104 / 194
103 元“メイドはほぼコスプレしかいなかった国”人
しおりを挟む使者のアルマン。
メイドの話によれば、あの男は公爵邸の執事。
グステルの母がこの邸を出て行った時、叔母のグリゼルダが公爵邸に連れて入った男らしい。
もとは地方にあった叔母の家の家人で、叔母との付き合いは長いとのこと。
……というか。
長いどころか二人は男女の仲で、叔母はよほどあの男に惚れ込んでいるのか、あの男の言うことならばなんでも聞くらしい。
「なるほどですよ……まあ、叔母は独身ですから好きにしたらいいとは思うのですが……」
しかし実家で我が物顔に振る舞い、使用人たちを困らせているというのはいただけない。
つまり公爵邸を取り仕切る女主人を思い通りに動かしているという思い上がりが、あの男アルマンを傲慢にしているのだ。
話を聞かせてくれたメイドも、あの男にはかなり思うところがあるようで、彼女は憤慨しながら並べ立てた。
横暴、傲慢、そして意地が悪い。おまけに贔屓もひどい、と。
グステルと共に話を聞いていたエドガーはキッパリと断じる。
「家を取り仕切る人間としては、最悪の人材ですね」
エドガーの評価に、グステルもまったく同意であった。
おまけにだ、そのアルマンが誰かを──特に女性使用人を気に入ると、今度は叔母の嫉妬が激しくなるそう。
その者はアルマンのセクハラに耐える必要がある上に、叔母にもつらく当たられる。
そして、結果退職に追い込まれてしまうという……聞くだけで、げっそりする職場環境。
現在公爵邸の使用人たちは、この二人に振り回されてとても大変らしい。
この件には、エドガーが戸惑いを見せる。
「……グリゼルダ殿の話は意外でした。彼女は領都ではかなり評判がいい。私の知人もとても褒めていて……まさかそのような人物であったとは……」
だが、エドガーも、新人メイドの心得として二人にこの話を聞かせてくれたメイドの様子から考えても、彼女の忿懣が本物であるということは分かった。
メイドは新人と信じる二人に、『まずはあの二人から離れた場所で仕事に慣れなさいね!』と大いに心配してくれて。彼女を利用して話を聞きだしたグステルとしては、なんだか申し訳ないやら気の毒やらである。
実家の中を久しぶりに見て、裏方部分がずいぶん荒れているなとは思ったが……そんな痴情を持ち込む者たちが、公爵邸の家政を正常に保てていないのは当然といえば当然のことだった。
グステルは、実家の内情に思わずため息。
(……男女の情って……厄介ねぇ……)
これはいよいよ実家を放っておけなくなってきた。
と、そんな苦悩する彼女のそばで、エドガーが「それにしても」と彼女を見つめる。
しみじみと、深く感じ入ったという表情に、グステルが怪訝。この男がずっと自分を警戒の眼差しで見ていることをグステルももちろん承知している。
「ん? なんですか?」
「いえ……事前に公爵邸の退職者のことまで調べておいでだったのだなと思いまして」
驚きましたと言う青年に、グステルは「ああ……“ソフィアさん”のことですか?」と頷き、その経緯を説明。
「使者としてやってきた時、アルマンの態度があまりに横柄だったもので、おかしいと思って調べたんです。使者であるはずが、状況に変化があったにもかかわらず、主人を通さず、勝手に侯爵家名代の我々を退けたその男が一体何者か。退職者なら、その内情を話してくれるかと思って探しました。……まあ、ただその方はすでに領都を出ておられたので、実際には話が聞けなかったのですが。お名前がここで役に立ちましたね」
振り返って微笑むグステルに、エドガーはなるほどと感心。
ただと、彼は自分の家の執事のことを頭に思い浮かべながら続ける。
「執事とはかなり責任のある仕事です。普通はその家に長年勤め上げたものが請け負う仕事で、主人とも相当な信頼関係がなければ務まりません。例えば、グリゼルダ殿がその者を重用したくて公に頼み込んだとしても……公爵との関係が築かれていない者に執事が務まるのでしょうか……? 務まっているとすれば、アルマンはかなり有能です。……ああ、いえ、これは今回のあなたの目的とは関係のない話かもしれませんが……」
今回グステルが公爵邸に忍び込んだのは、父と対峙し、偽物の令嬢を立てたことを糾弾し、少なくともラーラの邪魔をすることをやめさせることにある。
その父が、今どんな執事を使っていようがどうでもいい話だろうが、と、エドガー。
しかし彼の言葉を聞いたグステルは、足を止め、言葉をつぐんだ。
その沈黙に、エドガーが不思議そうな顔をする。グステルは、どこか遠くを見ているような表情だった。
「……ステラさん?」
「いえ……要するに……あの男はグリゼルダ叔母のそばにいて、叔母からの恩恵を享受しているに過ぎないんでしょう……」
「……ふむ……?」
グステルの言葉に、エドガーは少し釈然としないものを感じた。
だが、グステルは視線を鋭く進む先を真っ直ぐに見ていて、口を真一文字に引き結んでいる。エドガーの言葉に答えながらも、頭の中ではあれこれ考えを巡らせているらしい。
