【R18BL】転生したらドワーフでした【後日談更新中】

明和来青

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第29話 一件落着?(完)

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 知らない天井だ。このセリフ、久しぶり。

 気付いたら、これまた立派な天蓋のベッドで目が覚めた。しかし、こないだまでご厄介になってた後宮のとは違う、黒を基調としたシックなしつらえ。

 部屋にはベルタが控えていて、俺が目覚めたのを察知すると、手早く俺を拭き清め、部屋着を着せて、部屋から去っていった。そしてしばらくすると、見たことのある顔ぶれがずらりと勢揃いした。

「ハハッ、ドワーフってなァ、頑丈だな」

 ディルクが無遠慮に髪をぐしゃぐしゃにする。言葉や態度は乱暴だが、目尻の笑い皺が大型犬のようだ。

「言ったでしょ、助けてあげるって」

 フロルがしたり顔だ。そういえば彼は、厄介な仕事に行ってたはずだけど、そっちは大丈夫だったんだろうか。

「君が無事で良かったよ」

 アールトが慈愛の笑みを浮かべる。エルフの破壊力、てぇてぇ。てか、俺を王宮にじ込んでくれたり、その王宮からバルドゥルを通じて助けてくれたり。俺的には踏んだり蹴ったりだったが、彼はずっと俺のことを気に掛けて助けてくれてた。おエルフ様、てぇてぇ。惚れてまうやろ。で、

「クーノ…ああ、クーノ」

 全員を押し退けて、ひしとハグして来たのはアイヴァン。何故こんなところに王太子殿下が?解せぬ。

「大事無いようだな。陛下がお待ちだ」

 空気を読まない片眼鏡モノクルのバルナバスが、俺達を急かす。俺は随分ラフな格好だが、ディルクにヒョイと横抱きにされて、そのまま応接室に連行された。



 応接室は緊張する。なんせこないだ、ここで拷問に遭ったばかり。てか、こないだここ、アールトのブローチで、コゲコゲにならなかったっけ?部屋は何事もなく、落ち着いた様相を取り戻している。てか、バルドゥルの後ろには、消し炭になったはずのボニファティウスが控えている。魔族って不死身なのか?

「やあ、みんな。ご機嫌麗しゅう。で、ご用件は?」

 バルドゥルは相変わらず、柔和で朗らかな態度だ。しかし、禍々しい2Pカラーカラーリングおぞましい本性を知ってからは、不気味としか言いようがない。

「てめェ、それ本気で言ってんのか」

 俺を横抱きにしたままのディルクから、尋常じゃない殺気が放たれる。いや、俺も「あんたが呼んだんだろ」ってツッコミは同意だ。だけどその殺気やめて。チビりそう。

「クリューガー連邦からの要請で、魔大陸を除く全ての首脳から、抗議の意を受け取ったよ。どうする?また魔族vs全人類の戦争ドンパチ、やっちゃう?」

 フロルが不敵に微笑む。てか、各国の首脳陣って、え?君、何者?

「私はコンラートの保護を命じた。これは契約違反だ。よって契約は破棄、これよりお前は私に隷属だ」

 アールトが氷点下の視線をバルドゥルに投げる。これまた破壊力が半端ない。激おこエルフてぇてぇ。笑ってない彼は、夢の中以来だ。

「我が最愛を虐げし罪、その血であがなってもらおう」

 そして一番意外だったのが、あのボンク…お坊っちゃまのアイヴァンだ。彼は神々しい剣をスラリと抜き放ち、バルドゥルに向けてチャキッと構える。おお、あの剣すっごい業物わざものだ。多分、総オリハルコンとかじゃね?見習いの俺でも分かる。てか、最愛って誰よ。アイリーン姫どこ。

「俺ァ帝国の総代だ。お前ェが帝国に仇なすってんなら、ディッテンベルガー以下全領主がお前ェの傘下を離れ、反旗を掲げる」

「ハッ、人間族ヒューマンに取り込まれた竜人め。やれるものならやってみろ」

 ディルクが左腕で俺を抱えながら、右手で戦斧せんぷを握る。それに触発されて、バルナバスが指揮棒タクトを取り出し、ボニファティウスが大剣を構えている。

 部屋中高まる殺気。窓ガラスがビリビリ震えている。てか、この中で戦闘力5のゴミは俺だけだ。何この場違い感。狭い部屋でそういうのやめて!

