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第10章 後日談 終わりの始まり

(92)※ 神事

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「あっ…はぁっ…」

 ぼんやりと意識が浮かび上がり、朦朧とした視界に捉えたのは、碧く光るナイジェルの瞳。深く侵入した肉槍にぐぷりと抉られ、思わず腰が跳ねる。

「なん…で…」

『踊レ、神子ミコヨ』

「んあああッ!!」

 強まる抽送に、一気に思考が戻ってくる。なぜだか俺は、ナイジェルに正常位でガン突きされているところだった。いつからかは分からない。腹の上は、既にザーメンでびちょびちょだ。

「ちょ、ま、待っでッ…あ”ああッ…!!」

 いところを的確に狙われて、俺はまた呆気なく射精する。俺たちが目覚めてから二ヶ月ほど。その間はナイジェルを抱くばかりで、抱かれたのは久しぶりなんだけど、いきなりこんな強いセックス———しかも全然止まる様子を見せない。汗の一つもかかず、涼しい顔をして、彼は満足そうに俺を見下ろしている。そしてアクメを決めたばかりの俺を容赦なく追い立て、俺は早くも次の絶頂に飲まれる。

「や、あ、ナっ…」

 ヤバい、めっちゃ気持ちいい。ナカを埋め尽くす力強いナイジェルのオスが、俺を容赦なく蹂躙する。一番気持ち良いところを、一番気持ち良いように、強く、激しく、ゴリゴリと。恋人たちはみんな、いずれ劣らぬ性豪揃いだけど、淫魔の俺はどこか余裕を持って相手をしていた。淫魔は寝技では最強だ、セックスじゃ負けない、そう思ってたのに。

「あ”!やぁん!イぐ!イッ…!!!」

 止まらない猛烈なピストン。石造りの神殿には、卑猥な水音と俺の啼き声だけが響いている。快楽の嵐の中、俺は木の葉のように翻弄されて、髪を振り乱しながらみっともなく泣き叫ぶ。すごい。こんなの耐えられない。きもちい。きもちい…

「あああ!!!」

 どくん、どくん、どくん。

 ナカに注がれる、おびただしい神気。前にもこんなことあったな、パーシーと。あの神狼は、パーシーであってパーシーじゃなくて、でもやっぱりパーシーだった。今俺を見下ろすナイジェルも、ナイジェルであってナイジェルじゃない、でもナイジェルだ。俺を追い詰めてニヤッとする、ちょっとSっぽいところがある。だけどまさか、こんなところで発揮しなくたって———

 頭も身体も働かない。視界が真っ白に塗りつぶされ、俺は再び白い光の海に沈んだ。



 ———沈んでいたのは俺の意識だけで、あれからずっと「神事」は続いていたらしい。ゆさゆさと揺さぶられる感覚で、俺はまたぼんやりと気を取り戻した。

「…う…あぁ…」

『冥神ノ怒リヲ宿シタ、愛欲神ミュリエルノ愛シ子———格別ダ』

 背後から腕を引かれ、ゆるゆると穿たれていた俺は、そのままぐいっと身体を起こされ、ナイジェルの胡座の上に座らされる。

「んああッ!」

 いきなり深く貫かれ、悲鳴が漏れる。てか、ナイジェル何言ってんの。キャラ変わり過ぎじゃね?声も、まるで二人のナイジェルが同時に喋ってるかのよう。そしてあそこがこれまでよりずっとデカくなってる。前はこんな奥まで…

「ヒッ」

 視線を下に移して、気がついた。俺の腹に、びっしりと幾何学模様が浮かび上がっている。それは天井のステンドグラスの模様と同じ、そしてナイジェルの瞳のように碧く光って———



 俺はこの現象を知ってる。楽園ザイオンで刻まれた、聖龍の紋様。あれは聖龍の瞳のごとく黄金色に光り、俺を鎖で繋いでいた。全身を覆い尽くされる前に真祖の因子が吹き出して、有耶無耶になってしまったけど。

 今は違う。薬湯や禊を使った、まどろっこしいやり方じゃない。海洋神の神域で、ダイレクトに神気を注がれて。こうしている間にも、紋様はじわじわと肌を這い、版図はんとを広げている。俺が、内側から、俺じゃないものに、書き換えられていく…

「やらっ…やら、やら、」

 もうどこにも力の入らない身体で、懸命にもがく。しかし細身のはずのナイジェルが、恐ろしい力で俺の腰を抱え、びくともしない。奥の奥までズップリと満たされ、くちゅ、くちゅっと卑猥なグラインドを繰り返されて、俺のメス穴は快楽にわななき、逞しい剛直にチュウチュウと吸い付いている。俺の肉体が求める最も理想的な愛撫に、脳の奥までじんじん痺れ、視界が瞬く。涙と唾液が止まらない。もっと突いてほしい。もっと捏ね回して、俺をオンナにしてほしい。身体はとっくに陥落している。

 だけど分かる。ナイジェルのペニスから漏れ出す神気を受け入れて感じるたびに、腹の紋様はじわじわと広がっていく。外側だけじゃない。まるで根が張るように、内側からも。下半身は既に足先までびっしり、上半身は鳩尾みぞおちを超えて、胸へと這い上がりつつある。駄目だ。この紋様に覆い尽くされたら、俺はもう…

 しかし俺の恐怖とは裏腹に、ナイジェルは無慈悲に俺を揺すり、俺を的確に追い詰める。意味を為さないささやかな抵抗をガッチリと抑え込み、逃げようとする腰に合わせてリズムを刻み、甘い絶頂を繰り返す俺にオスの味を刻みつける。不自由な律動が次第に強まり、俺はナイジェルに抱え込まれたまま再び石の床に組み伏せられ———ナカで一際たけったかと思うと、どつ、どつと叩きつけるような抽送が始まる。

「あああやらッ!中出なからし、しないれッ!!」

 ぼちゅぼちゅぼちゅぼちゅ。

 発情したメスを孕ませるべく、激しく蹂躙して征服するときの種付けピストン。いつも理詰めのセックスをするナイジェルは、時折このスイッチが入る。しかも今は、神獣ほどの逸物が腹を突き破るほどの勢いで。胎内をド突き回され、痛みも苦しさも全て快楽に変換され、紋様は一気に鎖骨を覆ってその先へ進もうとしている。ナイジェルの射精は近い。こんなのでナカに出されたら…!

「らえぇッ!!にゃか、ら”さないりぇェッ!!!へあァ”ッ!!!」

 嫌だ!怖い!俺が塗り替えられる!

 でも気持ちいい!きもちいい!!ぎもぢいい!!!

「ぎあああッ———!!!」

 虚しく伸ばした指が、石床を掴む。散々アクメを叩き込まれた挙句、胎内からどくどくと海洋神の神気が注ぎ込まれて、俺は断末魔の悲鳴をあげる。紋様は首を超えて顎を這い、顔を覆い、視界もまた碧い光に飲み込まれていく。内側からも。喉と頚椎を通過して、神経が、脳が、侵されていく。



 こわい。たすけて。おれが、きえて、なくなる。



 やがて円環は頭頂部で収束し、俺の全ての知覚と思考はぷつりとシャットダウンした。










『メイナード。これでお前は、俺のものだ———』
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