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第四章 あれ? おかしくないかな?
第九話 アクード馬鹿王子・完結編
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アクードはエルティナス伯爵親子を探す為に、雪原の中を移動していた。
まだ寒冷期に入る前だというのに、吹雪が凄くて視界が悪かった。
だが、雪が積もっているが…薄っすらと足跡らしき物を発見した。
その後を追って進んで行くと、不自然に雪が盛り上がっていたのを発見した。
「まさか…倒れてそのままか?」
盛り上がった雪をどかして行くと、そこにはメルティが横たわっていた。
アクードは急いでスコップで雪山を作ってから中に穴を掘ってかまくらを作った。
吹雪いてくる方向とは逆側に入り口を作ったので、雪が入り込む事は無く、逆にかまくらに上に雪が積もって行くので余程の事が無い限り崩れる事は無い。
これは、冒険者の先輩から習った知恵だった。
アクードはかまくらの中にメルティを入れてから、焚火に火をつけてメルティを傍に置いた。
メルティは、体温がかなり下がっていたが命に別状は無かった。
「いま…お湯も沸かしているからな! 沸くまで少し待っていてくれ!」
そしてお湯が沸くと、アクードはメルティの口に冷ました白湯を少しずつ飲ませた。
メルティの顔は徐々に赤みを帯びて行ったが、まだ目が覚める事は無かった。
「それにしても…エルティナス伯爵はメルティを置いて行ったのか? 自分の娘だろうに…何を考えているんだ?」
アクードは薪を追加して燃やしてから、吹雪の中を再び歩いて行った。
すると、また不自然に雪が盛り上がっている物を発見した。
アクードは雪を掻き分けて行くと、そこにはエルティナス伯爵夫人が冷たくなっていたのだった。
急いで首もとに手を当てたが、脈はなく事切れていた。
「エルティナス伯爵夫人が近くにいるという事は、伯爵も近くにいる筈…?」
近くを探してみたが、吹雪が凄い為に遠くまで見える訳ではない。
だが微かに伯爵の叫び声が聞こえて来た。
その声を追って辿り着いてみると…そこにはクレバスに下半身がハマっていて、腕には植物の根っこらしきものが絡んでいるエルティナス伯爵を発見したのだった。
「大丈夫か? エルティナス伯爵‼」
「アクード王子…私はこの地を甘く見ていました。 娘が倒れているにも拘らず、後ろから着いて来ている物だと思っていたら姿が見えず…妻もばたりと倒れてしまい助けを呼ぼうと彷徨っていたら…」
「この辺はクレバスが多いし、この中に落ちたら生きては出られない奈落の底の様な場所だ! いま、引き上げるが…」
そう言ってアクードは、エルティナス伯爵の腕を掴んで引き上げようとした。
だが思った以上に重く感じた。
「エルティナス伯爵! 反対側の腕に何か重い物でも持っているのか?」
「はい、金貨の入っている鞄を持っています…」
「そんな物は捨ててしまえ! 金なら街でも稼ごうと思えば稼げる!」
「ですが、これは私の全財産です! なので、まずは鞄を受け取っては貰えませんか?」
エルティナス伯爵は、反対側の腕を持ち上げて鞄をアクードに渡した。
アクードはニヤリと笑ってから鞄を横に置くと、エルティナス伯爵の腕を放してから…顔面に蹴りを入れてクレバスに落として行った。
そして近くにいた夫人も伯爵が落ちて行ったクレバスに放り込んだ。
「エルティナス伯爵…お前が悪いんだよ! あんな大金を見せびらかしたりするから…まぁ、この金は有効活用してやるさ! どうせお前は、そこから出られないんだしな! せめてもの情けで夫人を一緒の溝に落としておいたからな!」
冒険者の先輩の話では、クレバスに落ちたらまず助からない…
氷の壁は掴む場所が無く登る事も出来ないという話だからだ。
万が一落ちても命が助かっていたとしても、溝の下は現在地よりも極寒な場所である為に数分しか持たないという話だ。
なので、人を始末するには丁度良い場所だった。
「ついでにもう1つ教えて置いてやるよ! 俺は王位に未練が無い訳ではないが、ノワールの向かった場所がセルヴィース山と聞いた時点で探すのは諦めた。 戻っても王位を継げないのなら、この地で生きてやるさ…それと、お前の娘も金と一緒に有効活用してやるよ! 最近仕事ばかりでご無沙汰だったから、丁度良い相手だからな!」
どうせ聞こえてはいないとは思うが、最後の報告だけはしておいた。
アクードはその場から離れて、かまくらの場所に戻って行った。
すると、メルティはかなり赤みを増していた。
これなら、もう大丈夫だろうと思いながら目が覚めるまで待った。
「ん…んん? アクード様?」
「メルティ…意識が…もう大丈夫だ!」
俺はメルティを安心させる様に微笑んで見せた。
すると、メルティは辺りを見渡して言った。
「お父様とお母様は何処ですか?」
「2人は…」
メルティが倒れてから2人は近くを彷徨って建物が無いかを探していたらしいが、クレバスという溝から落ちて近くにはこの鞄があったと伝えておいた。
