9 / 16
9.愛したい
しおりを挟む
アドレーは自分自身を不甲斐なく感じた。
体術や剣術に覚えはあるが、彼女の動きに驚き何もできず、本来守るべき相手に守られたのである。
自己嫌悪に陥った。
「君は……一体、どうしてそこまで強く鍛えたんだ、クリスティン」
落ち着いたあと、王宮でクリスティンに悄然と尋ねた。
まるで戦士のようだった。
リーから剣術を学んでいるが、あれほどまでとは。
「ええと……あの……わたくし、身体が弱かったですから……。それで少々」
「少々どころではない動きだ」
「あの追剥ぎ達が幸い軟弱だったのです!」
「それなりに力のある有名な悪党だったらしいよ」
「わたくしが女だと思って油断したのでしょう。油断大敵! ですわね。おほほ」
アドレーはクリスティンの肩に両手を置いた。
「危ないことはしないで。君はダガーを使っていたけれど、いつも持ち歩いているの?」
「はい……。護身用に……」
クリスティンは目を泳がせる。彼女には、護衛でもあるメルが常についている。
森に行ったときは、二人だけだったものの、日頃ダガーを持ち歩く必要はないと思うのだが。
「……私は自分が情けない。君を守ると告げたのに。逆に君に守られた」
「アドレー様」
クリスティンはじっとアドレーを見つめる。
「わたくし、アドレー様の婚約者である前に、リューファス王国の民です。将来の王アドレー様に危険が及ばないよう行動するのは当然ですわ」
「いや、当然ではない。私は君に守られたいなどと露ほども思っていないよ。君を守りたいんだ」
彼女は声にならない声で言う。
「……もう少ししたら、ヒロインが現れ、悪役令嬢であるわたくしは王家の刺客に惨殺される……」
「え?」
彼女は唇を閉ざし、悲愴な眼差しを向けた。
「──アドレー様に想われるお相手は本当に幸せですわね。アドレー様はこの先、必ず大きな幸福を掴まれますわ」
アドレーは胸に切なさがこみ上げた。
「私が想っている相手は君だ!」
感情的になって彼女を胸の中に抱きしめた。
「君と結婚をしたいし、必ずするよ。私は君と幸せになりたい。私が好きなのは、ずっと君だ!」
彼女に甘えてもらいたい。溺れるほど彼女を甘やかしたいのだ。自分がいないと生きていけないくらい、想ってもらいたい。愛したい。
彼女の耳朶に唇を寄せる。
「だから、そんな哀しいことばかり言わないで。何も君が心配することはない」
そう告げ、クリスティンをみると……。
──気を失っていた。
「……クリスティン……」
どうやら、アドレーの告白を聞く前、抱きしめた辺りから、気絶していたらしい。そういえば、ぐたりとしていた。身を預けてくれているのかと一瞬思ったが。
勇敢に悪党を撃退したのに。
彼女はあの男達より、アドレーを恐れているように感じるのは、気のせいだろうか……。
(思い過ごしだ……)
「──失礼します」
いつからいたのか、奥で声がした。
メルがこちらに歩み寄ってき、クリスティンをアドレーから受け取って、長椅子に彼女をそっと横たえた。
彼は感情を抑えた声で話す。
「アドレー様。体質改善されても、クリスティン様は発作を起こすこともあります。完全な健康体というわけではございません。今後、こういったことをなさるのは、クリスティン様のお身体に障りますので、どうかお控えください」
その眼差しは、ひどく冷たく、昏い。
きっと堪えきれずクリスティンを抱きしめたアドレーに、彼は呆れているのだろう。
「……わかった」
クリスティンは魔術をラムゼイに学び、身体に効く薬を作り出したものの、魔力による弊害で時折発作を起こす。
アドレーが抱きしめたことで、びっくりしてしまったのだ。
結婚するまではこういったことをするのは控えよう。
「では、屋敷にクリスティン様をお送りいたします」
「ああ」
アドレーは仕方なく頷いた。
「メル、彼女の意識が戻ったら、伝えておいてくれ。悪かったと私が謝っていたと。今後、過度に触れないと。それと、今度の舞踏会を楽しみにしていると」
「かしこまりました。必ずお伝えいたします」
メルは壊れ物を抱くように、丁重にクリスティンを腕に抱えて、退室した。
体術や剣術に覚えはあるが、彼女の動きに驚き何もできず、本来守るべき相手に守られたのである。
自己嫌悪に陥った。
「君は……一体、どうしてそこまで強く鍛えたんだ、クリスティン」
落ち着いたあと、王宮でクリスティンに悄然と尋ねた。
まるで戦士のようだった。
リーから剣術を学んでいるが、あれほどまでとは。
「ええと……あの……わたくし、身体が弱かったですから……。それで少々」
「少々どころではない動きだ」
「あの追剥ぎ達が幸い軟弱だったのです!」
「それなりに力のある有名な悪党だったらしいよ」
「わたくしが女だと思って油断したのでしょう。油断大敵! ですわね。おほほ」
アドレーはクリスティンの肩に両手を置いた。
「危ないことはしないで。君はダガーを使っていたけれど、いつも持ち歩いているの?」
「はい……。護身用に……」
クリスティンは目を泳がせる。彼女には、護衛でもあるメルが常についている。
森に行ったときは、二人だけだったものの、日頃ダガーを持ち歩く必要はないと思うのだが。
「……私は自分が情けない。君を守ると告げたのに。逆に君に守られた」
「アドレー様」
クリスティンはじっとアドレーを見つめる。
「わたくし、アドレー様の婚約者である前に、リューファス王国の民です。将来の王アドレー様に危険が及ばないよう行動するのは当然ですわ」
「いや、当然ではない。私は君に守られたいなどと露ほども思っていないよ。君を守りたいんだ」
彼女は声にならない声で言う。
「……もう少ししたら、ヒロインが現れ、悪役令嬢であるわたくしは王家の刺客に惨殺される……」
