嘘つきは私かもしれない

koyumi

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第16話

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 チュン、チュン、チュン、チュン

 小鳥のさえずりに、朝を告げる太陽の光。

 目が覚めた。

 夢?

 夢か……。

 私はまだ、ここにいる。この理想が詰まったインテリアに包まれて……。

「……や、な、何?重っ。」

 体を起こそうとするが起き上がれない。不可抗力がどこからか働いている。
 ふと、胸のあたりがモゾモゾと動き、選りに選って先端部分を何かに掴まれた。
「あっ、やっ」
 自分であげた声に勘付いた。

 そーっと頭を動かして隣にいる人物を見る。
 するとそこには夢に出てきた張本人がスヤスヤと眠る姿が!

「ーーっな、何やってんのよー!!!」

 信じらんないっ!
 なんでっ?
 何なのっ?
 バッカじゃないのっ!!?

 私は私の胸元にある夫の手を払いのけた。だが、そんな動きじゃ起きるつもりはないらしい。
 《ぐかぁー、ぐかぁー、》と、顔に似合わないいびきをかきながら、無邪気な顔で寝ている。
 それなのにさっきはよくピンポイントで当てたものだ。
 夫に触れられた辺りがざわつく。
 
 それにしても……

 いつからここにいるのだろうか?
 御三方は知っているのだろうか?

 その時、ドアの向こうがバタバタして、騒々しい声が聞こえてきた。
《何をやっている!居眠りなど!》
《申し訳ありません……あの、坊っちゃまが……》
《なに?坊っちゃまがここに?若奥様を見舞いにか?》
《はい……》
《では今中に!?》
《はい……》
 この声は多分武田さんと毛利さんだ。最初に注意されたのは武田さん。
 武田さんは鼻にかかる声が特徴的だからすぐにわかる。

《コンコン、若奥様、ご加減いかがでしょうか……》

 毛利さんだ。

「……はい!大丈夫です!すっかり元気です!」

 わざと夫に向けて声を大にした。
 すると、ゆっくりだが頭を上げて、ようやく目を開いた。が、またすぐに寝息を立てて眠り始めてしまった。

「もうっ!ここは私のベッドなのにっ!」

 肩を揺すってみるが起きない。
 余程疲れているのだろうか。
 よく見れば、目尻からまっすぐ涙らしき跡があった。
「?悪い夢でも見たのかしら?」

 だが、その割に今は朗らかな顔をして寝ている。

 本当に綺麗な顔立ち。
 鼻は高く、目は切長だが細くない。眉毛もキリッとしていて男らしい濃さもある。頬骨から顎にかけてのラインがまさに男前だ。
 唇は……程よい厚みで形もいい。
(どんなキスをするんだろ…。)
 やっ、バカバカ!!
 何を想像しているんだ!
 こんな奴と接吻など、ある訳がないのに!考えるだけ無駄だ。

《コンコン、若奥様、入ってもよろしゅうございますか?》

「あ、は、はいっ」

 しばし夫の顔を詮索していると、それを中断するように毛利さんが入室してきた。まあ、許可したのは私だけれど。

「随分とお顔の色がよろしくなりましたね。良うございました。いかがですか?お着替えいたしましょう。きっと汗をたくさんかかれているでしょう……か……ら…………えっ?坊っちゃま?」

 毛利さんは、私の顔色を見て笑顔で話していたのだが、夫の姿に気づいた途端、目を丸く見開いて開いた口に手を当てた。

「あのぅ、目が覚めたらいたんです、ここに。いつからなんでしょうか?」

 どちらかというと、色々と聞きたいのは私の方だ。

「あ、いえ、あの、先程武田に確認したところ、午前1時辺りにお見えになり、自分が看病すると仰せになったそうでございます。しかし……それにしても……」

 一通り私の質問に答えてはくれたが、とにかく毛利さんらしくなく、夫が気になって仕方ないらしい。

 そうこうしていると、毛利さんにつづき、近重さんも入室してきた。

「失礼致します。若奥様、体調はいかがです……か……!?えっ?坊っちゃま?えええっ!?坊っちゃまがベッドで寝ていらっしゃるなんて…!しかもこんなに人がいるのに起きないなんて!」

 ねえねえ、皆さん……
 一番驚いたのは私のはずなんだけど……。
 目覚めに胸を掴まれた私が、一番驚いているはずなんだけど……。

「近重!あまり喋るでない!坊っちゃまがお眠りになられているのだ!起こすでないぞ。」 
「は、はい……申し訳ございません……」

 そして、回復した私ではなく、隣で眠っている夫の為にどうすればよいかを2人は話し合い、

「若奥様、緊急事態でございます。若奥様におかれましては、ご無理を承知でお願い致しますが、しばしこのままベッドでお休みになるようにお願い申し上げます。お着替えは、こちらにご用意しておりますので、お部屋着になります故、ゆっくりとお寛ぎ下さいませ。」

と、結論づけた。

 このまま?ここで?
 夫の為に?
 何故!?
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