そして俺は…「助けられなくて済まない…」というと、メルティは俺の元に飛び込んできて泣いていた。
俺は安心させる為に抱きしめた。
すると、服の上からでもメルティの体の形は解っている。
今すぐ事に及びたい所だが、ここはあえて我慢をし…吹雪が弱まるまで待った。
「アクード様、私は街に帰る前に両親が落ちた場所に行ってみたいです!」
「いまは…というか、この時期はやめておこう。 寒冷期を過ぎれば吹雪も無くなるから、その時に案内をしよう。 それまで待ってはくれないか?」
「わかりました! では、その時に…」
アクードは、メルティに肩を貸してやりながら…ノースホイントの街に戻った。
エルティナス伯爵のカバンの中には、金貨1200枚入っており…その金の半分で家を購入してからそこにメルティと2人で住む事になった。
それからのアクードの生活は多少の変化が起こった。
いままで宿暮らしだったが、もう金を支払う事をしなくても済む生活を送る様になっていった。
だが、仕事をしないと持っている金もいずれは尽きてしまう…雪かきの仕事は続けて行った。
そしてメルティも、ノースホイントの住人達と打ち解けて、料理を教わったり雪国ならではの仕事を行って行き…アクードとメルティはいつの間にか夫婦の様な生活を送って行った。
「よし、そろそろ良いかな?」
アクードは、寝る時にメルティを自分のベッドに誘った。
メルティが両親の死に伏している感じがしたので手を出さなかったが、最近では笑う様になってきたので誘ってみた。
するとメルティは、心を許してくれたみたいで…久々に女性の体を楽しむ事が出来たアクードだった。
そんな生活が3か月続き、寒冷期が終わる間近のある日…メルティは家の中を掃除していると、父親の鞄からある魔道具を取り出した。
何に使う物か解らなかったので適当に触っていると、スイッチが入ったみたいで父親の声が聞こえて来た。
その声を聴いた瞬間…メルティは涙を流したのだった。
・・・・・・・・・それから数日後・・・・・・・・・
寒冷期が終わり、アクードとメルティはエルティナス伯爵夫婦が落ちたという場所に花を持って訪れた。
穴の手前でメルティは、花を置いてから両手会わせて祈っていた。
そしてメルティは、アクードにも祈って欲しいと言って穴の手前で手を合わせてとお願いをした。
アクードは穴の手前で手を合わせて祈っていると、突然体を押されてクレバスの溝に落とされた。
だが、アクードは咄嗟に掴んだ木の根のお陰で下半身は溝の中だったが、上半身はなんとか免れた。
状況的に言えば、あの時のエルティナス伯爵と同じ状態だった。
「メルティ! 何をする⁉」
「アクード様…これが何か解りますか?」
メルティは、ポケットから取り出した魔道具を見せて言った。
「それは…良く解らない。」
「これは、声を記憶する魔道具で…あの時、お父様を手に掛けたアクード様とお父様の会話が記憶されていたんです。」
メルティは魔道具を再生すると、アクードの顔は一瞬にして青ざめていた。
まさか、あの時の会話が残っているとは思わなかったからだ。
メルティは、アクードが掴んでいる木の根に持っていたナイフで切れ目を入れた。
そしてメルティは、アクードの顔に蹴りを入れながら言った。
「アクード様…いえ、アクード! その穴に落ちてから、下にいるお父様に詫びを入れなさい!」
「調子に乗るなぁ‼」
アクードは、木の根を掴んでいる反対側の腕でメルティの足を掴むと、溝に引き込んでから落とした。
そう思っていたが、メルティは落ちる瞬間にアクードの左足首を掴んでいた。
アクードは右足でメルティに蹴りを入れて引き剥がそうとするが、メルティは足に爪が食い込むくらいに掴んでいて離さなかった。
アクードは右手の木の根を見ると、徐々に斬り込みを入れた部分が広がって行った。
「メルティ! 離せ‼ このままでは2人共落ちるだろ⁉」
「アクード…私は離しません! 一緒に落ちて私の両親にあの世で詫びて下さい‼」
「嫌だ‼ メルティ、早く離せ…離してくれぇ‼」
切れ目はどんどん広がって行った。
アクードの重さだけなら何とかなったが、メルティの重さが加わると広がり方も早かった。
そして、切れ目が遂に離れて…2人はそのまま奈落と呼ばれる溝の中に落ちて行った。
…かなりの高さから落ちた筈だったが、アクードは右腕の骨折だけで済んだ。
アクードの下には、潰れたメルティが横たわっていた。
左足首には、メルティの手が掴んでいたが…それをすぐに離すと上を見た。
「一度落ちたら二度と上がれない、奈落の底とはよく言った物だな…」
周りを見ると、薄っすら青く光っていた。
上からの光が反射して底でも若干明るかった。
だが、異常なまでに気温が低い場所でもあった。
「こんな場所に落ちたら、死体も凍ったままだよな?」
すぐそこにはメルティの死体があるが、3か月前に落ちたエルティナス伯爵夫婦の死体は無かった。
この場所では、腐る事が無くそのまま保存されていると思った。
「まさか…生きているとか?」
さすがにそれは無いだろう。
この寒さの中で3か月も生きられる筈がないからだ。
とはいえ、このままでは自分も凍死してしまう…どうしたら良いか?
