真似はしないが、ずっしりとしていた。
僕はお礼をすると、「良き旅を!」と言って送り出してくれた。
みんな…解っていたんだな…。
たった数日だったが、城の中の人達とはすっかり仲良くなっていた。
城の出口を出た所に、ヴァルガンが立っていた。
「街に着いたら冒険者ギルドを訪ねて下さい。」そう言って手紙を渡してくれた。
僕はお礼をして、ヴァルガンと別れた。
城門に近付くと、華奈と飛鳥と賢斗がいた。
飛鳥と賢斗は無言で抱きしめてくれた。
そして華奈は、何も言わず僕にそっとキスをした。
《この場に翔也が居なくて良かった…》
僕は翔也に対して申し訳ない気持ちになった。
「いつか、またどこかで会えるさ! またね!」
そういって僕は城門を出ると、城門は重い音たてて閉まった。
さて…?
夢にまで見た異世界冒険!
どんな出会いと発見があるのか、今から楽しみで仕方がない!
僕はテルシア王国外にある、サーディリアン聖王国のカイナンに向かって歩き始めた。
果たして慱にはこの先、どの様な冒険が待ち受けているのだろうか?
~~~~~慱が旅立ってから翌日~~~~~
慱がテルシア王国から旅立った翌日。
国王陛下は、国民達に異なる世界の救世主である勇者達一行を紹介した。
国民達は、【魔王】を倒してくれる希望の勇者達に歓喜の声を上げた。
国民達は、国を挙げて盛大な宴が行われた。
~~~~~~その夜・王城内の会議室にて~~~~~
アルカディア王女とテルセラ、料理長と庭師頭のトムは頭を悩ませていた…。
国王陛下は、御機嫌な表情で会議室に入ってきた。
慱を見事追い出し、御満悦な状態だった。
「どうした、何か暗いぞ! こんなにめでたい日に何を暗い顔をしているのだ!」
みんなは国王陛下の顔を見ると、大きなため息をついた。
アルカディア王女は陛下に話した。
「お父様、何故慱様を追い出したりしたのですか?」
「またその話か…もう過ぎた話にいつまでも拘るんじゃない!」
アルカディアは額を押さえて溜息をついた。
「良いですか、お父様はテルシア王国にとって大切な人を追い出したのですよ!」
「慱殿がか? 彼は、レベル1だし…現在においては勇者様達の中で足を引っ張る存在だろう? 別にいなくても良いだろう。」
「救世主様召喚を行った際に、他の勇者様達は取り乱しているにもかかわらず、慱様は冷静に会話が出来ました。 あの年齢で見ず知らずの土地での会話を冷静に出来る人なんてそうはおりません。」
「あのくらいの年齢で冷静に話が出来るからと言って、別におかしなことでもないだろう?」
料理長が発言をしようと手を上げた。
「ここ最近の料理の質が上がったのは、先生…慱殿のおかげなのです。」
「確かにここ最近の料理は凄く美味だった…が?」
するとアルカディア王女が言い出した。
「これは勇者様達に話を聞いたのですが、勇者様達の世界では一般に料理を作る事がありますが、調味料などは店で手に入るらしいのです。」
「ふむ…で?」
「ところが慱様は、それらの調味料を自分で手作りが出来る能力があるというのです。」
「そんな事、料理長にも出来るだろう?」
「いえ、出来ません。 スープなどは完成品を見ながら、味を研究したりして再現は出来ましたが、調味料の類は一切出来ませんでした。」
「別に調味料なんて大したことはないだろう?」
「それが大いにあるのです。 慱様の作る調味料は、この世界にはまだ見た事ない物ばかりです。 それらがこのテルシア王国で作り各国に流通するようになれば、国益が増え、経済はもっと潤う事になっていたでしょう。」
戦いともなれば強い戦士は必要だろう…。
だけど、その戦士や騎士を戦に送り出すにしても資金は掛かるのである。
お父様は、戦に対する知識は豊富なのだけど、お金を稼ぐ事に対してはあまり得意ではなかった。
「あー… 国王よ、わしも1つ良いか?」
「お、どうしたトムじい?」
「慱殿の作る肥料なんだが、これは今までに無い位に植物が育つというのは報告したのだが…」
「うむ、それは聞いて居るが?」
「実は肥料だけじゃなかったのじゃ。 慱殿の生活魔法で作られた水は、メイド達の生活魔法の水とは違い、不純物がなく純度がありえないくらいに澄んでいたのだ。 その水を使って植物を育てると、爆発的な成長と収穫量あるのじゃ。」
「なら、慱殿が居なくなったという事は?」
「当然、収穫量は減るじゃろう。 肥料も改善されているから当初の様な収穫量が少ないという事はないのだが、それでも今よりも格段に収穫量は減る予想じゃ。」
「ワシも良いですかな?」
「テルセラよ、何だ?」
「何から話してよいか…実は慱殿なのだが、ジョブ判定の際にはスキルが5つだったのだが、城から出る際にギルドカードを見せて貰ったのだが、7つに増えておった。 スキルが1つとユニークスキルというのがな。」
「エクストラスキルと普通のスキル以外に別なスキルがあったのか!?」
「スキル確認は本人でしか知りえないが、この世界にも無い…それどころか、勇者様達以上のスキル持ちを手放してしまい、残念に思っておる。」
「だが、ダン殿のスキルは戦闘ではあまり役に立たぬだろう?」
「陛下はダン殿の生活魔法を御覧になってないからそんな事が言えるのじゃ。 確かにケント殿に比べたら威力が落ちるでしょうが、それでも中級…いや、上級にも近い威力を持っている魔法もありました。」
「ムムム…」
ダン殿が菜園の手伝いをして収穫量の話が増えた事や、料理長に料理を教えて質が上がったという話も聞いていたが、今更ながら手放したのはおしいと感じ始めた。
戦闘に期待するあまり、慱殿を無能扱いしてしまったが、他にも優れていた物はあったのだな…。
余も目が曇っていたらしい。
「あ、それと最後に1つ」
「なんだテルセラよ?」
「慱殿を追い出した事により、陛下は騎士達とメイド達に反感を買っておられる。 気を付けられよ…」
「な…なんだと!?」
そうして、会議室から皆が出ていき…国王陛下だけが残った。
この先、国王陛下の運命は…?
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