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第9章 後日談 メイナードの恋人たち

(75)※ 木曜日の恋人

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 木曜日、後宮に新たなとぎ役が加わった。

「本日より、お役目をたまわりました。どうぞよろしくお願い致しますね」

 柔和に微笑むのは、ラフィだ。どうしてこうなった。



 実は、こうしてローテーションを組んで相手してもらうのには訳がある。俺が真祖の因子を発現して、恐るべき獣の姿になった時、四人の恋人たちが順番に精を注いで、呪いを中和してくれた。その時、回を重ねるごとに全体的に呪詛が中和されたというより、一人一人解呪する部位が異なっていた、のだそうだ。過去の真祖討伐記録と照らし合わせると、どうも真祖の力に対抗するには全属性の魔力が必要らしく、単騎でゴリ押しは出来なかったという。これが「諸侯で力を合わせて」という討伐システムの根拠となっている。ゆえに、俺の中の因子を中和していくためには、各属性の魔力が必要なのではないか、という推論となった。

 月曜日のメレディスは風属性。火曜日のパーシーは火属性。水曜日のオスカーは光属性。そしてナイジェルは、俺と同じ水属性。闇属性はみんな持ってる。あとは、土属性だけが不足しているというわけだ。

 現在、この国で土属性を持つ最強の人物といえば、オスカーの父、魔王オズワルドだ。しかし彼は、百年越しの遠距離恋愛?を成就させて、後宮(魔王様の、だ。俺がいるのは王太子殿下の後宮)から出てこない。竜人族の愛情深さは凄まじく、放っておいたら一生出てこない勢いだという。なので彼は除外。そして王宮の中で、土属性を持ち、レベルが高くて魔力が強い者といえば、指折り限られて来る。そこで、条件に見合うラフィに白羽の矢が立った。彼とは普段上司と部下として良好な関係を築き、更に機密情報を知る数少ない人材なので、むしろ彼以外に適任は存在しなかったと言っていい。

 しかしラフィには、学生時代からの恋人ロッドがいる。彼を差し置いて後宮で俺のお相手なんてしてていいのか、ということであるが…

「というわけで、こちら助手のロッドです」

 彼の足元には、首輪にリード、貞操帯と口枷ボールギャグを装着されたロッドが跪いている。ほとんど全裸やん。君ら、それでいいんかよ。



「ふぅぅっ!ふぅぅっ!ン”ン”ン”ン”ッ…!!!」

 俺の下で、ロッドがビクビクとしなる。彼の金色の瞳には卑猥な隷属れいぞく紋が爛々らんらんと輝き、焦点が合わないままだらだらと涙をこぼしている。目つきが鋭く普段感情を露にしないロッドが、こうして快楽に屈してトロトロになっている姿は、グッと来るものがある。細く引き締まった肢体に、小麦色の肌。この世界のダークエルフは、アジア人のような瑞々しい魅力を湛える。尖った耳がぴくぴくして可愛いが、家族や恋人しか触っちゃダメなんだそうだ。

 改めて、彼の肉体は敏感でエロい。しかもドMらしく、予期せぬ動きで強めに穿うがっても、嬉しそうに跳ねる。そして何故俺が予期せぬ挙動に及ぶかと言えば、俺は背後からラフィを受け入れているからだ。

「くぁっ…ラフィ、そこダメ…っ!」

 決して体格に恵まれているわけではないラフィだが、そこは凶器と呼んでもいい。彼は屈強なそれで俺の中をみっちりと満たし、緩急を付けて責めてくる。

 彼は絶対に、俺が欲しい時、欲しい場所に、欲しい愛撫を与えない。ゆっくり愛して欲しい時には激しく、もっと強く抱かれたい時には沈黙を守り。刺激を求めて腰を揺らせば逃げられ、昇り詰めて休みたい時ほど弱いところを徹底的に甚振いたぶられる。心地よくとろけてしまいそうな営みとは無縁の、常に痛みと快感のギリギリを攻めてくるプレイ。なのに俺はどうしようもなくたかぶり、彼の思惑通り、ロッドとの間で為す術もなく踊らされる。

