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後日談の後日談 その3
第1話 エルフパラダイスへ
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コンラートを囲む会も回を重ね、俺は悟った。こんなの何回やったって、誰を選ぶとか誰に嫁に行くとか、そんなの決まるわけがない。そもそも俺は、男の嫁になるつもりなんかないんだ。開始以来ずっと主張してきたことだが、この度やっとそれを聞き入れられた。囲む会が始まって約半年。長い道のりだった。
「そんじゃあお前、誰を選ぶってんだ」
ディルクが混ぜ返す。お前、俺の話を何も聞いてなかったろう。
「そうじゃない、ディルク。結局彼の希望は、誰のものにもならないってことさ」
何だか悟ったような言い方をされますが、元々はあなたが言い出しっぺだから。バルドゥルさん。
「じゃあ、コンラートは何がしたいのさ?」
やっと聞いてくれました、フロルさん。しかし、そう聞かれてみても、俺自身何がしたいかって言ったら…
「えーと、ボス・ゲースト大公国にお邪魔してみたい、とか…?」
そう。以前アールトに「いつか君にもエルフの里に来てもらいたいな」って言われたんだった。その時俺は、目くるめくエルフパラダイスにワクワクしたものだ。その後「囲む会」が始まって、正直何かを望む余力なんかなかったわけだけど、お開きになるこのタイミングなら言える。
アールトは「囲む会」のメンバーとして参加し、麗しい外見とは裏腹に腹黒エロフっぷりを遺憾なく発揮していた。彼の工房で度々見ていた淫夢も、もしかしたら現実だったのかもしれない。しかしいくら彼が腹黒エロフであっても、おエルフ様の麗しさは尊みのカマタリだ。むしろ邪悪な笑みの方が滾るまである。四人の男たちに寄ってたかってボッコにされてたわけだが、HPは赤ゲージでも気持ちは良かったわけだし、中でも邪悪なエロフの淫技はトゥンクものだ。俺は密かに、アールトの俺様セックスに魅了されていた。自分でもダメンズ属性なのは理解している。
俺の申し出に驚きつつも、アールトは快諾した。
「嬉しいよ、コンラート。いつか君を招待しようと思っていた。まさかこんなに早く叶うなんてね」
今日のアールトはキラキラモードだ。リバーシのようで興味深い。
それから一ヶ月ほどかけて工房の引き継ぎを済ませ、俺はアールトと共に旅立った。大公国は隣の大陸、約半年の大移動だ。帰還はいつになるか分からない。俺はなけなしの家財道具を処分し、部屋も引き払った。親方や女将さん、兄弟子たちは俺のことを心配していたが、最終的には「男が決めたことだ」と俺の決断を後押ししてくれた。女将さんに至っては、
「いつかこんな日が来ると思っていたよ」
とのこと。アールトから特大の精霊石を贈られた時点で、俺の気持ちは決まっていただろうって。俺は借りているだけだと思っていたが、言われてみれば、同じような宝石を他の誰かから贈られたとしても受け取る気にはなれないだろう。たとえそれが、一時的に預かるだけでもだ。女将さんは「女の勘」と言っていたが、俺自身も気付かなかった本心を汲み取ってくれたに違いない。
なお、俺のことを最後まで引き留めようとしたのは南の島の皆さん。しかし彼女らは俺の賄い飯が恋しいのであって、俺自身はどうってことないのだ。俺がいない日には、既に以前から近所の酒場で俺のレシピを堪能していたことだし。
「行くぞ」
旅装のアールトは、それはそれでまたふつくしい。年季の入ったマントに、飴色のブーツ。丈夫なパンツに通気性のいいチュニック。なんてことない普通の旅人の装いなのに、彼が身につけると全てがシュッとしている。背中には必要最低限の雑嚢。後はアイテムボックスの魔道具に入っているらしい。何それカッコいい。
一方の俺は、最低限の着替えと仕事道具、そしていくつかの魔道具。量はそんなに多くないが、俺がチビな分、背負うとRPGで有名な商人のようだ。まあ、全財産を運んでいるんだから仕方ない。今日からは徒歩での旅だ。俺はともかく、エルフが乗合馬車なんかに乗ったら何が起こるか分からない。秋波を送られるくらいはまだいいほうで、あらゆる勧誘、あからさまな夜のお誘い。知らぬ間に発生するストーカー。当然、人身売買組織の誘拐未遂だって後を絶たない。
