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78 ヴァレリア⑥

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「…このブローチ…おかしくないかい?」

「大丈夫よあなた。とってもよく似合っているわ。」

「奥様、この花はどちらに置いておきましょうか!」

「そうね…その花はダイニングにしましょう。
テーブルの真ん中に置いて頂戴。」

「畏まりました!」

「足りない食材などはないですか!?
古い物はお出ししないように!」

「ありません!本日お出しする食材は全て早朝届いたものです!」

朝から我が家はバタバタと皆が忙しく動き回り大忙し。
三人の姉たちも昨日の内から家に泊まり、今日挨拶に来るクライス候とサイカを待っていた。

「ああ~、緊張するわ…!」

「そうね…。クライス侯爵様なんて凄い方とそうそうお会いする機会なんてないもの…。」

「子供たちが粗相をしないといいけど…。
あなたたち、今日お母様たちは大事な話をするんだから、騒いだりしないこと。それから走り回ったりも絶対駄目よ。いい?約束出来る?」

「はーい!」

「おやくそくー!」

ウォルト家よりも遥か格上のクライス候が来るということで普段は快活で人見知りしない姉たちもかなり緊張をしている。

「…ああ…よりによってこんな大事な日に…。
子供たちが粗相をしないか心配だわ…。」

本当は子供たちを旦那さんに預けて来たかったと言う一番上のクリスティーナ姉さん。
クリス姉さんの二人の子供、私にとっては甥姪である二人。
甥のエドガーは六歳、姪のエミリーは五歳で少々やんちゃが過ぎる性格をしている。
走り回ったり大声を出したりしてクライス候やサイカの機嫌を損ねないかクリス姉さんは昨日から随分心配していた。

「大丈夫ですよ姉さん。
クライス候もサイカも、優しい人です。
子供たちが走り回ったり大声で話したりしたくらいでは怒ったりしませんよ、きっと。」

「…ヴァレ…、そうだといいけれど…。でもあの子たち、最近言う事聞かないのよ。返事だけはいいのだけど。」

「大丈夫よ姉様。姉様だけじゃなく、私たちだっているんだから。」

「そうそう。皆で注意して見ていれば大丈夫よ。
ミア姉様と私の子供たちまでいたら…きっともっと大変になってるはずよ。」

「…ええ、そうね。でもやっぱり心配だから…挨拶が済んだ後は使用人の誰かに見てもらって…他の部屋で遊ばせておいた方がいいかも…。」

二番目のミリアーナ姉さんと三番目のラディアーナ姉さんの子供たちは向こうのご両親と旦那さんが見てくれている。
確かに姉さんたちの子が全員集まったらとても賑やかだっただろうなと思う。


「ヴァレ、楽しみね。」

「ええ、母さん。…とても楽しみです。」


今日という日がとても待ち遠しかった。
毎日毎日、指折り数える程。
父や母、姉たち。そして使用人の皆もきっと驚くことだろう。
サイカの美貌については勿論家族に話しているけれど、けれど想像と実際に目で見るのとは全く違うから。
美しい、とても美しいサイカを見た家族の反応もまた楽しみで、私はふふ、と悪戯を思い付いた子供の様に笑っていた。

クライス候とサイカを迎える準備が整って一時間余り。
使用人からクライス候の乗った馬車が到着しましたと報告を受けた私は執事のマテオと数人の使用人と一緒に二人を出迎える為に席を立ち、家族皆にはそのまま応接間で待っていてもらうことに。
ドアが閉まるその最中、「大人しく座ってるのよ?お客様が来たらちゃんと挨拶するの。いいわね?絶対に騒いだりしては駄目よ?」と甥姪に念を押すクリス姉さんの声が聞こえた。


「クライス候、サイカ、ようこそお出で下さいました。」

「ヴァレリア卿。出迎え感謝する。」

「いいえ、とんでもない。
それから…どうかいつものようにヴァレリア殿とお呼び下さい。」

「では有り難く。ヴァレリア殿もいつも通りで。」

「ありがとうございます。
遠路はるばる我が家へとお越しくださいましたこと、心より感謝申し上げます。
お疲れになってはいませんか?」

「いいや。道中も娘と一緒なら楽しいものだ。なあサイカ。」

「ええ、とっても楽しかったです。」

「それは羨ましい限りです。
さ、私の家族が待つ応接間へ案内しますね。
マテオ、クライス候とサイカの荷物を………ふふ、マテオ。
サイカに見惚れるその気持ちは分かりますが…二人の荷物をお願いします。」

