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30 困った令息 ⑩
しおりを挟むそれまでは、妹以外の女の子など、かわいいと思ったことはなかったし。なんなら視界にすら入っていなかった。
妹こそが天下一。抜けているところも含めて天使のように可愛いと思うし、放って置けない。
もちろんそれは家族愛だが、ゆえに、自分が一番純粋に妹を愛しているという自負があった。
だが、しかし、なぜかこの時は。
少女の奇妙な賢さに圧倒されていたせいだろうか。彼女の笑顔は、やけにキラキラして見えた。
それは、単に容姿がいいとか、しとやかだとかそういった単純な美点が彼に響いたわけではなく、何か、複雑な色彩が目の前に広がるように、彼女の中にはさまざまな未知が潜んでいるように見えたのだ。
ヘルムートは思わず瞬いて少女の顔に見入った。
見惚れたというよりは、強烈な興味であったような気がする。
行方知れずになっていた妹がせっかく見つかったというのに、助けてくれた少女の目の前から立ち去ることがとても残念でならない。
きっと、この先公爵家の令嬢である彼女とヘルムートは、そうおいそれと再会できない。
まず自分のほうが家格が下だし、親同士の親交がない家同士では、社交会にデビューもしていない子供同士が交流することはほぼない。
もしも二人が歳が近ければ、何かしらの接点ももてたかも知れないが。彼女は自分よりもいくつも年下。そんな機会はなかなかないだろう。
それがわかっていたから、ヘルムートは彼女が『じゃあ私はこれで』と自分に手を振って背を向けた時、無性に寂しくなってしまった。
離れがたくて、堪らず、
『──あの!』
思わず、足が前に出ていた。
咄嗟に呼びかけると、少女が、ん? という顔で振り返る。
どうかしましたか? と言いたげな顔に、ヘルムートは、両手で彼女に渡されたぬいぐるみを握りしめて彼女のほうへ差し出した。
『こ、このぬいぐるみ──……』
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