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クレーマー三号(ホンちゃん)
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その日、午前中の巫女業務は何事も無く終わった。その後、いつも通り仏対応に向かおうとすると、白狐社の辺りでなつみを呼び止める声が聞こえた。命婦だった。
『なつみ殿、少しよろしいかしら?』
言いながら彼女は、もう結界を張っている。一体何だろう、となつみは身構えた。
『昨日は、白銀一人に仏たちの対応をさせたでしょう? その様子を見ていたのだけれど、驚いたわ。見違えるように、上手に接していた。なつみ殿の指導のたまものね』
「いえ、私は何も」
なつみは、恐縮した。確かに、昨日はホンちゃんにも、的確に言い返していたが。他の仏たちとも、上手く話せたのか。
『そこで、宇迦之御魂大神様とお話ししましたの』
命婦はにっこり笑うと、意外なことを言い出した。
『白銀は、もう独り立ちできるのではないかと。つまり、なつみ殿がいなくても大丈夫ではないかとね』
「……え」
思いがけない言葉に、なつみはぽかんと口を開けた。思考が、すぐには付いて行かない。すると命婦は、慌てたように補足した。
『こちらから勧誘して来ていただいたのに、申し訳ないわね。けれど、神社を辞めろということでは無いわ。なつみ殿には、普通の巫女として、引き続きこちらに居て欲しいと思っているの。待遇も変えるつもりは無いから、安心してちょうだい?』
「完全に、普通の巫女同様に、ということですか」
そうよ、と命婦がうなずく。
『何やら浮ついた巫女がいるようだけれど、なつみ殿は彼女にも怯まず接している様子。この神社の巫女たちをまとめ上げる素質もあるのでは、と宇迦之御魂大神様は評価なさっているのよ。それに、仏対応が無くなれば、もう霊感も不要。ならば、護衛も必要無くなるでしょう? なつみ殿は眷属による警護を好まないようですし、ちょうどよいのではないかしら』
確かに、宇迦之御魂大神が白銀を護衛として付けるようになったのは、『ダイ』の素質(未だに何なのか不明だが)に加えて、霊感を持つようになったためだ。護衛は要らないと言ったのはなつみ自身だし、命婦の話は真っ当だが……。
(もう、あの石灯籠にも白狐社にも、行くことは無くなるんだ。白銀さんが、うちに来ることも……)
想像すると、なつみは何だか胸にぽっかり穴が空いたような気がした。なつみの戸惑いを察知したのか、命婦はこう言い出した。
『まあ、これは一つの案ですから。なつみ殿ご自身で、答を出されるとよいわ。引き続き白銀と仏対応を行うのか、普通の巫女として働くのか。……そうね、今月中くらいに決めてもらえばいいわ』
「あの」
早くも姿を消し去ろうとする命婦を、なつみは呼び止めた。
「白銀さんは、この件を知ってるんですか」
『ええ。一人でもできるか、と尋ねたわ。できる、と言っていたわよ』
そうですか、となつみは小さくうなずいた。
『なつみ殿、少しよろしいかしら?』
言いながら彼女は、もう結界を張っている。一体何だろう、となつみは身構えた。
『昨日は、白銀一人に仏たちの対応をさせたでしょう? その様子を見ていたのだけれど、驚いたわ。見違えるように、上手に接していた。なつみ殿の指導のたまものね』
「いえ、私は何も」
なつみは、恐縮した。確かに、昨日はホンちゃんにも、的確に言い返していたが。他の仏たちとも、上手く話せたのか。
『そこで、宇迦之御魂大神様とお話ししましたの』
命婦はにっこり笑うと、意外なことを言い出した。
『白銀は、もう独り立ちできるのではないかと。つまり、なつみ殿がいなくても大丈夫ではないかとね』
「……え」
思いがけない言葉に、なつみはぽかんと口を開けた。思考が、すぐには付いて行かない。すると命婦は、慌てたように補足した。
『こちらから勧誘して来ていただいたのに、申し訳ないわね。けれど、神社を辞めろということでは無いわ。なつみ殿には、普通の巫女として、引き続きこちらに居て欲しいと思っているの。待遇も変えるつもりは無いから、安心してちょうだい?』
「完全に、普通の巫女同様に、ということですか」
そうよ、と命婦がうなずく。
『何やら浮ついた巫女がいるようだけれど、なつみ殿は彼女にも怯まず接している様子。この神社の巫女たちをまとめ上げる素質もあるのでは、と宇迦之御魂大神様は評価なさっているのよ。それに、仏対応が無くなれば、もう霊感も不要。ならば、護衛も必要無くなるでしょう? なつみ殿は眷属による警護を好まないようですし、ちょうどよいのではないかしら』
確かに、宇迦之御魂大神が白銀を護衛として付けるようになったのは、『ダイ』の素質(未だに何なのか不明だが)に加えて、霊感を持つようになったためだ。護衛は要らないと言ったのはなつみ自身だし、命婦の話は真っ当だが……。
(もう、あの石灯籠にも白狐社にも、行くことは無くなるんだ。白銀さんが、うちに来ることも……)
想像すると、なつみは何だか胸にぽっかり穴が空いたような気がした。なつみの戸惑いを察知したのか、命婦はこう言い出した。
『まあ、これは一つの案ですから。なつみ殿ご自身で、答を出されるとよいわ。引き続き白銀と仏対応を行うのか、普通の巫女として働くのか。……そうね、今月中くらいに決めてもらえばいいわ』
「あの」
早くも姿を消し去ろうとする命婦を、なつみは呼び止めた。
「白銀さんは、この件を知ってるんですか」
『ええ。一人でもできるか、と尋ねたわ。できる、と言っていたわよ』
そうですか、となつみは小さくうなずいた。
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