上 下
11 / 85
2 男娼デビュー

4

しおりを挟む
「はい……。同級生のアルファに、犯されました。彼はその後、小遣いが三倍にアップした、と自慢していました」
 幼稚な願いと思ったのか、男がくすりと笑う。もっともその少年も、純の能力を知っていれば、もっと欲張ったことだろう。現職総理大臣の息子だった。
「まあ、お前が本当に生まれ変わりかどうかはさておき……。なぜこんな場所で働きたいんだ?」
 それは、当然予想される質問だった。純は、男の目を見つめて告げた。
「父と兄に、売春を強要されました。どうせ身体を売るのなら、収入は自分のものにしたいです」
 ――汚らわしいオメガが……。
 ――愛人の子を、ここまで育ててやったんだしな。恩返しはさせないと……
 父親と二人の兄の言葉が蘇り、握りしめた拳が震えた。男は一瞬絶句したが、すぐに純の立場を思い出したのだろう。軽く頷いた。
「話はわかった。だが、採用は難しい。お前には、問題が多すぎるんだ。まずは、年齢。知ってのとおり、未成年オメガの雇用は、厳罰に処せられる。そして、そのリスクを犯すほどの価値がお前にあるとは、はっきり言って思えん。容姿が優れているわけでもない。特殊な能力があると言っても、それが本物だという証拠はどこにもない」
 やはり、無理なのだろうか。しかし、下を向いた純に向かって、男は意外な言葉を告げた。
「でも、能力が証明されれば話は別だ」
 純は、弾かれたように顔を上げた。
「ええと、それは、つまり……」
「ああ。俺がお前を抱いて『テスト』する。どうだ、嫌か?」
 男は、にやりと笑った。純はかぶりを振った。
「いえ! それで、雇って頂けるのであれば!」
「ふん。ガキのくせに、肝が据わった奴だな」
 男は、満足そうに頷いた。
「だが、今はまずいな。お前、発情期じゃないのか?」
 やはりアルファだ、敏感に感じ取ったらしい。そして、恐れるのも当然だ。発情期のオメガとアルファが交われば、オメガはほぼ百パーセントに近い確率で妊娠するのである。純は、きっぱりと言った。
「それなら大丈夫です……。というか、今でないとダメなんです。勇が能力を発揮したのは、発情期に限られていました。そして彼は、生涯妊娠しませんでした」
「それは知らなかった。祖父さんの知識不足だな」
 男は目を見張ると、純に向かって微笑んだ。
「なら、早速今夜『テスト』する。俺は、この店を仕切っている椎葉真人しいばまさと。よろしくな」
しおりを挟む

処理中です...