そう考えていると、奥の方から呻き声が聞こえて来た。
その声はこちらに近付いてきている感じだった。
「なんだ? 何かいるのか⁉」
背後に気配を感じると、メルティがいつの間にか立ち上がっていた。
そして奥からの呻き声は…エルティナス伯爵夫婦だった。
「な…なんで? コイツ等って、まさか…⁉」
この世界では、安らかな死を迎えた者は天に招かれ…無念な死を遂げた者はグールとなって地上を徘徊するという話があった。
そのグールは、悪い子供は襲われるという話だった。
アクードは子供の頃に聞かされた話だったのだが、それは躾ける為の嘘だとばかり思っていた。
だが、現実に目の前にはそのグールがいる…アクードは助けを呼びながら必死に走って逃げて行った。
だが、道は行き止まりなっており…背後を見るとエルティナス伯爵親子が迫って来て…アクードは抵抗をしたが…抵抗も虚しく、生きたままエルティナス伯爵親子に喰われていったのだった。
その後そのグールたちは…どうなったのかは、誰も知らない…
・・・・・・・・・アクード編・完・・・・・・・・・
まだ寒冷期に入る前だというのに、吹雪が凄くて視界が悪かった。
だが、雪が積もっているが…薄っすらと足跡らしき物を発見した。
その後を追って進んで行くと、不自然に雪が盛り上がっていたのを発見した。
「まさか…倒れてそのままか?」
盛り上がった雪をどかして行くと、そこにはメルティが横たわっていた。
アクードは急いでスコップで雪山を作ってから中に穴を掘ってかまくらを作った。
吹雪いてくる方向とは逆側に入り口を作ったので、雪が入り込む事は無く、逆にかまくらに上に雪が積もって行くので余程の事が無い限り崩れる事は無い。
これは、冒険者の先輩から習った知恵だった。
アクードはかまくらの中にメルティを入れてから、焚火に火をつけてメルティを傍に置いた。
メルティは、体温がかなり下がっていたが命に別状は無かった。
「いま…お湯も沸かしているからな! 沸くまで少し待っていてくれ!」
そしてお湯が沸くと、アクードはメルティの口に冷ました白湯を少しずつ飲ませた。
メルティの顔は徐々に赤みを帯びて行ったが、まだ目が覚める事は無かった。
「それにしても…エルティナス伯爵はメルティを置いて行ったのか? 自分の娘だろうに…何を考えているんだ?」
アクードは薪を追加して燃やしてから、吹雪の中を再び歩いて行った。
すると、また不自然に雪が盛り上がっている物を発見した。
アクードは雪を掻き分けて行くと、そこにはエルティナス伯爵夫人が冷たくなっていたのだった。
急いで首もとに手を当てたが、脈はなく事切れていた。
「エルティナス伯爵夫人が近くにいるという事は、伯爵も近くにいる筈…?」
近くを探してみたが、吹雪が凄い為に遠くまで見える訳ではない。
だが微かに伯爵の叫び声が聞こえて来た。
その声を追って辿り着いてみると…そこにはクレバスに下半身がハマっていて、腕には植物の根っこらしきものが絡んでいるエルティナス伯爵を発見したのだった。
「大丈夫か? エルティナス伯爵‼」
「アクード王子…私はこの地を甘く見ていました。 娘が倒れているにも拘らず、後ろから着いて来ている物だと思っていたら姿が見えず…妻もばたりと倒れてしまい助けを呼ぼうと彷徨っていたら…」
「この辺はクレバスが多いし、この中に落ちたら生きては出られない奈落の底の様な場所だ! いま、引き上げるが…」
そう言ってアクードは、エルティナス伯爵の腕を掴んで引き上げようとした。
だが思った以上に重く感じた。
「エルティナス伯爵! 反対側の腕に何か重い物でも持っているのか?」
「はい、金貨の入っている鞄を持っています…」
「そんな物は捨ててしまえ! 金なら街でも稼ごうと思えば稼げる!」
「ですが、これは私の全財産です! なので、まずは鞄を受け取っては貰えませんか?」
エルティナス伯爵は、反対側の腕を持ち上げて鞄をアクードに渡した。
アクードはニヤリと笑ってから鞄を横に置くと、エルティナス伯爵の腕を放してから…顔面に蹴りを入れてクレバスに落として行った。
