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プロローグ 沖縄と不思議な猫
6 不思議な男性は吉田さん
しおりを挟む美しい男性が立っていた。
その男性はなんというのか人間離れした雰囲気が漂っていた。サラサラの少し長めの柔らかそうな茶色ぽい髪の毛。猫の目のような丸くて大きなくりっとした瞳。
あ、夢に出てくる声の主のあの目に似ているんだ。そう思った。わたしは、思わずその男性の顔をじっと見つめてしまった。すると、その猫の目のような丸くて大きなくりっとした瞳と目が合った。
なぜだかドキっとした。
あ、Tシャツの柄がハイビスカスだ。男性にしては綺麗なその顔とTシャツの真ん中にでーんとハイビスカスの花が咲いていてなんだか可笑しくなる。
わたしが、男性の顔とTシャツに描かれているハイビスカスに気をとられていると、みどりちゃんが、「あ、面接に来ました」とシャッターに張られている張り紙を指差して言った。
「面接の方ですか、それはようこそ」
男性は笑った。その目は猫が寝ている時のように細くなり可愛らしい。
男性は、「どうぞ」と言って扉を開いた。
「失礼します」みどりちゃんが店内に入った。
わたしも慌てて「失礼します」と言って後に続いた。
店内に入ると古書のよい匂いがした。懐かしい匂いだ。学生時代に通った図書館の匂いを思い出し懐かしさとあの頃のキラキラした輝きが甦ってきた。
過去は美しくて辛いことも全部幸せな思い出に変換出来るから不思議だ。あの頃に戻りたいなと一瞬思った。わたしは学生時代も今も変わらずドジばかりだと言うのに。
店内には木製の書棚が並び本がずらずらーと並んでいた。木の温もりが感じられていいなと思った。
ここでわたしは働きたい。
この店内の雰囲気はわたしの心を落ち着かせる。
「少々お待ちください。あ、好きな席に座って待っていてくださいね」
男性はそう言って奥にある部屋に入って行った。
「みどりちゃん、ドキドキするね」
わたしは近くにある木製の椅子をギギーッと引きながら言った。机の上にはシーサーの置物が置いてありそのシーサーはにんまりと笑っていた。
「うん、そうだね真理子。ちょっと緊張するね」
流石のみどりちゃんでも緊張するようだ。
ふふっ、このシーサーの置物可愛らしいな大きな口を開けて笑っている。
「お待たせしました」
わたしがシーサーの頭をよしよしと撫でていると男性がお盆を持ち戻ってきた。
「お茶でも飲んでください」
男性は良い香りのするティーカップをわたしとみどりちゃんの前に置いた。ティーカップから甘酸っぱい香りがふわふわと漂ってきた。
「これは何のお茶ですか?」
わたしは、鮮やかな赤色のお茶を見ながら聞いた。
「これはハイビスカスティーですよ。お茶でも飲みながらゆっくりお話をしましょう」
男性はそう答えながら椅子に腰を下ろした。
赤色の鮮やかなハイビスカスティーは甘酸っぱくて良い香りがしてとても美味しかった。
「美味しいですか?」
男性はくりっとした目を細めて笑った。猫みたいで可愛くてなかなかのイケメンだなと思い眺めた。
「美味しいですよ。とっても落ち着きます」
みどりちゃんが言った。
「美味しいです。もう良い香りでリラックス効果があって眠ってしまいそうですよ」
わたしは甘酸っぱい香りに包まれて眠たくなってきた。
「あははっ、寝ないでくださいよ。一応面接ですよ。自己紹介がまだでしたね。僕は、吉田吉助《よしだきちすけ》です。よろしくお願いします」
男性こと吉田さんはにっこりと笑った。その顔はやっぱり猫に似ていた。
「平凡な苗字に古風な名前ですね。あ、言ってしまった……」
わたしは、まずいと思い口に手を当てた。
「平凡な苗字に古風な名前ってはっきりと言いますね」
吉田さんはじーっとわたしを睨んだ。その顔は猫が拗ねた時の表情に似ていている。
みどりちゃんもチラリと睨んでくるのだから怖い。
「……あ、あははっ、すみません」
「まあ、いいですよ。それでお嬢さんお名前は?」
「梅木真理子《うめきまりこ》です。よろしくお願いします」
わたしは元気よく答えた。
「ふーん、梅木真理子さんですね。真理子さんってよくあるお名前ですよね~」
吉田さんは、真理子の名前の部分を強調して発音した。
「真理子がすみません。わたしは、並木《なみき》みどりです。よろしくお願いします」
みどりちゃんはぺこりと頭を下げた。
「並木みどりさんは礼儀正しいお嬢さんですね」
そう言って吉田さんはわたしのことをちらりと見てそれからクスクス笑った。
わたしとみどりちゃんは慌てて履歴書を吉田さんに渡した。
すると吉田さんは、履歴書にさーっと目を通し、「梅木さん、並木さん合格、採用です」とあっさり言った。
「……えっ、合格採用ですか?」とわたし。
「……あの、面接は?」とみどりちゃん。
わたしもみどりちゃんも呆気に取られてぽかーんとした。
「はい、採用です。面接は必要ありません。この店をお二人に任せますので頑張ってくださいね」
吉田さんはニコニコと笑っている。
わたしとみどりちゃんも吉田さんの笑顔につられてニコニコ笑顔になった。
こうして、わたしとみどりちゃんは古書カフェ店の店長としてめでたく働くことになった。
そう、働くことになったのだけど。
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