「か、畏まりました…!」


マテオも出迎えに並んだ使用人も。やっぱりサイカを見て驚いている。
夜とはまた違うサイカの美しい姿。日の光を浴びたサイカは全身を輝かせていた。
そんなサイカを目の当たりにした皆は驚いて、その後はほう、と頬を染めて感嘆の息を漏らしてしまう。
いつも落ち着いた様子のマテオが慌てる所なんて初めて見た私は何やらしてやったりという気持ちだった。

「今日は一番上の姉の子供が二人来ているのです。」

「……子供、か。…俺の容姿を怖がったりしないといいが…。」

「きっと大丈夫ですよ。二人は私に対しても逃げたり怖がったり嫌がったりしない子供なのです。
二人だけでなく…三人の姉の子供たちは皆私を嫌がったりしない優しい子たちでして。」

「そうか。…まあ、だがヴァレリア殿は身内であるから別として…初対面の俺は怖がられるかも知れんな。…何せ俺はデカい。」

「お義父様、そうなった時はそうなった時です。
怖がられても、この先お会いする事も多々あるはず。
お義父様が優しい人だと伝わればすぐ仲良くなりますよきっと。」

「ああ、そうだな。」

「それにお義父様の大きな体って遊具にもなると思うんです。」

「…サイカ?」

「私が小さな子供だったら…お義父様に毎日でも抱えて欲しいとねだっていると思うんです。
お義父様に抱えられるととても目線が高くなって楽しいですし。……んと、まあ…私は大人なのでちょっと…恥ずかしいですけど。」

「ははは!そうか、俺は遊具になるのか!ははははは!」

「ぷ、…ふふ!サイカは本当に…。サイカのそういう所が私は大好きです。」

三人で談笑しながら応接間へ到着すると、私たちが近づいたのが分かったのか、それまで少しざわついていた部屋の中はぴたりと静かになった。

「父さん、母さん、姉さん。
クライス候とサイカを連れてまいりました。」

「お初にお目にかかる。
ディーノ・クライスだ。本日はこちらに一晩泊まらせても頂くが…そう気を使わなくとも結構。娘共々宜しく頼む。」

クライス候が挨拶をすると両親と姉は物凄い勢いで立ち上がり礼を取る。

「クライス侯爵閣下、遠い所をようこそお越し下さいました。どうか我が家だと思ってお寛ぎ下さい。
クライス侯爵令嬢も………………、」


しん、と。静まり返る部屋の中。
言葉を失った父と、まるで信じられないものを見たような顔で固まる母と姉たち。


「サイカ・クライスと申します。
ヴァレリア様の大切なご家族である皆様にこうしてお会いできる日を楽しみにしておりました。…本当に嬉しく思います。
本日はどうぞ、宜しくお願い致します。」

「父さん、母さん、姉さん。…この方が、私の大切な恋人です。」

『…………。』

カーテシーを取り挨拶をしたサイカがにこりと微笑んだ瞬間、まるで時が止まったかのような。
私やクライス候、サイカ以外の全員がずっと体を固まらせている中、サイカに話しかけたのは二人の甥姪だった。

「すごい!ほんもののお姫さまだ!お母さま、見て!お姫さまだよ!」

「きれい!おひめさまだー!すごいすごい!おかあさま、すごい!」

はしゃぎながら甥姪がサイカへ駆け寄る。
姉さんたちの表情がはっと我に返ったものになると次の瞬間。

『え…えええええええええ!!!?』

三人のもの凄い叫び声が部屋中所か屋敷中に響き渡っているのを聞いて、あれだけ子供たちには静かにと言っていたのに自分たちが大きな声を上げてしまっているなと密かに思った。