そして近くにいた夫人も伯爵が落ちて行ったクレバスに放り込んだ。
「エルティナス伯爵…お前が悪いんだよ! あんな大金を見せびらかしたりするから…まぁ、この金は有効活用してやるさ! どうせお前は、そこから出られないんだしな! せめてもの情けで夫人を一緒の溝に落としておいたからな!」
冒険者の先輩の話では、クレバスに落ちたらまず助からない…
氷の壁は掴む場所が無く登る事も出来ないという話だからだ。
万が一落ちても命が助かっていたとしても、溝の下は現在地よりも極寒な場所である為に数分しか持たないという話だ。
なので、人を始末するには丁度良い場所だった。
「ついでにもう1つ教えて置いてやるよ! 俺は王位に未練が無い訳ではないが、ノワールの向かった場所がセルヴィース山と聞いた時点で探すのは諦めた。 戻っても王位を継げないのなら、この地で生きてやるさ…それと、お前の娘も金と一緒に有効活用してやるよ! 最近仕事ばかりでご無沙汰だったから、丁度良い相手だからな!」
どうせ聞こえてはいないとは思うが、最後の報告だけはしておいた。
アクードはその場から離れて、かまくらの場所に戻って行った。
すると、メルティはかなり赤みを増していた。
これなら、もう大丈夫だろうと思いながら目が覚めるまで待った。
「ん…んん? アクード様?」
「メルティ…意識が…もう大丈夫だ!」
俺はメルティを安心させる様に微笑んで見せた。
すると、メルティは辺りを見渡して言った。
「お父様とお母様は何処ですか?」
「2人は…」
メルティが倒れてから2人は近くを彷徨って建物が無いかを探していたらしいが、クレバスという溝から落ちて近くにはこの鞄があったと伝えておいた。
そして俺は…「助けられなくて済まない…」というと、メルティは俺の元に飛び込んできて泣いていた。
俺は安心させる為に抱きしめた。
すると、服の上からでもメルティの体の形は解っている。
今すぐ事に及びたい所だが、ここはあえて我慢をし…吹雪が弱まるまで待った。
「アクード様、私は街に帰る前に両親が落ちた場所に行ってみたいです!」
「いまは…というか、この時期はやめておこう。 寒冷期を過ぎれば吹雪も無くなるから、その時に案内をしよう。 それまで待ってはくれないか?」
「わかりました! では、その時に…」
アクードは、メルティに肩を貸してやりながら…ノースホイントの街に戻った。
エルティナス伯爵のカバンの中には、金貨1200枚入っており…その金の半分で家を購入してからそこにメルティと2人で住む事になった。
それからのアクードの生活は多少の変化が起こった。
いままで宿暮らしだったが、もう金を支払う事をしなくても済む生活を送る様になっていった。
だが、仕事をしないと持っている金もいずれは尽きてしまう…雪かきの仕事は続けて行った。
そしてメルティも、ノースホイントの住人達と打ち解けて、料理を教わったり雪国ならではの仕事を行って行き…アクードとメルティはいつの間にか夫婦の様な生活を送って行った。
「よし、そろそろ良いかな?」
アクードは、寝る時にメルティを自分のベッドに誘った。
メルティが両親の死に伏している感じがしたので手を出さなかったが、最近では笑う様になってきたので誘ってみた。
するとメルティは、心を許してくれたみたいで…久々に女性の体を楽しむ事が出来たアクードだった。
そんな生活が3か月続き、寒冷期が終わる間近のある日…メルティは家の中を掃除していると、父親の鞄からある魔道具を取り出した。
何に使う物か解らなかったので適当に触っていると、スイッチが入ったみたいで父親の声が聞こえて来た。
その声を聴いた瞬間…メルティは涙を流したのだった。
・・・・・・・・・それから数日後・・・・・・・・・
寒冷期が終わり、アクードとメルティはエルティナス伯爵夫婦が落ちたという場所に花を持って訪れた。
穴の手前でメルティは、花を置いてから両手会わせて祈っていた。
そしてメルティは、アクードにも祈って欲しいと言って穴の手前で手を合わせてとお願いをした。
