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第4章 仕官編

(31)※ 離さない

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 それにしても、これからどうしよう。とりあえず王宮はやめさせてもらって…水曜日にまた王太子殿下に謁見なんだっけか。月曜日と火曜日、ナイジェルに会いたくないな。早く出勤して、あの二人のどちらかに、休むって言えばいいかな…。

 それよりも、この発情っていうヤツだ。自分で満たせないなら、どこかで何とかするしかない。月曜にメレディスとヤってから、水曜にはおかしくなり始めた。昨日、ナイジェルと最後のセックスをしたけど、この後どうしよう。人間界は遠い。陸路で向かって、最短でも二ヶ月はかかる。着く前に発狂してしまう。こういうの、相手はどうやって探せばいいんだろう。

「セフレか…」

 娼館ならばどこにでもある。金はかかるが解決できる。だが問題は、俺が欲しいのは後ろのほうだ。中に欲しくなる。多分女では満たされない。だが、男色があまり一般的ではないこの国で、俺を抱きたい男なんて…そういえばアイツ、何で俺を抱いたんだろう。ああ、始まりはフェラだったか。いくら俺の外見が整ってきたからって、男に「フェラしてください」とか「ヤらないか」って言ってくる男なんて、珍しいだろうなぁ…。

 そういえば、昨夜ゆうべも夕飯を食い損ねた。俺は精を受け取ると空腹を感じない性質たちなんで、平気といえば平気だが、さすがにずっと食べないわけにも行かないだろう。朝もとうに過ぎて、昼になりかけてる。どっか外に行って、食い物でも調達してくるか。

 のろのろと身体を起こし、着替える。髪の手入れも適当でいい。メガネは…畜生。今は見るのも辛い。新しいの買おう。他にも何か、変装できそうなヤツ、見て来ようかな。

 その時。玄関のドアノッカーが、コツコツと音を立てた。誰だろう、この家に用のある者などいないはずだが。世話をしに来たタウンハウスのメイドが、鍵でも忘れたのだろうか。そのうち、コツコツが、ガツガツ、ガツガツガツとうるさくなってきた。押し売りか何かか?無視していようか息を潜めていると、聞き覚えのある声が聞こえて来た。

「メイナード!いるんだろう!」

 ———何でお前がここに来てんの。



「何。うるさいんだけど」

 俺は努めて冷たく言い放った。

「お前、何で勝手にいなくなった」

「お前に許可取る必要なんかないだろ。もう終わったことだし」

「終わったって、何が」

「何でここに来たんだよ。てか、ここの場所教えてないだろ」

 転移で一度、跳んで来たっきりだ。

「家の者に探させた」

「はぁ?」

 確かに侯爵家の諜報員なら、ここから見える時計台や王宮の塔なんかの情報があれば、この場所を割り出すことは難しくないだろうが…

「お前、また俺から逃げる気なのか」

「逃げるったってお前…」

 もう一度ステータスを確認する。魅了はかかっていない。瞳に隷属れいぞく紋も確認できない。

「お前さあ。俺にまんまと魅了されてたんだよ。分かってる?」

「だから何だ」

「もう解けて、正気に戻ったろ。だからもう終わりだって」

「お前は何を言っている?」

 そっちこそ、何を言ってるんだ。

「言っただろう。俺を捨てるなんて許さない。諦めないと!」

「ちょっ…人ん家の玄関先で!ああもう…!」

 仕方ない。俺は急いでドアを閉め、彼を連れて彼の部屋に跳んだ。



「もう、なん…」

 なんで、と言おうとして、乱暴に唇を塞がれた。腕と顎をグイと掴まれ、力尽くで壁に押し付けられる。

「んんっ…はぁっ…」

 窒息しそうな、強くて深いキス。でも、最初の時のような粗暴なヤツじゃない。彼は俺の良いパターンを学習して、身体を重ねるごとに、どんどん俺を的確に追い詰める。彼の膝が、俺の膝を割って入る。昨夜ゆうべあんなにヤったのに、もう腰が砕けそうだ。

「感じているじゃないか」

「やめろ、俺たちはもうそんなじゃ」

「俺は認めない」

「くっ…!」

 耳はやめろ。魔力の乗ったサイレンの声は卑怯だ。至近距離で、レジストが仕事をしない。

「だ、だからもう、魅了…ああ、やめっ…」

 ちゅうっ、ちゅうっと首筋を強く吸われる。今、赤い印をいっぱい付けられている。ああ、そんなとこクリクリするな!

「さっきから何だ。魅了がどうした」

「だから、お前は魅了されて、俺に惚れてると勘違い…」

「お前の魅了は解けたと言ったか?」

 彼はいやらしく下半身を押し付けてくる。布越しでも分かる。俺が切望してやまない、熱く硬くたぎったそれ。

「魅了など関係ない。お前が俺を選んだ。俺も」

「あ、あ…」

「お前は俺のつがいだ。離さない」



「あっ、あっ、あ、待って…!」

 結局玄関で犯され、それからベッドに運ばれて、こうして何度もイかされて。

「欲しいんだろう、俺が」

「あっ、やだっ、イっく…!イっくぅ…!!」

 ああもう、気が狂いそうなほど気持ちがいい。それ、それもっと挿れて…!

「メイナード。お前、発情しているだろう」

「?!何でそれ…」

「匂いは上手く隠しているが、乱れ方が前と違う」

 いや、そういうことじゃなくて、何で…

「俺がお前をつがいと決めた。お前も俺の番になることを了承した。そしたら発情するに決まっているだろう」

「はぁ?!」

 何その獣人ルール。

「俺、オスの淫魔インキュバスだぞ?何で発情なんか」

「さあな。実際に発情してるんだから、そういうことだろう」

「ちょっ、じゃあ発情っていつ終わるんだよ」

「そりゃあ、孕むまで」

「そんなの聞いてない!」

 ナイジェルは、ふふ、と笑いながら、また俺を穿うがち始めた。そしていつかと同じように「お前はずっと、俺の下で鳴いていればいいんだ」と、俺の耳元で甘く囁いた。その言葉の通り、俺はそれから延々とかされた。

 俺の王都脱出計画は、こうしてまた阻まれた。
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