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「なあ……ノーマン」
迷いながらも、言葉がついて出てしまう。
「吟遊詩人って知ってるか?」
「街で噂になっている吟遊詩人でございますか?」
あの目立つ風貌と歌声だ。ノーマンの耳にも噂は届いていたらしい。
「吟遊詩人は美しい歌声で人々に伝承を語る歌唄い……と、表向きにはなっておりますが」
「違うのか?」
少し視線を逸らし言い淀んでから、ノーマンが声を抑えて言った。
「客と夜を共にし、金銭を稼いでいると言われています」
……なるほど。
可愛いだの愛してるだの、甘ったるい言葉が本心ではないことは俺でもわかった。
つまり俺は、枕営業されたということか。
なにが「フレデリックさんだけ特別」だ。普段からやってるんじゃないか。
歯噛みして拳を握り締める俺を、心配そうにノーマンが覗き込む。
「坊ちゃま? まさか、あの吟遊詩人と何か……」
「ああ、いや。すごく良い歌声だと噂があったから、聞いてみたいと思っただけだ」
実際は「まさか」が大当たりなのだが、本当のことを言うわけにはいかない。
言ったらノーマンのロマンスグレーの髪が、真っ白になってしまいかねない。
ノーマンが部屋を出てから、残った水を飲み干した。
空になったコップを勢いよくサイドテーブルに叩きつけると、ガンッと音が響く。
こんな俺が、あんな天使みたいな推しに本気で好かれるわけがない。それは別にいい。
でもノアの演奏に、歌声に惹かれたのは本当だ。
俺はノアと寝たくて投げ銭をしてたわけじゃない。純粋にノアの歌に代金を支払っただけだ。
けど、ノア自身がそう思ってはいなかった。
自分に近づいてくるやつは全員身体目当てだと思っているのか。
他の奴らは知らないが、俺はそうじゃない。
それなのに、俺があいつに掛けていた言葉も渡していた金も全部、あいつを抱くためだと思われていたなんて。
「くそ……っ!」
叩きつけた拳は、柔らかいベッドに吸収されて鈍い音を立てた。
迷いながらも、言葉がついて出てしまう。
「吟遊詩人って知ってるか?」
「街で噂になっている吟遊詩人でございますか?」
あの目立つ風貌と歌声だ。ノーマンの耳にも噂は届いていたらしい。
「吟遊詩人は美しい歌声で人々に伝承を語る歌唄い……と、表向きにはなっておりますが」
「違うのか?」
少し視線を逸らし言い淀んでから、ノーマンが声を抑えて言った。
「客と夜を共にし、金銭を稼いでいると言われています」
……なるほど。
可愛いだの愛してるだの、甘ったるい言葉が本心ではないことは俺でもわかった。
つまり俺は、枕営業されたということか。
なにが「フレデリックさんだけ特別」だ。普段からやってるんじゃないか。
歯噛みして拳を握り締める俺を、心配そうにノーマンが覗き込む。
「坊ちゃま? まさか、あの吟遊詩人と何か……」
「ああ、いや。すごく良い歌声だと噂があったから、聞いてみたいと思っただけだ」
実際は「まさか」が大当たりなのだが、本当のことを言うわけにはいかない。
言ったらノーマンのロマンスグレーの髪が、真っ白になってしまいかねない。
ノーマンが部屋を出てから、残った水を飲み干した。
空になったコップを勢いよくサイドテーブルに叩きつけると、ガンッと音が響く。
こんな俺が、あんな天使みたいな推しに本気で好かれるわけがない。それは別にいい。
でもノアの演奏に、歌声に惹かれたのは本当だ。
俺はノアと寝たくて投げ銭をしてたわけじゃない。純粋にノアの歌に代金を支払っただけだ。
けど、ノア自身がそう思ってはいなかった。
自分に近づいてくるやつは全員身体目当てだと思っているのか。
他の奴らは知らないが、俺はそうじゃない。
それなのに、俺があいつに掛けていた言葉も渡していた金も全部、あいつを抱くためだと思われていたなんて。
「くそ……っ!」
叩きつけた拳は、柔らかいベッドに吸収されて鈍い音を立てた。
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