というわけで、俺は摩利支天のチャームを彫った。摩利支天は陽炎の神様で、「隠形」の加護をもたらすと言われる。
「オン アニチ マリシエイ ソワカ」
真言を捧げてアクティベートすると、無事「認識阻害・極」の効果が確認された。ゲームでは単なる回避率アップだったのに、現実世界の方が完全上位互換。全く視認できない。それどころか、音や体温も感知されないようだ。もちろん一定時間で真言を捧げ直す必要はあるが、こんなの隠密が持ったらえらいことになりそう。
これを手渡した時、アールトは目を剥いて無言になった。
「あのっ…やっぱとんでもなかったかな…」
あやふやな記憶の糸を手繰り寄せ、新しいチャームを彫って披露するたびに、アールトは毎回目を剥いてフリーズし、その後俺に固く口止めする。その間抜け面が見たくてやってるとこもある。しかし今回はちょっと様子が違う。
「お前は…本当に…」
これまでアールトの表情はいくつも見てきた。最初は、常に穏やかな笑みを湛えた綺麗な人だなと思ってた。しかし大黒様のチャームをきっかけに、驚いて半口を開けた顔。それから新しい知識を共有した時の、抑えきれない好奇心にきらきらした瞳。俺に錬金術を披露し、ちょっとした裏話を漏らす時のイタズラっぽい顔。そして俺様セックスの時の悪代官のようなドSスマイル、射精寸前のワイルドなオス臭い息遣い。だけどこんなの初めてだ。切なげに瞳を揺らして、チャームを見つめている。
今までずっと苦労してきたんだろうな。思えば俺が褒賞パーティーに呼ばれた時、付き添いで来てくれたアールトはあっという間に女性陣に捕まり、顔も服も白粉だらけにされていた。それどころか、外野からは何人ものオッサンからいやらしい目で見つめられ。中には俺に「太公代理とは懇意か」とアプローチする奴すらいた。安全なはずのパーティーですらそれだ。長い旅を続けてきた彼が、これまでどんな危機を乗り越えてきたか、想像に余りある。
ともかく、摩利支天は大変喜ばれた。当初は人目を避けるため、道なき道を進み、魔物を倒しながら野営を重ね、伯爵領の領都にあるようなエルフの隠れ家を転々として大公国を目指す予定だった。しかし摩利支天のお陰で、姿を隠しながら街道を進む。人間族との接触は必要最低限に留めて、俺たちは順調に大陸の端を目指した。
「かつて旅がこんなに快適だったことなどなかった」
そんなふうに言ってもらえると、俺も嬉しい。
「そんじゃあお前、誰を選ぶってんだ」
ディルクが混ぜ返す。お前、俺の話を何も聞いてなかったろう。
「そうじゃない、ディルク。結局彼の希望は、誰のものにもならないってことさ」
何だか悟ったような言い方をされますが、元々はあなたが言い出しっぺだから。バルドゥルさん。
「じゃあ、コンラートは何がしたいのさ?」
やっと聞いてくれました、フロルさん。しかし、そう聞かれてみても、俺自身何がしたいかって言ったら…
「えーと、ボス・ゲースト大公国にお邪魔してみたい、とか…?」
そう。以前アールトに「いつか君にもエルフの里に来てもらいたいな」って言われたんだった。その時俺は、目くるめくエルフパラダイスにワクワクしたものだ。その後「囲む会」が始まって、正直何かを望む余力なんかなかったわけだけど、お開きになるこのタイミングなら言える。
アールトは「囲む会」のメンバーとして参加し、麗しい外見とは裏腹に腹黒エロフっぷりを遺憾なく発揮していた。彼の工房で度々見ていた淫夢も、もしかしたら現実だったのかもしれない。しかしいくら彼が腹黒エロフであっても、おエルフ様の麗しさは尊みのカマタリだ。むしろ邪悪な笑みの方が滾るまである。四人の男たちに寄ってたかってボッコにされてたわけだが、HPは赤ゲージでも気持ちは良かったわけだし、中でも邪悪なエロフの淫技はトゥンクものだ。俺は密かに、アールトの俺様セックスに魅了されていた。自分でもダメンズ属性なのは理解している。
俺の申し出に驚きつつも、アールトは快諾した。
「嬉しいよ、コンラート。いつか君を招待しようと思っていた。まさかこんなに早く叶うなんてね」
今日のアールトはキラキラモードだ。リバーシのようで興味深い。
それから一ヶ月ほどかけて工房の引き継ぎを済ませ、俺はアールトと共に旅立った。大公国は隣の大陸、約半年の大移動だ。帰還はいつになるか分からない。俺はなけなしの家財道具を処分し、部屋も引き払った。親方や女将さん、兄弟子たちは俺のことを心配していたが、最終的には「男が決めたことだ」と俺の決断を後押ししてくれた。女将さんに至っては、
