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クレーマー二号(テイちゃん)
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「……こいつが、彼氏?」
渡辺が呟く。彼は、しばし口を開けてぽかんとしていたが、やがてチッと舌打ちした。
「紛らわしい真似すんなや。男に恥かかせて!」
勝手に勘違いしたくせに何を言う、となつみは苛立った。だが、言い返そうとして思い止まった。井原へのフォローが先だ、と気付いたのだ。さぞ気分を害していることだろう。しかし、おそるおそる見やれば、彼女は意外にも笑みを浮かべていた。
「ありがとうございます」
井原は、なつみに向かってにこやかに微笑む。なつみは、きょとんとした。
「何のことです?」
「私に踏ん切りを付けさせてくれて、です。私、亡くなった両親から、婚活のことをずっと心配されていて。それで、多少のことには目をつむって結婚しなくちゃと思っていたんですけど……」
そこで彼女は、渡辺の方へ向き直った。キッと彼を見すえて、告げる。
「お茶をして最終判断をしようと思いましたが、その必要は無さそうですね。私、もう帰ります。そして相談所には、すぐにお断りの連絡をします。今日は、ありがとうございました」
言うなり井原は、踵を返した。
「足、大丈夫ですか?」
なつみは思わず気遣ったが、彼女は晴れ晴れとした顔でこちらを振り返った。
「その辺のカフェで少し休めば、回復すると思います。ついでに、美味しいスイーツで気分直しをしますよ。北白川まで行かなくても、良いお店はありそうですし」
最後にチクリと嫌味を言うと、井原は颯爽と去って行った。残された渡辺はといえば、チッと舌打ちをすると、彼女とは反対方向へ歩き去って行く。だが、テイちゃんはそれに続かなかった。すさまじい目で、なつみをにらみつけている。
『ちょっと。お茶の状況で判断するんじゃなかったの?』
「それどころじゃなかったじゃないですか」
今まで何を見聞きしていたのだ、となつみは呆れた。
「女性にという以前に、他人に配慮できるよう意識を改めていただかないと、何年婚活してもお相手は見つからないと思いますよ。申し訳ありませんが、お力にはなりかねます」
白銀も、横でうんうんとうなずいている。だがテイちゃんは、目をつり上げた。
『息子本人に結婚の意思があれば引き受ける、と言ったじゃない!』
「雅也さんが求めてらっしゃるのは、結婚相手ではありません。家事係です」
なつみは、きっぱりと告げた。テイちゃんが、絶句する。元々生気の無い顔を、さらに真っ青にした後、彼女はとんでもない台詞を言い放った。
『そんなの……、屁理屈よ! この二枚舌女! 大体、あなたが雅也を付け回して誤解させたのがいけないんじゃない。あの誤解が無ければ、お見合いは成功していたわ!』
(クレーマーだ)
なつみは、確信した。偵察に来たのは、依頼を引き受けるどうかの判断のため。お茶の様子を観察してくれと懇願したのは、当のテイちゃんではないか。
『あなたは、もう……』
白銀が、何かを言いかける。恐らくは、ブラックリスト、と言おうとしたのだろう。だがその瞬間、周辺はすうっと暗くなった。そして、華やかな振り袖姿の女性が、どこからともなく出現する。宇迦之御魂大神だった。
渡辺が呟く。彼は、しばし口を開けてぽかんとしていたが、やがてチッと舌打ちした。
「紛らわしい真似すんなや。男に恥かかせて!」
勝手に勘違いしたくせに何を言う、となつみは苛立った。だが、言い返そうとして思い止まった。井原へのフォローが先だ、と気付いたのだ。さぞ気分を害していることだろう。しかし、おそるおそる見やれば、彼女は意外にも笑みを浮かべていた。
「ありがとうございます」
井原は、なつみに向かってにこやかに微笑む。なつみは、きょとんとした。
「何のことです?」
「私に踏ん切りを付けさせてくれて、です。私、亡くなった両親から、婚活のことをずっと心配されていて。それで、多少のことには目をつむって結婚しなくちゃと思っていたんですけど……」
そこで彼女は、渡辺の方へ向き直った。キッと彼を見すえて、告げる。
「お茶をして最終判断をしようと思いましたが、その必要は無さそうですね。私、もう帰ります。そして相談所には、すぐにお断りの連絡をします。今日は、ありがとうございました」
言うなり井原は、踵を返した。
「足、大丈夫ですか?」
なつみは思わず気遣ったが、彼女は晴れ晴れとした顔でこちらを振り返った。
「その辺のカフェで少し休めば、回復すると思います。ついでに、美味しいスイーツで気分直しをしますよ。北白川まで行かなくても、良いお店はありそうですし」
最後にチクリと嫌味を言うと、井原は颯爽と去って行った。残された渡辺はといえば、チッと舌打ちをすると、彼女とは反対方向へ歩き去って行く。だが、テイちゃんはそれに続かなかった。すさまじい目で、なつみをにらみつけている。
『ちょっと。お茶の状況で判断するんじゃなかったの?』
「それどころじゃなかったじゃないですか」
今まで何を見聞きしていたのだ、となつみは呆れた。
「女性にという以前に、他人に配慮できるよう意識を改めていただかないと、何年婚活してもお相手は見つからないと思いますよ。申し訳ありませんが、お力にはなりかねます」
白銀も、横でうんうんとうなずいている。だがテイちゃんは、目をつり上げた。
『息子本人に結婚の意思があれば引き受ける、と言ったじゃない!』
「雅也さんが求めてらっしゃるのは、結婚相手ではありません。家事係です」
なつみは、きっぱりと告げた。テイちゃんが、絶句する。元々生気の無い顔を、さらに真っ青にした後、彼女はとんでもない台詞を言い放った。
『そんなの……、屁理屈よ! この二枚舌女! 大体、あなたが雅也を付け回して誤解させたのがいけないんじゃない。あの誤解が無ければ、お見合いは成功していたわ!』
(クレーマーだ)
なつみは、確信した。偵察に来たのは、依頼を引き受けるどうかの判断のため。お茶の様子を観察してくれと懇願したのは、当のテイちゃんではないか。
『あなたは、もう……』
白銀が、何かを言いかける。恐らくは、ブラックリスト、と言おうとしたのだろう。だがその瞬間、周辺はすうっと暗くなった。そして、華やかな振り袖姿の女性が、どこからともなく出現する。宇迦之御魂大神だった。
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