39 / 63
第四章 あれ? おかしくないかな?
第九話 アクード馬鹿王子・完結編
しおりを挟む
アクードはエルティナス伯爵親子を探す為に、雪原の中を移動していた。
まだ寒冷期に入る前だというのに、吹雪が凄くて視界が悪かった。
だが、雪が積もっているが…薄っすらと足跡らしき物を発見した。
その後を追って進んで行くと、不自然に雪が盛り上がっていたのを発見した。
「まさか…倒れてそのままか?」
盛り上がった雪をどかして行くと、そこにはメルティが横たわっていた。
アクードは急いでスコップで雪山を作ってから中に穴を掘ってかまくらを作った。
吹雪いてくる方向とは逆側に入り口を作ったので、雪が入り込む事は無く、逆にかまくらに上に雪が積もって行くので余程の事が無い限り崩れる事は無い。
これは、冒険者の先輩から習った知恵だった。
アクードはかまくらの中にメルティを入れてから、焚火に火をつけてメルティを傍に置いた。
メルティは、体温がかなり下がっていたが命に別状は無かった。
「いま…お湯も沸かしているからな! 沸くまで少し待っていてくれ!」
そしてお湯が沸くと、アクードはメルティの口に冷ました白湯を少しずつ飲ませた。
メルティの顔は徐々に赤みを帯びて行ったが、まだ目が覚める事は無かった。
「それにしても…エルティナス伯爵はメルティを置いて行ったのか? 自分の娘だろうに…何を考えているんだ?」
アクードは薪を追加して燃やしてから、吹雪の中を再び歩いて行った。
すると、また不自然に雪が盛り上がっている物を発見した。
アクードは雪を掻き分けて行くと、そこにはエルティナス伯爵夫人が冷たくなっていたのだった。
急いで首もとに手を当てたが、脈はなく事切れていた。
「エルティナス伯爵夫人が近くにいるという事は、伯爵も近くにいる筈…?」
近くを探してみたが、吹雪が凄い為に遠くまで見える訳ではない。
だが微かに伯爵の叫び声が聞こえて来た。
その声を追って辿り着いてみると…そこにはクレバスに下半身がハマっていて、腕には植物の根っこらしきものが絡んでいるエルティナス伯爵を発見したのだった。
「大丈夫か? エルティナス伯爵‼」
「アクード王子…私はこの地を甘く見ていました。 娘が倒れているにも拘らず、後ろから着いて来ている物だと思っていたら姿が見えず…妻もばたりと倒れてしまい助けを呼ぼうと彷徨っていたら…」
「この辺はクレバスが多いし、この中に落ちたら生きては出られない奈落の底の様な場所だ! いま、引き上げるが…」
そう言ってアクードは、エルティナス伯爵の腕を掴んで引き上げようとした。
だが思った以上に重く感じた。
「エルティナス伯爵! 反対側の腕に何か重い物でも持っているのか?」
「はい、金貨の入っている鞄を持っています…」
「そんな物は捨ててしまえ! 金なら街でも稼ごうと思えば稼げる!」
「ですが、これは私の全財産です! なので、まずは鞄を受け取っては貰えませんか?」
エルティナス伯爵は、反対側の腕を持ち上げて鞄をアクードに渡した。
アクードはニヤリと笑ってから鞄を横に置くと、エルティナス伯爵の腕を放してから…顔面に蹴りを入れてクレバスに落として行った。
そして近くにいた夫人も伯爵が落ちて行ったクレバスに放り込んだ。
「エルティナス伯爵…お前が悪いんだよ! あんな大金を見せびらかしたりするから…まぁ、この金は有効活用してやるさ! どうせお前は、そこから出られないんだしな! せめてもの情けで夫人を一緒の溝に落としておいたからな!」
冒険者の先輩の話では、クレバスに落ちたらまず助からない…
氷の壁は掴む場所が無く登る事も出来ないという話だからだ。
万が一落ちても命が助かっていたとしても、溝の下は現在地よりも極寒な場所である為に数分しか持たないという話だ。
なので、人を始末するには丁度良い場所だった。
「ついでにもう1つ教えて置いてやるよ! 俺は王位に未練が無い訳ではないが、ノワールの向かった場所がセルヴィース山と聞いた時点で探すのは諦めた。 戻っても王位を継げないのなら、この地で生きてやるさ…それと、お前の娘も金と一緒に有効活用してやるよ! 最近仕事ばかりでご無沙汰だったから、丁度良い相手だからな!」
どうせ聞こえてはいないとは思うが、最後の報告だけはしておいた。
アクードはその場から離れて、かまくらの場所に戻って行った。
すると、メルティはかなり赤みを増していた。
これなら、もう大丈夫だろうと思いながら目が覚めるまで待った。
「ん…んん? アクード様?」
「メルティ…意識が…もう大丈夫だ!」
俺はメルティを安心させる様に微笑んで見せた。
すると、メルティは辺りを見渡して言った。
「お父様とお母様は何処ですか?」
「2人は…」
メルティが倒れてから2人は近くを彷徨って建物が無いかを探していたらしいが、クレバスという溝から落ちて近くにはこの鞄があったと伝えておいた。
そして俺は…「助けられなくて済まない…」というと、メルティは俺の元に飛び込んできて泣いていた。
俺は安心させる為に抱きしめた。