「ちょ、ちょっとヴァレ、き、聞いてない!ヴァレの恋人があんな絶世の美女とか聞いてないわ…!どういうこと!?何なのあの神々しいまでの美しさ!意味が分からないわ!」

「ヴァ、ヴァレ、貴方私たちに嘘をついたわね!?
美しい人って嘘じゃない!美しいを通り越してるじゃない!
私たちや他の令嬢たちが頑張って着飾ってもキラキラの宝石をじゃらじゃら付けても勝てやしないわよ!?」

「…お、同じ女…いえ、同じ人間とは思えない美しさだわ…!
ヴァレ…貴方あんな女神みたいな美貌の恋人を持って…大丈夫なの…!?私だったら不安で仕方がないわよ…!?夜も眠れないわきっと!」

「ぶふっ。」

「貴女たち、クライス侯爵様と侯爵令嬢の前でみっともない真似はお止めなさい…!聞こえているわ!」

「む、娘たちが申し訳ありません、クライス侯爵閣下っ…お恥ずかしい…。」

「…いや、構わない。娘を初めて見ると皆驚くからな。
それに……ふ、いや、正直でよろしい。」

それぞれが軽い自己紹介を兼ねた挨拶を終え昼食を取る為にダイニングへ。
クライス候は自分の容姿が子供たちに怖がられないかと心配をしていたけれどその心配は杞憂だった。
『おじさん、大きいね!』と甥も姪もクライス候の容姿に物怖じもせず抱えられいつもとは違う高い目線にはしゃいでいる。
そんな我が子たちを見て悲鳴を上げそうになっていたのはクリス姉さんの方だった。


「サイカ…此方の席へどうぞ。」

「ありがとうございます、ヴァレ。」

「ふふ、どういたしまして。」

椅子を引いてサイカが座るのを見届けてから私も向かいの席へ座る。
視線が合ってお互いに微笑むとそんな私たちの様子を見ていたミア姉さんが恐る恐るといった様子でサイカに質問をした。

「あ、あの、クライス侯爵令嬢、その、……ヴァレの、どんな所に惹かれたか…聞いてもいいかしら…」

「…どんな所に…?」

「え、ええ。……ヴァレはその…私たちからすればとても可愛い弟、ですけど……クライス侯爵令嬢は、どんな所が魅力に映ったのかしら、と。」

少しだけミア姉さんの質問に引っ掛かりを覚えた。
何となくだけれど、サイカを疑っているような気がして。
だけどサイカが私のどんな所を魅力に感じ、惹かれ、そして好いてくれたのかが気になった私は何も言わずにサイカの返事を待つことにした。

「何処が、と言われれば…分かりません。」

「……は?」


“分かりません”
サイカが確かにそう言った瞬間、私は酷いショックを受けた。
困惑、悲しみ、そして落胆。どの感情が大きいのか分からない程の衝撃。
どんどん気持ちが沈み、萎んでいくような感覚が一気に押し寄せてくる。

「…分からない…?今、分からない、と、仰ったの…?」

質問したミア姉さんではなく、ラディ姉さんの少し怒った様な声。
姉さんたちを落ち着かせる為に気にしていないと嘘の言葉を発しようとしたその時、サイカの続く言葉に私は言葉を失う。

「分かりません。…気付いたら、好きになっていました。
最初は異性としてというより、人として、一人の人としての純粋な好意が。
初めて会った時にヴァレの…ヴァレリア様の人柄の一部を見てから、人として素直な好意がありました。」

「……。」

「ヴァレリア様が周りからの態度や言葉に随分苦しんだと知っています。けれど初めて会った時にヴァレリア様は、ぶつかって転びそうになった私を助けてくれました。
その後に何を言われるか怯えて謝るくらい…周りに傷つけられてきたにも関わらず。
でもその咄嗟の出来事に、ヴァレリア様の優しい人柄が出ていたとそう思います。」

「…サイカ…。」

「男の人に失礼かと思いますが…最初は可愛い方だと思いました。変わりたいとヴァレリア様は私に言いました。
…それまでの自分を変えるのは本当に大変なことです。
多くの人が変わりたいと望んでも、その過程で躓いて…そして諦めることの方が多いでしょう。けれどヴァレリア様は違った。」

そう。弱い自分を変えるのは大変だった。
まだサイカに出会ったばかりの頃は本当に…気にしないと決めても何度か挫けそうにもなった。
まだまだ自分の弱さを痛感して。周りに対して極端に怯えていた頃程ではないにしろ、誰かの悪意ある言葉に胸が痛むたびにまだこんな下らない人たちの事を私は気にしてしまうのかと呆れたこともあった。


「会うたびに、ヴァレリア様は前にお会いした時より違う顔を見せる。会うたび、昨日と違う何かが私の心の中に積み重なっていく。
だけど私は…恋がどんなものか知らなかったのです。それがいつしか恋に変わったと気付かずに…恋と気付くまでに時間がかかりました。いつとも呼べない変化。…いつの間にか、本当にいつの間にか、私はヴァレリア様を異性として好きになっていました。」

私は私の為に。家族の為に。そしてサイカ、貴女の為にも変わりたいと思った。
いつまでも弱い自分じゃ、貴女に相応しくないと。
ファニーニ伯爵の件があってからは特に。
強くならなければ、周りの悪意をはね除けるくらいにならなければ、この先サイカを守れはしないとそう思った。

「何処が、何処に惹かれたか。答えは分かりません。
確かなのはこの気持ちが嘘ではなくて、ヴァレリア様を好きな気持ちが大きく、確かにあること。
何処がなんて、答えられないけれど…答えるとすれば、ヴァレリア様の全てになるでしょうか。」

サイカの夜空のように澄んでいる真っ黒な瞳が私を見て、その形を変える。
柔らかに細めた目には確かな愛情が伝わって私を喜ばせ、胸を大いにときめかせた。

「変わろうと今も努力し続けている強い意思を私は尊敬しています。
弱い所も情けない所も、頼りになる所も、優しい所も、実は意地悪な所も、誠実な所も。
可愛い所も、男らしく変わった所も含めた全てが…私は大好きです。」

嬉しさの余りに涙が出そうになった。
私も。私もサイカ、貴女の全てが大好きです。貴女がこんなにも愛おしい。

「…姉さん、」

「………ごめんなさい。私、クライス侯爵令嬢の気持ちを疑ったわ…。
実際、目を疑うくらいすごく綺麗な人で…その、」

「…ええ。ミア姉さんの気持ちは分かっています。
改めて…姉さん、私の恋人はどうですか。サイカの気持ちを今も疑っていますか?」

「いいえ…いいえ!疑わないわ。
だってすごく伝わったもの。ヴァレを大好きな気持ちが、すごく伝わってきたもの。…ごめんなさい、クライス侯爵令嬢。私はすごく、失礼なことをしてしまった…。」

「顔を上げて下さい。
私は気にしていません。それにお姉様たちがヴァレリア様を大好きな気持ちだって本物なのですから。
気持ちもすごくよく分かります。ですので謝る必要などございません。」

「っ、ありがとう、クライス侯爵令嬢…」

何も心配することはなかったでしょう?と姉を見る。
三人の姉は笑って頷いて、それから賑やかな昼食会が始まった。
母や姉たちはサイカを気に入り、堅苦しい侯爵令嬢呼びからサイカ嬢と呼び方を変え、おしゃれや化粧など女同士の話で盛り上がり、クライス候や父、私はその様子を苦笑しながら見守った。
サイカは母や姉たちと話ながらも子供たちが退屈しないように二人に話しかける。
けれど子供というのはただ座って話をするだけでは退屈してしまうもの。

「ヴァレ、使わない紙はない?…出来れば何枚か。あとペーパーナイフを貸してほしいの。」

「?ええ。沢山ありますよ。少し待っていて下さいね。」

言われた物をサイカに渡すとサイカは甥姪に手招きし、床に座る。

「二人とも、ずっとお喋りを聞いているのは退屈でしょう?
一緒に遊ぼう。」

「なにするの?」

「なんのおあそび!?」

「今からするのは折り紙という遊びなの。
お姉ちゃんが小さい頃やった遊びなのよ。」


聞いた事のない“オリガミ”という遊び。
サイカは私の持ってきた紙に折り目を付け、ペーパーナイフで四角形に切る。
細い指で器用に紙を折っていき数分も経たない内に出来上がったのは鳥だった。

「わあ!!鳥だ!すごい!!」

「すごいすごい!とりさんだー!」

「他にもあるの。………じゃーん!これはなーんだ!」

「あー!今度はうさぎだ!」

「うさぎさんだー!かわいいー!」

「今度は一緒にやってみようね。
出来たら…お母さまや皆に見せてあげましょう!
二人とも上手に出来るかなー?」


ああ、サイカ。貴女は会うたび違う私を知ると言ったけれど、私も会うたび、まだ知らない貴女を知るのです。


「むずかしい…」

「うまくできないよー…」

「大丈夫。二人ともゆっくりでいいから折ってごらん。
エドガー、次はここを折るの。
エミリーはお姉ちゃんと一緒にやってみようね。」

サイカの周りに、溢れんばかりの優しい光景が広がっている。

「できた!とりー!」

「エミリーもできたー!」

「わぁ!エドガー!一人で出来るなんてすごい!エミリーもとっても上手に出来たね!
二人ともすごいわ!お姉ちゃんが子供の時はこんなに上手に出来なかったもの!」

「へへ!僕すごいでしょ!」

「エヘヘー!いっぱいつくるー!」

「僕も!いっぱいつくって、お父さまにもおじいさまにもおばあさまにも見せるんだ!」

子供たちは凄く嬉しそうに笑い、オリガミを教えてとサイカにねだる。
サイカも嬉しそうに笑って子供たちにオリガミを教える。
知らなかった。
サイカは子供と遊ぶのも上手で、子供たちを喜ばせるのも上手で、子供たちと同じ目線で話すことが出来る人だったこと。
私はまたひとつ、知らないサイカを知る事が出来た。
きっとサイカは良き母になるだろう。
子供たちを慈しみ、愛情溢れた良き母に。
そう思うと何だかとても嬉しくなって、そして早くその未来が訪れて欲しいとも思った。



「……ねぇヴァレ。サイカ嬢はとっても素敵なひとね。」

「そうでしょう、クリス姉さん。」

「ヴァレ、貴方が思っている以上に、よ。」

「母さん?」

「話して思ったの。サイカ嬢、とても話しやすい雰囲気を持ってるのよ。
クリスたちが元々明るい、人見知りしないのを抜きにしてもね。
話しやすいのは心根が素直だからだわ。
だからあっという間に馴染むの。」

「……。」

「王宮の人間と話す時は相手が何を思ってるか考えてしまうだろう?言葉とは違って心の中ではどう思っているのか。
それは他の人たちにもそう。でも令嬢は反応や心根が素直だから、そういう疲れる事を考えなくても話せるってことだよ、ヴァレリア。」

「父さん…。……確かに。確かにそうです。
誰にも言えなかった苦しみ、辛さ…弱い心を私はサイカには話せました。
…今思うと…サイカはきっと馬鹿にすることなく聞いてくれると…無意識に感じていたのかも知れません。」

「うん、そうだね。
…令嬢の素直さは美徳だよ。だけど貴族としては心配だ。
…ヴァレリア。お前が守ってやりなさい。令嬢の素直な心根を、お前が守ってやりなさい。」

「はい、必ず。」


我が家を初めて訪れたサイカはあっという間に家族と仲良くなった。
まるで昔からの知人、友人のように。はたまた家族の一員のように。
あっという間にウォルト家に馴染み、その中心にいた。

家族と楽しげに話すサイカを見守りながら考える。
父の言った言葉を、深く。
サイカの美徳は貴族では異質で、でもだから誰よりも魅力を感じるのかもしれない。
美しい美貌も勿論そうではあるけれど、その美貌を抜きにしてもサイカの人柄は周りにも魅力的に見えて、そして惹かれるものだろう。
だけどそれはきっと、必ずしもいい事ばかりじゃない。
世の中には良い人間もいれば悪い人間もいるのだから。

「…守ります。必ず。」

サイカの為にも、私の為にも。


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