ドS騎士団長のご奉仕メイドに任命されましたが、私××なんですけど!?

yori

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1巻

1-3

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 どうしても気になって、不躾ぶしつけにも、ある一点に一瞬チラリと少し視線をやってしまう。
 思わずごくりと喉を鳴らし、拳を握りしめ、私は勢いよく声を出した。

「あの、お気遣いなく! 私は職務をまっとうしますので! ランドルフ団長のご奉仕メイドになるからには、怖がらず、しっかり受け止めてみせると、たった今、覚悟を決めました!」
「……お前、自分が何を言っているのか、ちゃんと分かっているのか……?」
「はい! やってみせましょう! 私エミリア、誠心誠意お勤めいたします!」
「でも処女なんだろ?」
「しかし、私はランドルフ団長の専属ご奉仕メイドです!」

 少しの沈黙が、二人を包み込む。
 ――あれ? 私、早速やらかしちゃった?
 そう不安に思った頃、ランドルフ団長の目元が和らいだ。これは微笑んでいるということでいいのかしらと思った瞬間、彼の赤い瞳がギラっと光る。

「そんなに言うのならば、ご奉仕してもらおうか」

 ランドルフ団長が片頬をゆっくり上げたのを見て、ようやく気がつく。
 こ、これは微笑んでいるんじゃない……
 獲物を見つけた、肉食獣の目だ。
 ランドルフ団長に捕まえられた私は、横抱きで隣の部屋に運ばれた。カーテンが閉じていて薄暗い。彼がベッドの前で立ち止まり、静かに下ろされる。
 覚悟を決めていたとはいえ、この急展開に思考がついていかない。
 ランドルフ団長の整った顔が近づいてようやく、自分の背中がベッドにつき、押し倒されているのだと気づいた。

「わ、わぁ……っ!?」

 驚いた声が漏れると、それを塞ぐように唇が重なった。
 ――私にとって、初めてのキス。
 今日初めて話した人なのに、全然嫌じゃないのが不思議。
 むしろ身体が熱くて、とろけていくような感覚がしてくる。
 何度も触れるだけの口付けをされて、自然と彼の薄い唇をついばむ。
 やがて、舌が唇の隙間を割り入って、咥内こうないに侵入してきた。上顎や歯列を舐めとられるとあまりの気持ちよさに頭がぼうっとして、どんどんこの行為に夢中になっていく。
 しかし呼吸をどうすればいいのか分からない。彼の頬に息がかかるのがなんだか恥ずかしいことのように思えて息を止めていると、「鼻で呼吸をしろ」とささやかれた。
 私は必死に頷いて、今度はゆっくり呼吸をしながら、舌を絡め合う。
 耳に届く水音が妙にリアルで、どうしてだか、お腹の奥がうずいたような気がした。
 唇が離れると、銀糸が二人の間を伝う。乱れる呼吸の中で、彼が不敵に笑った。

「お前、キスだけでこんなに乱れて、素質があるな」
「っ」

 意地悪い雰囲気をかもす笑顔なのに、何故だかきゅんと、ときめいてしまう。
 髪の毛を撫でられ、頬やおでこ、涙の溜まった目尻にまでキスの雨が降ってくる。
 耳を甘くかじられると、自分のものとは思えないほど甲高かんだかい声が飛び出た。
 ランドルフ団長が小さく笑って、その吐息が耳にかかる。くすぐったくてぴくんと身体が揺れた。
 ふいに、彼の舌が耳のふちを這う。

「ひゃ、あ……っ!」

 背中にぞくぞくとした快感が走った。
 甘ったるい自分の声が恥ずかしくて思わず下唇を噛むと、彼が再び私の唇に触れるだけのキスをする。

「声は我慢しなくてもいい」
「で、ですが……」
「お前の唇が、傷ついてしまう」

 噛んでいたあとでも、ついたのだろうか。私の口元を見下ろし、彼が眉根を寄せる。
 それから労るように、下唇を親指でそっと撫でられた。

「このくらい大丈夫です。私は昔から頑丈なので」
「……無理だけはするなよ」

 そう言って私の唇をひと舐めし、首筋をなぞるように手を下ろしていく。
 最初にエプロンを脱がされて、ブラウスのボタンを一つずつ丁寧に外されると、下着が露出した。
 ランドルフ団長は口調こそぶっきらぼうだけど、私に触れる手つきは優しい。
 彼になら安心して身をゆだねられる……と考えたところで、ハッとした。
 ――なんで私がうっとり気持ちよくなっているの!?
 私がご奉仕しなくちゃいけないのに、こんなの逆じゃない!
 ブラウスの前を広げて胸に触れようとしていた彼の手を慌てて掴む。