すると、服の上からでもメルティの体の形は解っている。
今すぐ事に及びたい所だが、ここはあえて我慢をし…吹雪が弱まるまで待った。
「アクード様、私は街に帰る前に両親が落ちた場所に行ってみたいです!」
「いまは…というか、この時期はやめておこう。 寒冷期を過ぎれば吹雪も無くなるから、その時に案内をしよう。 それまで待ってはくれないか?」
「わかりました! では、その時に…」
アクードは、メルティに肩を貸してやりながら…ノースホイントの街に戻った。
エルティナス伯爵のカバンの中には、金貨1200枚入っており…その金の半分で家を購入してからそこにメルティと2人で住む事になった。
それからのアクードの生活は多少の変化が起こった。
いままで宿暮らしだったが、もう金を支払う事をしなくても済む生活を送る様になっていった。
だが、仕事をしないと持っている金もいずれは尽きてしまう…雪かきの仕事は続けて行った。
そしてメルティも、ノースホイントの住人達と打ち解けて、料理を教わったり雪国ならではの仕事を行って行き…アクードとメルティはいつの間にか夫婦の様な生活を送って行った。
「よし、そろそろ良いかな?」
アクードは、寝る時にメルティを自分のベッドに誘った。
メルティが両親の死に伏している感じがしたので手を出さなかったが、最近では笑う様になってきたので誘ってみた。
するとメルティは、心を許してくれたみたいで…久々に女性の体を楽しむ事が出来たアクードだった。
そんな生活が3か月続き、寒冷期が終わる間近のある日…メルティは家の中を掃除していると、父親の鞄からある魔道具を取り出した。
何に使う物か解らなかったので適当に触っていると、スイッチが入ったみたいで父親の声が聞こえて来た。
その声を聴いた瞬間…メルティは涙を流したのだった。
・・・・・・・・・それから数日後・・・・・・・・・
寒冷期が終わり、アクードとメルティはエルティナス伯爵夫婦が落ちたという場所に花を持って訪れた。
穴の手前でメルティは、花を置いてから両手会わせて祈っていた。
そしてメルティは、アクードにも祈って欲しいと言って穴の手前で手を合わせてとお願いをした。
アクードは穴の手前で手を合わせて祈っていると、突然体を押されてクレバスの溝に落とされた。
だが、アクードは咄嗟に掴んだ木の根のお陰で下半身は溝の中だったが、上半身はなんとか免れた。
状況的に言えば、あの時のエルティナス伯爵と同じ状態だった。
「メルティ! 何をする⁉」
「アクード様…これが何か解りますか?」
メルティは、ポケットから取り出した魔道具を見せて言った。
「それは…良く解らない。」
「これは、声を記憶する魔道具で…あの時、お父様を手に掛けたアクード様とお父様の会話が記憶されていたんです。」
メルティは魔道具を再生すると、アクードの顔は一瞬にして青ざめていた。
まさか、あの時の会話が残っているとは思わなかったからだ。
メルティは、アクードが掴んでいる木の根に持っていたナイフで切れ目を入れた。
そしてメルティは、アクードの顔に蹴りを入れながら言った。
「アクード様…いえ、アクード! その穴に落ちてから、下にいるお父様に詫びを入れなさい!」
「調子に乗るなぁ‼」
アクードは、木の根を掴んでいる反対側の腕でメルティの足を掴むと、溝に引き込んでから落とした。
そう思っていたが、メルティは落ちる瞬間にアクードの左足首を掴んでいた。
アクードは右足でメルティに蹴りを入れて引き剥がそうとするが、メルティは足に爪が食い込むくらいに掴んでいて離さなかった。
アクードは右手の木の根を見ると、徐々に斬り込みを入れた部分が広がって行った。
「メルティ! 離せ‼ このままでは2人共落ちるだろ⁉」
「アクード…私は離しません! 一緒に落ちて私の両親にあの世で詫びて下さい‼」
「嫌だ‼ メルティ、早く離せ…離してくれぇ‼」
切れ目はどんどん広がって行った。
アクードの重さだけなら何とかなったが、メルティの重さが加わると広がり方も早かった。
そして、切れ目が遂に離れて…2人はそのまま奈落と呼ばれる溝の中に落ちて行った。
…かなりの高さから落ちた筈だったが、アクードは右腕の骨折だけで済んだ。
アクードの下には、潰れたメルティが横たわっていた。
左足首には、メルティの手が掴んでいたが…それをすぐに離すと上を見た。
「一度落ちたら二度と上がれない、奈落の底とはよく言った物だな…」
周りを見ると、薄っすら青く光っていた。
上からの光が反射して底でも若干明るかった。
だが、異常なまでに気温が低い場所でもあった。
「こんな場所に落ちたら、死体も凍ったままだよな?」
すぐそこにはメルティの死体があるが、3か月前に落ちたエルティナス伯爵夫婦の死体は無かった。
この場所では、腐る事が無くそのまま保存されていると思った。
「まさか…生きているとか?」
さすがにそれは無いだろう。
この寒さの中で3か月も生きられる筈がないからだ。
とはいえ、このままでは自分も凍死してしまう…どうしたら良いか?
