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第四章 疑惑と混乱
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『それとも、何だ? まさか、小田桐聖に情が移ったんじゃないだろうな?』
西尾が、疑わしげに言う。瑞紀は、慌てて否定した。
「まさか! 俺は、金一筋だって言ってんじゃん。今までサクラやってて、相手に惚れたことなんかねえだろ?」
『今までは、な。小田桐聖がいい男だから、俺も警戒してんだよ』
西尾の声音には、相変わらず猜疑がにじんでいる気がして、瑞紀はひやりとした。
『それに。さっき、奴の身内に会ったって言ったよな? まさか、小田桐家に接近しようとしてんじゃねえだろうな?』
「いや、それは違う! 坊ちゃんと一緒にいた時に、たまたま出くわしたんだって」
今日はこちらから誘ったのだが、それは伏せておくことにした。そうか、と西尾はようやく安心したような声を出した。
『だが、悪いことは言わないから、小田桐の人間とは二度と会わない方がいい。俺はお前を信じるが、みどり社長はそうとは限らない。お前が欲を出すのじゃないかと、心配してたろ?』
そういえば初対面の際、瑞紀が聖との結婚を夢見るのではないかとみどりは懸念していたっけ、と瑞紀は思い出した。
「わかった。もちろん小田桐家に入るつもりなんかねえけど、誤解されないように気を付けるよ」
『くれぐれも用心しろよ』
念を押して、西尾は電話を切った。確かにこの計画が頓挫したら、西尾がもらうはずの金もパアだ。彼が神経を尖らせるのも、無理は無かった。
(西尾さんには、恩がある。逆らえねえ……)
瑞紀は、頭を抱えた。もし、西尾の言う通りだとしたら。聖が明人に心惹かれていて、結婚を考え始めているとしたら。その彼と、一年間恋人を続けるのかと思うと、胸が痛かった。
その時、再びスマホが着信を告げた。見覚えの無い番号に首をかしげながら応答すると、かしこまった声が聞こえてきた。
『中森様でいらっしゃいますでしょうか。私、小田桐ホテルのフロントの……』
かけてきたのは、聖が手配してくれた店舗のフロントスタッフだった。そういえば今夜から泊まるのだった、とハッと思い出す。
『精一杯、おもてなしをさせていただきます。何かございましたら、ご遠慮なくお申し付けくださいませ』
丁重にそう告げた後、スタッフは、チェックインは何時頃かと尋ねた。確かに、時計を見れば、もう夕方だ。聖と明人のことをあれこれ考えていたせいで、かなり時間を浪費してしまった。
「お世話になります。そうですね……」
約二時間後と告げて、瑞紀は電話を切った。この状況で聖の世話になるのは、さらに気が重かったが、部屋を確保してもらった手前、行くしかない。瑞紀は、大急ぎで荷造りを始めたのだった。
西尾が、疑わしげに言う。瑞紀は、慌てて否定した。
「まさか! 俺は、金一筋だって言ってんじゃん。今までサクラやってて、相手に惚れたことなんかねえだろ?」
『今までは、な。小田桐聖がいい男だから、俺も警戒してんだよ』
西尾の声音には、相変わらず猜疑がにじんでいる気がして、瑞紀はひやりとした。
『それに。さっき、奴の身内に会ったって言ったよな? まさか、小田桐家に接近しようとしてんじゃねえだろうな?』
「いや、それは違う! 坊ちゃんと一緒にいた時に、たまたま出くわしたんだって」
今日はこちらから誘ったのだが、それは伏せておくことにした。そうか、と西尾はようやく安心したような声を出した。
『だが、悪いことは言わないから、小田桐の人間とは二度と会わない方がいい。俺はお前を信じるが、みどり社長はそうとは限らない。お前が欲を出すのじゃないかと、心配してたろ?』
そういえば初対面の際、瑞紀が聖との結婚を夢見るのではないかとみどりは懸念していたっけ、と瑞紀は思い出した。
「わかった。もちろん小田桐家に入るつもりなんかねえけど、誤解されないように気を付けるよ」
『くれぐれも用心しろよ』
念を押して、西尾は電話を切った。確かにこの計画が頓挫したら、西尾がもらうはずの金もパアだ。彼が神経を尖らせるのも、無理は無かった。
(西尾さんには、恩がある。逆らえねえ……)
瑞紀は、頭を抱えた。もし、西尾の言う通りだとしたら。聖が明人に心惹かれていて、結婚を考え始めているとしたら。その彼と、一年間恋人を続けるのかと思うと、胸が痛かった。
その時、再びスマホが着信を告げた。見覚えの無い番号に首をかしげながら応答すると、かしこまった声が聞こえてきた。
『中森様でいらっしゃいますでしょうか。私、小田桐ホテルのフロントの……』
かけてきたのは、聖が手配してくれた店舗のフロントスタッフだった。そういえば今夜から泊まるのだった、とハッと思い出す。
『精一杯、おもてなしをさせていただきます。何かございましたら、ご遠慮なくお申し付けくださいませ』
丁重にそう告げた後、スタッフは、チェックインは何時頃かと尋ねた。確かに、時計を見れば、もう夕方だ。聖と明人のことをあれこれ考えていたせいで、かなり時間を浪費してしまった。
「お世話になります。そうですね……」
約二時間後と告げて、瑞紀は電話を切った。この状況で聖の世話になるのは、さらに気が重かったが、部屋を確保してもらった手前、行くしかない。瑞紀は、大急ぎで荷造りを始めたのだった。
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