「あの、私がご奉仕しますっ!」
「最終的にはそうしてもらうが、まずはお前の身体を解さないといけない」
「さっきから思っていたのですが、お前じゃなくて、エミリア……きゃあっ」

 剣だこのついた大きな手が下着の上から胸を覆い、思わず小さな悲鳴を上げてしまう。
 ゴツゴツとした手が胸を優しくみしだき始める。彼の大きな手でも溢れる胸が形を変えていく様子がなんだかいやらしい。
 それに、男性に自分の胸を好きにされていることに、どうしてか興奮を覚えて、心臓の音がどんどん速くなる。

「ひゃっ」

 胸の先端を指がかすめて、自然と声が漏れた。
 やっぱり恥ずかしくて口に手を当てると、すぐにその手首を捕らえられ、また唇が重なった。
 深いキスに溺れそうになった瞬間、唇が離れる。
 もっと口付けを交わしたいなんてみだらなことを考えながら赤い瞳を見つめると、彼は低い声で呟いた。

「声を聞かせろと言っただろう」
「……だけど、恥ずかし……っ、きゃん」

 下着をずらされて、とがった胸の先端を摘まれる。

「はっ。犬みたいな鳴き声だな」

 意地悪く笑うと、ランドルフ団長は大胆にも、胸の先端を舐め始めた。
 その甘美な快感に、私の世界が揺らいでいく気がした。
 だって、自分の身体に、こんなにも気持ちいい場所があったなんて、知らなかったもの……

「んんぅ……っ」

 視線が重なる度に、彼の綺麗な赤い瞳がどんどん熱っぽくなっていく。
 それを見ていると、やはりお腹の奥がうずいて、秘所からとろりと何かが滴ったような感覚がした。
 昨夜読み込んだ教本には、女性は感じると、男性を受け入れる蜜壺から蜜が溢れ出ると書いてあった。それが自分にも起きているのだと気がついて、思わず太腿ふとももこすり合わせた。

「下も脱いでみろ」
「えっ!? で、でも……」

 とんでもない指示に頭がくらくらする。
 ランドルフ団長にはなんでもお見通しなのだろうか。
 意識すればするほど、脱がずともショーツが濡れていることが分かって、あまりの恥ずかしさに涙が零れそうになる。

「目を潤ませてもダメだ。ほら、下穿したばきを脱いで、脚を広げろ」
「……は、い」

 有無を言わさない強い眼差しに、降伏する。
 心臓がドキドキして、彼にまで聞こえてしまいそうだ。
 緊張して起き上がれそうにないから、寝転んだまま、そろりそろりとショーツの紐を解いていく。震える手でゆっくり下着をぎ取ると、やはりお漏らしをしたかのように濡れていて、顔に熱がこもる。
 続いてメイド服のスカートを震える手で持ち上げる。少しずつ脚を広げたら、秘所に冷たい空気が触れて、ぞくりとした。
 指示通りできた褒美か、頭を優しく撫でられる。
 そして、ランドルフ団長の目線が開かれた秘所へと下りていく。心臓がすぐ耳元で鳴っているかのように騒々しく響いた。

「やだ……。そんなに、見ないでください……」

 ――私って、変態だったみたいだ。
 愉快そうな表情を浮かべている彼にじっくりと秘所を見られても、全然嫌な感じがしないのだ。むしろ視線だけで感じてしまっているだなんて……
 蜜口が物欲しそうにヒクヒクとしている。その上の部分も早く触ってほしいとうずいて……。自分ではお風呂で洗う時しか触ったことがないのに、こんなのおかしい。
 そもそも、衣服がはだけた状態で脚を開いたこの状況だって、普通じゃ考えられないはずなのに。

「どうしてほしい?」
「っ!」

 すっと目を細めて問われると、途端に欲望を口にしたくなる。
 けれど、私は今にも陥落しそうな気持ちを、わずかに残った理性でグッとこらえた。目元に溜まった涙が今にも零れそうだ。

「い、意地悪しないでください……っ!」
「こんなに濡らしてよく言うな」
「やぁっ。言わないで……」

 羞恥心に耐えられなくなって脚を閉じる。
 しかしすぐに大きな手に両膝を掴まれ、先ほどよりも大きく広げられてしまった。

「抵抗しても無駄だぞ」

 その言葉に涙の粒がぽろりと零れ落ちて、とうとう私の理性は崩壊した。
 ご奉仕するつもりが、どうしてこんなことにという疑問が頭の隅をよぎるけれど、開いた口から願望が零れ出る。