そう考えていると、奥の方から呻き声が聞こえて来た。
その声はこちらに近付いてきている感じだった。
「なんだ? 何かいるのか⁉」
背後に気配を感じると、メルティがいつの間にか立ち上がっていた。
そして奥からの呻き声は…エルティナス伯爵夫婦だった。
「な…なんで? コイツ等って、まさか…⁉」
この世界では、安らかな死を迎えた者は天に招かれ…無念な死を遂げた者はグールとなって地上を徘徊するという話があった。
そのグールは、悪い子供は襲われるという話だった。
アクードは子供の頃に聞かされた話だったのだが、それは躾ける為の嘘だとばかり思っていた。
だが、現実に目の前にはそのグールがいる…アクードは助けを呼びながら必死に走って逃げて行った。
だが、道は行き止まりなっており…背後を見るとエルティナス伯爵親子が迫って来て…アクードは抵抗をしたが…抵抗も虚しく、生きたままエルティナス伯爵親子に喰われていったのだった。
その後そのグールたちは…どうなったのかは、誰も知らない…
・・・・・・・・・アクード編・完・・・・・・・・・
まだ寒冷期に入る前だというのに、吹雪が凄くて視界が悪かった。
だが、雪が積もっているが…薄っすらと足跡らしき物を発見した。
その後を追って進んで行くと、不自然に雪が盛り上がっていたのを発見した。
「まさか…倒れてそのままか?」
盛り上がった雪をどかして行くと、そこにはメルティが横たわっていた。
アクードは急いでスコップで雪山を作ってから中に穴を掘ってかまくらを作った。
吹雪いてくる方向とは逆側に入り口を作ったので、雪が入り込む事は無く、逆にかまくらに上に雪が積もって行くので余程の事が無い限り崩れる事は無い。
これは、冒険者の先輩から習った知恵だった。
アクードはかまくらの中にメルティを入れてから、焚火に火をつけてメルティを傍に置いた。
メルティは、体温がかなり下がっていたが命に別状は無かった。
「いま…お湯も沸かしているからな! 沸くまで少し待っていてくれ!」
そしてお湯が沸くと、アクードはメルティの口に冷ました白湯を少しずつ飲ませた。
メルティの顔は徐々に赤みを帯びて行ったが、まだ目が覚める事は無かった。
「それにしても…エルティナス伯爵はメルティを置いて行ったのか? 自分の娘だろうに…何を考えているんだ?」
アクードは薪を追加して燃やしてから、吹雪の中を再び歩いて行った。
すると、また不自然に雪が盛り上がっている物を発見した。
アクードは雪を掻き分けて行くと、そこにはエルティナス伯爵夫人が冷たくなっていたのだった。
急いで首もとに手を当てたが、脈はなく事切れていた。
「エルティナス伯爵夫人が近くにいるという事は、伯爵も近くにいる筈…?」
近くを探してみたが、吹雪が凄い為に遠くまで見える訳ではない。
だが微かに伯爵の叫び声が聞こえて来た。
その声を追って辿り着いてみると…そこにはクレバスに下半身がハマっていて、腕には植物の根っこらしきものが絡んでいるエルティナス伯爵を発見したのだった。
「大丈夫か? エルティナス伯爵‼」
「アクード王子…私はこの地を甘く見ていました。 娘が倒れているにも拘らず、後ろから着いて来ている物だと思っていたら姿が見えず…妻もばたりと倒れてしまい助けを呼ぼうと彷徨っていたら…」
「この辺はクレバスが多いし、この中に落ちたら生きては出られない奈落の底の様な場所だ! いま、引き上げるが…」
そう言ってアクードは、エルティナス伯爵の腕を掴んで引き上げようとした。
だが思った以上に重く感じた。
「エルティナス伯爵! 反対側の腕に何か重い物でも持っているのか?」
「はい、金貨の入っている鞄を持っています…」
「そんな物は捨ててしまえ! 金なら街でも稼ごうと思えば稼げる!」
「ですが、これは私の全財産です! なので、まずは鞄を受け取っては貰えませんか?」
エルティナス伯爵は、反対側の腕を持ち上げて鞄をアクードに渡した。
アクードはニヤリと笑ってから鞄を横に置くと、エルティナス伯爵の腕を放してから…顔面に蹴りを入れてクレバスに落として行った。
そして近くにいた夫人も伯爵が落ちて行ったクレバスに放り込んだ。
「エルティナス伯爵…お前が悪いんだよ! あんな大金を見せびらかしたりするから…まぁ、この金は有効活用してやるさ! どうせお前は、そこから出られないんだしな! せめてもの情けで夫人を一緒の溝に落としておいたからな!」
