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5 暗雲

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 カズという老女は、かいがいしく純を世話してくれた。食事と風呂を済ませると、純は用意された部屋にこもった。
(そうだ)
 純はふと思い出して、スマホを取り出した。監禁されて以来取り上げられていたから、電源を入れるのは久々だ。
 そのとたん、通知音が響き渡った。大量の不在着信とメッセ―ジが来ている。全て椎葉からだった。
(心配してくれてたんだ。そうだよな……)
 急に懐かしくなり、純は椎葉にメッセ―ジを送ってみた。
『久々に、スマホを返してもらえました。心配してくれていたのに、返信できなくてすみませんでした』
 送り終わった瞬間、パッと着信画面が表示される。何と、椎葉からだった。
『お前、大丈夫か?』
 応答するなり、椎葉は言った。
「はい。貴重品も返してもらえましたし……。桐ケ谷さんとは、信頼関係が築けています」
『そうじゃない。政局が大変なことになっているだろう? お前が巻き込まれていないかと思って』
 椎葉の口調は深刻だった。
「……実は、巻き込まれそうなんです」
『だろうと思った。選挙になるだろう、と言われているしな』
 ふう、とため息の気配がした。
『ところで、違っていたら悪いんだが……。週刊誌がスクープした被害者のオメガって、まさか……』
「はい、僕です」
 そうか、と椎葉は真剣な声を出した。
『いや、十五歳のオメガというから、ひょっとしてと思ってな。それが原因で政治に巻き込まれたか、と推理したんだ。まあ、あの年頃のアルファがオメガをレイプする事件なんてありがちだから、違うかも、と期待はしたが。はかない期待だったな』
「よくあるんですか? 僕らの年代って」
 ああ、と椎葉は肯定した。
『性的なことに一番関心がある年頃だってのに、まだ買春できる年齢じゃないからな……。だからレイプに走ってしまう、と。実際、オメガへのレイプや暴力が一番多いのは、十四~十七歳なんだ。つまり、総理の肝いりの法律は意味がないともいえる。……ああ、脱線したな。とにかく、気をつけろよ。ただでさえお前の能力は狙われやすいのに、選挙になったら、皆血眼になるからな』
 わかりました、と告げて純は電話を切った。だが、何だかすっきりしない。椎葉との会話で、不可解なことがあるような気がしたのだ。それが何かなのはからなかった。
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