「うぅ、ランドルフ団長……。わ、私が、恥ずかしくて言えないようなこと、たくさんしてくださ、い、ませ……っ!」

 精一杯のおねだりを言い終えて、まぶたをぎゅっと閉じる。
 その直後、顎に手が添えられて、親指で涙を拭われた。

「ま、初めてだから、このくらいで勘弁してやる」

 うっすら目を開けてランドルフ団長の様子をうかがうと、満足そうに片方の口角を上げている。
 ランドルフ団長が顎から手を離し、身をかがめながら私の内腿うちももを押し開いた。整った身体がだんだんと秘所に近づいていく。
 熱い吐息がそこに当たり、羞恥心でおかしくなりそう。

「っ! だ、団長、とても近いです……!? っひゃあ」

 彼との距離がゼロになった時、ぬるりと熱くて柔らかい刺激に襲われた。

「あっ、やぁ……っ! そ、そんなところ、舐めないでくださいっ! きゃあぁぁ」

 私の嬌声とみだらな水音が静かな室内に響く。
 ランドルフ団長の柔らかい舌が、今まで他の誰も触れたことのない場所をもてあそんでいる。
 秘所のつぼみを丁寧に舐めてみたり、音を立てて吸ってみたり……

「っあ、だめ……。きもち、んん」

 快感の波にさらわれないように、私はシーツをぎゅっと握りしめた。
 こんな、腰が引けるほどの快感なんて知らない。
 さっきの胸への刺激も気持ちよかったけれど、それよりも更に強く感じてしまう。

「んぁっ、おかし、くなっちゃう……!」

 ランドルフ団長が少し動くだけで、私の脚の間で美しい黒髪がふわりと揺れる。
 騎士団長という高い地位にいるお方、それもこんなに見目うるわしい殿方が自分の秘所を舐めている事実を突きつけられるようで、頭がくらくらした。

「やっ、なにかくる……っこわい」

 敏感なつぼみを刺激され、快感の波がどんどんと押し寄せてくる。
 この快感がどこまで高まってしまうのか、急に怖くなって、また涙の粒が零れた。

「大丈夫だ。我慢せず、受け入れろ」
「え? あ、激しくなっ……!? やぁ、なにか、きちゃう……っっ」

 大きな手が腰を掴み、彼の顔が秘所に強く押し付けられる。先ほどよりも濃厚に舐られ、唇でつぼみを挟んでちゅくちゅくと強く吸われる。
 続いて、もう一方の手が胸の先端をいじり始め、同時に与えられる強い快感が一気に昇り詰めてパチンと弾けた。

「あ、あああぁあ……っっ!」

 まるで自分の身に雷が落ちたかのような激しい感覚に、頭の中が真っ白になる。
 つま先にピンと力が入り、腰がガクガクと痙攣けいれんして呼吸が乱れた。
 我を失いそうなくらい気持ちよくて、嵐が過ぎ去ると、その後は妙な気怠けだるさが残る。

「上手く達せたな」

 そうささやかれて、ああ、これが教本に載っていた〝達する〟ということなんだと理解した。
 この気持ちよさを知ってしまったことで、自分の根底が変わってしまったような、そんな気がして少し呆然とする。それに、はくはくと乱れた呼吸は未だ整わないし、腰は震えたままだ。
 ランドルフ団長が私の横に寝転がり、労るように頭を撫でてくれる。
 それが妙に心地よくて、だんだんと眠くなってきた。
 ……いや、寝ちゃダメだ。憧れのメイド生活一日目で、勤務中に寝るなんてありえない。
 これからランドルフ団長にも気持ちよくなってもらわなきゃいけないのに。

「……あの、ランドルフ団長」
「なんだ?」
貴方あなたさまにも、気持ちよくなってもらいたいのですが……」
「気持ちだけで充分だ。寝ていろ」
「いえ、でも、お仕事をしないといけません」
「もうお前は充分に働いただろ」
「お前じゃなくて、エミリアです!」

 カッとなって寝転がっていた身体を起こす。私ばかり気持ちよくなってしまったのが悔しくて、頬を膨らませた。
 すると、肘をついて寝転ぶ彼の大きな片手が、私の膨らんだ頬を潰す。

「っぶへ、な、何するんですか!」
「そのうち初心うぶなお前の身体を慣らした後で、しっかり奉仕してもらうから大丈夫だ。だから今は寝ていろ。寝るのも仕事のうちだ」
「でも……」
「起きたらコーヒーを用意してくれ。ブラックでいい」
「っ! はい、承知しました」

