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クレーマー三号(ホンちゃん)
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『なるほど。隣に、英文入りのお墓が建てられた、と。霊園の雰囲気が壊れることを、心配なさっているのですね……』
白銀と仏の会話を聞きながら、なつみは先ほどの命婦の話について考えていた。確かに、彼の対応技術は、格段にアップした。それなら、自立させる方が本人のためかもしれない。
(通常の巫女業務も、神社にとっては大事な仕事だよね。けど……)
言い様の無いこの寂しさは、何だろう。あれこれと物思いにふけっていると、『なつみん』と声がした。気付けば、白銀が心配そうな顔をしている。
『どうしたの、ぼーっとして。もう、窓口閉めるよ?』
「あ、ごめんなさい」
なつみは、慌てた。
「もう終わりなんですね。今日は、あまりややこしい仏様は来られなかったですね」
警戒していたホンちゃんも現れなかったし、そもそも、やって来る仏の数自体が少なかったのだ。
『お盆が近いからじゃない?』
白銀は、即座に答えた。
『さすがにこの時期は、身勝手な仏たちも、子孫の所へ帰る準備を始めるからね』
なるほど、となつみは納得した。どうやら今の時期は、この業務の閑散期らしい。
『あ~、いつもこれくらい平和ならいいのにな……。あ、そうそう。それで思い出した。』
白銀は、ポンと膝を打った。
『というわけで、十三日から十五日まで、この受付は閉めるから』
おーっと、なつみは歓声を上げていた。午前は通常業務があるから、完全に休みではないものの、それは助かる。
『その代わり、十六日は覚悟しといて。子孫の様子を見て来た仏たちが、願い事を抱えて殺到するから』
だろうなあ、となつみは思った。もちろん、真っ当な依頼なら、真剣に対処するのだけれど。何だか、その割合は少ないような……。
『だから、なつみん、お盆の間はよく休んでおいてね』
なつみの胸の内を悟ったように、白銀は苦笑いを浮かべた。
「ハイ。リフレッシュして、お盆明けに備えますよ。……さ、片付けましょうか」
五時になったのを確認して、なつみは紙垂リストをたたみ始めた。すると白銀が、何やら見覚えのある物を取り出してきた。鉄道博物館の土産にした弁当の、空き容器だった。
『これ、保管用に使えない?』
「あ、いいと思います」
なつみはクスッと笑った。妙に現代人風な発想が、何だか可笑しい。
「ぴったりですね」
『うん。中身も美味しかったけど、この入れ物がまたいいよね。眷属の先輩方からも、羨ましがられちゃったよ』
そう言うと白銀は、チラとなつみの顔を見た。
『……で、その。買って来いって言われてるんだけど』
「あ、そうなんですか。私、行って来ますよ」
神様の眷属たちの間で、鉄道弁当ブーム到来か、となつみは目を輝かせた。
「何個くらい要ります?」
だが白銀は、慌てたようにかぶりを振った。
『いやいや! なつみんにそこまでさせるのは、申し訳ないよ。結構大荷物になるし、僕が抱えて飛んで帰って来た方が、きっと速いから。……けど、そのお』
白銀は、そこで口ごもった。
『僕、中の利用方法とか、よくわかんないし。その、なつみんに案内だけでもしてもらえたらと……』
「いいですよ。一緒に行きましょう」
なつみは、即座に答えた。白銀が目を見張る。
『いいの?』
「ハイ。中は広いですし、きっと白銀さん、説明してもわかんなさそうですもん」
茶化しながらも、なつみは心の中で思っていた。
(きっと、一緒に出かける最後の機会だろうし)
なつみがこの仏対応業務から離れれば、仕事で会う機会は無くなる。なつみの友人たちに姿を見られて以来、白銀はアパートに来ることを禁じられているが、それも無期限になるのだ。だったら、思い出を作りたかった。
『相変わらず、ひどい~』
口を尖らせながらも、白銀は微笑んでいる。彼も同じ気持ちだといいな、となつみはふと思ったのだった。
白銀と仏の会話を聞きながら、なつみは先ほどの命婦の話について考えていた。確かに、彼の対応技術は、格段にアップした。それなら、自立させる方が本人のためかもしれない。
(通常の巫女業務も、神社にとっては大事な仕事だよね。けど……)
言い様の無いこの寂しさは、何だろう。あれこれと物思いにふけっていると、『なつみん』と声がした。気付けば、白銀が心配そうな顔をしている。
『どうしたの、ぼーっとして。もう、窓口閉めるよ?』
「あ、ごめんなさい」
なつみは、慌てた。
「もう終わりなんですね。今日は、あまりややこしい仏様は来られなかったですね」
警戒していたホンちゃんも現れなかったし、そもそも、やって来る仏の数自体が少なかったのだ。
『お盆が近いからじゃない?』
白銀は、即座に答えた。
『さすがにこの時期は、身勝手な仏たちも、子孫の所へ帰る準備を始めるからね』
なるほど、となつみは納得した。どうやら今の時期は、この業務の閑散期らしい。
『あ~、いつもこれくらい平和ならいいのにな……。あ、そうそう。それで思い出した。』
白銀は、ポンと膝を打った。
『というわけで、十三日から十五日まで、この受付は閉めるから』
おーっと、なつみは歓声を上げていた。午前は通常業務があるから、完全に休みではないものの、それは助かる。
『その代わり、十六日は覚悟しといて。子孫の様子を見て来た仏たちが、願い事を抱えて殺到するから』
だろうなあ、となつみは思った。もちろん、真っ当な依頼なら、真剣に対処するのだけれど。何だか、その割合は少ないような……。
『だから、なつみん、お盆の間はよく休んでおいてね』
なつみの胸の内を悟ったように、白銀は苦笑いを浮かべた。
「ハイ。リフレッシュして、お盆明けに備えますよ。……さ、片付けましょうか」
五時になったのを確認して、なつみは紙垂リストをたたみ始めた。すると白銀が、何やら見覚えのある物を取り出してきた。鉄道博物館の土産にした弁当の、空き容器だった。
『これ、保管用に使えない?』
「あ、いいと思います」
なつみはクスッと笑った。妙に現代人風な発想が、何だか可笑しい。
「ぴったりですね」
『うん。中身も美味しかったけど、この入れ物がまたいいよね。眷属の先輩方からも、羨ましがられちゃったよ』
そう言うと白銀は、チラとなつみの顔を見た。
『……で、その。買って来いって言われてるんだけど』
「あ、そうなんですか。私、行って来ますよ」
神様の眷属たちの間で、鉄道弁当ブーム到来か、となつみは目を輝かせた。
「何個くらい要ります?」
だが白銀は、慌てたようにかぶりを振った。
『いやいや! なつみんにそこまでさせるのは、申し訳ないよ。結構大荷物になるし、僕が抱えて飛んで帰って来た方が、きっと速いから。……けど、そのお』
白銀は、そこで口ごもった。
『僕、中の利用方法とか、よくわかんないし。その、なつみんに案内だけでもしてもらえたらと……』
「いいですよ。一緒に行きましょう」
なつみは、即座に答えた。白銀が目を見張る。
『いいの?』
「ハイ。中は広いですし、きっと白銀さん、説明してもわかんなさそうですもん」
茶化しながらも、なつみは心の中で思っていた。
(きっと、一緒に出かける最後の機会だろうし)
なつみがこの仏対応業務から離れれば、仕事で会う機会は無くなる。なつみの友人たちに姿を見られて以来、白銀はアパートに来ることを禁じられているが、それも無期限になるのだ。だったら、思い出を作りたかった。
『相変わらず、ひどい~』
口を尖らせながらも、白銀は微笑んでいる。彼も同じ気持ちだといいな、となつみはふと思ったのだった。
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