「ははっ。みんな穏やかじゃないね。とりあえず座ろうか」

 しかしバルドゥルは、全く意に介する様子を見せず、両手を広げて全員に着席を促した。



「アールト。まず僕が言いたいのは、君はコンラートの救援を願った。僕はそれを叶えた。そして僕は、まだ君から対価をもらっていない。それは理解しているね?」

「ぐっ…」

「預かっている「客人」をどうぐうしようと、それは僕の自由だ。それに何か問題でも?」

 確かに、契約内容についてはちょっと迂闊だったかもね。フロルが小声で呟いた。

「そして、何か勘違いしているようだが、我々としては魔族対全人類の戦争は、やぶさかではないよ。しかし、たかがドワーフの平民一人に、再び何百年と続く血みどろの争い。果たして多種族連合は、それを望んでいるのかな?」

「だとしても…私はお前を倒す…!」

「おお、怖いねぇ。魔王を葬り去ることができる唯一の聖剣と、聖剣に選ばれし勇者。だけど残念ながら、僕を倒しても、また次の魔王が現れるだけさ。そして、後宮で彼を囲って強姦三昧だった君と僕と、何が違うと?」

「ご、強姦などッ!」

 アイヴァンは「俺たち愛し合ってたよね?」みたいな視線を向けて来たが、俺はそっと顔を背けた。あの時は、朝から晩までさかられて大変だった。確かに気持ち良くはあったが、合意ではない。

「まあ、そういうわけで。僕は確かに、コンラートを救出して保護したよ。君からは、それ相応の対価を頂かなくちゃ、ね?」

「…何が望みだ」

「さあ?帝国皇帝であり魔王の僕自らを動かしたんだ。その意味、分かるよね?」

 アールトは考え込んでいる。大体こういう時、悪魔に頼るとロクなことにならない。人間だって、高利貸しなら法外な利息を巻き上げるのだ。下手をしたら命まで。

 ———いや、俺のために万策を講じてくれたアールトに、その対価を支払わせる訳には行かない。

「あの、バルドゥルさん。それ、俺が払ってもいいですか?」



「で、それがこれかい?」

 バルドゥルは、手のひらの上の小さな木彫りの根付けを眺めた。俺が端材と小刀を借りて、小一時間で彫ったものだ。そのままでは何の変哲もない、ただの素朴で奇妙なマスコット。しかし、

「ナウマク・サマンダ・ボダナン・ヤマヤ・ソワカ」

 本当に、知識ってどこでどう役に立つか分からない。ゲームの中で無駄に覚えた、閻魔大王の梵字と真言。すると根付けはカッと光った。

「固有スキル・ジャッジメント。死者の魂を裁き、善なる魂は天へ、邪なる魂は地獄へ送る。敵味方区別なく、アンデッドを強制排除。効果範囲は半径1km、効果は100%…」

 片眼鏡が、鑑定スキルで視えたものを読み上げる。同じく鑑定スキルを持つ、アールトやフロル、バルドゥルにも同じものが視えているはずだ。まず四人が目を見開き、そして残りがバルナバスの言葉の後、同じ表情をした。

 そう。バルドゥルが俺を拉致して要求したのが、アールトとの間で秘密にしていた根付けのこと。成り行きで、一部についてはフロルとアイヴァンに知られてしまったが、これが対価になるなら、カードの一枚くらい切ってもいいだろう。

 俺が閻魔大王を選んだのは、これが一番戦争の火種にならなさそうだから。バルドゥルに状態異常回復なんて渡したら厄介極まりないだろうし、バフやデバフでも同じ。アンデッドにクリティカルダメージを送る神仏は他にもあるけど、閻魔大王は善人には救済を、悪人には罰を与えるってのがいい。しかもこれ、敵味方全てのアンデッドに作用する。どっちの軍勢がアンデッドを繰り出しても、みんな成仏するか地獄に行くのだ。これなら、戦争になっても戦力増大になるどころか、ある種の抑止力になるだろう。

「これは…」

 結論から言うと、俺はこれで無罪放免となった。しかも何故かいたく感謝されて、バルナバスの転移魔法で全員を伯爵領に送ってくれた挙句、俺の護衛にベルタを付けた。

「君は「そっち方面で」色々と問題を抱えているようだからね」

 彼は俺にウィンクを寄越した。



 その後の俺は。

「だからよォ、俺にしとけって!」

「君こそが私に相応しい!」

「いらっしゃいませ、お帰りはあちらです」

 朝の光景が、数ヶ月前に戻った。俺は工房と花街に出勤し、工房の隅で好き勝手に創作活動を続けながら、賄いを作り、みんなで食べて、いつもと変わりのない日々を過ごしている。変わったことと言えば、花束要員と、工房に入り浸る面子メンツが増えたことくらい。