 ゴツゴツとしたランドルフ団長の手になだめるように撫でられて、また枕に頭を沈める。
 徐々にまぶたが重くなって、いつの間にか夢の世界へ落ちていた。


   * * *


 あの後、本当に半刻ほど寝てしまった私は、起きた瞬間に青褪あおざめた。
 そして瞬時にコーヒーを用意する任務を思い出し、ベッドから抜け出して、身なりを整える。
 今いる部屋、休憩スペースには二つの扉がある。一つは先ほどランドルフ団長が仕事をしていたメインルームに繋がる扉。もう一つは恐らく、使用人スペースへ繋がる扉だろう。
 これからお仕事をするには設備を確認しなくてはならないので、まだ足を踏み入れていないほうの扉を開けてみる。
 中に入ってみるとやはり使用人スペースのようだった。水道や魔道コンロ、コーヒー器具が揃っていたので、遠慮なく使わせてもらうことにする。
 コンロに魔石を投入して火をおこし、ケトルで多めのお湯を沸かす間にコーヒー豆を粗めにく。カップに沸いたお湯を注いで温めておき、洗ってよく絞った布フィルターを準備する。
 ケトルに残っているお湯の温度を九十度くらいに下げるため、細い口のドリップポットへお湯を移し替える。それからきたてのコーヒーの粉を布フィルターに入れて、いよいよ丁寧にドリップしていく。
 ドリップポットを持って、円を描くように少しずつお湯を注ぐと、コーヒーの粉がぷわぁと膨らんでいく。それを見るのが楽しい。こうやっていると、やっとメイドさんらしいことができた気がすると、苦笑いしてしまう。
 ――さて、コーヒーを淹れ終わった。
 先ほどの営みによる恥じらいを隠して平静を装いつつ、メインルームに続くであろう扉をノックする。ランドルフ団長の返答があり、淹れたてのコーヒーを注いだカップを運んだ。

「ランドルフ団長、お待たせして申し訳ありません」
「いや。身体は大丈夫か?」
「大丈夫です。早速コーヒーをお持ちしました!」

 彼の執務机にカップを載せる。

「ああ、ありがとう。……休憩スペースから出てこなかったよな。ということは厨房に頼んだのではなく、お前がコーヒーを淹れたのか?」
「は、はい! 丁寧にドリップしまし、た……」

 ……しまった。コーヒーを用意してくれとは、厨房からもらってくるようにという意味だったのか。空回ってしまったなぁと、恐る恐るランドルフ団長を見るが、怒ってはいなさそうだった。
 というよりむしろ、少し申し訳なさそうな表情……?

「茶を淹れるのは他の奴の仕事だろうに、ご奉仕メイドのお前に淹れさせて悪かった」
「いえ、とんでもないです! 私は一流の侍女を目指しているので、気になさらないでください」
「そうか」

 そう頷くと、とうとう彼がカップを持ち上げた。
 近隣国から伝わってきたコーヒーは紳士のたしなみとして流行しているが、現状、誰もが気軽に飲めるものではない高級品だ。
 ヴェラちゃんと一緒に辺境伯邸のメイドたちに学んだことはあったので手順は覚えているけれど。何度も淹れる修業はしていないし、自分では苦くて飲めないので味見はできず、自信がない。
 そのため、きちんと美味しくドリップされたか不安で、ランドルフ団長がカップを口元に運ぶところを固唾かたずを呑んで見守る。
 ごくりと喉仏が上下した後、ランドルフ団長の頬がわずかに緩んで、ぽつりと呟いた。

「……うまい」
「っ、お口に合ったようで何よりです!!」

 ――やったああ! ヴェラちゃんの屋敷で特訓してもらった甲斐があったーっ!!
 嬉しくてにこにこしていると、彼は少し言いにくそうに口を開いた。

「これからも、お前に頼んでいいか?」
「はい! 私でよろしければもちろん! つつしんでご用意いたします!」

 ご奉仕については手も足も出なかったが、コーヒーの味は認めてもらえたようで胸が熱くなる。
 紅茶が主流のこの王国で、念のためコーヒーの淹れ方まで覚えておいて本当によかった。
 ――しかし、それにしても……
 執務室を見回すと、書類、書類、書類の山!!
 全体的に深みのある色調の室内は、センスがいいアンティーク調の家具で揃えられているものの、手入れはあまり行き届いていないように見える。
 しばらく掃除されていないであろう曇った窓、ほこりが溜まった床。リネン類とゴミの処理は、最低限、他のメイドによって行われている様子だけど……至るところに溜まったちりが、部屋を全体的に暗い印象にさせている。かろうじて執務机の上はほこりは積もっていないようだが、とても気になる。
 だから私は思い切って、ランドルフ団長に話しかけた。