 俺の精は強力な媚薬だ。いつかオスカーの部屋で彼らを相手取った時、二度も注げば隷属れいぞく紋が定着してしまった。レベル差のあるロッドにはキツ過ぎるだろう。だから、極力イかないように快楽を逃がそうとするのだが、このドS野郎ラフィはそれはそれは嬉しそうに俺を責め立て、媚薬にやられてぐずぐずに壊れて行く恋人を、俺越しに楽しそうに見下ろしている。

 散々良いように焦らされ、なぶられ、嗜虐的なセックスに翻弄されて、気持ち良いけど何か大事なものを失いそうだ。息も絶え絶えに、「もうコイツやだ」ってなって来た頃合い、何のスイッチが入ったのか、ラフィは猛然と俺を責め立てる。背後から両手首を掴み、グイッと引きながら、ガツガツと。上半身を起こされ、ガクガクと揺さぶられながら、激しい快楽にひたすら喘ぐ。ロッドを気遣う余裕はない。彼は俺の吐き出した精にやられて、とっくに気を失い、ひたすら痙攣している。背後から「ははははは」という高笑いが聞こえる。ああこれ、前に彼の脳内で見たヤツだ…。

 彼から注がれた土の魔力は、俺の肉体と精神にじんわりと染み渡っていく。言葉に言い表すのは難しいが、確かに「これが欲しかった!」っていう感じがする。スポーツの後のスポドリのようだ。ロッドの横に力無く倒れ込めば、視界の端に満足そうなオスの顔をしたラフィ。



 媚薬で廃人となったロッドを挟み、川の字で横たわる後宮の巨大なベッド。まさかこんな川の字を描く日が来ようとは。

「なあ、ラフィ。これ、良かったのかよ?」

 限界アクメを超え、いろんな体液が垂れ流しになり、ロッドは「みせられないよ!」という無惨な有様だ。清浄クリーンを掛け、簡易な夜着を着せているが、明日の出勤が危ぶまれる。

「ふふ。私もロッドも、いつかメイナード様に恩返しをしたく存じておりましたから」

 一方の相方の、この爽やかな笑顔よ。

「オスカー様の書斎での温情、そして私たちに示してくださった限りない可能性。あれからロッドと幾度となく睦み合い、いつか共にメイナード様のご寵愛がいただければ、と話しておりました」

「お、おう…」

 ご寵愛って「サンドイッチ」のことなのか。それとも「公認NTR」のことなのか。「限界鬼畜プレイ」のことなのか。全部だろうな、うん。あの高笑いが全てを肯定している。

「ラフィって、マジでドSだよな…」

「私共の隠された嗜好を見出し、開花させて下さったのは、メイナード様ですよ」

 開いてはいけない扉を開いてしまった。

「それに、随分お楽しみいただけたようですが…違いますか?」

 そうだった。ラフィは相手の思考を読み取るスキルを持っている。オスカーの審判ジャッジメントと違い、得られる情報は抽象的かつ感覚的なものらしいが。彼が俺の意表を突きつつ、しかし絶妙に追い詰め、啼き狂わされたのは、彼が俺の思考を正確に把握していたからだ。彼に嘘は通じない。

 今ひとつ釈然としないが、俺は返事をしないまま、シーツに潜り込んだ。ラフィはクスリと笑うと、小さな声で「おやすみなさいませ」と呟いた。



 翌日、案の定ロッドは欠勤した。俺もラフィに翻弄され為す術が無かったとはいえ、途中から抜いてあげればよかったかな、なんて気を揉んでいたが、翌週にはしおらしく頬を染めて出勤してきた。

「あの、先週はその、お見苦しい姿をお見せして」

 彼はデレると破壊力が半端ない。警戒心丸出しだった野良猫が、一転懐いて来た時の不器用な愛らしさに、抗える人類など存在するだろうか。やめろ。ラフィの殺気とナイジェルの冷たい視線が痛い。心頭を滅却して、黙って大人しく仕事をしなければ。

