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本編

最終話 中編

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 私は歩き始めた…瞬間にすっ転んだ。

 別に歩き方を忘れたというわけではなく、この身体は筋力が殆ど無かった。

 私は水魔法で鏡を創り出して姿を写した。

 姿は確かに世界樹になる前の物だったけど、変化が見られるとしたら…?

 銀髪だった髪の色が深緑の様な緑に変わっていた事と、瞳の色も緑色に変化していた事くらいだった。

 「知り合いに会ったとして…私だって分かるかしら?」

 私は筋力の無い足で歩こうとしても、ゼーヴェンス王国までは辿り着けそうも無いので…風魔法の浮遊魔法を施して地面から30cmくらい浮いた状態で移動を始めた。

 「これは楽ね!」

 私はゼーヴェンス王国に近付くにつれて…遠くから見えるゼーヴェンス王国に違和感を感じていた。

 明らかに知っている景色とは異なっていたからだった。

 「本当に…数十年なんだよね?」

 どう考えても…数百年は経過している様な感じがする。

 そんな事を考えていると、世界樹になった後にパケットが報告してくれた事を思い出した。

 私が世界樹になってから、魔物や魔獣に被害が極度に減ったという事を…

 以前は街や村には良く魔物の襲撃があった。

 その度に街や村では警備の為に、囲いの強化や城壁の強化を行っていて、街中をどうこうする時間は無かったという話だった。

 「魔物は完全にいなくなったわけでは無いけど、魔物の襲撃が無いのなら街も発展くらいはするよね。」

 ただ…本当に何年経過しているかが分からなかった私は、城下街にあるルーナリア先生のお店のバーンシュタット魔法道具店に赴いた。

 お店に入ると、可愛らしいケットシーの女の子が出迎えてくれた。

 その女の子は…どこかしらルーナリア先生に面影があった。

 「いらっしゃいませ~今日は何をお求めになられましたか?」

 「こちらにルーナリア様はいらっしゃいますか?」

 「祖母ですか…祖母は2年前に他界致しました。」

 私は衝撃を受けた。

 あのルーナリア先生はもうこの世にはいないという事に…

 私はその場で立っていられなくなり、泣き崩れてしまった。

 すると、ルーナリア先生のお孫さんが私に寄り添ってくれた。

 暫くして…私は落ち着くことが出来た。

 お孫さんは私の様子を見て、お店を急遽閉店にして話を聞いてくれた。

 そしてお孫さんは私をルーナリア先生のお墓の前に連れて来てくれて、話をし始めた。

 「そうですか…貴女が聖女マーテルリア様だったのですね。 祖母は生前に言っておりました、私の弟子は世界を救った偉大な人物だったと。」

 「私は女神様によって世界樹から解放されて、人の姿に戻れたから会いたい人に会いに来たのに…」

 お孫さんの話によると、私が世界樹になってから60年の月日が流れていたという話だった。

 ルーナリア先生はもうこの世にはいない…

 そしてレオナリアさんも4年前に亡くなられていた。

 それ以外にも、国王夫妻は1人息子であるファステスを失ってから王族を退き…私の実家であるフローレンス家のテリス兄様が王族に就任されて国王になり、ジャミル兄様はフローレンス家を継ぐ事になったという話だった。

 現在の国王陛下はテリス兄様の息子が国王となり、テリス兄様も3年前に他界したという話だった。

 ジャミル兄様はフローレンス公爵家でまだ生きてはいるが、病に臥せっていて誰とも話ができる状態では無いという話だった。

 当然だけど、私の両親も既に他界していて…私の事を知っている人はジャミル兄様しかいなかった。

 私はルーナリア先生の墓前で祈りを捧げると、すぐにフローレンス公爵家に移動をした。

 私は懐かしいフローレンス公爵家に到着すると、仮に名を明かしたところですんなり受け入れて貰えるわけがないので、マリアという偽名を名乗って病を癒せる魔法を使える者としてジャミル兄様の元に案内をされた。

 ベッドで寝てるジャミル兄様は、私の知っているジャミル兄様の姿では無かった。

 私はすぐにジャミル兄様に聖女の癒しの魔法を施すと、先程までに苦しみの表情をしていたのが穏やかな表情になっていった。

 「これで大丈夫だと思います…」

 私はそう言ったけど、これだと話をする前に追い出される可能性があったので…暫く経過観察をしたいという事でフローレンス公爵家に留まる許可を得た。

 そして私は公爵家の中を歩いていると、私の部屋の前に着いた。

 扉には当然だが鍵が掛かっていた。

 私はその扉に手を触れていると、執事が血相を抱えて私の元に来た。

 「旦那様がお目覚めになられました…が、突然苦しみ出して…すぐに来てもらえますか?」

 私は執事と共にジャミル兄様の部屋に向うと、そこにはジャミル兄様の家族が集まっていた。

 元々は病によって身体がかなり弱っていたし、寿命もそれほど長くはなかったのだろう。

 私はそれでも言葉を交わしたくて何とか癒しの魔法を施していたのだけれど、ジャミル兄様は私の手を取ってから首を横に振って言った。

 「妹に良く似た者よ、私の寿命はもう残り少ないのは分かっている…」

 そう言って癒しの魔法を拒否された。

 私は妹のマーテルリアだと叫びたかった。

 でも、とても話を出来る状態ではなかった。

 ジャミル兄様は最期に集まった家族に別れを告げると、穏やかな表情でそっと息を引き取った。

 こうして…私を知る者の最期の人物が言葉を交わせずにこの世から旅立って行った。

 私は「御力に添えることが出来なくて申し訳ありません。」と言うと、ジャミル兄様の息子が私に…

 「病で長年苦しんでいた父が穏やかな表情で旅立って行けたのは貴女のおかげです。」

 …そう言ってくれた。

 私は深くお辞儀をしてからフローレンス公爵家から去って行った。

 それから私はショックのあまり、フラフラと彷徨っていた。

 これから何をしようか?

 そんな事を考えられる余裕も無く、白い花が咲き誇る高台で私は座り込んでいた。

 この世にはもう…私の事を知る人物はいない。

 そう思っていたのに、後ろから私を呼ぶ声が聞こえて来た。

 でも、私は振り返る気力も無かった。

 すると、その声は私の肩に触れて言って来た。

 「やっぱり…リアじゃない! 探したわよ‼︎」

 聞き慣れた懐かしい声、私は振り返ると…そこに居たのは⁉︎
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