「ランドルフ団長、執務室のお掃除をしてもよろしいでしょうか!?」
「……お前はご奉仕メイドだろう。掃除までお前に求めてはいない」
「しかし、お部屋全体にほこりが溜まっていますし、お仕えするランドルフ団長には心地よい環境でお仕事してほしいのですが……。ダメ、でしょうか……?」

 この環境では、ランドルフ団長が身体を壊してしまいそうで心配だ。
 それにご奉仕のほうは、お役に立てるようになるまで時間がかかりそうだから、せめて普通の労働をさせてもらいたい。でないとお給料泥棒になってしまうもの!
 じいっと赤い瞳を見つめると、彼は根負けしたように溜息をついた。

「――そこまで言うのなら好きにしろ。ただし書類には触るな。見るのもダメだ」
「っ! ありがとうございます」

 やった! これで少しは役に立つメイドだと思ってもらえるかもしれない!

「俺はこの後会議に行ってくる。適当に休憩をとって、定時になったら帰れ」
「はい、承知しました!」

 意気揚々と使用人スペースへ掃除用具を取りに向かう。そして大荷物で執務室に戻ると、彼はもう会議に向かったようで、部屋からいなくなっていた。
 執務机に残されたコーヒーカップは空っぽで、思わず笑みが零れる。
 まだ顔を合わせたばかりだけど、ランドルフ団長の整ったお顔はいつも眉間にシワが寄っている。背が高くて、肩幅も広い。鍛え抜かれた身体からは威圧感を放っている。その上、口調は意地悪。
 ……でも、きっと、根は優しい人なのだろうな。
 はじめはご奉仕メイドに任命されて戸惑いしかなかったけれど、お仕えするのがランドルフ団長で本当によかったと、初日ながらに思った。
 ――よぉし、早速お仕事がんばるぞ~~~!!


 ほどよい疲労感。ピカピカになった窓を見ると、すっかり陽が傾いていた。

「ふ~。終わった~~!!」

 綺麗な夕焼けを背に身体を伸ばしつつ、掃除の出来栄えに満足して笑みが浮かぶ。
 お掃除は大変だけど、このすっきりした達成感が癖になるんだよなぁ。
 さて、片付けようかと掃除用具を持ち上げたところで、扉の向こうから話し声が聞こえてきた。
 ランドルフ団長のお戻りだろうかと思った瞬間、執務室の出入口である両開きの扉が開いたので、慌てて頭を下げる。

「おかえりなさいませ、ランドルフ団長」
「まだいたのか」
「はい。今お掃除を終えたところです」
たくましいな」

 掃除用具を持ち直して示すと、ふいに彼の後ろからひょっこりと金髪の騎士さまが顔を出した。

「おっ、なになに!? この子が新しく配属されたご奉仕メイドですか!?」
「……ああ、そうだ」

 これはご挨拶したほうがよさそうだと考えて、再び掃除用具を置いて口を開く。

「初めまして、エミリア・レッツェルと申します」
「うおぉ、めちゃくちゃ可愛い子ですね! 団長いいなぁ。……って、なんか部屋が綺麗になって明るくなっている!? え、机に花まで飾ってあるじゃないですか!? あはは、団長の机に花なんてすげえやっ!! ……ッイッタ、殴るこたないでしょう!?」
「やかましい、静かにしろ」

 ――何やら随分と明るくてにぎやかな方がいらっしゃったなぁ。
 改めて掃除用具を持ち上げ、少しご機嫌斜めに見えるランドルフ団長に声をかけた。

「それでは片付けてからお茶の用意をしますので、しばらくお待ちください」

 急いで片付けようと二人に背を向けると、後ろから突然手首を掴まれた。

「ひゃっ」

 私の手首を掴んだのはランドルフ団長だった。
 ぱっちり視線が交差すると、彼は片眉を上げて言い放つ。

「あいつに茶なんて出さなくていい」
「えっ?」
「今日は疲れただろう。もう上がれ」

 手首から伝わる体温がきっかけで、唐突に昼間の営みを思い出してしまった。
 この大きな手にあんなにもすごい快感を引き出されたのだと意識してしまい、顔が熱くなる。

「おい、熱でもあるのか? 顔が赤い」
「っ!」

 手首を掴んでいた彼の手に無遠慮に額を覆われ、更に体温が上がっていく。

「これはこっちで片付けておく。熱はなさそうだが配属初日で疲れただろう? さっさと帰れ」

 ランドルフ団長はそう言うなり、私が持っていた掃除用具を奪い取った。


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