その横顔を、エドガーはしげしげと見つめた。
なんとも不思議で愉快な娘である。
この若さにしてはかなり明哲であるし、状況への順応力も高い……いや、高すぎる気もするが。
「……それにしてもすごい演技力でしたね。新人メイドの役とても見応えがありました」
あの場では呆気に取られたが、思い出すとなんともおかしくて。つい笑いを含んでそう言うと、その言葉に、再び前進しようとしていたグステルの足がギシ……ッと止まる。
そして彼女はエドガーを振り返った。
その表情は、苦虫を噛み潰したようであり、頬はかすかに赤かった。
「……、……、エドガー様……やったからといって、私別にアレ、やりたかったわけじゃないんですよ……?」
正直グステルだって、若い子のフリでメイドに媚びるのは恥ずかしかったのである……。
しかも、メイドというものが、すでにほぼコスプレとしてしか存在していなかった場所から転生してきた身としては、『この歳でメイドコスか……』なんてことをうっすら思いもした。
思い切りのいい性格ゆえ、迷わず着る選択をしたが、こうして他者に指摘され我に返らされると……正直色々痛い。
「(っう……羞恥心が苛まれる……っ!)ア、アレは必要に駆られてですね……あの……お願いですから……私がメイドさんとキャッキャウフフしていたことは、ヘルムート様にだけは言わないでください……」
お願いですから……と、グステル、エドガーを拝んで懇願。
「おや……なんだかその言い方だと余計誤解が生まれそうな気がしますけど……」
拝まれたエドガーは思わず噴き出す。
げっそりしたグステルの表情は、先程までの悠然とした様とはあまりにも違っていて。
どうやら彼女にとっても、ヘルムートはとても特別らしい。
(……まあ、だからといって、彼女があの兄妹の害にならぬとは言い切れぬからな)
警戒と監視はすべきだが……と、エドガー。ニッコリ微笑んでグステルに言う。
「分かりました。あなたの武勇伝は今は心にしまっておきます。……まあ、多分ヘルムートが戻ったら締め上げられる勢いで白状させられると思いますが」(生着替えの件も含めて)
「え……ちょ……」
「ふふふ、いやぁ、面白いものを見せてもらえたなぁ~」
エドガーは非常に愉快であった。気分は政敵の弱みを握った気持ち。ウキウキした男の足取りは軽く──もちろん、そんな男の後ろ姿を、グステルは唖然と、ものすごい顔で見ているが……。
「す、すごい嫌な予感がするっ⁉︎ っすっごい嫌な予感が……⁉︎」
「ははははは、さあ行きましょうかステラさん」
二人の珍道中は続く。
98
あなたにおすすめの小説
気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します
みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが……
余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。
皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。
作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨
あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。
やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。
この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。
死にキャラに転生したけど、仲間たちに全力で守られて溺愛されています。
藤原遊
恋愛
「死ぬはずだった運命なんて、冒険者たちが全力で覆してくれる!」
街を守るために「死ぬ役目」を覚悟した私。
だけど、未来をやり直す彼らに溺愛されて、手放してくれません――!?
街を守り「死ぬ役目」に転生したスフィア。
彼女が覚悟を決めたその時――冒険者たちが全力で守り抜くと誓った!
未来を変えるため、スフィアを何度でも守る彼らの執着は止まらない!?
「君が笑っているだけでいい。それが、俺たちのすべてだ。」
運命に抗う冒険者たちが織り成す、異世界溺愛ファンタジー!
乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが
侑子
恋愛
十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。
しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。
「どうして!? 一体どうしてなの~!?」
いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる