上 下
21 / 242
第二章 呪文探しの旅に出よう!

8

しおりを挟む
「なっ……、どうしてです!?」

 真純は、思わず叫んでいた。ルチアーノが説明する。

「話は、当時の王室事情に遡る。私の父・ミケーレ二世と正妃・エリザベッタ王妃との間には、クラウディオという一人息子がいらっしゃった。アルマンティリア王国の王太子であり、私の兄だ。だが彼は、生来お体が弱かった。彼にもしものことがあれば、お世継ぎがいなくなるのではと心配した側近たちは、国王に側妃を迎えていただこうと考えた。様々な令嬢が候補に挙がる中、国王は一人の女性に目を留められた……。だが彼女には、すでに婚約者がいた。代々アルマンティリア国王に仕えてきた由緒正しき家系の宮廷魔術師・ベゲットだ」

 この上なく不吉な予感に、真純は眉をひそめた。

「さすがに、側近たちは反対した。国王が、婚約者のいる女性を強奪するなど、外聞が悪いと。しかも、その当時宮廷では、すでにパッソーニが権力を握りつつあった。自分を差し置いて、新参者のパッソーニを重用する国王に、ベゲットはたいそう不満を抱いていたようだ。その上婚約者まで奪われたとなれば、一色触発となるのは目に見えている。だがそんな中、国王の命を忠実に実行しようとした者がいた。それが、当時宰相を務めていた、ボネーラの父だ」

「どうして、そのような……」

 ジュダがつぶやく。わからぬ、とルチアーノはかぶりを振った。

「ボネーラは、その理由を語ろうとしなかった。あるいは、ボネーラ自身も知らなかったのかもしれぬ。とにかく、宮廷内でベゲットと宰相の対立は決定的となった。そんなある日、宰相は屋敷で、不慮の死を遂げた」

 ベゲットの話題が最初に出た時、ボネーラが顔を曇らせたのはそのせいだったのか、と真純は思い出していた。

「ベゲットが殺したという、確たる証拠は無かった。だが宰相の死は原因不明で、おまけに事件当日、彼の屋敷から立ち去るベゲットを目撃した者がいた。だから誰もが、ベゲットが何らかの呪術を用いて彼を殺害したものと信じて疑わなかった」

 真純もジュダも黙り込んだ。ルチアーノが、淡々と続ける。

「本来なら死罪となってもおかしくないが、証拠が無いこと、代々宮廷に尽くしてきたという功績が考慮され、ベゲットは宮廷追放処分にとどまった。だが彼は、ずっと無実を訴え続けていたそうだ」

「結局国王陛下は、ベゲットの婚約者を妃にはなさらなかったのですね」

 確認するように、ジュダが尋ねる。そうだ、とルチアーノはあっさり答えた。

「宰相が殺されたことで、さすがに気がとがめたのだろう。代わりに私の母を娶り、私という子をもうけたわけだが……。まあ、それは今はいい。そんなわけでベゲットは、故郷へ戻り、予定通り婚約者と結婚した。そして男児をもうけたらしいが、産後の肥立ちが悪く、妻は亡くなったそうだ。そして、ベゲット本人と息子も、火事で亡くなったと……」
 
「何だか、そのベゲットさんて、かわいそうですね……」

 真純は思わずつぶやいたのだが、ジュダは眉を吊り上げた。

「おい、殿下のお話を聞いていたのか? ベゲットって奴は、殺人犯だぞ。自業自得だろ」
「けど、無実だって主張していたんでしょう」
「どう考えても、状況的に怪しいだろうが。それに、そいつが冤罪だったかどうかなんて、今は関係無いだろ。俺たちがすべきことは、フィリッポとやらに、殿下の呪いを解かせること……」

「関係無くはないぞ?」

 澄んだ声が響く。ルチアーノだった。

「フィリッポは、師匠だったベゲットをたいそう崇拝していたらしい。きっと、彼の無実を信じていることだろう。そんな彼を追放したアルマンティリア王室のことは、恨みこそすれ、好感を持っているはずは無い。仮にフィリッポが回復呪文を知っていたとしても、説得して聞き出すのは至難の業と思うが? それゆえ、容易には進まぬかもしれぬと言ったのだ。ボネーラを無理に同行させなかったのも、フィリッポの神経を逆なでしないためだ」

 ぐうの音も出なかったのか、ジュダは黙り込んだ。真純は、そんな彼の横でぼんやり考えていた。

(ベゲットって人は、本当に冤罪だったのかな? だとすれば、ボネーラさんのお父さんを殺したのは、一体……?)

  
  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子様のご帰還です

小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。 平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。 そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。 何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!? 異世界転移 王子×王子・・・? こちらは個人サイトからの再録になります。 十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。

【完結】王子の婚約者をやめて厄介者同士で婚約するんで、そっちはそっちでやってくれ

天冨七緒
BL
頭に強い衝撃を受けた瞬間、前世の記憶が甦ったのか転生したのか今現在異世界にいる。 俺が王子の婚約者? 隣に他の男の肩を抱きながら宣言されても、俺お前の事覚えてねぇし。 てか、俺よりデカイ男抱く気はねぇし抱かれるなんて考えたことねぇから。 婚約は解消の方向で。 あっ、好みの奴みぃっけた。 えっ?俺とは犬猿の仲? そんなもんは過去の話だろ? 俺と王子の仲の悪さに付け入って、王子の婚約者の座を狙ってた? あんな浮気野郎はほっといて俺にしろよ。 BL大賞に応募したく急いでしまった為に荒い部分がありますが、ちょこちょこ直しながら公開していきます。 そういうシーンも早い段階でありますのでご注意ください。 同時に「王子を追いかけていた人に転生?ごめんなさい僕は違う人が気になってます」も公開してます、そちらもよろしくお願いします。

置き去りにされたら、真実の愛が待っていました

夜乃すてら
BL
 トリーシャ・ラスヘルグは大の魔法使い嫌いである。  というのも、元婚約者の蛮行で、転移門から寒地スノーホワイトへ置き去りにされて死にかけたせいだった。  王城の司書としてひっそり暮らしているトリーシャは、ヴィタリ・ノイマンという青年と知り合いになる。心穏やかな付き合いに、次第に友人として親しくできることを喜び始める。    一方、ヴィタリ・ノイマンは焦っていた。  新任の魔法師団団長として王城に異動し、図書室でトリーシャと出会って、一目ぼれをしたのだ。問題は赴任したてで制服を着ておらず、〈枝〉も持っていなかったせいで、トリーシャがヴィタリを政務官と勘違いしたことだ。  まさかトリーシャが大の魔法使い嫌いだとは知らず、ばれてはならないと偽る覚悟を決める。    そして関係を重ねていたのに、元婚約者が現れて……?  若手の大魔法使い×トラウマ持ちの魔法使い嫌いの恋愛の行方は?

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

【完結】悪役令息?だったらしい初恋の幼なじみをせっかく絡めとったのに何故か殺しかけてしまった僕の話。~星の夢・裏~

愛早さくら
BL
君が悪役令息? 一体何を言っているのか。曰く、異世界転生したという僕の初恋の幼なじみには、僕以外の婚約者がいた。だが、彼との仲はどうやら上手くいっていないようで……ーー?! はは、上手くいくはずがないよね、だって君も彼も両方受け身志望だもの。大丈夫、僕は君が手に入るならなんでもいいよ。 本人には気取られないよう周囲に働きかけて、学園卒業後すぐに、婚約破棄されたばかりの幼なじみを何とか絡めとったのだけど、僕があまりに強引すぎたせいか、ちょっとしたすれ違いから幼なじみを殺しかけてしまう。 こんなにも君を求めているのに。僕はどうすればよかったのだろう? この世界は前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界で自分は悪役令息なのだという最愛の公爵令息を、策略を巡らせて(?)孕ませることでまんまと自分の妃にできた皇太子が事を急くあまり犯した失態とは? ・少し前まで更新していた「婚約破棄された婚約者を妹に譲ったら何故か幼なじみの皇太子に溺愛されることになったのだが。」の殿下視点の話になります。 ・これだけでも読めるように書くつもりですが、エピソード的な内容は前述の「婚約破棄され(ry」と全く同じです。 ・そちらをお読みの方は、少し違う雰囲気をお楽しみ頂けるのではと。また、あちらでは分かりにくかった裏側的なものも、こちらで少し、わかりやすくなるかもしれません。 ・男性妊娠も可能な魔力とか魔術とか魔法とかがある世界です。 ・R18描写があるお話にはタイトルの頭に*を付けます。(3-7とかの数字の前。 ・ちゅーまでしか行ってなくても前戯ならR18に含みます。 ・なお、*の多くは全部ぶっ飛ばしても物語的に意味は通じるようにしていく予定です、苦手な方は全部ぶっ飛ばしてください。 ・ありがちな異世界学園悪役令嬢婚約破棄モノを全部ちゃんぽんしたBLの攻めキャラ視点のお話です。 ・執着強めなヤンデレ気味の殿下視点なので、かなり思い詰めている描写等出てくるかもしれませんが概ね全部大丈夫です。 ・そこまで心底悪い悪人なんて出てこない平和な世界で固定CP、モブレ等の痛い展開もほとんどない、頭の中お花畑、ご都合主義万歳☆なハッピーハッピー☆☆☆で、ハピエン確定のお話なので安心してお楽しみください。

【完結】ハシビロコウの強面騎士団長が僕を睨みながらお辞儀をしてくるんですが。〜まさか求愛行動だったなんて知らなかったんです!〜

大竹あやめ
BL
第11回BL小説大賞、奨励賞を頂きました!ありがとうございます! ヤンバルクイナのヤンは、英雄になった。 臆病で体格も小さいのに、偶然蛇の野盗を倒したことで、城に迎え入れられ、従騎士となる。 仕える主人は騎士団長でハシビロコウのレックス。 強面で表情も変わらない、騎士の鑑ともいえる彼に、なぜか出会った時からお辞儀を幾度もされた。 彼は癖だと言うが、ヤンは心配しつつも、慣れない城での生活に奮闘する。 自分が描く英雄像とは程遠いのに、チヤホヤされることに葛藤を覚えながらも、等身大のヤンを見ていてくれるレックスに特別な感情を抱くようになり……。 強面騎士団長のハシビロコウ‪✕‬ビビリで無自覚なヤンバルクイナの擬人化BLです。

ポメガバって異世界転移したら、冷酷王子に飼われて溺愛されました

夏芽玉
BL
ずっと好きだった相手に、告白することもなく失恋した。心の傷が癒えないまま出勤すれば、ミスの連発。ストレスのあまりポメラニアンになってしまったけれど、それと同時に、オレは異世界転移までしてしまったようだ。 傷心旅行ついでにたっぷり可愛がってもらえれば、すぐに元の姿に戻れるだろうと思っていたのに、どうやらこの世界にポメラニアンは居ないらしい。魔物と間違えられながらも、なんとか冷徹王子のペットになったんだけど、王子の周りでは不審な出来事が多発して…… ※ポメガバースの設定をお借りしています 第11回BL小説大賞に参加します。よろしくお願いします!

【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

処理中です...