冒険者の先輩の話では、クレバスに落ちたらまず助からない…
氷の壁は掴む場所が無く登る事も出来ないという話だからだ。
万が一落ちても命が助かっていたとしても、溝の下は現在地よりも極寒な場所である為に数分しか持たないという話だ。
なので、人を始末するには丁度良い場所だった。
「ついでにもう1つ教えて置いてやるよ! 俺は王位に未練が無い訳ではないが、ノワールの向かった場所がセルヴィース山と聞いた時点で探すのは諦めた。 戻っても王位を継げないのなら、この地で生きてやるさ…それと、お前の娘も金と一緒に有効活用してやるよ! 最近仕事ばかりでご無沙汰だったから、丁度良い相手だからな!」
どうせ聞こえてはいないとは思うが、最後の報告だけはしておいた。
アクードはその場から離れて、かまくらの場所に戻って行った。
すると、メルティはかなり赤みを増していた。
これなら、もう大丈夫だろうと思いながら目が覚めるまで待った。
「ん…んん? アクード様?」
「メルティ…意識が…もう大丈夫だ!」
俺はメルティを安心させる様に微笑んで見せた。
すると、メルティは辺りを見渡して言った。
「お父様とお母様は何処ですか?」
「2人は…」
メルティが倒れてから2人は近くを彷徨って建物が無いかを探していたらしいが、クレバスという溝から落ちて近くにはこの鞄があったと伝えておいた。
そして俺は…「助けられなくて済まない…」というと、メルティは俺の元に飛び込んできて泣いていた。
俺は安心させる為に抱きしめた。
すると、服の上からでもメルティの体の形は解っている。
今すぐ事に及びたい所だが、ここはあえて我慢をし…吹雪が弱まるまで待った。
「アクード様、私は街に帰る前に両親が落ちた場所に行ってみたいです!」
「いまは…というか、この時期はやめておこう。 寒冷期を過ぎれば吹雪も無くなるから、その時に案内をしよう。 それまで待ってはくれないか?」
「わかりました! では、その時に…」
アクードは、メルティに肩を貸してやりながら…ノースホイントの街に戻った。
エルティナス伯爵のカバンの中には、金貨1200枚入っており…その金の半分で家を購入してからそこにメルティと2人で住む事になった。
それからのアクードの生活は多少の変化が起こった。
いままで宿暮らしだったが、もう金を支払う事をしなくても済む生活を送る様になっていった。
だが、仕事をしないと持っている金もいずれは尽きてしまう…雪かきの仕事は続けて行った。
そしてメルティも、ノースホイントの住人達と打ち解けて、料理を教わったり雪国ならではの仕事を行って行き…アクードとメルティはいつの間にか夫婦の様な生活を送って行った。
「よし、そろそろ良いかな?」
アクードは、寝る時にメルティを自分のベッドに誘った。
メルティが両親の死に伏している感じがしたので手を出さなかったが、最近では笑う様になってきたので誘ってみた。
するとメルティは、心を許してくれたみたいで…久々に女性の体を楽しむ事が出来たアクードだった。
そんな生活が3か月続き、寒冷期が終わる間近のある日…メルティは家の中を掃除していると、父親の鞄からある魔道具を取り出した。
何に使う物か解らなかったので適当に触っていると、スイッチが入ったみたいで父親の声が聞こえて来た。
その声を聴いた瞬間…メルティは涙を流したのだった。
・・・・・・・・・それから数日後・・・・・・・・・
寒冷期が終わり、アクードとメルティはエルティナス伯爵夫婦が落ちたという場所に花を持って訪れた。
穴の手前でメルティは、花を置いてから両手会わせて祈っていた。
そしてメルティは、アクードにも祈って欲しいと言って穴の手前で手を合わせてとお願いをした。
アクードは穴の手前で手を合わせて祈っていると、突然体を押されてクレバスの溝に落とされた。
だが、アクードは咄嗟に掴んだ木の根のお陰で下半身は溝の中だったが、上半身はなんとか免れた。
状況的に言えば、あの時のエルティナス伯爵と同じ状態だった。
「メルティ! 何をする⁉」
「アクード様…これが何か解りますか?」
メルティは、ポケットから取り出した魔道具を見せて言った。
「それは…良く解らない。」
「これは、声を記憶する魔道具で…あの時、お父様を手に掛けたアクード様とお父様の会話が記憶されていたんです。」