 しかし週の半ば、たまたま俺とロッドだけが執務室に取り残されるチャンスが訪れた。

「なあ、ロッド。お前、ラフィのこと、ちょっとギャフンと言わせたくね?」

「ギャフン、と申しますと」

 怪訝な表情を向けるロッドに、俺は提案をもちかけた。

「ロッドさ、ラフィに可愛がられるの好きだろ」

「あ、その…っ」

 小麦色の肌なのに、赤らんでいるのが分かるほどロッドが動揺している。彼の痴態は散々見知っているのに今更だ。

「こないだはさ、俺が間に入って、ラフィに可愛がられたわけだけど…逆にラフィに可愛がられるお前が、ラフィを責めるって、興奮しない?」

「!」

 何のことはない。攻守入れ替えだ。だがしかし、単に役割が入れ替わるだけではない。ラフィのペットとして着実にしつけられている彼としては、一周回って飼い犬が飼い主を犯すという倒錯的背徳感に食指が動いたらしい。



 今回はロッドを手枷で拘束して、天蓋にしれっと付いているフックに鎖で繋いでおいた。「最初から挿れちゃったら壊れちゃうから、始まりは見学で」と言えば、ラフィは喜んで恋人を吊るした。いいのかお前ら。

 改めて、ラフィと正常位で繋がる。彼は柔和な美貌に聖職者のような清らかな微笑を浮かべ、容赦のない腰使いでゴリッゴリに攻めてくる。散々焦らされて、一方的に何度もイかされて、ようやくラフィが一度達したタイミングで。シーツを掴んだと見せかけて、手元に転移スキルを使い、ロッドの手枷を鎖から外す。

「ロッド、あなたは…!」

 お預けを食らったロッドが満を持して参戦だ。ただし今日はラフィの背後から。奥手だった彼は、ラフィにすっかり調教され、元々の潜在的才能も相俟あいまって、ノリノリで侵入していく。いきなりの挿入も淫魔の俺がサポート。安心安全の即ハメだ。

「ラフィ…!」

「あっ…!あ、あ、駄目っ…!!」

 い。あっという間に余裕を無くして、ロッドにガン掘りされて表情かおが蕩けてくるラフィ、すっごいクる。俺を追い詰める腰使いが、ロッドに追い立てられて、快感を求めるそれへ。いいぞもっとやれ。そして俺は、腹の上でひたすら精を吐くだけだった俺のものを、転移を使ってロッドの中へ。

「くああああっ…!!」

「ひぐッ!あああ!!」

 ロッドが媚薬に灼かれ、狂ったようにラフィを穿うがつ。ああ、ラフィの泣き顔いいな。俺は腹の上の精を指で掬って、ラフィの口へ突っ込む。彼は涙を流しながら美味しそうに舐め取り、甘い声で延々と悲鳴を上げながら、やがてロッドと共に気を失った。

 いやあ、思ったよりも満足の行く夜になった。彼らも新しい扉が開かれ、きっと喜んでくれたに違いない。



 と思っていた時期が、俺にもありました。

 翌日、仲良く有給を取った彼ら。二人だけの執務室で、ナイジェルに冷たい視線を投げかけられた。ご、ごめんて…。そして翌週、ラフィからはいつもの週の倍量の仕事を積まれ、ヒイヒイこなしているうちに木曜日。

 俺とロッドは、仲良く拘束され、大人の魔道具で延々と地獄の責苦…いや、可愛がり・・・・を受けた。知らなかったんだ。レイ子爵家が、代々その手のプロフェッショナルだったなんて。領地を持たず王宮で君臨し続ける古参の法衣貴族がどんなに恐ろしいか、俺は身をもって知った。ロッドは惚れ直したみたいだが。

 彼らとはその後も良きお付き合いをさせていただいている。(震え声)
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