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9-1.朝帰り

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 生まれて初めて朝帰りをした俺を、ノーマンが青ざめた顔で迎えてくれた。
 何か事件や事故にでも巻き込まれたのかと思ったらしい。

「飲んでいたら朝になってた」

 と言ったら、ノーマンはモノクルから目が飛び出るほど驚いていた。

「夜遊びはほどほどになさいませ」

 なんて言いつつ、少し口元が綻んでいたのは気のせいだろうか。
 俺が大人の階段をのぼって、不安な反面喜ばしい親心なのかもしれない。

 が、実際は違う意味で大人になってしまった。
 一晩中、ノアに手やら口やらで散々天国見せられた。気絶するように眠ってしまったから、詳しくは覚えていないが。
 
 朝目覚めると、隣には天使の顔して眠っているノアがいた。
 何が起こったのか、考えなくても身体が覚えている。

 大急ぎで退散して、今に至ったというわけだ。
 自室のベッドで大の字になって、呆然と天井を見続けて何時間が経っただろうか。

「なんだったんだ……」

 推しに連れ込まれて、一方的にヤられるとか。これがお持ち帰りというやつなのか?

 まさか本当にノアに惚れられたと思うほどおめでたい頭はしていない。
 かといって、あれほどの容姿を持つノアが行きずりの相手と遊ぶとも思えない。

 しかも俺は常連客だ。後腐れなくするためなら、俺に手を出す必要はないだろう。

 ということは……


「坊ちゃま。お目覚めですか?」

 ノックと共にノーマンの声が聞こえた。
「ああ」と短く答えると、コップと水差しを持って入ってきた。
 よろよろと起き上がる俺を見て、ベッドサイドにやってくる。

「お水をお持ちいたしました。二日酔いでしょうか」
「多分な。ありがとう」

 多分違うけど、そういうことにしておこう。
 コップを持つと、ノーマンが水を差してくれる。冷たい水が喉を通って胃に落ちると、やっと頭がスッキリしてきた気がする。

「フレデリック坊ちゃまが朝帰りなど、リュシアン様とご主人様がお聞きになったらなんと驚かれるでしょう」
「リュシアン兄さんには言うなよ! もちろんアレク兄上にも」
「もちろん、私だけの胸に留めておきます」

 アレク兄上……アレクサンドロは8個年上の長兄だ。
 ロストラータ家は既に両親とも他界しているから、兄上がこの家の主人だ。
 
 穏やかなリュシアン兄さんとは真逆で厳格な人だったが、主人となってからはますます厳しくなった。
 俺が引きこもり始めたときも散々罵倒されて家から叩き出されそうになったが、今は諦めて見放したのか何も言ってこない。

 ただ、そんなろくでなしの弟が夜遊びだなんて聞いたら怒り狂うのは確実だ。
 ノーマンは信頼できる。恐らく本当に今日のことは内密にしてくれるだろう。

 いまだに俺のことだけ坊ちゃま呼ばわりで子供扱いしているが、そういうところは尊重してくれる。

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