「コンラート、ギョーザお代わりィ!」

「こらイーディス、お行儀悪いですよ!」

 まず南の島イルドスュードの女性陣。フロルのクランとドワーフ族が懇意なのは分かったが、彼女らはいつもタダ飯食いに入り浸っている。

「だってぇ、コンラート君のご飯、美味しいんですもの♪」

 つるぺt…スレンダーなヘルトルーデが妖艶に微笑む。だけど餃子を口に放り込みながらジョッキ片手に言われても、全くお色気がない。

「ハッハァ。このギョーザってのはイイな。いつでも嫁に来いよ!」

「料理まで一流とは、さすが我が妃」

 何故か追い払ったはずのディルクとアイヴァンまで居座っている。お前ら貴族だろう。貴族の奥方って餃子なんか焼かないんじゃ?てか帰れよ、領地と城に!

「賄いをタダ喰いしないで下さい!ちゃんと近所のレストランにレシピ渡してありますから!」

「何じゃコンラート。此奴こやつらは話の分かる御仁じゃぞい」

「そうだそうだ。酒を酌み交わせばマブダチだぜ!」

 ドワーフの同胞に背後から撃たれる。その、一回飲んだらマブダチルール、何とかなりませんかね!



 一方、俺の護衛として派遣された淫魔ベルタは、ほぼ花街に入り浸っている。

「これらの魔道具に、淫紋を施しても?」

 大人のおもちゃを一通り見学した彼女は、そう提案して来た。そして実際、こっそりと淫紋を刻んだ商品をテストしてみると、使用者の性感を高め、人気沸騰。たちまち売れ筋商品にのし上がった。

「使用者は快感を得られ、私は魔道具を通じて精を頂く。まさに夢のような職場ですわ」

 結果彼女は、花街に移り住むこととなった。護衛、とは。

 のちに大人の玩具は、国境を超えて様々な地域の花街で売り出されることとなるが、この伯爵領のものがダントツ人気。セックストイの名産地として、嬉しくない称号が冠された。ベルタは人知れず玩具を通じて莫大な精を獲得し、淫魔としては空前絶後の進化を遂げる。結果、その魔力はバルドゥルを早々に追い抜き、彼の亡き後は恐らく彼女が魔王の座に就くことになるだろう、とのことだ。史上ブッチギリだって。こっわ。

 そしてそのバルドゥルだけど、今はバルナバスとボニファティウスと一緒に世界行脚中。なんせ、

「歴代魔王と遺恨のあった敵を、今更ボコ殴りに出来る」

 ということで、行く先々の戦地や墓陵で、真言を唱えまくっているという。歴代の魔王の記憶を持つ彼とて、全てを知るわけではない。歴史上英雄とされた者が裏では残虐で狡猾であったり、裏切り者と呼ばれた者が実は忠義と献身の徒であったり。何が正しくて何が悪いのか、誰が味方で誰が敵なのか、過去の人となった時点で全てが土の中に埋もれてしまう。それらを全て叩き起こして、問答無用で閻魔大王の前に引きずり出し、天へ引き上げ、もしくは地獄へ叩き落とす。

「いやぁ、魔王たちがみんな喜んじゃってさぁ」

 彼は時々バルナバスの転移魔法で工房を訪れては、世界各国の土産を置いて、賄いを食べて去っていく。お前も食うんかい。そして、以前と同じ、茶髪茶目の神官に偽装したバルドゥル御一行は、現在「巡礼の聖人」として称賛を浴び、各地で歓迎を受けている。

 皆さんソイツ魔王です。ついでに皇帝です。騙されないで。



「そのエンマダイオウっていうの、鉱山に持って行けば良かったんじゃない?」

 明日に備えて身支度していると、不意に闇の中から声がする。フロル、こいつは神出鬼没で、部屋の鍵など意味を為さない。

「確かに!いや違うフロルお前!もう来んなっつってんだろ!」

 最初は敬語だった俺も、もうタメ語。ノリツッコミ付き。

「何だよコンラートぉ。君と僕との仲じゃないかぁ♪」

 フロルはいつも馴れ馴れしくベッドに座り込み、俺を掘ろうとする。

「だから!あれは俺があんな女の子としたかっただけで、俺があんな風になりたかったわけじゃないの!」

 そう。いつもフロルに魅了でやられるたび、俺は何故か純情少女みたいになっちまうんだが、心当たりはあった。あれは、前世でハマってたクリスタちゃんだ。主人公がチーレムでウハウハしている間、無関心を装いながら健気に彼を思い、陰からそっと見守っていた暗殺者アサシン。元祖クーデレだ。彼女はちっぱいだが、ああいう一途な子とラブラブしたいのだ、俺は。その願望が、フロルの魅了によって、なぜか主人公ではなく、彼女に感情移入した形で発現してしまう。

「…ふぅん、君、暗殺者アサシンが好みなの?」

「だって可愛いだろ、不遇の暗殺者。俺が愛ってモンを教えてあげてぇじゃん」

 俺の好みに一々ケチを付けるなんて、無粋な奴め。

「そっかぁ。暗殺者アサシンが好みなのかぁ。ふふっ」

「何だよ、来んなよ!文殊菩薩あんだかんな、魅了なんか怖くねぇぞ!」

「モンジュボサツってこれかな?」

 フロルの手には、いつの間にか文殊菩薩。そして彼の目はマゼンタに光る。その夜もしてやられた。俺はその後、文殊菩薩を4体に増やして部屋の四隅に配置したが、結局同じ道を辿った。

 フロルが伝説の暗殺者だったのが判明したのは、それからしばらく後。その時俺は、フロルが国際的な裏ギルド、つまり最大手暗殺者クランの長であることと、斥候とは暗殺者の体のいい言い回しだと知った。愛くるしい小人族ハーフリングのほとんどは斥候職に就くが、それってみんなそういうこと?何それ怖い。



 こんな物騒な毎日の中、唯一の心のオアシスは、アールトの工房での一時ひとときだ。

「なるほど、ボンジだけでも一定の効果が望めるのだね」

 彼との研究は着々と進んでいる。今は梵字だけで神仏の加護を発動出来るかの実験中。これが上手く行けば、武器や防具に新しい形のエンチャントが可能となる。しかし梵字が共通している神仏もあるため、上手く発動するものとしないものがあるのが、目下の悩みだ。

 アールトには、俺の秘密を告白した。俺には前世の記憶があり、これらの知識はそこから得たものだと。彼は大層驚いていたが、実はそういった事例は過去に無いわけではないらしい。

「貴重な知識を分かち合ってくれて、心から嬉しく思うよ、コンラート」

 俺の突拍子も無い話を信じてくれて、満面の笑みを向けてくれるアールト。今、俺の脳内のお花畑は、一斉に満開を迎えた。おエルフ様、いつにも増しててぇてぇ。

 ありがとうはこっちの方だ。俺なんかの為に、あちこち手を尽くして助けてくれて、貴重な精霊石まで貸してくれて。精霊石は返そうとしたが、「これは君が持っていてくれ」と言われて、しばらく預かることになった。女将おかみさんによれば、「あんた、こりゃエルフが求婚相手に渡すヤツだよ。アイツに嫁ぐのかい?!」とのことだが、借りてるだけだから違うと思う。

「いつか君にも、エルフの里に来てもらいたいな。みんなに紹介したいからね」

 俺の前世の知識が、アールトだけでなく、エルフの皆さんの助けになるなら嬉しい。なんなら他のエルフの皆さんにもお会いしてみたい。エルフパラダイス、てぇてぇ。うへへ。

「さ、今日はこのくらいにして、お茶の時間にしようか」



「何がエルフパラダイスだ、この淫乱ドワーフめ!」

「あひィッ♡、ごめな♡、ごめなしゃ♡」

 そしていつもの夢の中。アールトは、ゴツゴツと俺を責め立てては、最奥をボコ殴りする。

「随分とバルドゥルの触手に可愛がられていたようだな。ああいうのが善いのか?ん?」

「ちや、ちやいましゅ♡、おれ、おにゃのこ、おにゃのこ、」

「まだメスの自覚が足りないようだな。そらッ!」

「あギィぃぃ!!!おぱい、おパ…ぎァああ!!!」

 最近彼は、雷精を使って俺を責めることを覚えた。乳首に結構な雷撃を喰らって、俺はまたアクメする。夢の中のプレイはどんどん過激になって、留まることを知らない。俺ってこんなエロかったっけ…。



 そんなこんなで、俺のちょっと賑やかな日々は、平穏に過ぎ去って行くのだった。

 なお、脱童貞の目処は立っていない。
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