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「え…、何、お前。次の会議10階だけど階段で行くの?」
「あ、村瀬。お疲れ。うん、階段で行こっかなって」
エレベーターホールの前で同じ会議に向かう同期の檜山に偶然会う。ちなみにここは3階で、10階までは7階分も登る必要がある。
「やめとけよ。もう会議まで2分しかないんだから、ほら」
到着したエレベーターに乗り込み、『開』のボタンを押しながら、檜山が乗るのを待つ。
「あの、でも、あたし…」
「早く。俺まで遅刻する」
「う、うん…っ」
そう急かし、檜山が乗ったのを確認して扉を閉めた。
15時から新製品のマーケティング会議。同期の檜山は企画部のエースで、今日も北米市場の今後の戦略の提案を任されている。
檜山は新人の頃から可愛いと話題だった。しかし、容姿も仕事も完璧な彼女は口説く隙が全くなく、同期が何人も告白しては玉砕し、諦めていた。
何を隠そう俺も惚れかけた一人だったが、その気がない奴を口説くほどの熱意もなく、それが幸いしたのか、入社から5年経った今では、同期としてそれなりに信頼されている(と思う)。
◇
「外、すごい夕立だな…」
「そうだね…」
ガラス張りのエレベーター。窓の向こうは昼間にもかかわらず分厚い雨雲で真っ暗で、激しい雨が降っている。
会議中、停電でもしないといいけど…
いや、どうせなら長時間停電してくれた方が、仕事をサボれていいのかもしれない。
なんて思ったその瞬間だった。
「きゃあ…っ!」
窓の外で稲妻が光り、電気が消えてエレベーターが突然止まった。
と同時に、檜山が俺の胸に飛び込んできて、そのまま壁に押し付けられた。
「え…、なにお前、雷怖いの?」
「ご、ごめ…っ」
「いや、いいけど…」
慌てて体を離そうとした檜山を見て、そのまま抱き寄せる。俺のシャツを掴んだ指先が小さく震えていた。
「震えてるじゃん。エレベーターが復帰するまでいいよ、そこにいて」
「あ、ありがとう…」
雷が落ちるたび、檜山の肩がビクっと震える。この状況でこのガラス張りのエレベーターはこれ以上ない恐怖だろう。
そうか、だから階段で行こうとしていたのか…。誘って申し訳ないことをした。
◇
幸いにも停電はほんの数十秒で復帰し、エレベーターを降りると檜山は安堵したように深呼吸をした。
青白い顔色に心配したが、その後の会議では何事もなかったように平静を取り戻した檜山が、いつも通り、隙のないプレゼンをこなしていた。
エレベーターの中で抱き寄せた檜山の感触が、なんだか妙に残っていた。
「あ、村瀬。お疲れ。うん、階段で行こっかなって」
エレベーターホールの前で同じ会議に向かう同期の檜山に偶然会う。ちなみにここは3階で、10階までは7階分も登る必要がある。
「やめとけよ。もう会議まで2分しかないんだから、ほら」
到着したエレベーターに乗り込み、『開』のボタンを押しながら、檜山が乗るのを待つ。
「あの、でも、あたし…」
「早く。俺まで遅刻する」
「う、うん…っ」
そう急かし、檜山が乗ったのを確認して扉を閉めた。
15時から新製品のマーケティング会議。同期の檜山は企画部のエースで、今日も北米市場の今後の戦略の提案を任されている。
檜山は新人の頃から可愛いと話題だった。しかし、容姿も仕事も完璧な彼女は口説く隙が全くなく、同期が何人も告白しては玉砕し、諦めていた。
何を隠そう俺も惚れかけた一人だったが、その気がない奴を口説くほどの熱意もなく、それが幸いしたのか、入社から5年経った今では、同期としてそれなりに信頼されている(と思う)。
◇
「外、すごい夕立だな…」
「そうだね…」
ガラス張りのエレベーター。窓の向こうは昼間にもかかわらず分厚い雨雲で真っ暗で、激しい雨が降っている。
会議中、停電でもしないといいけど…
いや、どうせなら長時間停電してくれた方が、仕事をサボれていいのかもしれない。
なんて思ったその瞬間だった。
「きゃあ…っ!」
窓の外で稲妻が光り、電気が消えてエレベーターが突然止まった。
と同時に、檜山が俺の胸に飛び込んできて、そのまま壁に押し付けられた。
「え…、なにお前、雷怖いの?」
「ご、ごめ…っ」
「いや、いいけど…」
慌てて体を離そうとした檜山を見て、そのまま抱き寄せる。俺のシャツを掴んだ指先が小さく震えていた。
「震えてるじゃん。エレベーターが復帰するまでいいよ、そこにいて」
「あ、ありがとう…」
雷が落ちるたび、檜山の肩がビクっと震える。この状況でこのガラス張りのエレベーターはこれ以上ない恐怖だろう。
そうか、だから階段で行こうとしていたのか…。誘って申し訳ないことをした。
◇
幸いにも停電はほんの数十秒で復帰し、エレベーターを降りると檜山は安堵したように深呼吸をした。
青白い顔色に心配したが、その後の会議では何事もなかったように平静を取り戻した檜山が、いつも通り、隙のないプレゼンをこなしていた。
エレベーターの中で抱き寄せた檜山の感触が、なんだか妙に残っていた。
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