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第10章 後日談 終わりの始まり

(93)新しい始まり

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 目覚めると、よく知る天井だった。海辺の前侯爵邸、俺に与えられた客室。

 何でここにいる。あれは夢だったのか。俺はどうなっちゃったんだろう。サイドボードにあった手鏡を覗き込んでも、特別に変わった様子はないんだけど。

「ステータス、オープン」



名前 メイナード
種族 淫魔インキュバス
称号 愛欲神の愛し子・海洋神の花嫁
レベル 3,224

HP 32,240
MP 161,200
POW 3,224
INT 16,120
AGI 3,224
DEX 9,672

属性 闇・水

スキル 
魔眼 LvMax
呪詛カース LvMax
暗黒の雷ダーク・ライトニング LvMax
ヒール LvMax
キュアー LvMax
ウォーターボール LvMax
剣術 LvMax
身体強化 LvMax
格闘術 LvMax
投擲術 LvMax
転移 LvMax
偽装 Lv—
変身トランスフォーム Lv—



「何だ、これ…」

 久しぶりにステータスを覗いて驚いた。レベルがめっちゃ上がってる。いや、浄化の十年で四桁を突破して久しいんだけど。一晩で百以上上がるのは、あの夢を見た時以来だ。

 てか、この称号は何だよ。花嫁って、あの紋様にびっしり覆われたことだろうか。確かにあの時、自分が別のものに乗っ取られていくような感覚があったんだけど、今の肌色は元のまま、何の変化も見られない。いや、真祖の因子で獣に変わった時も、自分では「ちょっとテンション上がったな~」くらいの感じだった。今の俺も、自覚がないだけで、どっかおかしいんだろうか。

「起きたか」

 俺が手鏡を傾けてああでもないこうでもないと百面相している間に、ナイジェルが入ってきた。彼も拍子抜けするくらい普通だ。あの神殿の人外モードは何だったんだ。狐につままれたような気持ちでナイジェルを鑑定すると、彼もまた変な称号を得ていた。



名前 ナイジェル
種族 サイレン
称号 海洋神の化身アバター
レベル 1,650

HP 33,000
MP 66,000
POW 3,300
INT 6,600
AGI 3,300
DEX 3,300

属性 闇・水

スキル 
呪歌じゅか LvMax
剣術 LvMax
ヒール LvMax
キュアー LvMax
ウォーターボール LvMax
偽装 Lv—
変身トランスフォーム Lv—



 何それ化身って。しかもナイジェルもレベル爆上がりしてるし。そしてよく見ると、二人とも「変身トランスフォーム」とかいうスキルを覚えている。いつの間に。



 とりあえず体調には問題がなかったので、俺たちはダイニングに向かった。すると義父ちち上がいたく喜んでくれて、あれから一週間が経ったと教えてくれた。俺たちが満月の夜から不在にして三日後、ナイジェルが俺を抱えてひょっこり戻り、俺はそれから三日寝込んでいたらしい。ちっとも現実感がなくて、他人事のようだ。

「まったく心配かけおって、手のかかるせがれだ」

 義父上は満面の笑みで、早速俺を砂浜に連行した。心配ではなく、暇だったんだろう。この万年バトルジャンキーめ!



 それから俺たちは、ナサニエル邸を拠点に旅を始めた。まずは、ナイジェルと王都で再会する前に目指していた人間界。しかし人間界への旅は、俺の想像と少し違った。陸路で二ヶ月って聞いてたんだけど、実際は二ヶ月で到着するのは精霊の領域。そこから更に半年かかるんだって。どんだけ遠いの。

 人間「界」という通り、俺たちの住む魔人の領域と人間界とは、精霊界を媒介して有機的に繋がった異世界のようだ。生活様式はさほど変わらないが、全体的に魔素の濃い魔人界と違って、人間界は魔素が乏しい。その代わりにダンジョンがあるらしい。ダンジョン胸熱!

 身を乗り出して興奮する俺を冷めた目で見る、ナイジェルと案内役のエルフ。精霊界は、龍や妖精、ドワーフなど半精霊・半物質の種族が住む世界だ。魔人界から現魔王の俺(依然オズワルド様が在位しているが、レベル的に一番高いのは俺らしい)、そして溟渤めいぼつ界から海洋神の化身ナイジェルが現れて、精霊界はてんやわんやの大騒ぎとなった。しかもこれから人間界に遊びに行くとか。お前ら人間界を滅ぼす気か、ということで、俺たちはエルフの迎賓館に缶詰めにされ、外交官に「人間界の歩き方」の教えを受けているというわけだ。

 ところで、海底神殿でゲットしたらしい「変身トランスフォーム」は、非常に役立つスキルだった。偽装では、魔力や能力を隠したり偽ったりできるけど、外見が常人離れしていくのは困ってたんだ。しかし変身は、姿形から根本的に変えることができる。髪の色、顔形、体型から種族特性まで。もともとこれは、サイレンが脚を生やして地上で生きるために覚えるスキルだそうで、これから人間界に旅に出る俺たちにぴったりだ。角なんか生やしてたら悪魔みたいだしな。

「見て見て!猫獣人!可愛くね?」

「はぁ…」

 俺が変身ごっこに興じていると、ナイジェルに盛大にため息をつかれた。猫系獣人の頂点ノースロップに合わせてみたのに、なぜなのか。



 マガリッジから王都に出てきた時。あの時は、まさかこんな旅になるなんて想像もしてなかった。俺たちは、時には商人、時には兄弟を装って、二人して知らない街に出かけ、食べたことのないものを食べて、未踏のダンジョンを攻略し。そして時折ナサニエル邸に戻っては、「俺もダンジョンに連れて行け」とせがまれて、三人パーティーで遊びに出かけた。

 たまに王都に顔を出すと、オスカーとメレディス、パーシーも同じように、三人で仲良くやっているようだ。ラフィとロッドは相変わらず王宮で暗…活躍しているみたい。お土産を持って行っては、情報交換したり、愚痴を聞かされたり。

 俺たち魔人は、種族や個人によって、能力値や魔力保有量に圧倒的な差がある。それはすなわち、寿命に差があるってことだ。元から長命な天使族と竜人族のハイブリッドのオスカー、不老不死のメレディス、そしてレベルがべらぼうに上がってしまった俺やナイジェルは、果たしていつまで生きられるのか、見当もつかない。一方で、平民や下級貴族の旧友たちは既にこの世を去ってしまったし、遠い祖先に幻獣を持つとはいえ、ラフィの刻は俺たちよりも早く進む。パーシーや、ナサニエル様もだ。そう遠くない未来に別れを覚悟しながら、貴重な時間を楽しい思い出で満たして行きたい。そして、同じ時を生きられるナイジェルが、隣にいて良かった。



 ちょっとセンチメンタルな気分になってしまったのは、ナサニエル邸で夜の海を眺めているからだ。義父上は少し前に休んでしまった。穏やかな水面が月光を映して、銀色に煌めいている。

 隣で海を眺めていたナイジェルが、不意に立ち上がり、俺に振り返る。

『———来ルカ』

 碧く光る瞳。立ちのぼる神気。心臓がどくりと跳ねる。化身に降り立った神。俺の、夫。

 これからまた、あの神殿で「神事」が始まる。いつもの激しい寵愛を思い出し、ぞくぞくと甘い痺れに身を任せながら、俺はナイジェルの手を取った。
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