「え?」
彼女は唇を閉ざし、悲愴な眼差しを向けた。
「──アドレー様に想われるお相手は本当に幸せですわね。アドレー様はこの先、必ず大きな幸福を掴まれますわ」
アドレーは胸に切なさがこみ上げた。
「私が想っている相手は君だ!」
感情的になって彼女を胸の中に抱きしめた。
「君と結婚をしたいし、必ずするよ。私は君と幸せになりたい。私が好きなのは、ずっと君だ!」
彼女に甘えてもらいたい。溺れるほど彼女を甘やかしたいのだ。自分がいないと生きていけないくらい、想ってもらいたい。愛したい。
彼女の耳朶に唇を寄せる。
「だから、そんな哀しいことばかり言わないで。何も君が心配することはない」
そう告げ、クリスティンをみると……。
──気を失っていた。
「……クリスティン……」
どうやら、アドレーの告白を聞く前、抱きしめた辺りから、気絶していたらしい。そういえば、ぐたりとしていた。身を預けてくれているのかと一瞬思ったが。
勇敢に悪党を撃退したのに。
彼女はあの男達より、アドレーを恐れているように感じるのは、気のせいだろうか……。
(思い過ごしだ……)
「──失礼します」
いつからいたのか、奥で声がした。
メルがこちらに歩み寄ってき、クリスティンをアドレーから受け取って、長椅子に彼女をそっと横たえた。
彼は感情を抑えた声で話す。
「アドレー様。体質改善されても、クリスティン様は発作を起こすこともあります。完全な健康体というわけではございません。今後、こういったことをなさるのは、クリスティン様のお身体に障りますので、どうかお控えください」
その眼差しは、ひどく冷たく、昏い。
きっと堪えきれずクリスティンを抱きしめたアドレーに、彼は呆れているのだろう。
「……わかった」
クリスティンは魔術をラムゼイに学び、身体に効く薬を作り出したものの、魔力による弊害で時折発作を起こす。
アドレーが抱きしめたことで、びっくりしてしまったのだ。
結婚するまではこういったことをするのは控えよう。
「では、屋敷にクリスティン様をお送りいたします」
「ああ」
アドレーは仕方なく頷いた。
「メル、彼女の意識が戻ったら、伝えておいてくれ。悪かったと私が謝っていたと。今後、過度に触れないと。それと、今度の舞踏会を楽しみにしていると」
「かしこまりました。必ずお伝えいたします」
メルは壊れ物を抱くように、丁重にクリスティンを腕に抱えて、退室した。
78
あなたにおすすめの小説
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
悪役令嬢に相応しいエンディング
無色
恋愛
月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。
ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。
さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。
ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。
だが彼らは愚かにも知らなかった。
ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。
そして、待ち受けるエンディングを。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
悪役令嬢発溺愛幼女着
みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」
わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。
響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。
わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。
冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。
どうして。
誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。
侯爵令嬢の置き土産
ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。
「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。
婚約破棄は踊り続ける
お好み焼き
恋愛
聖女が現れたことによりルベデルカ公爵令嬢はルーベルバッハ王太子殿下との婚約を白紙にされた。だがその半年後、ルーベルバッハが訪れてきてこう言った。
「聖女は王太子妃じゃなく神の花嫁となる道を選んだよ。頼むから結婚しておくれよ」
婚約破棄されたのに、王太子殿下がバルコニーの下にいます
ちよこ
恋愛
「リリス・フォン・アイゼンシュタイン。君との婚約を破棄する」
王子による公開断罪。
悪役令嬢として破滅ルートを迎えたリリスは、ようやく自由を手に入れた……はずだった。
だが翌朝、屋敷のバルコニーの下に立っていたのは、断罪したはずの王太子。
花束を抱え、「おはよう」と微笑む彼は、毎朝訪れるようになり——
「リリス、僕は君の全てが好きなんだ。」
そう語る彼は、狂愛をリリスに注ぎはじめる。
婚約破棄×悪役令嬢×ヤンデレ王子による、
テンプレから逸脱しまくるダークサイド・ラブコメディ!
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる