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物語はハッピーエンドへ

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 なんの因果か階段から転げ落ちた時に入れ替わったシンデレラと皇太子。
 皇太子となったシンデレラは思わぬ成果にホクホクしていた……のは最初だけだった。

「私に政治を聞かれても分からないんだから! 皇太子殿下の顔を見た時に、マゾそうだなぁと思って対応したら、上手くいったのに! これじゃあ、あのままの方が良かったわ。こうなったら……」

 皇太子姿のシンデレラはガラスの靴を持って臣下とともに城下町へ繰り出した。

 赤い屋根の屋敷の前で皇太子一行の馬車が停車する。何事かとシンデレラの義母が飛び出してきた。

「皇太子殿下! どうされましたか!?」

 臣下がガラスの靴を出して説明をする。

「この前の舞踏会で、このガラスの靴を落とされた女性を探しております」

 シンデレラの義母が嬉しそうに手を叩く。

「それなら、ピッタリの娘がおります!」

 その様子に皇太子姿のシンデレラは義姉が出てくると思っていた。しかし、出てきたのは……

「お義母さま、お止めください。私はガラスの靴など知りません」
「つべこべ言わずに、出てきなさい!」
「あぁ……もっとキツく言ってください、お義母さまぁぁぁ」

 頬を赤らめ、恍惚の表情で懇願するシンデレラの姿をした皇太子。その光景に臣下たちが既視感デジャブを感じる。

 皇太子の姿をしたシンデレラが臣下に顎で指示を出す。それだけで臣下はシンデレラ姿の皇太子殿下を馬車に押し込んだ。

 義母の前に皇太子姿のシンデレラが立つ。

「すんなりと出していただき、ありがとうございました。お礼に、あなたの自作のポエムと、あなたの娘の薄い本を新聞社に売り込むのは止めます」

 思わぬ言葉に義母の顔が真っ赤になった後、真っ青になった。

「えっ!? な、何故!? どうして、そのことを知って!?」
「捨てても無駄ですよ。ポエムと薄い本は複写して秘密の場所に保管していますから。では、失礼します」
「ちょっ、待っ!? 皇太子殿下!?」

 義母の悲痛な声を残して馬車は城へと戻った。


 城に戻った皇太子姿のシンデレラは大きなため息を吐いた。

「あの時の魔法使いにお代を払いたいのだけど……姿を見せないなら、手配書を国中に配るしかありませんね」

 そう言いながら魔女の似顔絵と指名手配を書かれた紙をピラピラさせる。すると一陣の風が吹いた。

「止めんか!」
「お久しぶりです」

 魔女は皇太子姿のシンデレラを見て平然と言った。

「おや、まあ。ちょっと見ない間にずいぶんと男前になったね」
「いろいろありまして。お代は奮発しますので、戻してもらえませんか?」
「奮発する必要はないよ。対価は多すぎてもいけないからね」

 皇太子姿のシンデレラはシンデレラ姿の皇太子に声をかけた。

「定価で良いそうなので支払いお願いしますね」

 シンデレラ姿の皇太子が拗ねたように顔をそらす。

「……いやだ」
「何故です?」
「この姿なら、みんな命令をする。戻ったら誰も命令をしなくなる」

 その言い分に皇太子姿のシンデレラは肩をすくめた。それからシンデレラ姿の皇太子に詰め寄り、顎に手を添える。

「な、なんだ?」

 戸惑うシンデレラ姿の皇太子に皇太子姿のシンデレラが口角をあげた。

「私が命令をしましょう。望む命令をいくらでも。ですから、戻りますよ。いや、戻れ」

 氷のような声に刃のように鋭い瞳。シンデレラ姿の皇太子の全身が震え、腰が砕ける。膝から崩れ落ちそうになったシンデレラ姿の皇太子を皇太子姿のシンデレラが支えた。

「は、はひぃぃぃ」

 こうしてシンデレラと皇太子は元の姿に戻り、シンデレラは元の生活に……戻ることはなかった。

 その後、シンデレラは皇太子殿下と結婚。しばらくして皇太子は王となった。
 王の膝に座っているシンデレラが呟く。

「国のトップになりたいっていう野心はあったけど、何かが違う気がします」
「王の私に命令できるのは、あなただけだ。つまりトップということだろ?」
「そうですけど、こういうことじゃない気もします」
「そうか? 私は満足だ」

 王の幸せそうな笑顔にシンデレラも笑みがこぼれる。

「仕方ないですね。これで我慢しましょう」

 こうして二人は片時も離れることなく、政治の会議も王が膝に王妃をのせて参加するほど。国民からバカップルと言われた二人だが、国は繁栄したという。



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