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 バァァァァン!!

 「ただいま」

 「おかえり~」

 「イマノオトハナンダ!?」

 「お前には関係ない。とりあえずお前の船に連れて行け。道中に聞く事が山程ある。後で答え合わせするが全て本当の事ならば腕を治してやる」

 「フン。ナオストイッテモキレタウデハナオラナイ」

 「お前がオレにどんな事を思うかは知らないが、オレが治せると言えば治せるんだよ。薬の件がどうなってるかは知らないが、壊血病が治った奴も居たんだろう?ならばそういう事だ。オレは偽薬は売らない。なんの利もないからな。まぁいいや。行くぞ」

 道中はそりゃまぁ白い目で見られる。素浪人らしき男からは・・・

 「おぅ!おぅ!南蛮人なんかに負けるなよ!」

 「殺れ!殺れ!」

 と、別に殺気を出してるわけでもないのに煽られる始末だ。まぁ気にしないけど。それに、往来の人もなんぞヒソヒソ話が聞こえるが気にしない。

 海に近付くと、キャラック船という種類の船だろうか。一隻だけ一際大きな船が鎮座してあった。後は、小早や安宅船のような小型の船ばかりだ。筋肉隆々の男達が多い。

 このタンパク質の少ない食の時代であんなに筋肉隆々になるのは素直に凄い事だと思う。

 「Henrique! ? E aí! ?」
 
 「Onde está o capitão?」

 前からやってきた外国人が腕を斬った男に話しかけてきた。ポルトガル語か。オレは言語理解があるから意味が分かる。

 「エンリケ!?どうしたんだ!?」

 「問題ない。キャプテンはどこだ?」

 「問題ないってお前・・・それにその黄色い猿と女はどうした!?女はポルトガル人か!?」

 「ゴホンッ。あんまり舐めた事を言うなよ?意味も分かるし、オレもポルトガル語くらい使える」

 「「!?!?!?!?!?」」

 「言葉もでないのか?早く案内しろ。余計な事をすればお前達は消し炭にしてやるぞ」

 オレは再び威圧スキルをマックスで放つ。

 グワァッ

 「クッ・・・キャプテンは・・・船の中だ・・・」

 「案内しろ。例の偽薬の件で来た。オレが桃源郷の山岡尊だ」

 「・・・分かった」

 まず、腕を斬ったエンリケという男に道中、色々聞いた。

 巷で少し有名な飯も美味く、女は少し歳食ってるが、風呂もあり薬屋も併設している春町があると。

 この船の船員の身分が上の奴だけ数人が桃源郷で遊んだらしい。遊んだ奴等はカタコトだが日本語が話せる人達だけだったそうだ。

 オレが岐阜に行っている間にそれなりにお金は落としたらしい。スーラに任せっきりだったけど。そして、池さんや朱音さん達が居る薬屋の方では、薬の他にも石鹸、砂糖、醤油、異世界の果物なんかも置いてある。

 それらを相当数買ったみたいだ。品質もピカイチに良く、特にハイポーション。誰が見ても助からないというような船員も薬を飲ませてると、忽ち回復したそうだ。

 その、薬も銭、300文と初回の人は安く売っている。船員はこぞって購入したそうだ。誰も船の上で死にたくないだろうし、そもそも壊血病が何故起こるのかも分かっていないだろう。

 その薬の噂はすぐに広がり、明の商船の奴達も買いに来たらしい。すぐに在庫がなくなったそうだ。オレが岐阜に居るから補填はできなかったからな。だが、そこで'誰か'がハイポーションがあると言い、その偽薬が出回っている。それが今回の事象だ。

 まぁそもそも薬といっても売っている薬はある程度効果を抑えている。極力、下々の人にも体調が悪ければ薬を飲んだりしてもらいたいからだ。この時代の薬は訳の分からない丸薬の薬が殆どだ。中には本物も存在するだろうが、鉛を飲んだりとか意味の分からない薬や、切り傷に馬糞とかも存在したりする。

 ポルトガル船員が購入した薬は、切り傷くらいは即座に治るハーフポーションと怪我や病気もある程度治るポーション、そこそこの怪我や病気も治るハイポーション、欠損や不治の病まで治るキュアポーションだ。つまり、キュアハイポーションとエリクサー以外は全部購入したらしい。


 「コッチダ」

 小舟に乗り、キャラック船に梯子で乗り移る。日本人のオレと、外見だけ外国人のイシュを見て、船員は驚いている。いや・・・敵意が凄い向けられている。

 (イシュ?帰ったら風呂に入ろう。ここは汚い。不潔だ)

 (私も思っていた。病原菌までいそうだね)

 念話でそんな事を話していると、如何にもって男が現れた。

 「オマエカ。トウゲンキョウのヤマオカトイウノハ」

 「あぁ。オレが店主の山岡尊だ。偽薬の件で来た。その薬とは誰から買った物だ?」

 「フン。トリアエズナカヘハイレ。ハナシハソレカラダ」

 汚い甲板を通り、船室に向かう。とにかく臭い。

 だが、こんな不潔な場所から男女の声が聞こえた。

 「ドウダ!?ウン?キイロイサルナンカヨリイイダロウ」

 「ヒィ~!ヒィ~!堪忍してや・・・」

 どこの誰かは分からないが、嫌がる感じではなく明らかに客と嬢って感じだからオレは聞こえない振りをした。無理矢理ならこの船を沈めているところだ。


 「ハイッテクレ」

 男がカタコトの日本語で言う。部屋は・・・まぁうん。臭い。臭いがそれなりだ。本当に此奴の船室ぽい。ただ、マリア像が一体置いてあるだけだ。

 「まず最初に言っておく。カタコトでも日本語を話せるのは凄い事だ。そこは褒めておく。だが、オレもポルトガルの言葉くらい話せる。齟齬があるといけないから、お前の国の言語で話してやる」

 「なんと!?我がポルトガル・アルガルヴェ王国の言葉を話せるのか!?」

 初めて知った。ポルトガルの正式名称を。いや、今はそんな事は良い。さっさとこの件を片付けて、夜にはカレーを食べたい。

 「そんな事はどうでもいい。単刀直入に言う。あんた等がオレの薬屋に来て薬を買った。最初は効果が現れたが、偽薬もあったと聞いたが?」

 「その通りだ。その薬のせいで同胞が5人死んだ。その落とし前はどうつけるつもりだ?」

 「落とし前もなにもオレが売った薬で偽物なら何とでもしてやるが、素性の知らない奴から『これ!桃源郷の薬だ!』なんて買った物まで面倒は見れん。偽物丸出しじゃないか」

 「だが、出所はお前の所だ。お前の責任だ」

 「ふん。まぁ仮にオレの責任だとしてあんたの望む落とし前とは?」

 オレは興味本位で聞いてみる。

 「薬の製法、材料を教えろ。俺も医術を少し学んだ者だ。あの薬が奇跡を起こした事は否応でも認めねばならぬ。我がポルトガル王国でもあれ程の薬はまだ作れない」

 「結局はそこか。で、オレがそれを拒否すればどうなる?」

 「チッ。我が国の言葉を話す者とはやりにくい。俺はイエズス会の一員でプロクラドールのアレックスだ。こちらも単刀直入に言おう。俺達はイエズス会の活動資金を得るためにここ堺まで来ている」

 プロクラドール・・・確か、本国から遠く離れた日本では中々援助が得られないから、国王や教皇から許可を貰ったイエズス会が商業貿易に参入したんだっけ?そいつ等の事をプロクラドールって習ったような・・・。

 「話が見えん。さっさと結論を言え」

 「偽薬然り、同胞の手を斬ったお前の罪は重い。我がポルトガル国王の名の下にお前に薬の製法を公開するよう命ずる!」

 「舐めてんのか?まずあの男は人身売買をして、オレに短筒を向け、且つ、撃って来たから腕を斬り落とした。まずここでその件は終わりにしよう。だが人身売買の件はそれで終わりではないぞ。寧ろそっちがこちらに落とし前を付けてもらいたいものだ。お前が何の役割でポルトガルから日本に来たかは知らないが2度と本国へ帰らせない事もあると心得よ」

 「ほう?この船からお前は生きて出られるとでも?」

 「タケル?もういいんじゃない?この男は自分の意見ばかりで反吐が出る」

 イシュもかなり御立腹のようだ。

 コロン

 「確かお前はエンリケだったな。その薬はエリクサーと言って、あらゆる怪我、病気をも治す薬だ。欠損したお前の手も生えてくる。飲んでみろ」

 「毒じゃないのか!?」

 「安心しろ。殺すならもうお前は殺している」

 オレが腕を斬り落としたエンリケという男はすぐにエリクサーを飲んだ。

 ポワン

 「ま、まさか!?これは!?」

 「ふん。言った通りだろう?」

 エンリケはエリクサーを飲み、少し発光した。その後すぐにオレが斬った腕が生えてくる。

 「あ、あり得ない!!斬れた手が生えてくるなんて・・・」

 「あり得ないと言っても事実だからな。で、あんたはこの薬の作り方を教えろと?もう少し考えて言えよ?教えるわけないだろう?」

 「なら力ずくで教えてもらうまでよ!お前等・・・」

 キャプテンのアレックスが船員を呼ぼうとしてる所をオレは刀で制す。瞬時にエンリケと同じように右腕を斬る。

 スパッ

 ポトン

 「うっうわぁぁぁぁぁぁ~!!いってぇ~!!!」

 「ハーフキュア!」

 ポワン

 すかさず血止めを行う。飽く迄、主導権はこちらにあるように見せつける。

 「あ!?え!?血が・・・」

 「オレが止めたんだよ。あんたに聞く事がまだあるからな。このようにオレは人数差もものともせずこの船を制圧できる。だがそれはしたくない。正直に答えるならばエンリケのように治してやる。まず、人身売買に関しては少なからず日の本の者も噛んでいるはずだ。それが誰か言え」

 「・・・・・・・・」

 「ふ~ん。反対の手を必要か?」

 オレはまた威圧スキルを放ちながら問いかけた。
 
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