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クレーマー二号(テイちゃん)

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『テイよ。そなた、ブラックリスト入りじゃ』

 宇迦之御魂大神は、にこりともせずにテイちゃんを指さした。さすがに、テイちゃんが青くなる。

『神様……! ですが私は、息子のためを……』
『ブラックリスト、という言葉が聞こえなんだか。息子のわがままを見て見ぬふりし、力になろうとしたこの二人に逆ギレ。二度と、頼みごとをしに来るでない!』

 宇迦之御魂大神の瞳は吊り上がり、ギラギラと鋭く光っている。何よりも、全身から発せられるオーラに、なつみは圧倒された。それは、テイちゃんも同様だったらしい。ひいっと小さな悲鳴を上げた。

『申し訳ございません!』
『謝罪など要らぬから、大事な大事な息子の元へ、さっさと行ってしまえ。そなたの面など、もう見たくもないわ!』
 
  テイちゃんは、わなわなと震えると、スッと姿を消した。三人きりになると、なつみは宇迦之御魂大神に頭を下げた。

「わざわざおいでいただいて、すみません。私が判断を保留にしたばかりに、かえって厄介なことになってしまって」
『何の、気にするでない』

 宇迦之御魂大神は、けろりとしていた。

『それに、わざわざ来たわけではないぞ。ここには、時々来るのじゃ』
「そうなんですか?」

 さよう、と宇迦之御魂大神はうなずいた。

『この辺りは、観光客のメッカであるからな。彼らのニーズを把握するのは、大切なことだ。そして京都市長にさりげなく念を送って、観光客を増やす施策を実行させる。さすれば、我が神社の参拝客も、自動的に増加するわけじゃ!』

 そういう目的かよ、となつみは脱力した。いや、京都がにぎわうのも、伏見稲荷大社の人気が上がるのも、良いことだが。

(メッカとか、他宗教の用語を使って、いいものなのかなあ……)
 
「あ、そうだ。今回は、いろいろとありがとうございました。ご馳走になった上、洋服まで」

 なつみは、思い出して礼を述べた。気にするな、と宇迦之御魂大神があっさり答える。

『わざわざ休日を使って対応してくれたのだから、当然であろう。そもそも、大した額ではない。出所も、鳥居の初穂料であるし』
「いえ、そんな……って、え、初穂料から出てるんですか、この洋服代?」
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