メルティは魔道具を再生すると、アクードの顔は一瞬にして青ざめていた。
まさか、あの時の会話が残っているとは思わなかったからだ。
メルティは、アクードが掴んでいる木の根に持っていたナイフで切れ目を入れた。
そしてメルティは、アクードの顔に蹴りを入れながら言った。
「アクード様…いえ、アクード! その穴に落ちてから、下にいるお父様に詫びを入れなさい!」
「調子に乗るなぁ‼」
アクードは、木の根を掴んでいる反対側の腕でメルティの足を掴むと、溝に引き込んでから落とした。
そう思っていたが、メルティは落ちる瞬間にアクードの左足首を掴んでいた。
アクードは右足でメルティに蹴りを入れて引き剥がそうとするが、メルティは足に爪が食い込むくらいに掴んでいて離さなかった。
アクードは右手の木の根を見ると、徐々に斬り込みを入れた部分が広がって行った。
「メルティ! 離せ‼ このままでは2人共落ちるだろ⁉」
「アクード…私は離しません! 一緒に落ちて私の両親にあの世で詫びて下さい‼」
「嫌だ‼ メルティ、早く離せ…離してくれぇ‼」
切れ目はどんどん広がって行った。
アクードの重さだけなら何とかなったが、メルティの重さが加わると広がり方も早かった。
そして、切れ目が遂に離れて…2人はそのまま奈落と呼ばれる溝の中に落ちて行った。
…かなりの高さから落ちた筈だったが、アクードは右腕の骨折だけで済んだ。
アクードの下には、潰れたメルティが横たわっていた。
左足首には、メルティの手が掴んでいたが…それをすぐに離すと上を見た。
「一度落ちたら二度と上がれない、奈落の底とはよく言った物だな…」
周りを見ると、薄っすら青く光っていた。
上からの光が反射して底でも若干明るかった。
だが、異常なまでに気温が低い場所でもあった。
「こんな場所に落ちたら、死体も凍ったままだよな?」
すぐそこにはメルティの死体があるが、3か月前に落ちたエルティナス伯爵夫婦の死体は無かった。
この場所では、腐る事が無くそのまま保存されていると思った。
「まさか…生きているとか?」
さすがにそれは無いだろう。
この寒さの中で3か月も生きられる筈がないからだ。
とはいえ、このままでは自分も凍死してしまう…どうしたら良いか?
そう考えていると、奥の方から呻き声が聞こえて来た。
その声はこちらに近付いてきている感じだった。
「なんだ? 何かいるのか⁉」
背後に気配を感じると、メルティがいつの間にか立ち上がっていた。
そして奥からの呻き声は…エルティナス伯爵夫婦だった。
「な…なんで? コイツ等って、まさか…⁉」
この世界では、安らかな死を迎えた者は天に招かれ…無念な死を遂げた者はグールとなって地上を徘徊するという話があった。
そのグールは、悪い子供は襲われるという話だった。
アクードは子供の頃に聞かされた話だったのだが、それは躾ける為の嘘だとばかり思っていた。
だが、現実に目の前にはそのグールがいる…アクードは助けを呼びながら必死に走って逃げて行った。
だが、道は行き止まりなっており…背後を見るとエルティナス伯爵親子が迫って来て…アクードは抵抗をしたが…抵抗も虚しく、生きたままエルティナス伯爵親子に喰われていったのだった。
その後そのグールたちは…どうなったのかは、誰も知らない…
・・・・・・・・・アクード編・完・・・・・・・・・
10
お気に入りに追加
1,419
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。
黎
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています

婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。
拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。
辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~
紫月 由良
恋愛
辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。
魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる