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御礼SS
(SS)その後のノースロップ家
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「えっ、マジ?!ノエル様、俺のこと好きだったの?!」
「え、は、いや…」
ある日のノースロップ侯爵邸。俺とナイジェルと義父上は、人間界で冒険者生活を楽しんでいる。そして時折、魔人国の王都にも顔を出す。その際、俺とナイジェルはその辺で適当に、義父上はノースロップ侯爵家のタウンハウスに宿を取るのだが、ちょうど現侯爵———つまりナイジェルの甥っ子が領地に戻り、タウンハウスの留守を前侯爵ノエル様が預かっているとのことで、俺たちも侯爵邸に呼ばれたのだ。
俺とノエル様は因縁の仲だ。俺は彼に拒絶されたためにナイジェルに別れを告げ、あわやナイジェルが泡と消える大惨事だった。だから非常に気まずい。だけど、義父上が「もう時効だろう」ということで、この席を設けたとのこと。そして告げられたのは、「幼き頃からメイナード様をお慕いしておりました」だった。
初対面の時、丸い虎耳としましまの尻尾を生やした真っ白の仔虎が、毛を逆立ててナイジェルの後ろに隠れてしまったのが昨日のようだ。あの時ナイジェルに「お前、キモいんだ」と言われて激しくハートブレイクしたのを覚えている。あれから避けられ続けて百四十年。俺はそのうち百年眠っていたわけだけど、その間に彼はすっかり大人を通り越してナイスミドルに。流石に一流の武人だけあって、虎人族としては異例の長寿だけど、今もレベルアップを重ねる義父上の方が若く見える。
なんか、無駄に苦労掛けちゃったな。お兄ちゃんの恋人がこんなポンコツで、ホントごめん。だけど、ずっとキモいからって嫌われてたと思ってたのが、なんと「好き避け」だったとは。百四十年越しの大歓喜。
「うっわぁ~、超嬉しい!あの時ノエル君とニコールちゃんが逃げちゃって、俺めっちゃショックだったんだよ。ナイジェルがキモいとか言うからさぁ」
「だってお前、キモいだろ」
「うっさい、キモい言うな!」
「あっあのっ、兄上もメイナード様も穏便に」
「はっはぁ。コイツらはこれが通常運転だからなァ」
「それよりさぁ、その可愛い虎耳、触ってもいい?ずーっと気になってたんだぁ…」
「えっ?はっ?メイナード様っ?」
「耳と尻尾はダメだ。そこは番限定だと言っただろう」
「おい婿殿、俺のにしとけ!ノエルのよりツヤツヤだぞ?」
「やだ!義父上は絶対そのまま寝技掛けて来るだろ!」
このように賑やかに歓談していると、やがて美人の猫耳メイドがやってきて、俺と義父上はゲンコツを落とされた。
「だから言ったろ。アイツぁ、な~んも気にしてねェって」
「はぁ…」
深夜。いつものごとく、ナサニエルとノエルの二人で、火酒を嗜みながら。
ノエル・ノースロップは、かれこれ百三十年も気に病んでいたのだ。兄の恋人に知らず知らず懸想した挙句「別れろ」と迫って、兄はあわや死ぬところだった。当のメイナードも、ノエルの一言に甚く傷つき、生還した後もひたすら涙を溢して謝罪を繰り返すだけ。
駄目だ。この男の魅力から、どうにも逃がれられない。その艶やかな髪に指を通して梳りながら、涙の伝う頬、懺悔を紡ぎ出す紅い唇、白い喉に口付け、細い腰を折れるほどに掻き抱き、長い脚を乱暴に割り開いて、叫ぶまで泣かせたい。その潤んだ紫水晶に、自分だけを映したい。突いて、壊れるまで突き上げて、この劣情を溢れるほど飲ませたい。
兄の腕の中で罪悪感に震える彼の姿を目にしただけで、これだ。これでもノエルは、次席侯爵家ノースロップを率いた男。次代、そしてその次をも立派に育て上げ、自身も戦士として申し分なく鍛え上げ。善政を敷き、民を富ませ、妻を娶り、見送り。清廉かつ堅君として名高い彼が、まさかそんな浅ましい肉欲を持て余していたなど。
しかし、兄が生還して三十年。領に戻り、後進を育てながら隠居を決め込もうとした矢先、先代からの呼びかけ、からの「可愛い虎耳、触ってもいい?」だ。
「まァ、気にしてねェってのは言い過ぎだな。だけどアイツぁ、懐に入れた奴には滅法甘ェんだ」
「———そのようですね」
彼と初めて出会ったのは、彼が学園を卒業して半年ほど。あれから百四十年、彼は兄上とともに、まるで学園生のような容姿から些かも変わっていない。棺を見舞った時に見た、透き通り消滅しかかっている兄と、獣のような彼。まるであれは幻だったような。
「なわけで、お前ェも来るか?ダンジョン」
「はっ?」
どうしてそうなる。
「どうせ暇なんだろ。人生なんて、長ェ暇つぶしだ」
ちったァ付き合え、扱き直してやる。ナサニエルの目は本気だ。彼は一度言い出したら聞かない。
「い、いえ、私は」
「旅は道連れっつうだろ」
ニィ、と獰猛に嗤うナサニエル。ノエルはもう、逃れる術がないことを悟った。
謎のS級パーティー「ナサニエルズ」に新たなメンバーが加わったらしいと、ギルドではもっぱらの噂だ。彼はリーダーのナサニエルより幾分老けて見えるものの、ナサニエルを父上、そして年若きナイジェルとメイナードを兄上と呼び、何らかの親戚関係にあることが推察された。
これまで、ノリだけで生きているムキムキ親父ナサニエル、冷静だが冷酷で傲慢なナイジェル、そしてちゃらんぽらんのお笑い担当メイナードという三人組だったが、良識ある四人目の加入により、ギルド関係者は「これでまともにクエストを依頼できる」と涙を流した。しかし、残りの三人が常識人の手綱に収まるはずもなく、彼はたびたび頭を抱え、ポーションをがぶ飲みし、日に日にやつれていく様が目撃された。
その様子を見て、ギルドの面々は「頑張れ…」と心の中でエールを送り、合掌したという。
【補足】ちなみに彼らは変身スキルで姿形を変えて、人間族として活動しております。
「え、は、いや…」
ある日のノースロップ侯爵邸。俺とナイジェルと義父上は、人間界で冒険者生活を楽しんでいる。そして時折、魔人国の王都にも顔を出す。その際、俺とナイジェルはその辺で適当に、義父上はノースロップ侯爵家のタウンハウスに宿を取るのだが、ちょうど現侯爵———つまりナイジェルの甥っ子が領地に戻り、タウンハウスの留守を前侯爵ノエル様が預かっているとのことで、俺たちも侯爵邸に呼ばれたのだ。
俺とノエル様は因縁の仲だ。俺は彼に拒絶されたためにナイジェルに別れを告げ、あわやナイジェルが泡と消える大惨事だった。だから非常に気まずい。だけど、義父上が「もう時効だろう」ということで、この席を設けたとのこと。そして告げられたのは、「幼き頃からメイナード様をお慕いしておりました」だった。
初対面の時、丸い虎耳としましまの尻尾を生やした真っ白の仔虎が、毛を逆立ててナイジェルの後ろに隠れてしまったのが昨日のようだ。あの時ナイジェルに「お前、キモいんだ」と言われて激しくハートブレイクしたのを覚えている。あれから避けられ続けて百四十年。俺はそのうち百年眠っていたわけだけど、その間に彼はすっかり大人を通り越してナイスミドルに。流石に一流の武人だけあって、虎人族としては異例の長寿だけど、今もレベルアップを重ねる義父上の方が若く見える。
なんか、無駄に苦労掛けちゃったな。お兄ちゃんの恋人がこんなポンコツで、ホントごめん。だけど、ずっとキモいからって嫌われてたと思ってたのが、なんと「好き避け」だったとは。百四十年越しの大歓喜。
「うっわぁ~、超嬉しい!あの時ノエル君とニコールちゃんが逃げちゃって、俺めっちゃショックだったんだよ。ナイジェルがキモいとか言うからさぁ」
「だってお前、キモいだろ」
「うっさい、キモい言うな!」
「あっあのっ、兄上もメイナード様も穏便に」
「はっはぁ。コイツらはこれが通常運転だからなァ」
「それよりさぁ、その可愛い虎耳、触ってもいい?ずーっと気になってたんだぁ…」
「えっ?はっ?メイナード様っ?」
「耳と尻尾はダメだ。そこは番限定だと言っただろう」
「おい婿殿、俺のにしとけ!ノエルのよりツヤツヤだぞ?」
「やだ!義父上は絶対そのまま寝技掛けて来るだろ!」
このように賑やかに歓談していると、やがて美人の猫耳メイドがやってきて、俺と義父上はゲンコツを落とされた。
「だから言ったろ。アイツぁ、な~んも気にしてねェって」
「はぁ…」
深夜。いつものごとく、ナサニエルとノエルの二人で、火酒を嗜みながら。
ノエル・ノースロップは、かれこれ百三十年も気に病んでいたのだ。兄の恋人に知らず知らず懸想した挙句「別れろ」と迫って、兄はあわや死ぬところだった。当のメイナードも、ノエルの一言に甚く傷つき、生還した後もひたすら涙を溢して謝罪を繰り返すだけ。
駄目だ。この男の魅力から、どうにも逃がれられない。その艶やかな髪に指を通して梳りながら、涙の伝う頬、懺悔を紡ぎ出す紅い唇、白い喉に口付け、細い腰を折れるほどに掻き抱き、長い脚を乱暴に割り開いて、叫ぶまで泣かせたい。その潤んだ紫水晶に、自分だけを映したい。突いて、壊れるまで突き上げて、この劣情を溢れるほど飲ませたい。
兄の腕の中で罪悪感に震える彼の姿を目にしただけで、これだ。これでもノエルは、次席侯爵家ノースロップを率いた男。次代、そしてその次をも立派に育て上げ、自身も戦士として申し分なく鍛え上げ。善政を敷き、民を富ませ、妻を娶り、見送り。清廉かつ堅君として名高い彼が、まさかそんな浅ましい肉欲を持て余していたなど。
しかし、兄が生還して三十年。領に戻り、後進を育てながら隠居を決め込もうとした矢先、先代からの呼びかけ、からの「可愛い虎耳、触ってもいい?」だ。
「まァ、気にしてねェってのは言い過ぎだな。だけどアイツぁ、懐に入れた奴には滅法甘ェんだ」
「———そのようですね」
彼と初めて出会ったのは、彼が学園を卒業して半年ほど。あれから百四十年、彼は兄上とともに、まるで学園生のような容姿から些かも変わっていない。棺を見舞った時に見た、透き通り消滅しかかっている兄と、獣のような彼。まるであれは幻だったような。
「なわけで、お前ェも来るか?ダンジョン」
「はっ?」
どうしてそうなる。
「どうせ暇なんだろ。人生なんて、長ェ暇つぶしだ」
ちったァ付き合え、扱き直してやる。ナサニエルの目は本気だ。彼は一度言い出したら聞かない。
「い、いえ、私は」
「旅は道連れっつうだろ」
ニィ、と獰猛に嗤うナサニエル。ノエルはもう、逃れる術がないことを悟った。
謎のS級パーティー「ナサニエルズ」に新たなメンバーが加わったらしいと、ギルドではもっぱらの噂だ。彼はリーダーのナサニエルより幾分老けて見えるものの、ナサニエルを父上、そして年若きナイジェルとメイナードを兄上と呼び、何らかの親戚関係にあることが推察された。
これまで、ノリだけで生きているムキムキ親父ナサニエル、冷静だが冷酷で傲慢なナイジェル、そしてちゃらんぽらんのお笑い担当メイナードという三人組だったが、良識ある四人目の加入により、ギルド関係者は「これでまともにクエストを依頼できる」と涙を流した。しかし、残りの三人が常識人の手綱に収まるはずもなく、彼はたびたび頭を抱え、ポーションをがぶ飲みし、日に日にやつれていく様が目撃された。
その様子を見て、ギルドの面々は「頑張れ…」と心の中でエールを送り、合掌したという。
【補足】ちなみに彼らは変身スキルで姿形を変えて、人間族として活動しております。
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