「いつかこんな日が来ると思っていたよ」
とのこと。アールトから特大の精霊石を贈られた時点で、俺の気持ちは決まっていただろうって。俺は借りているだけだと思っていたが、言われてみれば、同じような宝石を他の誰かから贈られたとしても受け取る気にはなれないだろう。たとえそれが、一時的に預かるだけでもだ。女将さんは「女の勘」と言っていたが、俺自身も気付かなかった本心を汲み取ってくれたに違いない。
なお、俺のことを最後まで引き留めようとしたのは南の島の皆さん。しかし彼女らは俺の賄い飯が恋しいのであって、俺自身はどうってことないのだ。俺がいない日には、既に以前から近所の酒場で俺のレシピを堪能していたことだし。
「行くぞ」
旅装のアールトは、それはそれでまたふつくしい。年季の入ったマントに、飴色のブーツ。丈夫なパンツに通気性のいいチュニック。なんてことない普通の旅人の装いなのに、彼が身につけると全てがシュッとしている。背中には必要最低限の雑嚢。後はアイテムボックスの魔道具に入っているらしい。何それカッコいい。
一方の俺は、最低限の着替えと仕事道具、そしていくつかの魔道具。量はそんなに多くないが、俺がチビな分、背負うとRPGで有名な商人のようだ。まあ、全財産を運んでいるんだから仕方ない。今日からは徒歩での旅だ。俺はともかく、エルフが乗合馬車なんかに乗ったら何が起こるか分からない。秋波を送られるくらいはまだいいほうで、あらゆる勧誘、あからさまな夜のお誘い。知らぬ間に発生するストーカー。当然、人身売買組織の誘拐未遂だって後を絶たない。
というわけで、俺は摩利支天のチャームを彫った。摩利支天は陽炎の神様で、「隠形」の加護をもたらすと言われる。
「オン アニチ マリシエイ ソワカ」
真言を捧げてアクティベートすると、無事「認識阻害・極」の効果が確認された。ゲームでは単なる回避率アップだったのに、現実世界の方が完全上位互換。全く視認できない。それどころか、音や体温も感知されないようだ。もちろん一定時間で真言を捧げ直す必要はあるが、こんなの隠密が持ったらえらいことになりそう。
これを手渡した時、アールトは目を剥いて無言になった。
「あのっ…やっぱとんでもなかったかな…」
あやふやな記憶の糸を手繰り寄せ、新しいチャームを彫って披露するたびに、アールトは毎回目を剥いてフリーズし、その後俺に固く口止めする。その間抜け面が見たくてやってるとこもある。しかし今回はちょっと様子が違う。
「お前は…本当に…」
これまでアールトの表情はいくつも見てきた。最初は、常に穏やかな笑みを湛えた綺麗な人だなと思ってた。しかし大黒様のチャームをきっかけに、驚いて半口を開けた顔。それから新しい知識を共有した時の、抑えきれない好奇心にきらきらした瞳。俺に錬金術を披露し、ちょっとした裏話を漏らす時のイタズラっぽい顔。そして俺様セックスの時の悪代官のようなドSスマイル、射精寸前のワイルドなオス臭い息遣い。だけどこんなの初めてだ。切なげに瞳を揺らして、チャームを見つめている。
今までずっと苦労してきたんだろうな。思えば俺が褒賞パーティーに呼ばれた時、付き添いで来てくれたアールトはあっという間に女性陣に捕まり、顔も服も白粉だらけにされていた。それどころか、外野からは何人ものオッサンからいやらしい目で見つめられ。中には俺に「太公代理とは懇意か」とアプローチする奴すらいた。安全なはずのパーティーですらそれだ。長い旅を続けてきた彼が、これまでどんな危機を乗り越えてきたか、想像に余りある。
ともかく、摩利支天は大変喜ばれた。当初は人目を避けるため、道なき道を進み、魔物を倒しながら野営を重ね、伯爵領の領都にあるようなエルフの隠れ家を転々として大公国を目指す予定だった。しかし摩利支天のお陰で、姿を隠しながら街道を進む。人間族との接触は必要最低限に留めて、俺たちは順調に大陸の端を目指した。
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そんなふうに言ってもらえると、俺も嬉しい。
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