アクードは穴の手前で手を合わせて祈っていると、突然体を押されてクレバスの溝に落とされた。
だが、アクードは咄嗟に掴んだ木の根のお陰で下半身は溝の中だったが、上半身はなんとか免れた。
状況的に言えば、あの時のエルティナス伯爵と同じ状態だった。
「メルティ! 何をする⁉」
「アクード様…これが何か解りますか?」
メルティは、ポケットから取り出した魔道具を見せて言った。
「それは…良く解らない。」
「これは、声を記憶する魔道具で…あの時、お父様を手に掛けたアクード様とお父様の会話が記憶されていたんです。」
メルティは魔道具を再生すると、アクードの顔は一瞬にして青ざめていた。
まさか、あの時の会話が残っているとは思わなかったからだ。
メルティは、アクードが掴んでいる木の根に持っていたナイフで切れ目を入れた。
そしてメルティは、アクードの顔に蹴りを入れながら言った。
「アクード様…いえ、アクード! その穴に落ちてから、下にいるお父様に詫びを入れなさい!」
「調子に乗るなぁ‼」
アクードは、木の根を掴んでいる反対側の腕でメルティの足を掴むと、溝に引き込んでから落とした。
そう思っていたが、メルティは落ちる瞬間にアクードの左足首を掴んでいた。
アクードは右足でメルティに蹴りを入れて引き剥がそうとするが、メルティは足に爪が食い込むくらいに掴んでいて離さなかった。
アクードは右手の木の根を見ると、徐々に斬り込みを入れた部分が広がって行った。
「メルティ! 離せ‼ このままでは2人共落ちるだろ⁉」
「アクード…私は離しません! 一緒に落ちて私の両親にあの世で詫びて下さい‼」
「嫌だ‼ メルティ、早く離せ…離してくれぇ‼」
切れ目はどんどん広がって行った。
アクードの重さだけなら何とかなったが、メルティの重さが加わると広がり方も早かった。
そして、切れ目が遂に離れて…2人はそのまま奈落と呼ばれる溝の中に落ちて行った。
…かなりの高さから落ちた筈だったが、アクードは右腕の骨折だけで済んだ。
アクードの下には、潰れたメルティが横たわっていた。
左足首には、メルティの手が掴んでいたが…それをすぐに離すと上を見た。
「一度落ちたら二度と上がれない、奈落の底とはよく言った物だな…」
周りを見ると、薄っすら青く光っていた。
上からの光が反射して底でも若干明るかった。
だが、異常なまでに気温が低い場所でもあった。
「こんな場所に落ちたら、死体も凍ったままだよな?」
すぐそこにはメルティの死体があるが、3か月前に落ちたエルティナス伯爵夫婦の死体は無かった。
この場所では、腐る事が無くそのまま保存されていると思った。
「まさか…生きているとか?」
さすがにそれは無いだろう。
この寒さの中で3か月も生きられる筈がないからだ。
とはいえ、このままでは自分も凍死してしまう…どうしたら良いか?
そう考えていると、奥の方から呻き声が聞こえて来た。
その声はこちらに近付いてきている感じだった。
「なんだ? 何かいるのか⁉」
背後に気配を感じると、メルティがいつの間にか立ち上がっていた。
そして奥からの呻き声は…エルティナス伯爵夫婦だった。
「な…なんで? コイツ等って、まさか…⁉」
この世界では、安らかな死を迎えた者は天に招かれ…無念な死を遂げた者はグールとなって地上を徘徊するという話があった。
そのグールは、悪い子供は襲われるという話だった。
アクードは子供の頃に聞かされた話だったのだが、それは躾ける為の嘘だとばかり思っていた。
だが、現実に目の前にはそのグールがいる…アクードは助けを呼びながら必死に走って逃げて行った。
だが、道は行き止まりなっており…背後を見るとエルティナス伯爵親子が迫って来て…アクードは抵抗をしたが…抵抗も虚しく、生きたままエルティナス伯爵親子に喰われていったのだった。
その後そのグールたちは…どうなったのかは、誰も知らない…
・・・・・・・・・アクード編・完・・・・・・・・・
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